夜の次に来る夜(1) 

October 06 [Sat], 2007, 19:59
           夜の次に来る夜(1)



 「ねぇ、どうしてた?」女の声は少し震え、どこか、ぎこちなかった。
 俺はもちろん即答はしなかった。
 当たり前だ。俺を裏切った女に何と言えば格好がつくのか。発信者の名前を見た。ただの記号では済ませられない、名前。30秒だと俺は思った。30秒コールが続いたら携帯をとるつもりだった。そう決めた。時計を見た。28,29・・・そこで切れればそれまでだ、そう思った。30秒と少し、携帯にでた。
 「まあ、まあ。ってところかな。あんまり変わらないよ」女の言葉に間を置いて言った。お前があんな消え方をした事以外はな、もちろん言葉にはしない。俺は声に表情が出ないように喋った。
 
しっかりしているようで、危うい所のある女だった。それがいつも気がかりだった。
 過去にシャブの売人と付き合っていた。幾度か自分も分けてもらっていたらしい。時折苛立つような事があると「Sやりてぇー」などと悪びれた風も無く言う女だった。道端の野良猫の子供を見て「かわいいねぇ」と目を輝かせて言う女だった。着る物のセンスは図抜けて良かった。高いブランド物は着なかったし、追っかけもしなかったが、それでもスマートに着こなしていた。

 「メアド変えたんだね」気まずそうな口調で女は言った。
 「ん、ああ、携帯の会社、変えたからね」俺は番号ポータビリティー制度をつかって電話番号は変えなかった。誰の為に?何の為に?何かにしがみ付く様な気持ちが無かったと言えば嘘になる。いや、そうだ、俺はしがみ付きたいだけだ。惨めさとプライドの間でこの半年を過ごしてきた。
 冷蔵庫を開けて安い発泡酒の缶を出してプルタブをはじいた。酒があって万々歳だ、しらふではいたくなかった。
 「どこの携帯にしたの?あたしも携帯買い替えようかなぁ」女はまるで昨日も会ったかのように俺に言う。それでも、言葉の端々に後ろめたさが見え隠れする。その事が俺の心から落ち着きを奪っていく。
 苦いな、と俺は思う。酒の味が分かるようになったのはここ数年の事だ。酒はこんなに苦かったか?俺は自問しながら女に言った。
 「変わりないのか?ハマはどうだ?住みやすいか?」間抜けな台詞。いつもそうだ、肝心な時にいい台詞が浮かばない。肝心な時だって?今がそうなのか!?
 「うん、住みやすいかな。海も近いし、いい所だよ」俺の戸惑いを知ってか知らずか女が即答した。
 どうしようもない沈黙・・・。どうする事も出来ない沈黙と言うべきなのか。
 俺は女の心の裡を読み取ろうとした、必死に。それは同時に自分の心の奥底を見定めようとする事だった。俺は一体どうしたいのだろう?奇跡が目の前で起きる事を期待しているのか?だが俺は引き千切れた糸を結ぶ術を知らない。
 「東京ほど便利じゃないけど」女が切れた糸を結ぼうとしているのか「住めば都だよ、それに海が近くていいし」女はボディボをしていたから海に近い事にこだわる。俺にはどうでもいい事だ。とはいえ、一度大型のスポーツ店に二人で行った時に、ボードの前でボディーボードのレクチャーを女から受けた。悪くないな、と正直思った。この女となら楽しめそうだ・・・。2人でハワイあたりで日本人相手のインチキな商売をやろう、そして空いた時間に波に乗るんだ・・・与太話・・・。実現はしなかったし、これからもそんな機会は無いだろう。
 そうだ、そんな事は起こらないのだ。夢物語・・・。いっときの、情熱だけの薄っぺらな夢。それでも確かに存在したはずの情熱。



閑話休題 :この短編(それだけは決まってます)小説はどう進んで行くのでしょうか?実はこれを書いているぼくにもまだ見えてきません。みなさんはどう思われますか?バイオレンス?サスペンス?ホラー?ただだらだらと(?)会話が続く?多くの方の予想をお聞かせください。
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