第一話〜姫様の思い〜 

2005年07月24日(日) 16時49分
いつものように起き、いつものようにスケジュールを誰かに告げられる。

「分かったゎ、ありがとう」と、にっこり。いつものように、嘘の笑み。

いつものように、誰かにものを教わり、お偉い方々らしい誰かと会う。
いつものように、にこりと笑いながら。

・・・・この日常が、疲れるんだ。

私だって、普通のヒト。
泣きたい、怒りたい、・・・・・・自然に、笑いたい。
ここではもう、自然に表情が出なくなったから。


だから私、
逃げ出してもいいですか?

「姫様、今日のスケジュール・・・姫様!?」

この、時間がキッチリとなる私の世界から。

外の世界を見たい。・・・色んな世界へと、飛び出したい。

「皆、・・・姫様を、捕らえよ!」

ごめんなさい。

私、暫らくの間、出かけます。

ここから、抜け出していいですか?

第二話〜籠の外〜 

2005年07月25日(月) 17時26分
いつもは窓から眺めてるだけの世界に足を踏み出した。
姫だという事がばれないように、息を殺して
外へと逃げた。


「姫様ーーー!!」


…大騒ぎ。
どうしよう。
逃げ出してきたはいいけど…どこへ行けば…

「こっちの方で物音がしたぞ!」
「姫様かしれない、調べろ!」
「はっ!」


ここにいちゃ見つかる。








―そして私は外へと逃げ出した。

走って
走って走って
運動する事に慣れていない体を賢明に動かして外へと。

目指すは外の世界。
見つからないように、城門や城壁とは正反対の方向へ。
城に繋がる地下水路から川を伝って城下町へ。

川は微妙に汚染されているのか酷いにおい。
でもどこか新鮮だ。

「はぁっ…はぁ…」

心臓は激しく動悸がする。
こんなに苦しいのは初めてだ。

「…っ」

城門へと繋がる橋の下。
そして更にその下を流れる川を伝って。
私を探す声を他所に
私は外の世界へ入った。

服は微妙に汚れたけど
それさえも感じなくさせるほどの景色が
そこには広がっていた。

ここが、

普通の人たちが暮らす


――「町」

第三話〜真夜中の町で〜 

2005年07月27日(水) 13時15分
暗い城下町をひたすら走った。
暗いうちに、此処を離れなければならない。
日が昇ればあちらが有利になる。
町の構造を知らない楚翠は無我夢中で走り続けた。

城を囲うようにぐるっと町があった。
円形に町が広がっているのである。
なので、まるく道が出来ているところもあったのだ。
しかし、楚翠は気付いていない。
同じ道を辿っていることにも・・・・・・・・


それほど、無我夢中だった。


深夜と言う深夜。
誰もが家で寝静まっている。
助けを乞うことも出来ない。

闇の中で静かに息をする。


      このあと、どうしよう・・・・・・・


誰もいないはずの道端で急に声を掛けられた
「こんな夜中に、一体誰だい?危ないじゃないか。」

楚翠は驚いた。
「ひゃっ。」と声にならない悲鳴を上げて振り向くとそこには中年の女が立っていた。

女は言った。
「こんな夜中に・・・・しかも女ひとりで。何してるんだい?」
楚翠は声が出せなかった。
(もし、この女が自分のこの国の姫だと知ったら・・・・・・)
考えただけでも、身体が震える。

女はゆっくり楚翠に向かって手を伸ばす・・・・・


(やだ!捕まっちゃう!!!!)
そう思って、楚翠は目を閉じた。

第四話〜元側近の笑みは〜 

2005年08月02日(火) 17時47分
どすっ

その町に大きな物音がした。

「おぃ、さっきからうるせぇぞババァ!」
「おゃ、・・・すまないね、どうも・・、歳のせいかアチコチ響いちまって・・・」
「・・・け、だからそう、こけてるのかょ、気ィ付けろよクソババァがっ!」
「・・・・・お若いの、忠告有り難うねぇ。」

女は自分より若いと思われる、皮肉たっぷり言うこの青年に、笑いながら礼を言い、青年が去った後、静かに家へと戻った。
青年には見えなかった、女の陰に隠れていた姫を、軽々と持ち上げて。

