主な登場人物等

January 11 [Tue], 2011, 15:51
登場人物一覧を作ってみようかとふと思いつき。
キャライラストも徐々に入れ込んで行きたいです。
プロフィの加筆修正はご自由に♪

メイン

貔子・豺牙

12歳 身長142センチ。

天地創造神の末裔の一族であり、その直系。
“血統を保存する”事が目的で、一族では皇子的な地位に居る事から、産まれたときに決められた許嫁、青龍姫がいる。
彼女とは幼なじみで、いつもラブラブ。

とことんマイペースで、頭に血が上りやすく単純。
短絡的で考えるより先に行動する。
気侭で飄々としており、一族の古い因習や、自分の身の上に疑問を持つ様な事もしない。
風の向くまま、気の向くまま主義。
剣術は一通り仕込まれているが、自分の力と牙を使う方が得意な様子。
一族のしきたりで、皇子は修行の旅に出る事が義務づけられており、空華との旅もそのつもりでやっているらしい。

濡れる事が嫌い。
物凄い大食漢で、食べ物を横取りされると大騒ぎする。
狼と犬の違いをはっきりと線引きしたがり、犬と呼ばれると怒り狂う。


歌眠・空華
世界を構築する要素、“世界の欠片”を探してこの星にやってきた謎の青年。
相棒である豺牙を巧い事操縦しているが、ステールッラは少し苦手な模様。
元は三人で一人なのだが、今はその二人とばらばらになっている為、本来の力を出せない状態で、人の心にある世界の欠片の気配を感じる事は出来ても、はっきりと特定する事が出来ない。
見た目は生身の人間と全く変わらないが、星や概念に近い存在。

はるか昔、虚無の存在に気付いて原因を解明しようとした天文学者、シエルとともに旅をした。
それ以後この世界に愛着をかんじ、世界を救える人材を探しては繰り返し繰り返し挑んできたが悉く失敗している。
その事を知っているのは本人と・・・・。

うっかりさんで見とれて良く足を踏み外すが、本人的には見る事が仕事!?



ステールッラ・ニュートン
28歳。身長187センチ、体重87キロの大男。愛称はスーだが、空華はステーと呼んでいる。
山岳民族と北方系のダブル。
長い物にまかれる事が好きで、要領がよく、頭がいい。典型的な気は優しくて力持ち。
疑う事を知らず、憎む事を嫌い、正直で素直で純粋。とても涙もろい。
エラトがみた心の色は金。信仰心も厚く、信仰の欠片の所持者。

極度の寝坊助で、ちょっとでもぼーっとする時間が有ると決まって居眠りする。

一族の族長で、普段は天文学者として大学に勤務し、休みの時はポーターや山岳ガイド&レスキューをやって現金収入を得て暮らしている。
そういった自分を取り巻く環境をこよなく愛していて執着がつよく、アンドールの軍の攻勢の際には民族のリーダー的存在となり、命をかけて戦った。
兵士時代はヒマラヤの人食いとらと呼ばれる程の猛者だったが、今は戦う事にあき果てており、空華の申し出にもなかなか応じなかった。


ユーゴ

身長164センチ、23歳。
南の海の民族の出身で、ペニスケースが唯一の衣服の裸族の出身。
全身の刺青と腕輪は一族である照明。
家族を養う為に傭兵をやっていたが、負傷、脳死状態に陥る。
葉博士に素体として選ばれ、竜の魂を移植されたことで別の人間として生れ変わった。
失った左腕はメカニックに置き換えられ、ちぎれた右足は人工神経で繋がれている。
はくち状態だったが、マレの情緒教育用にと同じ部屋に入れられ、徐々に人間として成長して行く。
ユーゴという名前が彼が思い出せた数少ない生前の記憶。
葉博士のスポンサーであるアンドールは、ユーゴを生きた兵器にするつもりだったが、ユーゴを慕う博士によって脱出、その際に唯一の友であるマレを失い、彼女とパラレルワールドで再会する為に、欠片を集め始める。
黄色のスカーフがマレの形見。


メインに継ぐ重要人物


葉博士
ユーゴを改造した生化学者。過去に妻を事故で失い、息子もそのとき失明している。
二人を救うため,人工的に“人間”を作り出す研究をしていた。
彼の言う人間とは、心が有り、情緒が有る“人”の事。
大脳が壊死してしまったり、動物的になってしまった祖体は失敗作と見なしていたので、彼の助手の琉座が人工頭脳を埋め込み、サイボーグにしていた。
成功作第1号であるユーゴを手元に置きたがったが,ステールッラに説得され、彼を解放する。


