(止まる時間とお茶)その5 

June 01 [Mon], 2009, 10:06
 ゆっくりと夜が明け始めた。

 二人で窓の外を眺めて、静かにその様子を眺める。

「綺麗です」
「そうだな」

 夜の闇に染まった世界が太陽の光でその姿を変えていく。
 何でもないことなのにこうして二人で見ていると不思議な感じになる。

「なんだか今日は良いことがありそうです」
「そうだな」

 ゆっくりと身体を起こして弥生は正座をしてオレを見る。
 そして微かにこぼれ始める光が彼女を包み込んでいく。

「おはようございます、あなた」
「あ、ああ……おはよう」

 新婚のような気分。
 照れくさい。

 弥生のお願い。
 今日一日、新婚生活のように過ごしたい。

 未来のための予行練習と思ったが、弥生の今の笑顔を見ると練習ではなく本当にそうしているのだと感じた。

 そして同時に彼女を抱きしめてしまった。

「だ、だめですよ。朝からそんな……」

 そんなことを言っても無駄だ。
 きっと今の自分は普段、抑えていたものが制御を振り切って溢れ出そうとしている。

「ダメだ。今日は新婚なんだから誰にも遠慮しない」
「……はい」

 背中に両手をまわしてくる感触。
 吐息。

「オッサンに怒られるな」
「その時は一緒に怒られましょう」
「いいのか?」
「はい。だって修くんのお嫁さんになるのですから」

 腕の中にある温もりがさらに増していく。
 オレの心を温かく包み込んでくれるそれが好きだった。

「志摩さんが怒ると説教だからな……」
「あれは私も少し怖いです」

 怒るといっても声を荒げたりするのではなく、笑顔で永遠と思われる時間の中で優しい口調で何度となく自分達の行いに対して注意をされる。

 オッサンのように直情的に怒るのであればまだしも志摩さんのはオレ達としては何よりも怖かった。

「きっとアレあろうな。一生逆らえない何かがあるんだろうな」
「そうですね」

 実の娘ですらそう思っているのだから凄いものだ。

「でも今は誰にも分かりませんから」
「そうだな」

 二人だけの世界。
 誰にも邪魔をされることなくお互いの声、吐息、温もりだけが存在する場所。

「なんだかフライングしています」
「そうだな。でも少しずつフライングしていくのもいいと思うぞ」
「はい」

 顔を上げる弥生はゆっくりと目を閉じる。
 それが合図のようにオレは弥生と唇を重ねた。
 いつもよりも甘く、そして温かい。

「朝ご飯作りたいですけど……ないですね」

 唇を離す弥生にオレは頷くだけ。

「あとで一緒に買いに行きましょう」
「そうだな」

 何をするにも一緒。

「でも今はもう少しこうしていてほしいです」
「うん」

 そう言って二度目のキスを交わした。
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