無題

2007年09月10日(月) 15時44分


蝉の羽の剥げ落ちる夕暮れなのでしょうか 今日のような日は
ぬるい空気に溺れるように わたしはただ息をするのです


ハチドリたちの季節

2007年06月08日(金) 14時33分

ハチドリたちの季節、タービンは回る、小さな声で歌うように
頭上の日輪のように、熱死しながら、糸を紡ぐ、それは機械
赤い石楠花は大輪のままに、「儚げな」見せかけで、花弁を散らし
ただ地面に積もり、枯れる日を待つ、ただ待ち続けている

羽音はチチチチと囁くように歌う
夏の壊れた時計のように、秒針は同じ5分間を繰り返すのだ
<青いコードを切ってはいけない、赤いコードをお切りなさい>
同じ一小節の中で、時計はいつも同じ場所で停止する
それはいつも決められたはかりごと

窓の外には赤錆た鉄塔が見える
あれは「歴史」の亡骸なのだ
連行されたギタリストたちの音楽は
日光に焼かれた路上に貼りついたままだ
切断されたピアニストの指はチェス盤に載っている
それは赤い果実の吊される季節
「ころさないで」と鳥たちは歌う

それは窓の向こう側
ここでは雨音だけが続いている
それは窓のこちら側
それは地平線に吸い込まれる、拡がる水
陽炎の上を、水は遠くへと去っていく


ジュークボックスの中で孵化するもの

2007年03月16日(金) 13時44分

ジュークボックスの中で孵化するもの─その、うた、ごえ─嘔吐するように、うたうもの
長く暗い咽喉を抜けて、口腔で打ち砕かれた、骨片を、ひとつづつ吐き出して
卜占は踊る─お嬢さん、一曲いかがですか─呪いあれ─豚の子を孕ませてやる─災いよあれ
ベッドの上には侏儒が六人、七人目は永久欠番、もしくは欠けた指、はじめから欠けた指
六本指の侏儒が六人、お前の子も侏儒だとコーラスする─総天然色、ドルビーサラウンド!─
デング熱に冒された譫言のように─あぶくが漏れてゆく─水面を隠す藻の隙間から
背ビレをはためかせて、背骨の曲がったボラが水路を泳ぐ、大口を開けて顔を出す

─不具者の誕生を言祝ぎする─

森を抜けて、森を抜け、森を、森、に潜み、その身を隠せ、見たものの目を潰せ
白内障に濁る、お前の見る夢の、音のない夢の、なかで、うたうもの
群生する緑─草の下には土、土の下には─
跛行する首斬人夫の労働歌、首たちと声を揃えて
腐葉土の下で蠕動するもの─ざわめいて芽吹く、骨─
嵌め殺しの集音器で、中断された心音を探り当てる
─音がするのだ、お前の下から音がするのだ、孵化するものの音が─

鉄とワインと穴だらけのチーズ

2007年01月20日(土) 20時05分

鉄とワイン、その祝祭日
バースデイに鉄
青カビと赤サビを表皮から、刮ぐ、ステンレスの刃
チキン、そして鉄串、そして火、回転する肉
火にくるまれるニワトリ、の首、チキン
刎ねられた首、転がる、首
バケツの中、ワイン、樽から注がれた血
バースデイに火
火と鉄、穴だらけのチーズ、穴だらけ
パーティー、バースデイパーティー
クラッカー鳴る、穴に向けて、鳴る、音を揃えて
皿の上、の首、チキン
シャンパンを開けろ


