「音楽黄金時代」の作品

March 22 [Wed], 2017, 20:00
トーマス・ドルビーのデビュー・アルバム「The Golden Age Of Wireless」(邦題:光と物体)。

本名はThomas Morgan Robertson。
「ドルビー」の名はやはりあのノイズリダクションで有名なレイ・ドルビー博士のドルビー研究所から(勝手に)とったもの。やはり訴訟となり、その結果示談で継続使用を認められた。

「レア盤」認識されていないせいで長らく入手に手こずった一枚。
邦題はともかく、原題は本作を通してのコンセプトがよく現れているタイトルで、歌詞やPVでもよく出てくる19〜20世紀にかけてのヴィテージ無線機を中心に古きよき時代へのオマージュが貫かれている。

オリジナルはEMI配給の「Venice In Peril」。トーマス・ドルビーの作品しかリリースしていないので個人レーベルと言ってもいいだろう。
英国初版と第二版には微妙な差があって、第二版は裏ジャケットにバーコードが印刷されている。大ヒットしたアルバムのせいか、良く見つかるのは国内盤かUSプレス、あるいは英国盤でもバーコード入り。

ドルビーの代名詞とも言えるヒット曲「彼女はサイエンス」(原題:「She Blinded Me With Science」)が英国盤には収録されていない。英国で「彼女はサイエンス」とカップリングされた佳曲「One Of Our Submarines」も未収録。共にUS盤には収録されている。代わりに英国盤に収録されている「The Wreck Of The Fairchild」がUS盤に未収録。
よくある12インチ向けExtendedバージョンを除いて考えてもこの面倒くささ。

収録未収録含めた全体を見渡すと、概ね英国盤はドルビーのブレイク前夜編集でトータルな整合性を重視、US盤は「彼女はサイエンス」のヒット以降、急遽ヒット曲中心のキャッチーなセールス重視と言えるだろう

ちなみにこの英国初版を入手するまでは私は国内盤の白ラベル見本盤で聴いてきた。これもなかなか良い音だ。

だが本作はヨーロッパ近代へのオマージュをコンセプトとしたロマンティックな作風だ。プロモーションビデオも20世紀初頭を感じさせるレトロ無線機(原題も「無線黄金時代」。ちなみにWi-Fiではないよw)やファッション、複葉機がフィーチャーされている。
さらに個人的に入手に手こずったことを合わせると、少しおとなしめだが深みと奥行きのある英国盤を推したい。

楽曲もジャーマン・エレクトロに英国らしい味付けが加えられた音作り。ジャーマンの音数の少なさに対して、キラキラとした装飾音が目立つ。さらにはドルビーの頭抜けた歌唱力も特筆される。あまりの歌唱力のためか、ホワイト・ソウルのテイストさえある。時代的に直後に英国に現れるビリー・オーシャンのブレイクさえ予感させる。

考えてみると、デビュー前なのにトーマス・ドルビーの評判の高さは特殊だったと言える。
参加ミュージシャンを見ても、「トム・ドルビー」として在籍したブルース・ウーリー&キャメラ・クラブからリーダーのブルース・ウーリーとデイヴ・バーチ、ハーモニカでXTCのアンディ・パートリッジ、ラフトレードのガールズグループ「Girls At Our Best」からJudy Evans、以前バックを務めた縁で当時すでにスターだったリーナ・ラヴィッチ、そして後の坂本龍一とのコラボを予感させる矢野顕子の参加と、なかなか豪華な面々。

収録曲もアルバムリリース後に次々シングルカットされただけあり、名曲揃いだ。
アンディ・パートリッジ参加の「Europa And The Pirate Twins」はドルビーのファーストシングル。将来を誓い合った幼なじみの男女が戦争でひき裂かれ、再会した時は一方は女優、一方はそのストーカーとして逮捕というストーリー。
アレンジは一聴してわかるクラフトワークの「Trans Europa Express」とボ・ディドリーのリズムを組み合わせ、ドルビー流のアレンジを施したもの。ちなみにドルビー本人もキャスリーン・ベラーという女優と結婚したところが興味深い。私はこの曲とEarth, Wind & Fireの「Fantasy」という曲で「Twelfth of Never」(永遠に)という言い回しを知った。

矢野顕子がまるでケイト・ブッシュのような合いの手コーラスをいれる「Radio Silence」もシングルになったし、英国盤からは洩れたが「彼女はサイエンス」のB面になった「One Of Our Submarines」をロマンティックってポップな佳曲。

キラキラしたピアノが印象的な「Flying North」もアルバム冒頭を飾るに相応しいキラー・ダンスチューンだ。
プロモーションビデオはなぜか二機の複葉機が延々飛び続けるもので、予算の割りに意味不明感がある。

