プロフィール
  • プロフィール画像
  • アイコン画像 ニックネーム:fpuynrypengawc
読者になる
2010年07月
« 前の月    |    次の月 »
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
Yapme!一覧
読者になる
【肥田美佐子のNYリポート】ニューヨークで全米初パワハラ防止法誕生か / 2010年07月30日(金)
 「明日から来なくていい」

 その昔、東京のある会社で非正規社員として働いていたとき、突然、上司から呼び出され、こう言い渡されたことがある。その男性は、部下を恣意的な理由で解雇することで知られていた。

 「ついにきたか……」

 ショックで頭が真っ白になりながらも、気力を振り絞って理由を尋ねたところ、筆者が始めた副業が気に入らないという。半年ごとに契約は交わしていたが、実態は、契約期間と勤務日数、週給のみが書かれた1枚の紙っぺらにすぎなかった。社会保険もなく、週給ベースの給料しかもらっていない事実上のフリーランサーに対し、他の仕事先を制限する権利などないはずである。過去の犠牲者は、通告とともにオフィスを後にしたと聞いていたが、上司の理不尽な要求に屈するわけにはいかなかった。

 翌日、めげずに出社し、「判例上、非正規社員でも、一定期間働けば、正社員と同じ権利が認められるため、正当な理由なしに解雇できない」という弁護士のアドバイスを上司に伝え、翻意を迫ると、彼は、舌打ちをしながら、いまいましそうに言った。

「しょうがねえな。代わりの仕事が見つかるまで3カ月くらいなら居ていいよ」

 なんとかクビはつながったが、その代償として待っていたものは、上司からのネグレクト(無視)だった。「業務」の一環と化していた飲み会の席で、下戸の筆者をいないかのごとくに扱い、他の部下にお酌をして回る。職場でも、自らビールを買いに走り、これ見よがしに部員たちに1缶1缶手渡す。もちろん、筆者のデスクは素通りだ。毎日が胃痛との闘いだった。今にして思えば、「パワーハラスメント」そのものだが、まだメディアの仕事すら本格的に始めていなかったころの話である。当時は、パワハラやモラハラといった言葉さえなかった。

 日本では徐々にこうした概念が市民権を得つつあるが、労働者の権利が弱い米国でも、ようやく「workplace bullying」(職場でのイジメ)という問題が脚光を浴び始めた。「職場でのイジメ研究協会」が2007年に行った調査では、4割近い米国人有職者が、仕事場で嫌がらせを受けた経験があると答えているが、現時点では、それを違法行為と定める法律はない。上司の嫌がらせが、明らかに年齢や性別、人種、国籍、宗教、性的志向、障害などに基づく「差別」であることを立証できないかぎり、打つ手はないわけだ。そうした状況を踏まえ、現在、17を超える州で、仕事場でのイジメ自体を違法にし、労働者が上司などを訴えやすくする法案の導入が検討されている。

 なかでもトップを走るのがニューヨーク州だ。同州では、今年5月、「Healthy Workplace Bill」(健全な職場のための法案)が上院で可決される運びとなった。この法案は、職場でのイジメにより、心身上の打撃や経済的ダメージを被った場合、被害者に法的救済への道を開くものだ。残酷な言葉で傷つけられたり、ののしられたり、クビや左遷をちらつかされたり、業務上の義務を果たしてもらえなかったりなど、「敵対的な行為」にさらされていることを証明できれば、病気になってかかった医療費の還付や精神的打撃に対する補償を受けることができる。来年、ニューヨーク州下院を通過すれば、仕事場でのイジメが、全米で初めて違法と見なされることになる。

 10年以上にわたってこの問題を研究し、法案の起草者でもある、サフォーク大学ロースクールのデービッド・ヤマダ教授(マサチューセッツ州ボストン)は、この動きを手放しで歓迎する。

