花影

March 23 [Sun], 2014, 21:55
花影
穏やかに温んだ青空の、仄かに霞む高みから
千年に変わらぬ高貴をまとい、佐保姫は地上に降臨する
芳しくも貴いその息は、地の表を流れゆき
山裾辺りの、裸木の枝の重なりを
細やかに鳴らしながら吹き抜けていった

時空に冷え、荒く黒ずんだその幹の茫漠の梢に
やがて小さな蕾が無数に連なると
覚醒の清らかに甘い気配が、樹形の限りを満たしてゆく
老獪な古木の思いがけぬ陶酔
忽然と現れる花の現し身は
たちまち梢を咲き継いでゆき、やがて木立のすべてを
濃密な薄紅色の帳を以って、覆い尽くしてしまった

山裾に点される花明かり
桜よ、爛漫の花枝を広やかに差し伸べ
あでやかに咲き満ちてかがよう花よ
風に煽られて盛りの色は時めき
光の中ではうらうらと照り映える

淡い花影は神々しく
まるで佐保姫の容を感応させたかのようだ
美貌の花は、天恵に開花して周囲に浮き立ち
杳然と気高く虚空を染め上げながら
永き齢に繰り返す、自身の春を寿ぐのだ

眼差しあるものは惑わされ、心を奪われてしまうだろうか
その麓には、いつからか
花に魅せられたもの達の魂が
囚われの無念や心残りを地に引いて
忍び寄り、呪わしく徘徊する

桜よ、無情のまま遥かに下界を見おろす花よ
夢のように朧げな姿は、堅い幹の縛めを飾るもの
元より越えがたく隔たる中に
無用のもの達の、どれ程の志しが届くだろう
歌も音声も失って、言葉にもならぬ渾身の想いを
深く胸底から捧げようとも
誘いも答えも得ることができなかった

この花の下で
虜にも骸にもなり果てた、忌まわしき取り巻き達が
不穏な翳りとなって樹上を目指す頃には
終焉の風に散り交う花の渦の中を
去りゆく女神の後ろ影が
密やかに消えてゆくのだから
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