「Airwaves」はこのアルバムのハイライトとも言える美しいメロディを持ったバラードの名曲。
ドルビーの歌唱力が遺憾なく発揮されている。

こうして見てみるといかにタイトルは「無線黄金時代」だが、まさに「MTV黄金時代」といった趣がある。
音楽が、ポップスが輝いていた最後期のレコードだ。

セカンドアルバム「The Flat Earth」も素晴らしい出来だ。

ファーストの成功でさらに機材にお金が投入できるようになったようで、録音もすばらしい。
だが、ファーストにあったロマンティシズムは大きく後退し、ホワイトソウルに寄った印象。
個人的にはファーストの方が好きだな。

90年代からしばらく音楽家を引退してインターネット関連事業や携帯電話向けの呼び出し音事業に進出、肩書きは「発明家」をだったらしい。かつてプロモーションビデオでマッドサイエンティスト風のキャラだったのが、本当にそうなってしまったわけだ。
事業家として一定の成功を収めたらしいが、なんだかんだで音楽業界には2006年に復帰。
2012年には遅すぎた初来日を果たした。

こうして久々に聴き直すと、返す返すも2012年の来日公演を逃したことが悔やまれる。
もう来ることはないだろうか?

アンソニー・ムーアの二作品

February 17 [Fri], 2017, 20:32
スラップ・ハッピーまさかの再来日を前に、アンソニー・ムーアが6年振りに新作を発表した。

あまり大きな告知もなくひっそり発売され、日本に輸入されている情報もなく発売元に直接オーダーするしかないか、送料も安くないだろうし面倒だなぁ〜と二の足を踏んでいたところ、大阪のフォーエバーレコードさんで少しだけ輸入されたと知り早速オーダー。
せっかくの再来日だし、これを機に買い逃していた2010年発表のArpとの共作も買えないかな〜っと検索していたら、Discogsで見つけてたのでこちらもオーダー。
積年の宿題を一気に解決。来日直前にムーアの音響作品2枚と向き合うことになった。


まず
Arp & Anthony Moore "S/T" US Rvng Intl. FRKWYS03

ArpことAlexis Georgopoulosとの共作の方もひっそりとアナログのみが500枚限定でリリース、日本への輸入もごくわずかだったがぜひとも欲しいレコードだった。
Arpがムーアのファースト「Pieces from the Cloudland Ballroom」に対するリスペクトから制作が始まったこの作品は、現存するムーアの60年代に作曲し録音されたテープに新たな録音を合わせたもの。
今時、スチューダーの24トラックテープで録音されているという点も興味深い。
果たして「アナログレコーディング」に「魔法」は存在するのか?

冒頭A1の「Today's Psalter」はファウストやムーアのファーストソロ「Cloudland Ballroom」の「A.B.C.D. Gol'Fish」を思い起こさせる音響。ムーアの原点とも言える音作りだ。
「Spinette」はタイトル通りスピネットをミニマル的に使った「Today's Psalter」と同テイストのいかにもムーアらしい作品。
A3の「Piano Waves」は新作でも再び取り上げている点でとりわけ興味深い作品だが、この曲については後述することにしたい。
B面のアーサー・ラッセルに捧げられた「Wild Grass I」とロバート・ワイアットに捧げられた「Wild Grass II」はArpの作品。
「Wild Grass I」はヴァイオリンがテーマとなるフレーズをリピートするなかヴィオラ、チェロが決められた音を即興と思われるタイミングで演奏するもの。曲の最後でテーマフレーズがチェロのピチカートに受け継がれる部分が終わり合図になっているであろうか?「Wild Grass II」はテーマらしきものは不明瞭で演奏者同志がお互いの呼吸で主に二つのコードを交互に演奏するだけのもの。ムーアのセカンド「Secrets Of The Blue Bag」を思い出させる弦楽ミニマルアンサンブル。
ワイアットはカンタベリーの巨人で「如何にも」といったところだが、アーサー・ラッセルは個人的にノーマークだったので今後探求の課題としよう。
あまり上手とは言えないプレイヤーの演奏であることが曰く言い難いノスタルジックな雰囲気を醸し出している点も良い。
「Mirrors & Forks」は次曲のB4の「Yesterday's Psalter」を導く2分足らずの小品。
「Yesterday's Psalter」は曲名通りA1の「Today's Psalter」と対を成すと考えるべき作品。
共にムーアの60年代に録音されたテープ作品が元になっており、40余年の時を経ての発掘作業である。
そしてアルバム最後を飾るのはArpが歌うスラップ・ハッピーの「Slow Moon’s Rose」のセルフカバー。これはムーアのチョイスなのか、Arpのリクエストによるものなのか?ムーアも決して歌が下手なわけではないので、Arpに対する信頼のほどが伺える。

それにしてもムーアとArpが二人で24トラックのテープレコーダーを前に嬉々として作業している様を想像すると微笑ましいというか羨ましいというか。。。

旧作、旧録音が素材の基本なので収録時間が短いのが残念だ。

続いて
Anthony Moore & The Missing Present Band"The Present Is Missing" GERMANY A-MUSIK A39V