「・・・隠してあげますから、それまで良い子に寝ていて下さい。・・・ソスイ様。」

姫は目を瞑ったあの瞬間に、女に腹を殴られてそのまま気絶したのだった。女は、姫と共に何処かへと消え去ってしまった。

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はっとして楚翠は目が覚める。

「・・・ここは?」
「お目覚めですか?」
「貴方・・・・確か・・・」
「・・・・・・あぁ、ここは私の家の地下です。・・・とりあえずお茶でも?」

若い女はにこりと笑い、紅茶が入ったカップを渡す。

「お久しぶりで御座いますね、楚翠様。・・・先ほどの、老婆で御座いますょ。」
「え・・・・?」
「ほら。」

と言ってベリベリと顔の皮を剥ぎ取り、若い女は多少老いぼれた人へと変わった。

「ね、凄いでしょう?・・・・・でも馴染みがないとお思いになると思うので・・・・」

とまたベリベリ、顔の皮を剥ぎ取る。
さて、とでも言うように女は楚翠の顔を見、そして言った。

「・・・どういうことか、きちりとご説明出来ますか?・・・・姫君様。」

(数ヶ月前のこと。
私が、自由を求めたせいで辞めさせられた側近。その人が今ここにいる。
それだけでも驚くことなのに。)

「・・・説明しなければ、兵を呼びますよ?」

元・側近は、にやりと笑って楚翠を更に驚かせ、怖がらせた。

第五話〜導き〜 

2005年08月02日(火) 21時17分
「お願い!このことは誰にも言わないで!」

必死に目を瞑って目の前の元側近に懇願した。
ここで戻されたらもうここへ出てくるのは困難になる。
いや、もう二度と出してもらえないかもしれない。


そんなのは嫌だ。

「その前に、理由をお聞かせください」
「…」
「話してもらえませぬか」
「…」
「この世界は大変危険です。姫様がいるようなところではありません」
「そんなこと、分かって…」
「いいえ、分かっていません」

ぴしゃりと言い放つその言葉に楚翠は身を震わせた。
今までこんなに厳しくされたことはあまりなかったのだ。

「分かっているフリをしているだけです。姫様は何もお分かりになっていません」
「…でも!」
「でも?」
「城に戻るのだけは…嫌よ」

俯いて、手をぎゅっと握り締めた。
その瞳は今にも涙が溢れそうに潤んでいる。

「…フゥ」
その女は静かに溜息をついた。
この姫は昔からそうだった。
歴代の王族と違い、外の世界への興味を示す。

「姫様、とりあえず今はお眠りくださいな。」
立ち上がって布団を敷く準備をすると楚翠はぱっと顔をあげた。

「兵に…言わないの?」
「ええ」

それを聞いた楚翠の顔には安堵が溢れ
その後、敷かれた布団に入ってすやすやと眠った。

その元・側近はその楚翠の寝顔を見つめながら頭の中で祈った。

(どうか姫様に―後のご無事を…)

第六話〜紅琉重〜 

2005年08月04日(木) 14時43分
「うっ・・・・ん・・・・・眩しい・・・・・」

楚翠は顔に当たる日で目覚めた。
湿っぽい部屋の中にはひとりだった。
(あれ?・・・・)
元側近の姿が見えないのを不安に感じた。

       兵に知らせてはいないかと・・・・・

そして、側近の名前を思い出そうとしていた。
ほとんど名前を呼ぶことは無かった。
(何だっけ?・・・・・・・く・・・・く・・・・・・・紅琉重・・・・・?)


