mata

June 29 [Fri], 2012, 1:19
忘れもせぬ、其時味方は森の中を走るのであった。シュッシュッという弾丸(たま)の中を落来(おちく)る小枝をかなぐりかなぐり、山査子(さんざし)の株を縫うように進むのであったが、弾丸(たま)は段々烈しくなって、森の前方(むこう)に何やら赤いものが隠現(ちらちら)見える。第一中隊のシードロフという未だ生若(なまわか)い兵が此方(こッち)の戦線へ紛込(まぎれこん)でいるから如何(どう)してだろう?と忙(せわ)しい中で閃(ちら)と其様(そん)な事を疑って見たものだ。スルト其奴(そいつ)が矢庭にペタリ尻餠を搗(つ)いて、狼狽(うろたえ)た眼を円くして、ウッとおれの面(かお)を看た其口から血が滴々々(たらたらたら)……いや眼に見えるようだ。眼に見えるようなは其而已(そればかり)でなく、其時ふッと気が付くと、森の殆ど出端(ではずれ)の蓊鬱(こんもり)と生茂(はえしげ)った山査子(さんざし)の中に、居(お)るわい、敵が。大きな食肥(くらいふとッ)た奴であった。俺は痩の虚弱(ひよわ)ではあるけれど、やッと云って躍蒐(おどりかか)る、バチッという音がして、何か斯う大きなもの、トサ其時は思われたがな、それがビュッと飛で来る、耳がグヮンと鳴る。打たなと気が付た頃には、敵の奴めワッと云て山査子(さんざし)の叢立(むらだち)に寄懸(よりかか)って了った。匝(まわ)れば匝(まわ)られるものを、恐しさに度を失って、刺々(とげとげ)の枝の中へ片足踏込(ふんごん)で躁(あせ)って藻掻(もが)いているところを、ヤッと一撃(ひとうち)に銃を叩落して、やたら突(づき)に銃劔をグサと突刺forex atom(つッさ)すと、獣(けもの)の吼(ほえ)るでもない唸(うな)るでもない変な声を出すのを聞捨にして駈出す。味方はワッワッと鬨(とき)を作って、倒(こ)ける、射(う)つ、という真最中。俺も森を畑(はた)へ駈出して慥(たし)か二三発も撃たかと思う頃、忽ちワッという鬨(とき)の声が一段高く聞えて、皆一斉に走出す、皆走出す中で、俺はソノ……旧(もと)の処に居る。ハテなと思た。それよりも更(もッ)と不思議なは、忽然として万籟(ばんらい)死して鯨波(ときのこえ)もしなければ、銃声も聞えず、音という音は皆消失せて、唯何やら前面(むこう)が蒼いと思たのは、大方空であったのだろう。頓(やが)て其蒼いのも朦朧(もやもや)となって了った……
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