新作は2015年11月7日ケルンのシュタットガルテンでTobias Beck, Tobias Grewenig,Volker Hennes,Martin Rumoriらと共に「Anthony Moore & The Missing Present Band」として、旧ソ連の宇宙開発の実験台になった「宇宙犬」ライカ、ベルカ、ストレルカに捧げらたパフォーマンスのライブレコーディングをレコード化したもの。
パフォーマンスはサラウンドシステムが採用されたが、レコードはステレオ録音。
24bit44.1kHzのダウンロードコードが付属している。

あたかもバンドのような名義だが、出てくる音は一般通念上の「バンド」による音楽からは程遠い。

エルメート・パスコアール at 渋谷WWW 2017.01.07

January 08 [Sun], 2017, 10:50
エルメート・パスコアール・エ・グルッポの来日公演へ行ってきた。
パスコアールの来日を見るのは3度目。

最初に見たのは2002年よみうりランドEAST。
二度目は2010年6月渋谷Pleasure Pleasure。
http://yaplog.jp/geppamen/archive/80

来日メンバーは以下の通り
Hermeto Pascoal (keyboard, accordion, teapot, bass flute, hisskeleton, cup of water…)
Itibere Zwarg (electric bass and percussion)
Andre Marques (piano, flute and percussion)
Jota P. (saxes and flutes)
Fabio Pascoal (percussion)
Ajurina Zwarg (drums and percussion)

永らくグルッポのメンバーだったVinicius Dorinが昨年亡くなり、Jota P.という新メンバーが加入。
ドラマーのAjurina Zwargは怪人ベーシスト、イチベレの子供か?この人もスゴイ
前回帯同し、驚愕のパフォーマンスを見せた43際年下の奥様アリーネもいない。
別れちゃったのかな?

2002年のよみうりランドEASTも凄かったが、前回の来日は更に凄かった。
2006年にして御年74歳だったのでさすがに来日はもう無理かとも思ったし、今回の来日で80歳。前回のようなパフォーマンスを期待するのはさすがに無理かとも思ったが、パスコアールはまたしてもその予想を覆す驚異のパフォーマンスを見せた。

全編どこをとっても「楽しい」「心地よい」「複雑」「超絶」「柔軟」「予測不能」「ユーモア」「ウィット」そして「愛」。
底知れない。どうしたらあんなことができるのだろう。

凡百のプログレ系アーティストを遙かに上回る技量と息ピッタリの演奏、ステージの流れで柔軟に展開を変えていく。おもちゃをパーカッションとして使ったり、ヤカンを管楽器的に使ったり、とにかく楽しく、それでいで超人技巧だ。
そして今回はエルメートが指揮を執り観客を巻き込んだスキャットのかけあいを展開。
エルメートの気まぐれな即興スキャットのあと同じメロディを頑張ってついて歌う観客は、文句なく楽しく幸せな時間。

メンバーの中ではファビオは足が悪いのか杖をついての演奏とだったが、これがハンデなどまるで関係ないような超絶な演奏。ピアノのアンドレも相変わらずの超絶っぷりだ。

それにしても、なにからなにまで違う。
食べてるものが違うのか?
どんな練習をしたらあんなふうになれるのか?
個人の技量が凄すぎるからグループとかあまりしないのかな?

「積んでいるエンジンが違う」というか、すべてがケタ外れで底が見えない。

普通、来日公演というと、あらかじめ知っている曲があったら更に盛り上がったりするものだが、知らない曲ばかりだが、そんなこと全く関係ない。
というか、録音作品はエルメートの体現する音楽のごくごく一部でしかなく、その壮大な音楽はライブにおいてもまた別の一部が垣間見られるに過ぎない。
とは言うものの、お約束ヒットパレードとは縁遠い、会場でしか味わえないユーモアやアクシデント的な予測不能な楽しさが詰まった特別な1時間半だった。
凝った照明やプロジェクターや映像なんて全く必要ない。

それにしても老師パスコアールだが、本当に80歳なのか?
もともとアルビノなので若いことから年齢がわかりにく人だが、それにしても元気だ。
頭の中と指先がシンクロしているのだろう。
まるで音楽が服着て歩いているような人だ。

最近見る来日アーティストのライブは、昔聴いた頃の記憶と現在の姿のギャップを自分の中で消化しながら見ることが多いが、パスコアールから本当のライブの醍醐味を改めて教えてもらった。

ところでライブを見ていてふと壁側に目をやると主催者と思われる人々が変拍子曲で踊りながら見ていた。
昨日のライブは椅子は出ていたものの、丸椅子で途中でお尻がいたくなったので、踊っているスタッフを見て、2日めのスタンディングライブで待機スペースにあった300円の有料ロッカーに上着と荷物を放り込んでの方が断然楽しかっただろうなとつくづく思ったのだった。
P R
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    ・レコード蒐集
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40代は第2の思春期なのだそうです。思春期に惹かれたものをもう一度ひっぱりだしてきて後生大事に整理を始める今日この頃。プログレを中心としたアナログレコード集めに人生の貴重な時間を費やすささやかな記録です。
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