つづきB

May 20 [Wed], 2015, 11:20
杏子と松田と言う男は向き合って座っていた。杏子は目の前に男の人が座ると言うことが慣れ無いので俯いてコーヒーカップを握りしめていた。
「楠さん、本当に僕のこと覚えて無いの?」
「えっ…」
松田と言う男が唐突に話しかけてきたので杏子は驚いた。
「ごめんなさい、ちょっと、記憶が…」
「えっ、記憶喪失なの?」
「え?いや…そうゆうことではなくて」
しかし、記憶喪失という言葉は今の杏子の脳内を表すにはぴったりの言葉だった。き杏子は覚えていることが苦手だった。例えば社会の歴史や生物の細胞の名称などを覚えることは困難では無い。むしろ得意な方であった。しかし、長い間それを記憶しておくことはできなかった。覚えたことも直ぐに忘れてしまう。何回も何回も繰り返さなければ忘れてしまう。どの人間もそうだろうが杏子は特にそれが顕著だった。
中学のときの記憶。それは杏子が思い出したく無いとはいわないまでも、その記憶は杏子にとってそれほど重要ではなく、白い霧の靄がかかっていたような時間だった。なんとなく過ぎていった日々。打ち込める部活動も胸焦がれる恋もしなかった。何気無い特徴の無い日々は杏子の記憶のなかでどんどんと追いやられていき、クラスメイトの名前すらも思い出せ無いほどになっていた。
「…ごめんなさい、本当に私記憶力が良くなくて」
松田は苦笑いのような乾いた笑いをした。
「まぁいいよ。僕もそんなに目立つ人じゃなかったからね」
「…いや、そんなこと」
杏子は精一杯気を使ったがそれが逆に嘘っぽくなっていた。
「そんなことより、今日、同窓会なんじゃないの?」
松田の口から同窓会という言葉が出てきたことに杏子は驚いた。どうして知っているのかと言う言葉を慌てて飲み込んだ。そうだ、この人だって同じクラスだったかもしれない人じゃないか。知っていて当然だ。
今度は別の疑問が頭に浮かんできた。
「そうだけど。…あれ?松田君は、行かないの、同窓会」
松田が同級生なら、同窓会にもうとっくに行っている時間だ。杏子のように怖気付かなければ…。
「僕は別にいい。そんなに行きたいと思わない。僕もそんな覚えてないんだよね。中学のことなんて。」
「うん。私も。お店の目の前まで行ったけど、やめちゃった。」
「えっ、お店の目の前まで行ったの?」
「うん」
杏子はほんの数十分前の出来事を頭に描いていた。
「なんか、今更過去の人たちと関わっても意味ないんじゃないかって、思えてきて。」
「楠さんって、昔からそうゆうところあるよね。」
杏子は思わず松田の顔を見上げた。同感の言葉が返ってくると思っていた。
「どうゆうこと?」
「なんか、妙にさめているというか。」
「さめてる…」
ショックだった。しかしそんなことは杏子はとっくに自分で分かっていた。分かりきっていることを指摘されることほど、胸に刺さるのだ。
そんな杏子の気持ちを悟ったのか、松田は慌てて弁解した。
「さめているって、悪い意味じゃないよ。落ち着いているってことだよ。他の女子と比べてずっと大人に見えたよ。」
「いいよ。私だって自覚してるし。それより…」
昔話をしたい。杏子はそう思い始めていた。中学生という、子どものくせに大人びていたように感じていたあの照れ臭い時期のことをもっと話したいと思った。
「私と正反対というか、はるちゃん、すっごい可愛かったよね。やっぱり男子の間でも人気だった?」
「はるちゃん…?」
「市東はるなちゃん」
「…あぁ!市東ね。確かに市東人気は高かったよ。」
「やっぱり。はるちゃん顔も可愛いし性格も本当に良いんだよね。」
「じゃあさ、横尾は?横尾しゅう。あいつすっげえモテたじゃん?」
「あぁ!横尾くん!…確かにカッコよかったけど、ちょっと不良ぽくて怖かったじゃん。私は苦手だったな。」



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