アンドール
職業軍人。軍ではかなり高い位にいる。
私用の兵士として、サイボーグソルジャーを葉博士に量産させていた。
素体は全て生身の人間なので、素体を手に入れる為にステールッラの民族や他の少数民族に戦争を仕掛けた。
かなりのコレクターでもあり、この世に2つとない珍しい物を好む。
豺牙の許嫁の青龍姫はとくに気にいっていたらしいが、豺牙に奪い返される。


マレフィック・アスペクト
特殊な環境でしか生きられない神魔獣オーリアン。
普段は普通の人間とあまり変わらない姿だが、属性に応じて変身する事が出来る。
口から物を食べるのではなく、精気を吸い取る事で食事する。
排泄物は希少な宝石。
死ぬと灰になり、転生すると言う事から、仲間と三人で平和に暮らしている所をアンドールによって捕えられ、うち二人は実験台として殺された。
閉じ込められ、全てを奪われ、もはや絶望する事さえ忘れてしまい、心を無くしかけていた所にユーゴと出会う。
ユーゴとの生活を通してユーゴを慕い、愛する様になった彼女は彼に希望を抱き始める。
ガラス張りの世界の中を通してしか見えない空。
その空にユーゴといく事が彼女の夢だった。


エラト・エルピス
自殺し、虚無に捕えられた少女。
自分では動く事が出来ない虚無に手足として使われ、虚無の砦として、やって来る冒険者達を取り込み、それらの魂を虚無に運ぶ代わりに、天国に行く為の羽を貰っていた。
しかしそれは、虚無の罠であった。
やがて最後の一枚としてやってきたステールッラの無償の心に触れるうち、彼女の封印されていた元の心と記憶が徐々に解放され、とうとう虚無から解き放たれて天国に昇って行く。


ベネフィック・アスペクト
マレの転生した姿。
フィードの森でガイラァや森の動物と暮らしている所をユーゴと出会う。

アラトス・イナ
豺牙の親友の人狼で、滅びゆく人狼族の数少ない生き残り。
狼の自分と、人間の自分の二重人格。
魔力が高いので、次期魔王に選ばれている。


星の申し子
ナーティオーのドラゴン。自信過剰で気性が激しい。
100年に一度産まれるという混沌の竜。かつて相当の獅子と戦い封印した事が有る。
双頭の獅子へ向う扉を守る番人。


サブ

青龍姫
豺牙の許嫁。
茶色い毛皮に栗色の瞳の可愛らしい少女。
しとやかでおくゆかしく、妻たるもの、三歩下がって影踏まずの大和撫子。
豺牙に惚れ抜いている。


オブシディアン
山の麓のクラブに勤務するストリップダンサー。
セクシーで愛らしいキャットウーマン。
自称情報通。店に行くと何かしか情報をくれる。


シャドウ
空華の人格の1つ。
欠片をみる能力,闇に溶ける能力の部分。
絶賛喧嘩中だが、本心では空華が愛おしくてたまらない。
おっちょこちょいな空華が心配でしょっちゅう出てきては軌道修正させている。


ウミソダチノ・アヤノ
ステールッラの奥さん。
色気臭い立つほどに女の魅力ムンムン。
とても健康的で巨乳。本人曰く隔世遺伝。
代々続いた鯨捕りの家の生まれで、家族も親戚も使用人も動物も一緒くたになって大きな古民家に暮らしている。

戦争で傷つき、死ぬ所だったステールッラを救い、あったその日にベッドインし、手術後に意識を取り戻したステールッラに命を助けた礼代わりに恋人になってくれと言う程に惚れっぽい。
好色で浮気性で、尚かつ自分の魅力に降り回されており、ステールッラと付き合いはじめてからも、彼が戦争にかかりっきりだったのに業を煮やして一人船旅に出てしまい、行く先々でボーイハントに性をだしていた。
でもやっぱりステールッラが一番、らしい。(広義の意味で)


マリエル
アヤノの親友。
褐色肌に金髪のキュートな女性。漁師。
船旅を続けるアヤノとは違い,一カ所に定住し、網で漁をしてくらしている。
鯨との接触事故で船を失って落ちぶれていたアヤノに家を提供していた。
両親とは早くに死に別れ,たった一人の弟と暮らしていたが,彼とも民族闘争により死別。
天涯孤独の身。