そこに隣の部屋から物音がするのが聞こえた。
そして、そっと扉が開いた。
「姫様。おはようございます。」
紅琉重は楚翠に向かって微笑んだ。
「おはよう。」
楚翠は返事をして、布団から出る。
「姫様、そのような格好で、出歩くようなことはしませんよね?」
「あっ。」
今頃になって気付いた。
楚翠は貴重な絹の織物の服を着ていた。
(これでも、簡素にして来たつもりなのに・・・・・)
「御召し物をこちらに変えて下さい。」
「はい。ありがとう。」
楚翠は紅琉重が用意した服を着た。
「町の人は、皆これを着ているのね。」
楚翠は紅琉重に尋ねた。
「そうですよ。さぁ、朝餉を・・・・」



                   紅琉重との生活が始まった。


楚翠はまずは、町について、知らなければならない。

第七話〜外へ行きませう〜 

2005年08月04日(木) 22時23分
城の中にいた頃の食べ物とは違う、・・・冷たい豪華さより温かい質素なモノ。
求めてたもの、違うといえば違うし、そうだといえばそう。
・・・紅琉重と『一緒に食べる』。・・・一人で食べてたあの頃とは訳が違う。

・・・美味しかった、と思う。色々と紅琉重と沢山、話をして。とにかく・・・温かくて楽しかったの。

「では楚翠様、これから・・・兵を欺くため、ちょっと顔を・・・」
「え・・?」
「まだまだここは、城の中と言っても良いぐらいですからね。・・・・変装します。」

言うなや否や、紅琉重はサッと顔に何かを被せた。

「・・・?」
「お面です。・・・こういう職業の方々がいますから。多分バレはしないです。」
「・・・?・・・紅琉重・・・は?・・・昨日・・・変な・・・ベリベリって」
「やってもいいですけど・・・」

躊躇って、言う。

「・・・・・・・・・・グニョグニョと気持ち悪いですし、時間かかるし。・・・・何より、」

ごくり、と唾を呑む。

「重いですよ。」

思わずこける楚翠。紅琉重が楚翠に手を貸す。

「それに、普通の人より『芸者』の方だとか何だとか思われた方が良いんですよ?・・・・・・・貴方はまだまだ、世間知らずだから。」

にこりと、今度は安心させるような、楚翠に優しく笑いかけた。

「さ、・・・・これから外に出かけますがその間、敬語・・・いいですか?」
「・・・うん。その方が良い。・・・止めてよね?」
「はいっ!」


若い女が老婆へと変わる。
男か女か分からぬ人、後ろにふさふさとしたモノを帯びた、派手な面をかぶった芸者が後を追う。

老婆は言う。

「えぇ。この子は私の孫、実は有名な芸者の方なのだ」と。

第八話〜見下ろす城に苦はなし〜 

2005年08月05日(金) 22時38分
楚翠は紅琉重と一緒に途中まで歩き、そして途中からは馬車に乗せられた。
その馬車はどうやら芸者たちが次の街へと移動するためのものらしく、他にもお面をかぶった人が何人もいた。

「おチビちゃん、名前何ていうの?」
「え…」
いきなり話しかけられて、楚翠は肩を震わせた。
どうしよう…どう答えればいいのだろう。


「翠(みどり)と言うのよ。」

え…
ふと紅琉重の方を見ると、紅琉重はにっこりと笑っていた。

「翠は最近この街に来たばかりだから、いろいろと知らないことが多いのよ。芸の腕はすごいんだけどねぇ」

「そっか、翠、よろしくな。俺は焔叉っつうんだ」
「え…焔叉?よろしく…」
すっと差し出されたその右手を取ろうとした瞬間

ゴゴゴゴゴゴゴ…

「うわっ」
「そ…、翠!!」
「は、はいっ!」

馬車が揺れ、地が揺れた。
(な…何…?)

初めて体験する恐怖に楚翠は身をこわばらせた。
必死に紅琉重にしがみつき、その身を安定させようとするが上手く行かない。

「紅琉重…これは…何?」
「…地震だよ…最近多いの」

最近多いと言われても、楚翠にとっては初めてのことだった。
こんなことが最近起きていたと言う事実に驚く楚翠。

「…、くそっ、この国は地震ばっかだな」

焔叉がつっぱねるように吐き捨てる。
楚翠は今までにない混乱の中に居た。
この国は丘の高台に、まるで街を見下すかのように城がある。

高いところにあって気付かなかったものがここにある。
混乱と、興奮の中で
楚翠は未だ、身を揺らせていた。

第九話〜地震〜 

2005年08月06日(土) 15時50分
「翠?大丈夫かい?」
震える楚翠を紅琉重は撫でる。
「怖かったわ。」楚翠は言って、紅琉重に力強く抱きついた。
「あれ?まだ慣れないのかい?最近多いのに・・・・・」焔叉は不思議そうに楚翠を見てくる。
「えぇ。だって、怖いんですもの・・・・・」
「まぁ、天災だもんなぁ。誰も自然には逆らえないよ。」焔叉はそう言って、前の方へ移動していく。
「翠たちもこっちに来いよ。もし次来る地震が強いと、振り落とされるぞ。」手招きしてくる。
「紅琉重?」楚翠は紅琉重に訪ねた。
「そうしましょう。」と紅琉重は同意し、移動した。


