薔薇と化す。(突発的駄作。) 

2007年12月29日(土) 20時05分
苦しい苦しい苦しい苦しい。
何がどうなってんだか分かんない。苦しい。つらい、やめて。
「あ゛ぁあい゛やあめぁ゛あーーー……!」
瞬間、意識を手放した。
視界が狭まってくる中で、真っ暗闇に落とされる直前、ヤツの腹立たしい程にキレイに微笑む顔が見えた。


「あ。目覚めたの。」
目を開けて先ず見たのは、黒とピンクで彩られた奇抜な天井。
そして、意識を手放す瞬間にも聞いた耳障りなあの声がした。
「心配したよ、なかなか起きてくれないんだもの…。薔薇の庭にも行かず、ティジーやKのとこにも行かず…リリさんが目覚めるの、ずっと待ってたんだから。」
ヤツは相変わらず、涼しげな笑みを浮かべたが、これが仮面だと分かってるわたしには滑稽に見えた。
「よく言うわ。あんた、あんな事しといて…。」
「リリさんがいけないの、アーサーを虐めるから。アーサーはKやわたしの可愛い仔ちゃんで、もう貴方の忌々しい弟なんかぢゃあないんだから。八つ当たりに使わないで欲しいの。ね?分かる?」
ヤツは色素の薄い手のひらで、わたしの頬に軽く触れた。
わたしは反射的にその不気味な手のひらを振り払った。
「アーサーは忌々しい悪魔の仔なのよ!近くに居るだけで吐き気がするわ…」
「そう、ぢゃあ貴方はこの館の人間とは結婚できないわね。少なくとも、ティモシーとは。」
ヤツは変わらず笑んでいた。嘲笑といった感じの笑みではなかった。
異常な程に白い肌をした指先で、ティーカップを持っている。
肌の白い人間は嫌いだ。ヤツの白さもなかなか異常だが、アーサーはその上をいく、幽霊のような白さ。
それがわたしには腹立たしい。
「なんでよ…。なんでティモシーはあんたみたいのが好きなの?アーサーやら、フランクやら…あんたも、気持ち悪いのばかり!肌が白くて、頭が弱くて、すぐにでも死にそうで…気味が悪い!」
「ティモシーが好きなのは、只一人、フランクだけ。ティモシーは、二度と帰る筈のないフランクを、ずっと、ずーっと待ってる。フランクの部屋、未だに生前の状態で保たれてるの、知ってる?あれ、ティモシーの仕業だよ。フランクがいつ帰ってきてもいいように、ちゃんと定期的に掃除してるの。…ティモシーだってね、分かってると思うよ。でも、ティモシーはフランクを想うだけで幸せなの。ただそれだけで。わたしたちは、ティモシーにとってあの庭に咲く薔薇とさして変わりはしない。だけどそれは光栄なことだわ。彼はあの薔薇たちをとても愛してるもの、わたしたちも同じように愛されてるの。ただ、それは博愛的な意味でしかない。彼にとってフランクは、わたしたちとは比べ物にならないくらい特別な存在、最早神のようなものなの。」
そう謂うとSはクス、と笑んで、
「だからね、貴方もわたしも、ティモシーにとっては同じくらいの価値なわけ。分かる?だから、貴方みたいな政略結婚を狙っている人には、ティモシーはいい鴨よ。頑張ってね。」
…口惜しい。Sの言葉を聞き終えてわたしの瞳は、いつしか涙を溢していた。ほろほろと、静かにすすり泣いた。Sの前で泣くなんて、普段なら屈辱的でとても耐えられないことだろうけれど、今はそれどころじゃなかった。悲しくて、苦しくて、口惜しくて…とても堪えることのできない激情が溢れ出すのを、止めることができなかった。
だって、Sは知ってる。わたしがいつの間にかティモシーを本気で愛するようになったのを。知ってて彼女はあんなことを謂う。此れは彼女にとっての復讐なのだ。彼女の可愛いアーサーを傷つけたことによる、罰。
「…わたしはリリさんを恨んでいない。むしろずっと憧れてすら居るよ。他所の田舎から来たわたしと違って、生粋のお姫様だもの。可憐で、華やかで、…だから、大丈夫。きっとこの館で生きていける。貴方はティモシーが慕ってる中でも、極上の薔薇に間違いないから。」
きっと、わたしへの復讐は終えたのだろう。Sは優しげな声音でそう謂って、わたしに真紅の薔薇を手渡した。その手はやっぱり透けるように白かったけれど、もう不気味だとは思わなかった。
『ティモシーの極上の薔薇は、アンタでしょ…。』
そう謂おうとしたけれど、それはあんまり口惜しすぎるから、やめた。
ドアの向こうの廊下で、Kが騒いでる声が聞こえる。如何やらSの名を呼んでるようだったが、Sは口元に人差し指を立てて、「しぃー」と呟いた。なんだかその仕草はすごく可愛くて、それこそ童話の中のお姫様みたいに見えた。
そろそろ、ティモシーが薔薇の庭から帰ってくるだろう。
彼はわたしに、極上の笑みをくれるだろうか。

