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June 30 [Mon], 2008, 17:27

高校で電車通学に変わってから、今も変わらず、先頭から二両目の、あの席に座って一日が始まる。親元を離れて、一人暮らしを始めたあとも、毎朝のように同じ電車に揺られていた。






高いヒールを履くのには慣れたし、デパートでルージュを探すとき、ほんの少し赤みを帯びた色を好んで探すようになった。
イヴ・サンローランの、ベビードールは、忘れずに足首にふっていたし、髪だって綺麗に巻けるようになった。


電車の窓に映る自分をまっすぐ見つめる。
移り行く季節の中で、確実に変わっていったものもあったのだろう。
それは、あの頃、履かなかったヒールのパンプスであったり、リップラインを埋め尽くしたルージュであったり、
飲み会で出会ったあとある男にいわれた言葉、

「君の香りが忘れられなくってさぁ」。
つまり、残り香かもしれない。


けれど、同時に気づいたのは、世界にはそれと同じくらい変わらないこともあるということ。


街と街の間に流れる川に架かった、大きな鉄橋を渡る瞬間、
朝焼けに染まった水面の向こうに、たぶんずっと絶えることがない、果てのない海がある。
私が生まれる、もうずっと前から、そこには彼らが存在して

何かに絶望して、一日を繰始めることが怖くなった過去の誰かを、そっと慰めていたのかもしれない。




あのときのあなたも、今の私のように、この光景を瞼に焼き付けていて、
そんな後姿を、あの頃何十回と繰り返して見ていた私がいる。

あなたは決まって、少し寝癖のついた髪を無造作にかき乱し、読みふけっていた本をそうっと閉じる。
鉄橋の向こうで、燃えている太陽の赤い色が、悲しいような突き刺すような、それでいてどこか柔らかい物腰で、全てを包んでいるような気がした。

朝の時間は、繰り返し訪れるだろう。地球という場所が存在する限り。

あの頃、そんな当たり前のことをちっとも疑わなかった。

朝、いつもと変わらずあの席に座っていれば、二つ隣の駅から、あなたが乗り込んでくる。
たったそれだけのことだったから、いつかなくなってしまうだなんて思っていなかった。




それでも私は、たぶん
あなたがいなくなってしまった後の電車に、揺られている時間のほうが長くなったのだと思う。













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