もうすぐ、港町に着く。
それまで、楚翠も、紅琉重も寝ることにした。





「楚燕様。先ほど、また地上で地震がありました。」
楚燕と呼ばれた男    この国の王である。
そして、楚翠の父でもある。
「そうか・・・・最近、多いな。」楚燕は窓から外を見る。
奇麗な青空が見えていた。
「それより、楚翠はみつかったか?」
「今、探しております。城下町にはおりませんでした。街の外に出てしまわれたかと・・・・・」
すまなそうにする下僕を振り返りそうかと答えただけだった。

そこに高い少女の声    來夏である。
「父上。楚翠ねえやは見つかりましたか?」
來夏は楚翠の妹でまだ5つである。
「來夏・・・・・・」
その後から妻の夏果がやって来た。

「まだ、ねえやは見つかっていないよ。」
「ねえやは帰って来ないの?私ともう、遊んでくれないの?」
來夏は父親を見つめる。
父親が答えないので母親を振り返り答えを求める。


            誰も、答えられるはずがなかった。


何故、出て行ってしまったんだ?
何が、不満だったんだ?

第十話〜海螺都〜 

2005年08月07日(日) 9時55分
何が不満だったのか、未だに分からない。
ただ、あの子にはきちんとした、マナーや教育をして、それに好きなものを何だって与えたつもりだった。

それが城を抜け出すという行為。・・・・・先代の王たちに申し訳ない。民に知られたら、恥されしだ。私より、あの子が・・・・・大変な目に遭う。・・・・早く、保護しなければ。

一体、何が不満だったというのか?

ただここ最近国の政治に煩く言う輩が多く、いや・政治に参加する民らがいるのだから嬉しい事なのだが・・・・・とにかく忙しくて、あの子に全然構ってやれなかった。それも、原因の内に入るのだろうか?

「貴方、今は兵たちに任せて。・・・・・・今は寝て下さい。」
「夏果・・・・・。いや、今はそれどころじゃな・・・!!!」
「駄目です。・・・・ここ一週間仕事などで、まともに寝てはいないでしょう?楚翠の事を切っ掛けに暫らく寝て下さい。」

夏果の中から出て来た綺麗な薄桃色の布が宙に舞う。其れを見た瞬間に何故だか眼が闇へと誘う。

「楚燕さんの健康の為に今暫らく、寝て下さいませ。」

その、薄桃色の布は丁度よく倒れた楚燕に覆いさった。




[港町、海螺都]

「あ、看板。・・・・何?・・・・・かい、ら・・・と?」
「はは、違う。カイラツって言うんだ。珍しい名前だろ、この街にしちゃ。」
「珍しい?・・・・どういう、意味なの?ね、く・・・・あっ、お祖母ちゃん。」
「翠。・・・・港町にしては、「都」という字があるということさ。」

楚翠は、親しく話してくれる焔叉に何となく避けて、楚翠が紅琉重を、申し訳なさそうに見て言った。気にはしませんよ、とでも言うように、ニコリと笑みを交わす。振舞いの全て、城へ逃げ出そうとする手立てだと紅琉重は悟っていた。

「でも海螺都と名付けられたのは・・・色々な噂、色々な伝説。・・・・そういうのが海の、波のように流れ込む。・・・・・・その噂らは螺旋状に繋がる「噂」の都とされたから。」
「だから知り得ないことは全部、海螺都に聞きゃぁ分かるって事だぜ、翠。」
「・・・・焔叉さんも・・・・何かを知りに来たの?」
「うん?・・・・あぁー・・・まぁなー・・・。」

海螺都。ここは、漁業と噂が有名な、そんな町。