トポル&ルル
ヤマアラシとキツネの子供。
頭はいいが,気が弱いトポルと、イケイケゴーゴーなルル。
ウルグルブからの手紙をもらった所にユーゴと出会い、三人でウルグルブの出すなぞなぞに挑む。



微かな始動

December 11 [Sat], 2010, 4:32
俺の旅の目的は、この世界に散らばっている欠片を集めること。
これは、今も昔も変わっていないんだ。

ほんの少し、何かを思い出すように瞳を閉じて、空華が語り出した。

……この欠片を集めて、その力で…俺を救ってくれた恩人に、恩返しがしたいんだ。
その人はとても優しくて、暖かくて。皆の笑い声が大好きなのに。それを見ることが出来なくて。
だから、俺はその人に全てを見せたい。今俺が、こうして歩いて見てきたものを全部あの人へ返してあげたい。
その為には…何かを介してではなく、あの人へ本当の光を取り戻すには、欠片の持つ世界すら創設出来るこの力を得ることが最良だと思えた、だから俺は此処に来たんだよ。

ん?あぁ・・・来たって言うのは、俺は元々此処の生まれじゃないからな。だからそれこそ初めは…たとえそれで、この世界が無くなろうと構わない。そう考えてすらいたんだ。
…いや、寧ろこの世界が無くなる事を望む側だったとも言えるかもしれないな。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


夜露にぬれたしっとりとした草を踏みしめて夜の森に降り立つ。

「中々静かで綺麗な場所だな。」
よっ、と背にかけた荷物をかつぎなおし、ゆっくりと歩く。
本来此処にいるべきでない自分は、寿命の尽きた星が消える時にだけ手に入るという、星の欠片を手に入れるのが目的のため、あまり感情移入しないよう、人を避けて −本当は立ち寄らないのが一番いいのだけど− 旅をする予定だった。

基本的に野宿を繰り返しながらあちこちを回る旅は、この星の最後の時までのただのつなぎの筈で、まさか今のように、終わりを止めようとする側になろうとは当時は露ほども思ってもいなかったし、そうならないように注意もしていた…

「てめぇは意外とうつろいやすいからなぁ・・・おい、良いかぁ?空華ぁ!ここに来る事、俺様は反対したからな。万が一目的を見失ってみろ。どんな手を使ってもでもこの俺様が軌道を修正してやるよ。」
「あーうん…そうだな。それじゃぁその時は夜光に宜しく頼むよ。」
普段悪ぶっている割に心配性な(特に自分に対して)闇へくすりと笑いかける。
大丈夫、確かに綺麗な場所だけどそれだけで揺らぐ程ゆるい覚悟はしていない。
ただ…
「もうすぐ消えてしまうなら、誰か一人ぐらい覚えておいた方が良いだろう?」
良いところも、悪いところも、全てを纏め一つとして眺めてみたい。
そう語る空華に夜光は短く息をつくと、勝手にしろ。というようにしゅるんと心の奥へ引っ込んでいった。

「…夜光だって分かるだろ?」
たん、と勢いをつけて少し急になっていた斜面を登り振り返る。


「居たことを、誰にも記憶されないなんて悲しいよ。」




山の木々の向こうにちらちらと見える町の灯。晴れ渡った日の空の青さ。鳴り響く雷雲。暴風とそよ風。広く澄んだ海があれば、暗く澱んだ沼…さまざまな顔を見せるこの世界に敬意を示して、一歩ずつ、自らの足でしっかりと歩いて回る。そんな毎日が数年程続いたある日の事。


ガッ!と強い音を立てて繰り出された一撃は先程まで自分が立っていた空間に繰り出され、その一撃により樹齢何百年だろうかという太い木がめきめきと音を立てながら地に沈む。
その光景にひゅう、と楽しげに口笛を鳴らす夜行に対して、空華は引きつった笑みを浮かべていた。
「どうやら此処はアイツの巣だったみてぇだなぁ。…どうする?逃げるか、それとも」
「や、逃げるから。」
夜行の言葉をぴしゃっとさえぎり逃走する。
夜光ともう一人…輪葉の不平が響いてくるが、正直なところあんなのを相手にしたくない。

ぶん、と振り回される太い腕を避けながら森の中を駆け回る。
思ったとおり体が大きい分小回りは苦手のようで、障害物をなぎ倒しながら追いかけてくるその迫力にさえすくまなければ意外と楽に逃げ切れそうだ。
「こうなると少し物足りない気もするけどな。」
振り向いて相手との距離を確認しながら苔生した岩を飛び越え…

