都会に溶ける僕 

2007年11月30日(金) 23時40分
ふと、目が覚めた。
電車はいつの間にか地下に入っており、車内には
皮脂の匂いが充満していた。ぬるい空気を、空調機が
わざわざかき回す。僕はイヤホンで聴いていた音楽が
止まっていることに気付いた。8曲入ったアルバムが、
一周し終えていたようだ。音楽が止まってから3分以内に
次の操作がないと、勝手に電源が落ちるようになっている。
バッテリーの無駄使いを恐れた、よくできたしくみだ。
合理的であることは、まったく良いことだ。

自分の目の前には、スシ詰めになった人達が、
ストレスを殺しきれない顔をして立っていた。
僕の駅が始発地点の駅で良かったと、毎朝この瞬間に
思う。馬鹿丁寧な車内アナウンスが流れ、電車はホーム
へと滑り込んでいく。車掌が鼻声で言うには、途中駅の混雑で
3分到着が遅れたとか。クソ。朝はこの3分がでかいんだよ。

ドアが開くと、みんな我先にと押し合って出て行く。
僕も遅れた3分を取り戻すために、順番など関係なく
押し合って出て行った。人で溢れる階段さえも、のぼるリズム
を崩す奴がいるとイライラする。ちんたらしてんじゃねぇよ、
と小さい舌打ちと共に心の中でつぶやく。
僕の3分を取り戻すのだ。

改札を抜け、早足で人の波間を縫っていく。最も短時間で
会社に着く地下通路ルートを、人とぶつかりそうになり
ながら駆けていく。無音のまま付けているイヤホンのこと
などすっかり忘れ、僕はコンビニに寄ってから会社へ行っても
間に合うかどうかばかり計算していた。
地上に出て、歩道橋の階段を勢いよくのぼっていった。好調だ。
このままいけば、コンビニに寄っても間に合うぞ。
そう思った瞬間、白いコートを着た女性に思い切りぶつかった。

ぶつかったとて、誰も謝り合わないのがこの街だ。
僕は見向きもせず、そのまま階段を走り去ろうとした。
その時、ダダダッと重たいものが落ちてくる音がした。
嫌な予感がして振り返ると、その女性は階段を数段踏み外した
ようだった。周りを急ぐ人達の目線が留まる。女性と、僕とに。
瞬時に駆け寄る人など、誰もいなかった。漂う空気が僕に
言う。「お前がなんとかするんだろ」。


「・・・すみません、大丈夫ですか」

もうコンビニには寄れないことが決定した僕は、完全に
面倒なことになったと、うんざりしていた。最悪の朝だ。
長い髪のその女性は、そのまま顔も上げず、ゆっくりと
立ち上がった。

「・・・すみません、白いコートなのに。汚れたりしてませんか」

もう一度声をかけたが、女性は何も言葉を返さなかった。
代わりに少しだけコートの裾に目を落とした。そこは汚れて
しまっていた。完全に面倒くさいことになった。

「ほんとにすみません。あ、これ、クリーニング代に・・・」

慌てて財布から1万円札を抜き取った。クリーニング代に、
謝罪の気持ちを上乗せするには充分な額だと思ったのだ。
すると、女性は急に顔を上げて、まっすぐ僕を見た。
正しく形容できないような、すごい形相をしていた。


「この1万円いらないから、自分を振り返ったら?」


僕は何も考えられなかった。
ただただスコンと、頭の中が真っ白になった。
女性は、それ以上なにも言わずに、片足をびっこ引きながら
去っていった。右手の1万円札だけが、行き場なくいつまでも
風に震えていた。


3分の遅延に、朝からイライラしていた自分。
人にぶつかっても、謝ろうともしなかった自分。
もし彼女が階段から落ちてさえなければ、
通り過ぎようと思っていた自分。

たかだか失った3分を取り戻そうとして。

僕が謝ったのは、彼女に対しての謝罪だったわけじゃない。
その場を早くやり過ごすためだ。コンビニに寄っても
会社に間に合わせたいがためだ。コンビニコンビニって、
そんなに何が買いたかったんだ。転ばせた人を無視してまで
買いたいものって何だ。

