『博士の愛した数式』読みました
2008.03.10 [Mon] 13:12

元来数学が好きで、伝え聞いていたこの小説の内容には興味を持っていたものの ベストセラー、映画化で逆に遠ざけてしまっていた作品。 最近読み物の空白期間が出来てしまった折に何気なく手にとってみたところ、 その軽快な書き味に思わずそのまま購入してしまった。 事故による記憶障害や若年で未婚の母からの母子家庭など、ともすれば暗く、 重たいテーマを、数学というまったく別の視点から巧妙に心温まる物語へと 昇華させている著者の技量にまず驚かされた。 そして、「博士」が持つ数学への独特の愛情表現に、同じ数学を愛する者として 共感を深くしつつ、その爽やかな文章表現に乗せられて最後まで一気に 読み上げてしまった。 一見重たいテーマをここまで爽快な物語として完結させられた理由としては、 著者の表現力や技量もさることながら、昨今の小説によくある傾向としての 「泣ける」=(主人公またはそれにごく近い人の)死という安易な設定を 取らなかったことによるところも大きいと思え、その点でもこの作品により いっそうの高評価を与えたい。 あくまで素人目線での数学感であるところが最高点を与えられない理由であるが、 これは数学好きのごく個人的な価値基準と捉えていただきたい。 むしろその点にこそ、この作品の価値があるともいえる。 それを含めても日本の小説としては最もよく出来た作品のひとつに挙げて良いもの。 特にある特徴的な数字が作品全体を通して、この物語をひとつに纏め上げるさまは必見。