『パーク・ライフ』読みました
2008.03.03 [Mon] 13:38

読むのが遅い自分にとって、この作者の作品は速く読み進むことができます。それは何故かというと易しい言葉を使っているというのではなく、これまで自分が生きてきた中で言葉で上手く表現できないでいた感覚や感情が、不自然ではない書かれ方で所々言葉にして表出してくるからではないかと思っています。 この作品には、誰某がどういう事をする話という確たるものがないように思います。が、読んだ後でふと思い返すことがあった時に、登場人物の些細な仕草や言葉が、この先の何かに繋がるんじゃないかと色々想像できる味わい深さがあります。私達が日頃過ごす中でも、友人知人や親のちょっとした事で何かを連想し、行動に移すことがあります。それらと似ている、というより同じ事がこの何気ない生活の中で書かれていると感じた時、この作品はぐっと自分との距離が近くなるのです。
 

『最後の息子』読みました
2008.03.03 [Mon] 13:35

作者の出身地である長崎が登場する中篇3作品を収録したもの。基本的には3作品 とも長崎或いは東京で、若干のイレギュラーが混ざった日常生活を描いたもの なのだが、『最後の息子』は、首都圏に長いこと住んでいてもそうそう「動いて いるオカマさん」に遭遇することも無いので、「オカマのヒモ」がどんな感じなのか は良く分からず、それなりに面白く読み進める事は出来はしたが、残念ながら あまり自分の中では残っていない。 『破片』については、倉庫を改造し、ガラスを埋め込んだ通路が全国ネットで 紹介されるように、基本的には何かに熱中するのは良い事なのだが、相手に 若干迷惑がられながらも「自分がいなければあの人はダメなんだ。」と思い込んで 自分より年上のスナックの女性に入れあげるさまは、誰かのことを好きになると いうことの危うさについて色々考えさせられた。 『Water』に関しては、主人公の、水泳部の仲間との友情・切磋琢磨・麻雀等を 通じ、薄いながらも思いもがけずエロい感情を抱いてしまった時に、何かが 壊れてしまうような気がして「自制している自分」を演じている『童貞紳士』 ぶりが、同じ世代だった頃の自分自身と重なってくる感覚が良い。それに、 作者自らが監督をしながら映画化されていたことには気付きませんでした。 映画に関するレビューはDVDが出てから書きたいと思います。
 

『春、バーニーズで』読みました
2008.03.03 [Mon] 13:33

人の第一印象が、見た目で決まるように、本だって、装丁とタイトルで手に取られるかどうかは決まる。 そういう意味で、この本は「タイトル勝ち」だと思う。 『春、バーニーズで』。 僕にとってバーニーズニューヨークは、ちょっと背伸びして買うブランド。 それに、吉田修一が描き出す、ちょっと手を伸ばせばありそうな恋愛が絡むと思うと、買わずにはいられない。 『春、ビームスで』だと稚拙な学生恋愛小説に聞こえるし、 『春、ブルガリで』だと、胡散臭い愛人話に聞こえる。 その微妙なさじ加減がうまい。 内容もタイトル負けせず、心理描写が細やかで、奥行きがある。 夫婦で、「ウソを言い合う遊び」をしながら、ついホントのことを晒してしまうシーンは、場の空気まで、実にリアリティがある。 ありふれた世界でも、吉田修一が、 「恋愛」という道具を使って切り取れば、何層にも味わいが広がる。
 

『パレード』読みました
2008.03.03 [Mon] 13:30

最初は楽しげに読み出したものの、最終章を読み終えると「ぎゃ-!」と叫び出したくなるほどに恐ろしくなりました。彼らは表面上とても平和に、穏やかに暮らしている。でもそれは他人を干渉しない、いわば「チャットルーム」の中で生活しているようなもんだからだ。5者5様、それぞれに抱えている問題があり、でもそれについて語ることはなく、そこで「話しても良い話題」だけを無意識に選んで暮らしている。こわいのは、暗い部分を持っている彼らではなく、相手に黙認されているという状態。それはストレートに生きられなかった者達が共有する礼儀なのではないかと思いました。共存するにはプライバシーを守ることは不可欠だ。例えば毎日顔を逢わせる同僚でも、休日何をしているかまったく想像が付かない人もいる。ついたとしても自分が作り上げたその人のイメージからくる思い込みかもしれない。 相手が見ている自分が本当の自分ではないように、自分が見ている相手も本当の相手ではないかもしれない。自分が知っているのは、目の前にいる相手のことだけだ。だったらそれを信じるしかないのだけれど…。小説のように真上から人間模様を見ることができたらいいのに。いやそれもつらいか?わからない。なんだかとってもこわくなっていつまでも寝つけなくなる、同時に何度も読み返してしまいそうな不思議な魅力を持った1冊です。
 

『悪人』読みました
2008.03.03 [Mon] 13:28

吉田修一の小説を読むのは初めて。ぐいぐい引き込まれ、2日で読了しました。冒頭で殺人事件が起こり、その一点へ向けて関係者がそれぞれ自分の視点で語り出すという方法論はさほど新しくはないのでしょうが、「出会い系」を介し、つながりのなかったはずの人間関係につながりを見るという現代的な切り口や、地方に住む若者のいいようのない絶望感、なにが「悪人」なのか、というタイトルへの疑問も含め、最後の頁まで目を離せませんでした。ほかの作品もぜひ読んでみたいと思います。