一応 

September 09 [Thu], 2010, 22:40
「ごめんなさ〜い」

ようやく二人そろえて謝った。

「しょうがないなぁもう。。。
ほら、“仕事”に戻って。
タクミはまだ目が覚めたばかりなんだから。
体が落ち着いたらいくらでも話せるんだから、
もうこんなふうに押しかけちゃだめだよ」

レンはビィとユウロの背中を押しながら
扉のほうに向かっていく。

「ちぇ〜、せっかくトモダチになったのに〜」
「なったのに〜〜!」

レン戻る 

July 06 [Tue], 2010, 0:52
シュン。

扉が開いた。

「あ、ビィ、ユウロ!」

「げっ、レン!!」

息を乱して、服も髪も少しヨラらして、
レンが戻ってきた。

あれだけ抱えていったのに一つも持っていないので
あちことにばら撒いてきてしまったのかと
たくみはまた心配になる。

予想外に早く帰ってきたことにビィとユウロは
うろたえて、二人して肩をすくませていた。

「まだたくみは疲れているんだから、
会うのはまだ先だって言っただろう?
こんな手まで使って。。。
心配したじゃないか」

レンは本気で怒っているようだった。
しかし元々口調が柔らかいので少しも怖くない。

二人はちっとも聞いてないかのように言った。

「なんでばれたんや〜!」
「ばれたんや〜!」
「レンのことだから1時間くらいは時間稼げると思ったのに!」
「思ったのにー!!」

「。。。ノンナが教えてくれたよ。
ビィとユウロが、ばたばた走りながら医務室に向かっていったって。
怪我したんじゃなかったの?
。。。そういう嘘はダメだよ」

「が〜ん、ノンナに見られてたんか〜!
ビィ、作戦失敗や。。。!」
「失敗や。。。!」

やっぱりまったく聞いていない二人に、
レンは腰をかがめて目線を合わせる。

「こら!ちゃんと聞きなさいって!」

やっぱり怖くない、見ていてタクミは思ってしまった。

だがさすがにふざけすぎたと思ったのか、
二人は反省を見せた。

友達 

June 27 [Sun], 2010, 20:51
「じゃあ、ビィと一緒や!」

ユウロが言った。

「ホントだ、ビィと一緒だ!」

ビィも目を丸くして言う。

今度はタクミがきょとんとなる番だった。

「ビィ、赤ちゃんの頃にここに来たから、
それまでのことな〜んもわかんないの!
お父さんお母さんのこととか、どこで生まれたとか。
お歳はたぶん1歳くらいのころにここに来たから〜
たぶん13歳で〜
でも名前はわかんなかったから、レンがつけてくれたの!」

なんでか嬉しそうにケラケラ笑いながらビィは言った。

「だからタクミと一緒!仲間ー!!」

「ビィと仲間なら、オレとも仲間やな!!
仲間なら、もう、友達や!!!」

にっと二人して、そっくりな顔で笑う。


ーーーー友達や!!

その言葉が、タクミはびっくりするほど嬉しかった。

何も 

June 26 [Sat], 2010, 0:27
「変な名前は自分やろ〜泣き虫ビィ!!」

ユウロがからかうように言う。

「そうだー!ビィビィ泣き虫ビィ!」

ビィも自分で言ってケラケラ笑う。
それにしてもよく笑う。

「あのね、ビィ、赤ちゃんのころビィビィ泣いてばかり
いたんだって!だからビィなの!レンがつけたのーー!」

自分を指差してまた笑った。

「たくみは〜!?タクミのことももっと教えて!!
たくみはどこに住んでたの!?今何歳!?」
「そうや〜タクミに会いたくて、いろいろ聞きたくて、
頑張って会いに来たんやもん!いっぱい聞かせてやー!」

その言葉にはっとなる。

今、一番、聞かれたくない質問だった。

なんと答えたらよいのだろう。

答えなくても答えがない。
喉の奥から言葉が何も出てこない。

口をひきつぐんでしまったタクミに、
2人はそろって首をかしげてみせた。

「どしたタクミー」
「どしたーー」

きょとんとされる。

こんなときに限って2人はおとなしく返事を待っている。

タクミは勇気を出して口を開いた。

「。。。覚えてないんだ。。。ぼく。。。」

きょとんとしたまま、二人は動かない。

「ここで目が覚めるまでのーーー記憶が、なくて。
なにもーーー」

何も、思い出せない。

口にしてみて改めて自分の置かれている状況を
認識する。

ーーー冗談みたいだ。

それなのになんてごまかしようもないほどの喪失感。

名前は? 