 「まだ成立に至った州はないが、法案を求める国民の声は大きくなる一方だ。雇用主は、社員を教育するとともに、被害者からの苦情を真摯に受け止めねばならない。だが、残念なことに、苦情を無視する企業が多すぎるだけでなく、加害者に加担する場合さえある。結果、被害者は、居残ってイジメに耐えるか辞めるか、二者択一を迫られるのがオチだ。法案が通り、働く人たちが、法的保護の下で、イジメ撲滅のために必要な権利を手にするよう望んでいる」

 加害者は権力を持っている場合が多いため、告発は命取りになりかねない。十分な法的後ろ盾がない現時点では、よほどの覚悟がないかぎり、安易に法的手段に訴えるなと、職場でのイジメ研究協会は警告する。

 同協会が、その好例として挙げるのが、カリフォルニア州更生・矯正局に25年以上勤務するベテラン職員、レベッカ・ヘルナンデスさんのケースだ。ヘルナンデスさんは、新しい女性上司にマフィア呼ばわりされたり、盗みの嫌疑をかけられたりした経験を持つ。執拗なイジメに耐えかねて連邦雇用均等委員会に苦情の届け出を行ったところ、逆に別の局から捜査対象とされていることを知る。その後、訴訟に踏み切ると、今度は更生・矯正局が捜査を始め、彼女に以前から問題があったかのように見せるべく、捜査開始日を改ざんしたという。隣近所に言いふらされたり、12歳の娘にまで嫌がらせをされたりと、家族にも被害が及ぶことになった経緯に触れながら、「提訴すべきかどうかは苦渋の決断だ」と語る彼女の言葉には説得力がある。

 現段階では差別によるイジメを証明するしか道はないが、雇用問題専門のニューヨーク州弁護士、ダニエル・ブレーバーマン氏は、その難しさを強調する。たとえば、同氏のクライアントの一人である60歳の女性のケースもそうだ。大企業に20年以上勤める彼女は、上司にどなられたり、なじられたりすることで体調を崩し、薬を飲み飲み通勤する毎日だが、年齢差別を証明することは容易ではない。別の40代の女性のクライアントもしかり、だ。彼女も、上司から口汚い言葉でののしられたり、同僚の前でバカにされたりすることで精神的ストレスがたまり、薬に頼る日々だが、差別の証明は難しい。

 「何をもってイジメとするかが問題だ。査定で低い評価をつけられたから? 給料が安いから? 書いた原稿を跡形もなく直されたから? 判断基準を緩めれば、イジメの潜在的要件が増えすぎてしまう(ため、原告に厳しい結果が下されがちだ)。そのため、差別によるイジメを証明すべく訴える人も多いものの、被害者は、往々にして救済の手を差し伸べられることなく、イジメに甘んじるしか手立てがない」

 新法が出来れば、加害者の不法行為を証明しやすくなる可能性があると、同弁護士は言う。雇用主の多くが「健全な職場のための法案」に難色を示すゆえんだ。同法の誕生は、社員からの根拠なき訴えを急増させると、反対派は主張する。

 「そうした状況を回避したいなら、社内教育に力を入れればいい。仕事場での健全な振る舞いを従業員にたたき込むべく、定期的に訓練を行うべきだ。責任者やマネージャーに、部下との関係の築き方を指導することである」(ブレーバーマン弁護士)

 国際労働機関(ILO)条約の批准数が48に達する日本に比べ、いまだ14にとどまっている米国(7月28日現在)。未曾有の経済危機で「転職大国」としてのパワーが失速し、労働環境の悪化が指摘されるなか、不本意な職場で働き続けねばならない人たちが増えているという。「自由市場経済・競争」最優先の米雇用環境に息吹きつつあるチェンジの芽は、そうした働く人々の「悲鳴」かもしれない。

【7月30日10時32分配信 ウォール・ストリート・ジャーナル
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100730-00000011-wsj-int
 
   
Posted at 11:24/ この記事のURL
P R
カテゴリアーカイブ
月別アーカイブ
 
 
Powered by yaplog!