キリングスラッシュ(2)

March 03 [Sat], 2012, 23:41
放課後、生徒の数が減った教室の中で、僕はスマホを眺めるふりをしながら彼女の行動を見ていた。
授業が終わった後も彼女は帰宅せず、その机が体の一部であるかのように、そこから離れる事なく、黙々と本を読んでいる。
あれから彼女に変わった素振りは見られない。
いつものように地味で、卑屈に自分を隠蔽し、目立つ事を極力控えるようにひっそりと過ごしていた。
天薙古刀那が、どこかの部活動に入っていた記憶はない。
だが彼女は帰宅するでもなく、放課後の時間をこの教室で過ごすようだ。
いじめられているのだから、早々に帰宅して逃げればいいと思うのだが、彼女はあえてその行動を選択するかのように机から動こうとはしない。
周りの生徒が言うように、本当に愚鈍な馬鹿なのだろうか。
あれぇ。
天薙さんまだいたんだぁその行動に目をつけた馬鹿共があっという間に彼女を包囲し、ニヤけた面を晒しながら机に触れ、手にしていたパック牛乳を逆さにする。
彼女の頭に牛乳が降り注いだ。
彼女の黒髪に牛乳が滴り、黒縁メガネや制服が濡れていく。
それでも彼女は微動だにせず、机の前で黙々と本を読んでいた。
その度を過ぎた行動に、まだ教室に残っていた他の生徒はコソコソと小声で非難を浴びせているが、彼女等には届いていないようだ。
僕は無関係を装いながら、無音のアプリを利用して証拠写真を激写する。
まだ僕はシナリオを諦めてはいなかったのだ。
あっ、ごっめーん。
牛乳こぼしちゃった。
このままじゃ汚れちゃうよ。
拭いてあげるから、一緒にトイレ行こうよそう語り、一人の女子生徒が天薙古刀那の腕を掴み、席から立ち上がらせる。
牛乳まみれの彼女は何も語らず、抗うこともしない。
腕を掴まれ、囲まれ、連行されて行く事に拒否を示さず、口を閉ざし沈黙を保ち、虚ろな表情のまま、彼女等の言う通りにトイレへと向かった。
ねぇ。
アレってヤバくないちょっとやりすぎだよね誰か先生に言った方がいいんじゃね天薙達が教室から出ると、奴等は浮き足立ったかのように騒ぎ出すのだが、誰一人として自ら止めに入ろうとしない所が、このクラスの露骨ないやらしさを感じ取れた。
その視線がこちらに向けられる前に、僕は鞄ウェディングキューピッドを手に席を立つ。
奴らの無意味で他人任せな希望的観測に、付き合う義理はない。
無A天薙古刀那には興味があるが。
僕はそのまま教室を出て、その姿を探すが見当たらない。
既に女子トイレに入ってしまったのだろうか。
廊下に人気は無く、誰かに聞く事も叶わない。
さて、ここからどうするか。
考察する間もなく、僕はスマホを取り出しアプリを開く。
録音のアプリを準備して、女子トイレに向かった。
考える必要なんてない。
これもシナリオの一部にしてしまえばいい。
その為には彼女達を追い詰める材料が欲しい。
会話を録音すれば信用性が増す。
天薙へのいじめを告発して、彼女達を追い詰め、それを無視してきたクラスメイト達に負い目を感じさせ、担任に責任を取らせれば、それなりに面白い事になりそうな気がした。
トイレの前で周囲を伺う。
周りに気配はない。
女子トイレに侵入する事には、流石にためらいが生じる。
別に正義のためではないのだが、何の目的もなく一介の男子生徒が女子トイレに突入すれば、それは確実に変態扱いされ、下手すれば退学処分すら免れない。
そっと女子トイレの扉に耳を当て、様子を伺う。
物音がしてこない。
トイレに行ったのではなかったのだろうか。
周りに警戒しながら扉をそっと開け、中を見遣る。
個室が連なっているが、人の気配はない。
次の瞬間、ギャァァァァ断末魔のような悲鳴がトイレに響き渡り、僕は慌てて扉を開け中へと入った。
だが、やはりトイレには誰も、そう思った瞬間、扉の閉ざされた個室の床のタイルに赤い液体が這って行く。
粘性を帯びた水たまり。
間違いない。
それは血だ。
その個室の中で何が起こっているのか、定かではない。
その個室の中から漏れ出る血だまりが、徐々に量を増やしていく。
僕は言葉を失い、只その扉を見据えていた。
カチッと。
施錠が解錠される音が響く。
同時に扉が勢い良く開かれ、何者かが個室の中から飛び出してきた。
いや、そのように見えたが、実際にはそのまま倒れこみ、床の血だまりへと突っ伏し、それが天薙古刀那をいじめていた女子生徒の一人だと頭が理解するのに、数秒の時間を要した。
制服は血飛沫に染まり、突っ伏した身体はピクリとも動かない。
僕の視線は自然と個室の中へと向く。
同時にその光景を目の当たりにして、瞳孔が見開かれる。
その個室は真っ赤に染まっていた。
白いタイルに血飛沫が垂れ、紅白のコントラストに彩られた天薙古刀那はそのトイレの中に立ち尽くしていた。
制服を真っ赤に染め上げ、黒縁眼鏡のレンズに血を滴らせ、その青白かった手は粘性を帯びた血に染まり、床下のタイルに血だまりを作っている。
その彼女の脇には、座り込む女子生徒の姿があるのだが、血に塗れた制服姿は確認出来るが、そこから上、頭部が見当たらない。
首から上が無く、切り取られた部位から噴水のように血流が噴出する。
状況を確認するが、状況は全くと言っていいほど理解できなかった。
まるでB級スプラッター映画の中に飛び込んだ気分だ。
どうする事が最善か、未だ誤作動を起こす思考を他所に、アクションを起こそうとするが、足はおろか指先一つ動かせない。
全てがこの状況を前に、硬直していた。
彼女、天薙古刀那は左手に何かを握っていた。
血に塗れたそれが安西の頭部だと理解出来たのは、その直後の事だ。
そして見逃していたが、血糊に塗れた右手には鋭利な刃物が握られており、血に染まったそれは、床下に雫を落としている。
ゆっくりとした動きでこちらを見遣る天薙は、無造作に左手に握っていた安西の頭部を放り込んできた。
ボールのように転がった頭部は、血だまりの中を二度程撥ね、醜悪な死に様をこちらに見せながらその動きを止める。
僕は息を詰まらせながらその死体を見遣り、次に天薙を見た。
天薙古刀那はゆっくりとした動作で個室から出て、血だまりの中を歩いてくる。
返り血に塗れ、雫を滴らせ。
それでもその表情は、依然変わらず冷めたもので固められていて。
島田くん、メだよ血糊に塗れた黒縁メガネを外しながら、天薙古刀那は淡々と語る。
ここは女子トイレだよ。
男子が入っちゃ、メなんだよ酷く冷めた表情のまま、天薙古刀那は当然のように告げた。
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