考えれば考えるほど、振り返った「僕」は実にくだらなくて
ちっぽけな大人だった。彼女の体のことすら気遣わなかった。
白いコートを汚した可能性のほうが恐ろしかった。
周りの目ばかり気になった。謝って金を差し出して、
きちんとした謝罪を偽った。

彼女は見逃していなかったのだ。
本当は気付かぬふりで走り去ろうとしていた、僕のことを。



翌朝、どんよりした気分で、昨日と同じ電車に乗った。
昨日のことが頭から離れなくて、僕は一晩中あの女性に
見られているような感覚がして、眠れなかった。
恐怖と緊張が、僕の身体から離れなかった。

昨日と同じように電車から吐き出され、僕は人の波に
押されるように改札を出て行った。昨日のように
急ぐこともできず、重たい足取りで道行く人の邪魔をした。
ふと、同じリズムで歩いていくビジネスマンたちの中に、
1人妙なリズムで歩いている人を見つけた。

彼女だ。

彼女は、松葉杖をついて歩いていた。


僕は思わず、人の波に隠れた。昨日の怪我であることは
決定的だった。彼女の顔を覚えているのだから、僕は
正しき大人として、彼女に駆け寄るべきだ。昨日のことを
改めて謝罪するべきだ。荷物を持って彼女の会社まで
付き添うなり、名刺を渡して後日改めて怪我の補償をすべきだ。
僕は、自分自身を振り返ったことを彼女にきちんと示し、
正面から堂々と対応すべきだ。



僕は、方向転換し、いつもと違うルートで会社に行くことに
した。こんなにもたくさん人がいる街だ。気をつけてさえ
いれば、もう二度と彼女と顔を合わせることもないだろう。
大丈夫だ、きっと彼女の怒りも、怪我も、いつかは収まる。
一万円を受け取らなかったのは彼女の意思だ。
怪我もコートの汚れも、補償の責任はきっともうない。

僕は後ろめたい気持ちでいっぱいだったが、ついに一度も
振り返らずに、彼女に見つからぬよう人ごみに紛れた。
あぁ、この時間だったらコンビニに寄れるな。


こうして僕は、振り返ったとて僕自身から抜け出せず、
再び都会に溶けるのだった。

ロックンロールをするひと 

2007年03月10日(土) 22時16分
高円寺っつう街は、いつ来ても気持ちがいい。

古着漁ろうとか、レコード発掘とか、ライブハウスで
大暴れとか、なんも目的はいらんくて。
ただただぼんやり、まったり、街を生きるのが最高。

お金なんかもそんな必要ないし、目的がないなら、
缶コーヒーが買えればじゅうぶんだ。


曇った日ってのがとてもすきで、あたしはなんも
考えずに黄色いラインがいかす電車に乗った。
プレイヤーがぶっ壊れたから(ぶっ壊したから?)
音楽が聴けなかったけれど、あたしはじゅうぶん
ノリノリだった。

なんとなくの鼻歌、レッチリも上等だ。

時代錯誤のパンク、膝下ストッキングのおばさん、
鼻タレ小学生、まだまだがんばるじいちゃんに、
ミニスカ命の女子高生。いろんな人間がうろうろ
してて、またそれが日常で、たまらなく愛しい。


缶コーヒーをいっこ買って、公園でぼんやりして
いたら、隣に頭のでかい男が座ってきた。
公園中のベンチが空いているのに、なぜか
あたしの隣りに座ってきたこの男。頭はもじゃもじゃ
のパーマで、これまた時代錯誤なライダースと、
寒いくらいに膝があいたジーンズ。きったねぇ
コンバースは何色なんだかよくわかんなかった。

こうゆうとき、逃げずにじっくり観察してしまう自分。
人の顔をじろじろ見るのは良くないが、この男に
関してはにらむようにまじまじと見てしまった。
男は肝が据わってんだか、無神経なんだか、
もともと正気じゃないのかわかんないけど、すました
横顔をしていた。