救いのてのひら。 

2007年02月16日(金) 16時06分
しなやかな指先に飾られた光は、口に含んだとたんに固いごみに成り下がった。彼女の爪を飾っていたときは何よりもすばらしい宝石のように輝いてみえたのに。彼女はどこかで見たことのある顔で微笑み、
「これは食べ物ぢゃあないのよ」
彼女の柔らかな声がわたしの耳元をくすぐっていった。彼女のその声で、硬直していた体がほんのり和らいだ気がした。
「右目も腫れてるわ。ちょっと不便だろうけど、眼帯もしましょう。」
そう言うと彼女はちいさな木箱のなかから真っ白なガーゼやら紐やらを出して、丁寧にわたしの右目を隠した。
「あたまがいたくなりそうです」
「ごめんね、我慢してね。つらいときは目を閉じて休めて。」
「あの、目を閉じていいんですか」
わたしがあほらしい声でそう訊くと、彼女はとてつもなく悲痛な顔をした。わたしはやっぱり、と思ってまた体をこわばらせた。何度も味わった恐怖と覚悟が蘇った。それを察したのか彼女はやさしい顔で、やさしい声で、
「あなたはもう、すきにしていいの。」

 
 肌寒くなってきた。もう夕方だろうか。窓の外をみると空が橙色に染まっていた。久々に視覚で感じた時間の経過。あの窓のない真っ暗な部屋はわたしの視覚を制した。わたしが暫く一緒にいた光はまるで昭和の裸電球のような頼りない光だけだった。いま、わたしの頬にそっと触れてるやわらかな指先の温度なんか、どうやって知ることができただろう。わたしはあの場所で冷たい鉱物に成り下がったし、その瞬間せかいもわたしを見捨てたように静かだった。
どうして、いま此処にいるんだろう。
あの窓ひとつない不健康な部屋で思っていたことを、ストーブと彼女の温かさに包まれたこの部屋でも思っている、なんて。
 
 
「あなたは、誰です。」
「…」
「あなたは、せかいですか、せけんですか、それとも」
彼女が背を向ける。わたしは寂しくなって、乞うような声で、
(あのときのような、命乞いの声で)
「あなたは、わたしの母ですか」
「あなたは、わたしの姉ですか」
「あなたは、わたしの妹ですか」
「あなたは、」
責めたいんじゃない。
ただ、知りたいだけ。
わたしがあの鉄の部屋で過ごさなければならなかった理由
わたしがあんな苦痛や恐怖を知らなければならなかった理由
いま、
わたしがあなたに手当てされてる理由
此処にいる理由
 
 
 


「ころしてください」
この眼帯をもっときつく絞めて、
「わたしの目玉を潰してください」
もう二度と、
「目を開けたくないんです」


泣きたくないんです。
あなたがとてもやさしいから。

ママ 

2006年12月20日(水) 4時26分
お腹の子は自ら望んで流れてゆきました。生まれるべきでなかったんだ、とあなたは安心したような声音で呟きます。そんな言い方、とわたしが言い終わるのを待たずに、あなたは札束をそっと置いて出てゆきました。ぽっかり穴のあいた子宮がひどく痛みます。失ったものの重要さを感じているのです。誰にも祝福されない生、誰にも哀れんで貰えない死。どうして。どうしてこの子はこんな風に形も得ずに流れてゆかなければならなかったの。わたしが孕んだ罪の子だから?だけどこの子に罪があるかしら。わたしの不道徳な行為故にできたこの子に罪なんか。札束が虚しくぽつりと残る。どうしてこの場所はこんなに無慈悲なの。冷たいの。かつてわたしがいたあの場所は狂おしいほどに真っ赤で、ほんとに気が狂いそうだったけれど、低い心音、暖かなベッド、体全体で感じる生命、すべてがこの小さな魂に快かった。子宮のなかで感じるママは、とてもやさしくて、いとおしくて、安心できたのに。ママ、ママ、消え入るような声でなく。わたしにはママなんか居ない。1歳で焼却炉に捨てられた。ママなんか顔も知らない、ダイキライ。だけど。