June 25 [Fri], 2010, 1:30
ケガのことを聞こうかと口を開きかけたが、
2人がタクミのいるベッドに突進してきた為
また口を閉じてしまった。

2人のパワーにすっかり押されている。

「なんや俺らよりちっこいな!!」
「ちっこいなー!!」

見たまんまを言われてうまく返答も出来ない。

「名前はーー!!??」

ベッドに乗り出し、目をきらっきらさせて
ビィがたずねる。

すっかり飲まれてしまっていて、
また返事が遅れた。

「あかんでビィ!名前を聞くときはまず自分からや!」
「そっか。。。!!!」
「おれはユウロいうねん!よろしくなーー!」
「ビィはビィいうね〜〜ん!よろしくな〜〜!!」

どうやらビィはユウロの口真似が楽しくてしょうがないらしく、
同じように繰り返した後は
必ずケラケラと笑った。

そのせいで余計に返事を返すタイミングがわからない。

でも、乾いた喉をむりやりつばを飲み込んで潤してから、
ようやく言った。

「僕は。。。タクミ」

。。。正直これが本当に自分の名前なのかも自信がなかったが。
でも、これ以外に何一つ持っていないのだからしょうがない。

「タクミ?変な名前ーーー」

また思ったことをそのまま口に出される。
少しショックだった。

ビィ&ユウロ 

June 23 [Wed], 2010, 23:32
レンかと思って顔をあげる。

だが、開いた扉の向こうには誰もいなかった。

「?」

間違いであいてしまったのだろうか。

がっかりして視線を落とすと。

ひょこ。

男の子の顔半分が床上30センチくらいのところに現れた。
ぬっと顔を差し入れてぐるりと部屋を見回し、
にかっと笑ってまた顔を引っ込める。

「よっしゃ、誰もおらんでビィ。。。!」

こそこそと誰かに話しかける声がした。

そして。

だだっ。

屈んだ姿勢から一気に2人組が部屋に駆け込んで来た。
2人ともが体全部を部屋に滑り込ませた瞬間に
先に顔を出していた方の少年が後ろ手に扉を閉める。

突然の不審な来訪者にタクミもベッドの上で
体を硬くし無意識に布団を抱えて身構えた。

侵入者は息をつめて緊張した面持ちでお互いに
顔を見合わせ、そして、

にっ、と笑った。

それを合図につめていた空気をぱっと解放させて
笑顔で手を互いに打ち鳴らした。

「成功やビィー!!見事な作戦やろーーっ!!!」
「せいこうやユウロー!見事なさくせんやーーー!!」

「??」

何がなんだかわからない。

2人組みは12・3くらいの少年と少女だった。

少年はちょっとつりめな大きな目と八重歯が印象的で、
見るからに元気いっぱいそうだ。
ただ、目が大きいと言っても大半が白目で
瞳自体は小さいのでなんだかさっぱりした顔立ちだった。

少女は、やはり帽子をかぶっている。
通信では一瞬しか見えなかったので顔はおぼろけだが、
声からしても、レンの通信の相手は
やっぱりこの女の子だろうとタクミは思った。

白の帽子に、なぜか白に黄色のラインの入ったつなぎの
ような服を着ている。
さらに手には軍手をはめていた。
着ているのが12・3歳の女の子でなければ、
完全に何かの作業員のようだ。
しかもポーズだけでないのを示すように、
つなぎのすそや軍手は黒ずんで劣化していた。

