legend〜1*01 

April 10 [Sun], 2005, 0:35
じょわ じょわ じょわ  じょわ
  じょわ  じょわ  じょわ
さっきまで聞こえてなかった油蝉の声に、アキラは思わず頭を上げた。見ると、自分の歩いている獣道のずっと先に大人一人分くらいの光が見える。解けつつある靴紐もこの距離ならなんとか持ちそうだ。アキラは頬を伝う汗をもう一度拭うと、背中の荷物を担ぎ直し、一歩、また一歩とその光に向かって足を進めた。

『国からの要請じゃ』
そういって、アキラの家に村の村長が一人の男を連れてきたのが数日前。
その日、アキラは朝から田の水の様子を見て周り、稲の状況からあと半月もしたら田の水を抜いたらどうか、ということを隣のカズさんに話してきたとこだ。カズさんもそうだなぁと、自分の田の稲を見ながらアキラに言った。
『今年は稗もあんましなーけぇなぁ。その頃には水抜きしてもええかもしれんなぁ』
カズさんの所を出る頃には日も高く上っていた。室内とは対象に外は光であふれかえって眩しい。稲の葉が、庭の石が、水路を走る水が大地が。全てが光を反射し外の景色は白色に輝いている。アキラは思わず目を細める。
『アキラ』
玄関先に立って外の眩しさに目を慣らさしているとカズさんが声をかけてきた。
『どうだ、やらんか?』
そういって腕を差し出し、くいっと手を持ち上げているようなのだが、今度は室内が暗すぎてカズさんがわからない。ようやくカズさんの着ているシャツが確認できる程度である。
どうやら、飲んでいかんかということらしい。
カズさんの顔がわからないまま、アキラは笑ってかぶりをふった。
『俺はあんまし飲めんけぇ、こんな時間に飲んだら起きれんようなるわ』
『親父さんは強かったのに、やれんのぅ』
カズさんの声が返ってきた。アキラはもう一度笑うと軽く会釈をしてカズさんの家を出た。

legend〜1*02 

April 11 [Mon], 2005, 11:23
アキラが家に帰ろうと歩いていると、家の近くに一台の車が止まっているのが見えた。山向こうの港町でもあまり見かけないような立派な車で、運転手らしき男が一生懸命、何かしているのが遠目からもわかる。
どうしたんだろうか?近くでなにか事件でも起こったのだろうか。そう思いながら、家に入る。
『ただいま』
外の日差しにすっかり慣れてしまって、今度は玄関が暗すぎて玄関の段差さえわからない。
靴を脱ごうとすると、足元に硬いものが当たった。よく目を凝らして見ると、どうやら革靴らしい。なんでこんなものが…とアキラが思っているとトタトタと、母の足音がしてきた。
『アキラ、あんたに用があるって、村長さんが街の人連れて来んさったけぇ、はよ上がりんさい』
母はそう言うと台所に下がった。何の用事かと、聞く間もなく母が行ってしまったのでアキラは仕方なく汗だけを拭うと、客間の障子を開いた。
線香の匂いが仏間から少しだけ流れ込んでくる。アキラは黒い人影を二つ認めると、軽くお辞儀をし、その前に座った。まだ目が慣れていないため、どっちがどうなのかよくわからない。
『すいません、待たせまして。』
そう言って正座をし、頭を下げる。
『先生、この子がアキラです』
ハンカチで首筋の汗を拭いながら右側の男が言った。どうやら、村長らしい。目が慣れてくるとやはり何度か見た事がある顔だ。アキラです。と紹介されたのでもう一度、今度は左側の男に向かって礼をする。
『そうか』
そう男はいうと、黙って横に置いていた鞄から一通の封筒を出した。そしてその封筒をアキラに差し出す。この男は夏の盛りだと言うのに全身真っ黒の背広をきちっと着ている。髪を全て後ろに撫で付けていて、見ているこっちが暑苦しい。
『君にね、して欲しいことがあるんだよ』
流暢な標準語でその男はアキラに言った。
『この度、国から正確な地図を作るよう政府からお達しがあってね、急に人員が必要になった』

legend〜1*03 

April 26 [Tue], 2005, 0:49
「どうだい?悪い話じゃないだろう?」
その後の君の職も用意してあるし、いい話だと思うよ。黒服の男は薄い唇を舌で少し舐めながら言葉切った。村長ももっともだとでも言うように、何度も頷き、しきりに汗を拭く。
 アキラは自分の後ろに座している母親の方を向いた。父親が死んだ後も、再婚せず自分を一人で育ててくれた母。姉さんかぶりの手ぬぐいの下で、目だけが白く不安そうな気持ちを訴えてた。
「チエさんも、どうじゃろうか」
そんな母の表情を読み取ったのか村長が母に声をかけた。
「私は、アキラがしたいっていうんじゃったら止めはしません。ですが、村長さん、聞くとこによるとあそこは兵隊さんが大陸の方から連れてきた人住み付いた集落と聞いとります。大陸の人が何を思っとるか、何をしとるんか私らにはいっそ解かりませんけぇ、そがぁなとこにアキラをやるんは私はちょっと嫌です……」
母は、座ったまま手ぬぐいを頭からとると、そう答えた。
「しばらく、答えは待ってつかあさい」

男と村長が去り、家には母とアキラだけになった。

リリリリリ
     リリリリリ
と虫の声が家を包みはじめた。母が夕飯の仕上げにと上げておいた茄子の浅漬けを切り始めた。
「母さん、俺、仕事受けてみようと思う」
板間に腰掛け、外からの風を感じる。
「そう」
母はそれだけ答えると、切った浅漬けを皿に盛った。

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