ママ、ママ、
ママに帰りたい。

いちごでくちをけがすはなし。 

2006年12月17日(日) 13時19分
「ぐちゅぐちゅになった苺で思いっきり口のなかを汚してみたい。
真っ赤な蜜に埋もれたい。
いちごで紅く染まったあなたが食べ尽した午前三時は
浴槽に潜むけものの腹のなかにあります。
蜜を得たあなたが
火葬場に残されたぼくを忘れても
午前三時にけものは目を覚まします。
だから、覚えててよ
午前三時にすすりないていた
恐ろしいけもののことや
ひっくり返って踏み潰された
かわいそうないちごのことも
すべては真夜中の浴槽で眠る
あのけもののなかにあるよ」

からだからの愛着からこころへの情愛 

2006年12月17日(日) 0時34分
そらに薄闇のカーテンがかかるとき
ぼくはいつだって甘美な罠にはまる
 
いちばん触れてはいけない唇に
どうしてみんないちばん最初に触れるのだろう
禁断の蜜が唇の端から漏れて太股に落ちる
ぼくはそれを黙ってみてる
あなたはそれを無視して接吻(キス)する
 
体に染み込ませないで、って思うのに
あなたに想われたいぼくはなに
 
あなただけは腰に触れた。
それから極上の接吻を交したの。
生命の源がそろって控えている
あなたはそれを黙ってみてる
ぼくはそれを無視して口淫(フェラ)する
 
結局のところぼくはあなたがだいすきです
恋とゆう名目にはなりえませんが
ぼくはあなたがだいすきなのです
恋人になりたくはありませんが
ぼくはあなたのそばにいたいのです
喩えこの感情の正体が不埒で
ロマンチックの欠片もないものだとしても
 
喩えあなたが罪を犯していて
それをぼくが知っていても(知らなくとも)
(ぼくは要らなくなった玩具
あなたは年下のお姉さまに飽きたのです
わかってる。でも)
あなたが悪いだなんて決して思わない。
ただあなたをすきなだけ
それだけ
 
 
それだけ。
それだけだから
こんなにも苦しい。
 
ねえみてよ。
あいしてる。
こんなにも。
あいしてる。

繕いのばら。 

2006年03月10日(金) 18時00分
丸みを帯びたその不自由の根源である、痛ましい人工的な傷痕は、まるで庭に誇り高く咲いている一途なばらのように紅く、妖艶に染まっていた。そっと唇を寄せて、糸の跡をなぞるようになめあげると、彼が笑む気配がした。
「なに?」
「くすぐってえよ」
彼はさらさらの前髪を揺らしながら身体を折ってわたしの額にばらの接吻を落とした。彼は先刻から口元にばらの花びらを寄せて遊んでいたのだ。
「ききたい?」
「べつに」
彼の勿体ぶったような調子になんだか腹が立って、素っ気なくそう答えた。彼はそんなわたしの心境を察したのかまた笑んでから、
「瞬間、ものすごい血がほとばしったよ。ああいうのを鮮血っていうんだろうな、あとから見たら黒い塊みたいになってたけど。俺の前に立ちはだかったその男は俺が泣こうが喚こうが手をゆるめることなんかしちゃくれなかった。なんだかこの世でいちばん憎たらしいものを見るような目つきで、俺をみてたよ。14のガキで、やつを愛していた俺には、それが恐ろしくて仕方がなかった。ぎゃあああっと、この世の終わりかのような悲痛の声で叫びつづけたのに、やっと助けが…春樹がきてくれたのは、俺の足が完全に切りおとされてからだった。」

あいすくりいむ。 

2006年02月03日(金) 17時40分
「ティモシー」
呼んだ名はあまぁくふるえるような香りを伴って微笑んだ。香りに誘われるようにそっと彼の髪に触れ、一瞬、なんのために此の手を伸ばしたか忘れてしまったけれど、わたしの愚鈍な手のひらはきちんとその最初の目的を果たした。
「ばらが、」
ついてる、とまで云わない、云う暇を与えず、彼は笑んで、
「ありがとう」
彼の頬の内なる筋肉がしなやかに動くさまはとてもきれいで、わたしはこんなにきれいなものを見たのは久しぶりだとおもった。
その幸福の一瞬間を永遠のものにする術をわたしは知らない。彼の幼い心を支配したあの男は、その術を知っていたのだろうか。何であれわたしは彼の悲しみをすべて見知っているわけではない。当たり前だ。それはわたしたちでなくても。人間ならば。でも、あの男はどうだったのだろう。わたしにできなかったこと。彼ならできたのではなかろうか?
「フランクはここでおれに接吻(キス)したよ」
古ぼけた薄汚い机に腰掛けて彼はいった。その机には砂埃一つない。理由はいうまでもない。彼が毎日欠かさず掃除をしているからだ。彼の、孤独を孕んだ心を、唯一安らげたその存在。今は既に亡きその存在を、彼は未だ待っている。待っているのだ。彼以上に大きく凶暴な孤独をその胸のうちに潜ませていた、あの危険な男を。わたしの見知らぬ男。わたしのしらぬ。
「おやすみの接吻(キス)さ。あのとき初めて、人の温もりを感じたといっても、過言じゃあないね。それからというもの、ぼくはあの接吻が無いと眠れなくなっちまった。彼が居なくなっちゃったあとは、何日も眠れぬ日が続いたよ。そんな夜はそっと薔薇の庭に出るんだ。時たまティジーと出会う。ティジーは失くしたばかりの片足を悼むように、枯れたばらを拾ってはあわれそうな眼をしていた。おれの存在に気付くと、きっとにらみつけて、眼を逸らした。それが眠れない夜の恒例だったよ。ティジーも眠れなかったんだろうな。裏切りを受けたような、そんな心持で。あのころ」

