これから

June 11 [Mon], 2012, 0:07
娘は奥へ通って、小さい白扇
はくせん
を遣っていた。
 この二人の姿が消えると、芝居で観る久松のような丁稚
でっち
が這入って来た。丁稚は大きい風呂敷包を卸
おろ
して椽
えん
に腰をかけた。どこへか使
つかい
に行く途中と見える。彼は人に見られるのを恐れるように、なるたけ顔を隠して先

ず牡丹餅を食った。それから汁粉を食った。銭を払って、前垂で口を拭いて、逃げるように狐鼠狐鼠
こそこそ
と出て行った。
 講武所風の髷
まげ
に結って、黒木綿の紋附、小倉の馬乗袴
うまのりばかま
、朱鞘
しゅざや
の大小の長いのをぶっ込んで、朴歯
ほおば
の高い下駄をがら付かせた若侍
わかざむらい
が、大手を振って這入って来た。彼は鉄扇
てっせん
を持っていた。悠々と蒲団の上に座って、角細工
つのざいく
の骸骨
がいこつ
を根付
ねつけ
にした煙草入
たばこい
れを取出した。彼は煙を強く吹きながら、帳場に働くおてつの白い横顔を眺めた。そうして、低い声で頼山陽
らいさんよう
の詩を吟じた。
 町の女房らしい二人連
づれ
が日傘を持って這入って来た。彼らも煙草入れを取出して、鉄漿
おはぐろ
を着けた口から白い煙を軽く吹いた。山の手へ上って来るのは中々草臥
くたび
れるといった。帰りには平河
ひらかわ
の天神様へも参詣
さんけい
して行こうといった。おてつと大きく書かれた番茶茶碗は、これらの人々の前に置かれた。調練場の方ではどッという鬨名古屋 脂肪吸引
とき
の声が揚った。ほうろく調練が始まったらしい。
 私は巻煙草を喫

みながら、椅子に倚

り掛って、今この茶碗を眺めている。曾
かつ
てこの茶碗に唇を触れた武士も町人も美人も、皆それぞれの運命に従って、落付く所へ落付いてしまったのであろう。
プロフィール
  • プロフィール画像
  • アイコン画像 ニックネーム:gfgfgfgf
読者になる
2012年06月
« 前の月  |  次の月 »
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
最新コメント
ヤプミー!一覧
読者になる
P R
カテゴリアーカイブ
月別アーカイブ
http://yaplog.jp/gfgfgfgf/index1_0.rdf