こちらはクルリとよく動く大きな金色の瞳、
後ろ髪は帽子に突っ込まれているのでわかりにくいが、
髪も黄色に近い明るい色をしている。
身長は少年より高い。

そして少年と同様、元気だけは体中に有り余っていると
言わんばかりだ。

どうにもこの2人は、見た目はちっとも似ていないのに、
双子のような印象を受けるほど似ていた。

話し方のせいだろうか。

なまりの強い独特の話し方のせいで雰囲気がダブって見えるのかもしれない。

だが少女のほうは先ほどの通信ではなまりを感じなかったし、
少年を鸚鵡返しで口真似しているだけかもしれなかった。

「すごーーいユウロ!てんさーーい!!」
「あんまほめんなやビィ〜照れてまうやろーー!?」
「あはは、照れてまうやろー!!」

二人が名前を呼び合っていることで、
タクミはやっぱりさっきの通信はこの女の子だと確信した。

少年ーーーユウロはケガをしたと言っていたが、
大丈夫なのだろうか。

不安 

June 22 [Tue], 2010, 23:35
一人になると途端に不安になる。
不安になって小さな手で布団をぎゅうと握る。

まだ落ち着かなくて部屋を見回す。

部屋は真っ白で、病室のようだった。
医務室なのかもしれない。

ベットが一つと、棚がいくつか。
パーテーションで区切られた一角があるが、
全体として30uほどの広さしかない。

だが一人残されるとひどく広く感じて落ち着かなかった。

これまで気付かなかったが何かエンジン音のような音が
ヴンヴンと耳につく。
永遠に続くような重低音がまた気持ちの波を掻き立てた。

ーーーここはどこなんだろう。

聞きそびれてしまった返事の先を考える。

目が覚めて、レンがいて、ルルがいて。
他にあと、18人の仲間がいるという。

ーーー仲間って、なんの仲間?

年齢も、性別も違う。

もし自分に記憶があれば、ちゃんとわかったのだろうか。

自分は、レンとルルのことも、ここのことも知っていて、
忘れてしまったのかな。

でも、レンは、皆ぼくと同じように、
ある日突然ここにきたのだと言っていた。

それってどういうことなんだろう。

一生懸命考えるが、
どう考えようとしても、これまでの記憶がないことで
思考の糸がぷっつりと途切れてしまって先へ行かない。

体中探し回って、頭の中じゅうかき回して、
それでも愕然とするほど自分の中はからっぽだった。

なんだか泣きたい様な叫びだしたいような、
もどかしい気持ちで胸がいっぱいになってくる。

ーーーーー早く帰ってきて。

こらえきれず涙があふれそうになった瞬間、

シュンと、扉が開いた。

21人 

June 21 [Mon], 2010, 23:54
空になった食器に、嬉しそうにタクミの頭をなで、
鼻歌を歌いながら、ルルは片付けに出て行った。

「おなかいっぱいになった?
食べてくれてよかった。安心したよ。
ショックでご飯を食べれなくなる子も結構いるから」

おなかも満たされ、肩の力が抜けて、
ようやく、レンの言葉をきっかけにして芋づる式に疑問が湧き出てきた。

「。。。僕のほかにも、いるっていうこと?
ここは、どこ。。。?」

聞きたいことは次から次に頭に思い浮かぶが、
言葉にし切れずに一番率直に聞きたいことだけ口から出て終わった。

レンはその質問を予想はしていたようだが、
少しだけ困った顔になりながら、
ベッドの横の椅子に腰を下ろした。

「そうだね。一つ一つ、説明していこうか。
。。。正直何度やっても、僕には難しいのだけれど。。。」

口に軽く手をあてて、少し迷いを見せるレン。

だがすぐに手をついとはずして言った。

「“ここ”には、君を含めて21人の仲間がいます。」

ーーーーここ。
21人の、仲間?

タクミはレンの一言一言を頭に浮かべながら一生懸命
飲み込もうとする。

「君は目が覚めたら突然“ここ”にいて、とても驚いたと思う。
ただ、“ここ”にいる21人の仲間全員、
君と同じように、ある日突然、ここにやってきたものばかりなんだ」

飲み込もうとするが一向に飲み込めなくて
言葉を追うだけで必死になってくる。

「記憶をなくしていたのは君だけだけどーーー、」

レンは言葉を続けようとしてーーーー、

その腕の端末が小さくビーっと鳴った。
集中していたのでタクミは少し驚いた。

「あ、ごめん。ちょっと失礼。」

レンが端末を操ると空中に小さく映像が映った。

その画面の隅にひょこっと帽子のようなものが映ったと思ったら、
そのままぴょこんと顔が現れた。

『れんーーー!!大変大変!ユウロがこけてケガしたよ!
手当てしてあげてーーー』

「ケガっ??」

慌ててレンが立ち上がる。
だが椅子がうまく引けず引っかかって
足がもつれていた。

「ケガってどのくらいだい?
意識はある?ビィ??」

一瞬映った人物はまた画面からはずれてしまって見えない。
女の子に見えたがよくわからなかった。
この子もレンの言っていた“仲間”の一人だろうか。

『わかんなーーーい!早く来てーー!』

声だけ聞こえて映像は切れた。
慌てているような間伸びしているようななんだかよくわからない
通信だった。

「ビィ!?今どこにいるんだ」

通信は切られてしまっているので、
この言葉はほとんどレンの独り言だ。

その間もバタバタと部屋の中を走り回って
治療の道具をかき集めている。
しかし床においているものには片っ端からつまづいて
見ているタクミがこけないかドキドキするくらいだった。