幸福をしらない愚鈍な手のひらをもつ子どもを。 

2006年01月04日(水) 19時37分
染み込んでくる悲しみを丸ごと食いつぶせるほどぼくは強くなんかなかった。あなたはいつだって幸福と不幸とを絶妙なバランスで孕んでいて。けれどあなたがぼくに与えてくれたものは嘘に塗れた馬鹿らしい幸福ごっこばかりだった。つまり実質的にそれは不幸だったわけで。あなたの本当のやさしさとか愛とかいった類のものは、ぼくに与えられるもんじゃなかった。そういう風にできてなかった。悲しいことに。

ばかなひと(根津木島) 

2006年01月04日(水) 19時27分
木島は恋人の肉片を顔にくっ付けてる変な奴だ。その肉片を隠すためにいつも仮面をつけている。俺は木島と一緒に八坂堂で暮らしているけれど、木島の顔はあんまし見たことない。だけど、木島は俺が寝ているような、深い暗闇が訪れる真夜中に、月を見ながら、顔にへばりついたその肉片を、優しく撫でる癖がある。そんな木島を、俺はいつも寝たフリをしながら見てる。誰かが云っていた。「木島は罪の意識に苦しんでいるのさ。」…そうだ、それを云ったのは確か、デコッパチの土玉だ。あの悪趣味な、気色の悪いやつ。うひゃっとか変な笑い方するやつ。あいつは罪だの罰だの云ってたけど、俺にはよくわからなかった。俺にも罪があるらしいけれど、よくわからない。俺にはなにもわからない。わかりたくもない。だってみんなばかみたいだもの。罪だ罰だなんて。そんなわけわかんないことに、いちいち振り回されて。ばかみたいだ。木島を見てると余計そう思う。あいつの瞳はオカシナ形だ。罪の意識やら何やらで歪んだ愚鈍な涙を流して。俺はそんなキジマを嗤う。嗤って嗤って、わらいころげて。アイツの尊厳を剥ぎ取ってやる。あの瞳をもっと、もっと可笑しくしてやる。ココロのスミで。
木島は今日も月を見てる。恋人の肉片を撫でて、泣きそうな顔してる。罪の意識に苦しんでいるのか。ばかだ。なんでもう居ない恋人を思うの。思ってどうなるの。罪を感じてどうなるの。なんにも変わっていないのに。

ただひたすらに。 

2005年12月02日(金) 18時47分
口がからからと渇いて、奇妙な腐臭を放つのを、わたしはきちんと自覚してます。
やさしさが腐るとこういう匂いがするのではないのでしょうか。
胸の奥から厳しい痛みを伴ってこみ上げてくるこの想いは
すべて指先から溢れてゆくんじゃないかと思います。
だからどれもこれも簡単にあなたに知れてしまうはずなのに。
おかしいわね。あなたは一向に気づかないし、ウソツキのまま。
やさしい嘘ならなんて、そんなん打ち殺してやりたいわね。
失礼。あなたはやさしいです。そしてひどいです。
だからあなたが好きなのかしら。いいえそれは違います。それだけは決して。
しかしあなたの愛を貪りたいと思います。渇望してしまいます。
どうして




目を閉じて


あなたは夢の中で思えばいいの。わたしじゃなくてもいいの。
そうしているうちにわたしはあなたの首筋を狙っているのです。
手の甲に見知らぬ痣ができているのはその所為かもしれません。
しかしどうも思い出せないみたいです。わたしには。
あなたはその滑らかな舌でわたしを愛するフリをします。
わたしは優しさを腐らせた声で愛を叫びます。
これは全部嘘です。
わたしはあなたの首筋を狙っているだけです。
ただあなたがそれを知るといけないから、
あなたが悲しいといけないから、
目を閉じて


甘ぁく絡んで接吻を。