道化師は去った

2007年01月20日(土) 20時04分

道化師は去ったのだと思う
きらびやかな衣装を捨てて
白夜のような日々を捨てて

これより先は砂漠

父はいまでも老いた手で
黒い土を温めている

それでも彼は去ったのだと思う
岩ばかりの荒野を抜けて
昼と夜しかない砂漠へと

これより先は砂漠

十月、旅人はあるく

2006年10月10日(火) 15時09分
十月 旅人はあるく 十月の道を
森の中 暗がりに残る九月の音に
震える足を抱えながら 旅人は歩く

凍える月は蛇の背に 虫が奏でるのは独房の歌
背を打つ風は亡者の息吹 流すべき血もすでに枯れて
捨てた家は燠火となり 赤い騎士は通り過ぎた
冬を知る指先は赤く 刈られた穂は風に揺れない

十月 旅人はかえらない 九月への旅を
あつらえられた暗い道を 人の世の旅路の果てへと
名も知らぬ旅人の 名を尋ねる名も無き声を
老いた犬が路上で歌う 柘榴を口にくわえながら

青白い騎士よ お前だけは正直なのだな
 

海へ往く日

2006年07月24日(月) 11時27分

あした、海へ往く日、
その日、白く凪ぐ日、
それは前に進む、
足の下に水、上に水、
昼とともに夜は来る、
そのような明け、
見えるものすべてに眩む、日、
波は還らずに、往く、
前へ、止まりながら

それは打つ音、
波の皮膜を、
貫いて、ただ貫いて、
耳を、すまさずに、
ただ聞こえるものを、もって、
あした、海へ往く、日

 

ダイジェスト吉増剛造

2005年10月31日(月) 14時20分

ぼくは詩を書く

第一行目を書く

太陰文月七日

闇に棲む女の肌を鞭打つたましい

こんにちわ   

こんにちわ
   
炎の船の喜劇的な電源

血だまりへの落雷だ!

秘かにたどる金属の航跡の

海のなかの散水車

太腿よ!  

太腿よ!

すべての不可能を状況におしつける





ここで三十分

会社におくれるぞ!

しかし

彫刻刀が

朝狂って

波のうちよせる岩に
   
藤の花房ふりかざして
   
たった一滴の毒薬を全体に注入するために

生贄の台上に青春はのぼるだろう

遠くなるような円周

座ってライプニツの宇宙論に陶然とするなんて………

気の凶区日録もちかごろは淋しい月は昇るさ

古代のようにひたひたとよせてゆくことが自由への唯一の道

<優れた音楽がわれわれの欲望には缺けている>

沈黙の夜明けに

2005年09月17日(土) 13時07分


  オシリスの死首を白き鴉が啄む夜明け
  水銀の輪が後背に咲き、羊飼いの黎明を見る
  鴉がアブラクサスの卵を孕み、黒化(ニグレト)の階梯を降るとき
  剥がされたオシリスの黒皮に、売女のピエタは刻印される
  盲目のシナゴーグを貫く槍は折れて
  犬を喰うものは三方より来たり、既知の外に出でる
  沈黙の庭で水晶は唄い
  六角の森は声もなく共鳴する

雨あがる

2005年09月17日(土) 13時04分


  雨は上がる、
  割れた滴は割れたままに、散らばりて、
  ぬるく薄曇る、
  平たく充ちる、充ちて曇る、
  川辺に座り、釣り糸を垂らす、
  高き青、青草は、高く繁る、
  川細く、水かさは引き、ゆるく過ぎる、
  午後、
  暈の向こうに日、老人の午後
■プロフィール■
名前:がらんどう
もともとは円満な田舎生活を楽しむカトリック信者であったイギリス人の父とファシストで共産党員であるギリシア人の母の間に生まれるが、16歳のとき家出してからバイロンのヨーロッパ旅行にうんざりするほど付き添う。しかし、長く続いた窮乏生活に嫌気が差し、ミミズを篭いっぱい取ってくると、牛乳配達の衣装を纏ったジェームス・ジョイスの元に弟子入りする。後にフランスに亡命し師の言葉に従ってローマ時代の青銅のヴィーナス像を発掘する。小学四年生にして70回以上可能であったが、結局はモンマルトルの貧しい下宿屋で24歳の短い生涯を閉じる。