
2012年2月12日、日曜日。
目馴染みのいい数字の並びのこの日。
川勝正幸さんのお別れ会へ足を運ぶ。
何故、ワタシはここにいるのだろうか…。
今までの事を考えると、不思議な気持ちになってくる。
半年前までは、
近いようで遠く、まだ臭覚にも触れてもらえてない距離にあった、
川勝さんという人物の、お別れ会に出席している。
*****
2010年某月某日、
一つのリサイタルを終えた頃か、
次にやってくる日本橋劇場でのリサイタルを控え、
その準備で忙しくなる前に、と、
プラプラと真夜中のサイクリングへ出かけたことがある。
特に方向を見定めずにダラダラと台東区あたりを走っている途中、
コンビニで飲み物を買おうと中に入り、フと本棚に目を遣ると、
「ポップカルチャーの教科書」と題したBRUTUSがあった。
これは買わなければ…と、コーヒーと合わせてレジへ運ぶ。
その後も、ビニール袋に入ったBRUTUSをハンドルにぶら下げて、
都内をグルグル回り、休憩に入ったファミレスで、
早速ブルータスを読んだ。
そこには、
1980年から2010年という30年の歴史の中で見る、
川勝正幸さんの描くカルチャー年表が冒頭を飾っていた。
年表を一通り読み終えて、息をつく。
ここに出ている人たちの殆どに、ワタシも影響を受けてきた。
けれど何故…、何故ワタシはこの年表の一部にいないのか…。
と、アタマの中で虚しさが渦巻いた。
きっと、ワタシが川勝さんにお会い出来ない限り、
この年表の一部にはいないだろう…。
お会い出来たとしても、
川勝さんがワタシ自身に興味を持つかどうか…。
川勝さんという、スポットライトが欲しい。
ワタシは、それまで勘違いをしていた。
ワタシが興味を持っていた人たちの側に、
いつも川勝さんがいたのではなく、
川勝さんがスポットライトを当ててくれたからこそ、
ワタシは興味を持てていたのかもしれない。
羅列するのは難しいが、
歌謡曲とセックス以外に殆ど興味を示さないワタシが、
第二次性徴期以降、少なからずアタマに焼き付けていたものには、
全てと言っていいほど、川勝さんの名前が絡んでいる。
でも…
この「サブカル」とも言われた、
川勝さんの描くポップカルチャー年表の、
潮流が行き着いた現在のカルチャーは、一体何処なのだろうか…。
同じくブルータスの中で書かれていた宇野常寛さんの、
「カウンターカルチャー失効の30年」に心をバキバキに折られ、
ワタシは途方に暮れるようにハンドルを操作して新宿へ帰った。
*****
日本橋劇場のリサイタルも無事に終え、
もしかすると何かが変わるかもしれないと思ったけれど、
やはりワタシはどこか孤立した場所で、
何にスポットを当てられるわけでなく、
変わらず派手な格好をして歌謡曲を唄っていた。
ところが昨年の秋、
突然、川勝さんはワタシの前に現れた。
それは、野宮真貴さんでなく、渚ようこさんでもなく、
一度もお会いしたことのなかった、
ロスに在住の瑪瑙ルンナさんが連れてきてくださった。
ルンナさんがワタシのファンだと言ってくれて、
日本に帰国してきた際に、
寄りたいと言って川勝さんと遊びに来てくれた。
それが偶然にも、夜間飛行の4周年の時と重なり、
タイミング良く、ワタシの唄も聴いてもらえた。
川勝さんが階段を登ってきた時は「え?何故?」と動揺したけど、
それと同時に「やっとこの日が来た」と、
直感的に思ったのを覚えている。
ヘーゼンな顔をしてワイノワイノ盛り上がっていたけれど、
感情表現が苦手であまのじゃくなワタシが、
ボソッと「お会い出来て光栄です」と周りに聞こえない声で、
気持ちをお伝えしたこと、川勝さん、覚えてますか?
その後、ファタールの特集で夜間飛行を取り上げてくださり、
川勝さんとゆっくりお話する機会にも恵まれ、
今年の歌手10周年は、川勝さんにじっくり見てもらおうと、
本当に、本当に、楽しみにしていた矢先の出来事。
川勝さんが、ワタシという歌手に興味を示すかどうか、
それが、ひとつのリトマス試験のようなものだと、
出逢う前から、覚悟をしていた。
だけど結局、
川勝さんにはワタシのステージを見てもらえなかった。
訃報を聞いた瞬間、どうしても受け入れたくなくて、
ダダをこねるように、イヤだイヤだと心が事実を拒絶した。
*****
お別れ会の会場へ入ると、目の前に堀込高樹さんが立っていた。
誰とも待ち合わせも同行もしていなかったワタシなので、
開会までご一緒させてもらった。
高樹さんともここ一年の出会いなのに、
一緒に川勝さんのお別れ会の席にいることも、
何だか不思議な気分になった。
出席している人たちの顔ぶれこそ、
あの日のブルータスにあった川勝さんの年表そのもので、
皆さんの川勝さんへの想いの総量のように思えて、
まだ、一瞬触れただけのワタシが、皆さんと同席していることが、
本当に、本当に、不思議でならない。
ワタシが出逢いたかった、もしくは出逢えた人たちが、
一斉にパッケージされたような空間。
スカパラの皆さんの演奏する「君と僕」。
野宮真貴さんの献歌。
ワタシの思春期が甦る。
川勝さんが繋ぐ、
ワタシが遥か遠く福岡で眺めていた人たちと、
今ここに一緒に居れることは、
川勝さんからのプレゼントのようだと、
勝手に思ってしまう。
そして、ワタシは間違っていなかった、と思った。
*****
そのままモヤモヤとした心で新宿に戻り、
店を開ける1時間前に、夜間飛行へ到着した。
会場で配られた、著名人からのお悔やみの言葉の数々を読んでみる。
「俺たちは、川勝さんに褒められたくて音楽やってきた」
クレイジー・ケン・バンドの横山剣さんの言葉に、
ボンヤリとしていた川勝さんへの気持ちにピントが合い、
涙が出てきた。
同封された川勝さんのポストカードを、
店の中に飾った。
川勝さん…
もう、川勝さんに会えないなんて、淋しいです。悔しいです。
これから誰が、スポットライトを当ててくれるのでしょうか。
これから誰に、褒められたいと思って頑張ればいいのでしょうか。
30年というポップカルチャーの流れは、
止まってしまったのでしょうか。
何より、あの穏和なお顔とお声が、色っぽくて、
飾ったお写真を見ていると、恋い焦がれて愛おしくてたまりません。
時代と寝た男と言えるならば、
ワタシも、添い寝程度で良かったので、
川勝さんのいた時代の女になりたかったです。
写真を眺めてばかりいたら、開店時間になってしまい、
もう、力も入らないし、涙も止まらないけれど、
でも、やるんだよ!
天国の川勝さんに、これからのワタシを見てもらわなくては。
*****
川勝さん。
川勝さんの人生の一瞬に触れることが出来、光栄です。
ウチのお店には色んな神様がいます。
夜間飛行の神様、歌謡曲の神様、商売繁盛の神様、店内安全の神様。
そして、勝手ではありますが、
川勝さんを「ポップカルチャーの神様」として、
夜間飛行に祀らせて頂きました。
合掌、with LOVE。