ライダースのポケットからちっちゃい缶コーヒーを
取り出して、カコカコと振っているのを見て、
なんとなく、の、ひとことがでた。



「ロックンロールをするひとですか?」



男は目をまるくして振り返り、次の瞬間にやっと
笑った。ひげももじゃもじゃだ。前歯がいっぽん
ない。インパクトだらけだ。


「いーもんあげよっか。」


問いかけには答えずに、得意げに切り出した。


「ロンクンロールを、するんでしょう?」


「いーもんあげるよ。」


平行線。
どっちも、どっちにも合わせない。
まるでこの街の人間みたいに。
マイウェイがあって、否定しあわないのが、
この街の暗黙の了解だ。


結局、どっちも折れずに掛け合いは平行線
を保ち、黙って右手を出したあたしの負けだった。


「目ぇつぶってみ。」


不思議と、警戒心も恐怖感もなかった。


目をあけると、掌にはてんとう虫がのっていた。


男はもう隣りにはいなかった。



「消えた・・・」



不思議体験だ・・・と思ったら、男が小走りで去って
いく後姿が見えた。


「だせーぞ、もじゃもじゃ・・・」



掌のてんとう虫はとても可愛らしくて、なんか
ちょっと冴えない感じが、あの男にリンクした。


大きなできごとじゃない。
むしろ気味が悪い話かもしれない。
けれど、あたしはこの記憶が愛しい。


もじゃもじゃはこの街で、ロックンロールを
するひとなんだと、確信してやまない。


だってオレンジオイルのにおいがしたんだ。


黒いセーター 

2006年12月18日(月) 17時32分



誰のわすれもの?

ベンチのうえの黒いセーター



もこもこふっくらシルエット

北風にふかれて寂しそうだ



イロとりどりの枯れ葉散る

視界の端でゆっくり動いた

「ぼくだよ。」 と。



ベンチに置き去り黒いセーター

いったい誰のわすれもの?

しょんぼり横顔

黒い野良猫




自らに見出せよ 

2006年07月18日(火) 23時57分




「他」にばかり幸せを求めるのは



自分を信頼していない証拠なんだわ



誰かに認められれば救われるなんて



疑われてばかりの自分が可哀相



自らに見出せよ



幸せの種、情愛エネルギー。





ニーズ 

2006年06月26日(月) 20時57分




ただ ニーズが合わなかった


というだけのこと


きみと結ばれなかったことは


淋しいけれど 不幸なことじゃないわ


あたしを求める ニーズは


他の誰かのなかにあるみたい


不幸なことじゃないわ


大切に想うことだけ 変わらなければいい




知らぬ間に動いている世界 

2006年06月22日(木) 0時42分




あたしが知らぬ間に


地球は確かに回っていて


あたしのそ知らぬ間に


世界は確かに動いていたのだ




何も知らなかった


無知な自分が恥ずかしい


ちっちゃなことにも


とても喜んでいた




知らぬ間に動いている

世界を知らずに




人間であるきみを。 

2006年06月10日(土) 0時06分




「オンナノコらしさ」と


三度唱えた


混みあった地下鉄の駅




「人間らしい」では駄目なのかしら


きみの人間くさいところに


あたしは恋をしたというのに



くだらぬものなど脱ぎ捨てたくはない?





答えのない問い 

2006年04月19日(水) 23時48分




なぜ人は液体になれないのだろうか





とても不便だ




ねむるまで 

2006年04月19日(水) 0時44分



きみがすべて

ってわけじゃないんだけれど

今日もしょんぼり待ちぼうけ

でした


ねむるまでは今日だから

って つよがりを

わかる?


今日がまた終わってしまうなぁ と

白いキャンドルに ぽろり

こぼした


あれからなんにち経ったか知ってる?


どうか数えあきて 得意げに答えて。



要らぬ理性 

2006年04月15日(土) 0時10分



あぁほらまた考えてしまった


「都合」など


もういいじゃないか


こうゆう時は無視していいんだよ


「何かも忘れて」なんて


あたしの世界にはない





プロフィール
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  • アイコン画像 誕生日:1985年2月13日
  • アイコン画像 血液型:O型
  • アイコン画像 職業:大学生・大学院生
  • アイコン画像 趣味:
    ・音楽-バンドでBASSを担当。現在は休止中。
    ・グルメ-カフェめぐりが大好き。
    ・インターネット-HPを閉鎖した分、ブログを充実させたい。
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