SS マネージャー 

2004年07月29日(木) 0時13分
「おつかれさまでっす」
 ハタチか高校生ぐらいの男の子が周りにそう言葉を掛けていた。そして振り向き私の顔を見て怪訝な顔をする。あたりまえだ。彼は私のことを知らないのだ。でも私はいじわるだから、笑顔で返す。
「おつかれさま」
 周りから数人の視線を感じる。でも私は構わない。ここに来るのは二ヶ月ぶりだった。なのに今ここに見知った顔はない。相変わらずバイトの入れ替わりが激しいところだ。
「マネージャー」
 あぁいた。彼だ。彼だけは変わらずここにいる。彼の顔を見て、あまい気持ちが胸の中に広がっていくのを感じた。茶髪の特徴のあるサル顔。一度関わったらそう忘れない顔で、なんだか得だと思った。
「井川さん」
 笑顔で。どこか甘味を感じてしまう声で。
「おひさしぶりです」
 私は自然と緩む頬を自覚していた。
「どうしたの、いきなり」
 わかってるくせに。でもいいんだもう。
「ずっと来てなかったけど、このままわけわかんないまま終わりたくなくて。ちゃんと辞めますって言いに来ました」
「うそ、辞めちゃうの」
「だって、マネージャー。私が二週間休んだときから、シフトに私を入れてくれなかったじゃないですか。私なんてもういらないんでしょ。必要ないんでしょ」
 非難がましくなるのは止めようがなかった。
「そんなことないよ。井川さんがいないとさみしかったよ。入れていいんなら、今からでもシフトに入れるのに」
「いいんです。もうずっとやってなかったし、仕事もだいぶ忘れちゃったし。次のバイト先も見つかったし」
「でも井川さんがいないとさみしいよ」
「わたしもマネージャーに会えなくなると思うとさみしくて死んじゃいそう」
 私は笑顔で言った。うそだけど。さみしさなんてこの二ヶ月で枯れ果ていたから。
「さよならって、ちゃんと言いたかった」
 私は綺麗に笑えているだろうか。彼は困ったような顔をしていた。けれどちゃんと言ってくれた。
「元気でね」
 その言葉とその笑顔をこの胸に納めることができて、わたしはそれでもすこしだけ、そこいらの人より幸せだったと思う。
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