ーーーどうにもどんくさい。

残念ながらそう思ってしまった。

ーーーーーーーでもやっぱりいい人だ。

そうも思った。


「ごめんねタクミ、ちょっとだけ離れる。すぐ戻るから!」


ばたばたと部屋を出て行くが、
せっかく抱えたものをぼろぼろ落としていくのが
気になって、タクミは返事をすることも出来なかった。


大丈夫かな。


と思ってすぐ。

タクミは目覚めて初めて、たった一人になってしまったことに
ようやく気付いた。

笑顔 

June 18 [Fri], 2010, 0:10
おかゆを一口口に運んで、
タクミは自分がおなかをすかせていたことに初めて気付いた。

今ようやく目覚めたように腸がきゅるきゅるといって
もっと、と催促する。

空腹の体に、おかゆは染み入るようにおいしかった。

「おいしい?」

スプーンをせかせかと動かすタクミに
目を細めて、ルルはたずねる。

腕が少し痛むので不器用に器を傾けながら、
タクミはうなづいた。

「よかった!タクミは何が好き?
味の好みとか、また教えてね。
“ここ”では私がご飯全部作ってるの。
ケガが早く治るように、栄養たっぷりのもの沢山つくるね。
気持ちも元気になるように、愛情こめて作るから!!」

タクミに視線を合わせるために腰を落として、
両手でこぶしを作って笑う。

ルルの言葉が嬉しくて、
おなかが満たされた安心感もあってか、
タクミは目覚めて初めて、
笑顔をもらした。

記憶喪失 

June 07 [Mon], 2010, 22:24
何も思い出せない。

自分はどこからきたのか。
誰から生まれ、どこで育ち、何と出会って、
どんなことを感じて生きてきたのか。

必死に頭の中を探ると、
目もつむっていないのに視界が暗くなる。

暗い中で振り返って、
今自分が立っている場所が、
どの道にもつながっていないことに驚愕する。

ーーーーーただ一つ思い出すのは。


差し伸べられる手。



ーーーーーーーーー轟音が



ご おぉ お



ーーーーーーーーーーお父さん。



ご ぉお



「タクミ」

突然視界がふさがれる。

轟音がふつりと遠ざかって、レンの静かな声が聞こえた。


「・・・大丈夫。」

手のひらでタクミの目を覆って、
レンはそっと言い聞かせる。

「大丈夫。いろいろ起きてびっくりしてるだけだよ。
少しずつ思い出していけばいい。
わからないことも、僕が知ってることは教えてあげるし、
それでもわからないことは一緒に考えていけばいい。
・・・息、はけるかい」

「・・・・っ、はっ」


タクミは自分が呼吸をしていないことに気付いた。
レンの言葉で、のどに詰まっていた空気がひゅっと出て行く。

全身からじわりと汗をかいていた。

そっと視界を覆っていた手のひらがはずされる。
開けた視界ではレンが微笑んでくれていた。
ルルもレンの後ろで心配そうに覗き込んでいる。


すぅ、と、心が落ち着いていく。

その様子を見て、レンも少し息を吐いた。

「・・・とにかく、ちょっとでいいから、
ご飯食べようか。
そして、もう一回ゆっくりお休み。
まず体が元気になってから、ゆっくり一つずつ、
考えていこう。
大丈夫。つらいときには僕を呼んで。
いくらだってそばにいる。
一人で頑張らなくていいから。
・・・わかる?」

レンは目を覆っていた手で、タクミの手をぎゅっと握った。
大きな手が暖かくて。

タクミはーーーー


ご飯を食べよう。


ーーーーーーーそう思った。
2010年09月
« 前の月  |  次の月 »
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30
最新コメント
プロフィール
  • プロフィール画像
  • アイコン画像 ニックネーム:garakutatemto
読者になる
Yapme!一覧
読者になる