夢のまた夢 

October 01 [Sun], 2006, 22:28
わたしはそのまま上着を全部脱いだ。
袖がパフスリーブの黒いポロシャツと、その上に着ていたハンジロのキャミソールだ。
このハンジロのキャミは裾がバルーンになっているお気に入りだが、今はうちの犬の毛にまみれている。
うちの愛犬はコーギーでお風呂に入れるとかなりの量の毛が抜ける。
その犬を抱っこして散歩に連れて行ったので、このざまだ。
わたしは2枚の上着を洗濯機に投げ込み下がジーンズ、上が下着と言う状態で自分の部屋のソファーに腰を下ろした。
ウエストのくびれくらいあるが、お世辞にも自分でナイスバディーとは言えない。
ソファーに投げられていた携帯を見る。メールは着ていない。
立ち上がってパジャマを被って今度はソファーに寝そべった。
赤いラブソファーは足を折らないと収まらないが、少し休むくらいにはちょうどいい。

わたしはミチル。
今は高校1年生で、両親とじいちゃんと妹の5人+愛犬1匹で暮らしている。
両親は自営業で、まだ借金がある。
子供の頃から親が仕事で忙しくなんとなく寂しい思いをし続けて、でも欲しいものはなんとなく手に入って、だからわたしは借金があるけど自分の家がそこそこのお金持ちだと思っていた。
そしてそれは違った。
1週間ほど前、母親に音大に行きたいと言ったら本気で怒られて、わたしは本気で泣いた。
「うちにそんなお金は無い」そんなような事を言われたのだ。
ムカついたよりはショックで、本気で立ち直れないかと思ったほどだ。
わたしは中1の5月からファゴットと言う楽器を吹き続けている。
リードは高いし、持ちも悪い。
無駄にお金がかかってしかも楽器本体も高い。
日本のYAMAHAのファゴットなんて150万を軽く超える。
今わたしが使ってる楽器は自分の物ではなく高校のもの。
それを最近はあたかも自分の物のように持ち出していろいろな所に連れ歩いている。
本当に自分の楽器を持てる日が来るかどうかは、わたしにも謎だ。
ただ音大に行きたいという夢を持って、今は行動を起こし始めている。
まず長期のバイトを二つに増やした。
一つは自分の両親の店の手伝いで、時給は860円。週2。
もう一つはファーストフードで時給は800円。これは10月からシフト。
そしてファゴットの先生も探し終わって、今スケジュールの調節をしてもらっている。
あとしなきゃいけない事はピアノ教室と、ソルフェージュ教室を探すこと。自分で稼いだお金で、ファゴット、ピアノ、ソルフェージュを習う。
なのでお金を稼ぐこと、ためること。
それと両手のストレス性アトピーを早く直すことだ。

わたしは起き上がってリビングに出た。
テレビに映るのはウルルンの再開スペシャル。
妹と母親が居るが会話は無い。
台所でコップ一杯分のウーロン茶を飲んでリビングの隅にあるパソコンを開いた。
すぐに電源がついて画面が青く染まる。
わたしはユーザーを選択してインターネットにつなげる。
ホームが表示されるとグーグルに飛び、ブログで検索をかける。上から順に見て行って、ヤプログで止めた。
ここはスキンが可愛くて好きだ。むかし友達と交換日記をしていて、そのときにここを使っていたのだ。
わたしはヤプログを開きユーザー登録をしてすぐにブログを作った。
長く続くかなんてわからないが、音大を目指す間の奮闘記を書く事を思いついたんだ。
タイトルは『ファゴット吹きの毎日』。
ルロイ・アンダーソンの『トランペット吹きの休日』という曲があるが、まあそれのファゴットバージョンだ。
彼の曲は、他にも『シンコペーテッド・クロック』や『そりすべり』など聞きやすいクラシックが多い。
わたしはそんなタイトルのブログに長々と文章を打ち込んで、終わるとお気に入りからリブリーを開いた。
自分のリブリーにエサをあげて、ストレスの分だけ散歩をする。
それが終わってからわたしはパソコンの電源を落とした。
母親がお風呂に入ってしまったので風呂から出るまで小説を読む。
本はダイスキな石田衣良の『東京DOOL』

夢を叶えることはとても大変なんだと思った。
わたしは自分にファゴットの才能があるなんて思ったことはこれっぽっちもない。
逆に音程は悪いし、音色も悪いし、運指もめちゃくちゃだし、楽器も自分のじゃないしで、向いてないんじゃないかと思うことのほうが多かった。
でも音楽が好きだ。それにファゴットも好きだ。
上手くなったらきっと楽しいと思う。オーケストラが出来たらきっと楽しいと思う。
将来やり続けるならファゴットが良い。そう思ったのだ。
まだ高校1年生だが、高3になってから音大なんて言い出しても、遅い。
わたしはピアノもソルフェージュもやったことがほとんど無いからだ。
だから今、高1の早い段階で(といってももう秋だが)決めないと間に合わないと思ったのだ。
もう一度は決めたの、母さんの冷たい一言で、親にもう一度「音大に行きたい」と言うのが、正直かなり怖い。
それに音大に入ったからと言って、その後の就職が約束されたわけじゃない。
演奏家になるのは大変だろうし、人数も少ない。
だから反対されてもしょうがないとも思う。
無駄にお金がかかるのに、絶対に食っていけるとは限らないのだ。
結局最後はわたしの覚悟なのかもしれない。
わたしは夢のまた夢にしたくない。
叶えたい夢があるのだ。

それでわたしは母親と入れ替えでお風呂に入って、いつものようにパジャマの上だけを着て、布団をほとんど顔が見えなくなるくらいまでかぶって眠った。
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