「…っこの馬鹿!余所見すんな!」
とっさに空華と入れ替わった夜光が木の枝を掴み引き止める。
その反動で体を斜面へ打ち付けられ、思わず文句を言おうかと口を開いたが、足元を見て言葉に詰まる。
岩が死角になり気が付かなかったが、飛び越えた先は高い崖となっており、夜光が枝を掴まなければ今ごろ地面に叩きつけられていただろう。
「他者の終わりを見る前に、自分が終わりになるところだったなぁ?」
ぐいっと掴んだ枝を支柱に崖の上へ駆け上がる。
「……ありがとう。」
流石に今回は自分の注意力が散漫していたと素直に認め礼を述べると「貸し一つだな」と楽しげな声が返ってきた。「…だから、お前に礼は言いたくないんだ」思わずむっとして言い返すと、その言葉に夜光が反応するより早く、元気な掛け声が上がった。
「いっえーい!熊っ!」
たっ、と軽快なリズムで今まで自分達が逃げていたはずの熊に向かって駆け寄っていくのは…

「輪葉!?」
「しまった…!ストップ!輪葉ストップ!!」
慌てて2人そろって止めにかかるが、それであっさり聞いてくれるようなら自分たちも苦労はしない。
「二人とも保守的になりすぎなんだよ。こういうのは思いっきり一撃お見舞いしてやればいいじゃない。」
ふわっと、まるで宙をすべるような軽く滑らかな動きで距離を詰め、熊の頭上へ飛び上がり拳を振り下ろした。
「いくよー…ファイナル・ストライクっ!」
軽めの声とは裏腹に重力を圧しったような衝撃が熊の脳天と大地に走り…
「「「あ…!」」」
大地に走った亀裂がそのまま広がり、ガラガラと鈍い音を立てて足元が崩れ落ちる。
「熊どころか崖を撃破しちゃった☆」えへ、とごまかすように言う輪葉に空華と夜光の突っ込みが入った。
「「しちゃった、じゃ無いよ!(ねぇよ!)」」

星見の少女が住まう村

November 06 [Sat], 2010, 16:20
じゃり、と足元の砂が音を立てる。

村から少し外れた小高い丘の上にその天文台はあった。
あまり大きいとはいえないがしっかりとした設備。
使う人が居なくなり、今でこそこのように埃や塵にまみれてはいるが綺麗に整頓された棚や、几帳面に並べられた書物、壁に貼られた資料の束等、そこかしこに昔此処に居た女博士の丁寧で、それでいて研究熱心なそんな人柄がそこかしこから感じられた。
「これも、手入れをすればまだ使えそうだね…」
部屋の中央にたたずむ、星を見るための望遠鏡へそっと手を伸ばそうとしたときだ

「そうだな。彼女はそれを大事にしていたよ。」
自分ひとりしか居ないと思っていたところに行き成り声をかけられたのもそうだが、その声の主は今此処に居るはずの無い…

「空華!?」
やぁ♪と、にっこりと人懐こそうな笑みを浮かべて軽く手を振る姿は紛れも無く今朝方まで生死の境を彷徨っていたその人で
「でも驚いたな。ここは、本当に何も変わってない。」
机の上に置かれていたメモを手に取りぽんぽんと埃を叩く。
その動作からは特に敵意も悪意も感じられず、空華が今倒れてさえ居なければ、自分はあっさりとこれが本人だと思っただろう。

「…あんたは何者だ?」
じり、と何が起きてもすぐに反応できるよう身構え目の前の青年を睨み付ける。
しかし、相手は一瞬きょとんとしたかと思うと、すぐに合点が行ったと言うようにくすくす笑い…
「さっき目が覚めたばかりだけど、紛れも無く本人だよ」
とのたまった。
「あの怪我は気が付いたからと言ってすぐに出歩けるようなものじゃない。」
ステールッラがきっぱりとした口調で言い放つと目の前の相手は少し困ったように「まいったな」とつぶやき何事かを考え込みだした。
その仕草や表情なども普段見ている仲間のそれと寸分変わらないが…
知らず、眉間にしわがよっていたのだろう、ふと、こちらを見たそいつは此方を指差し「ステー、皺寄ってる。」とあくまで本人のように振舞ってきたが、返事の変わりにキッと強く睨み返す。

「……時間が無いんだ。」
普段前髪で殆ど見えていない目が、ステールッラの目を捉える。
「この村に来る事は意図的に避けていたのだけど…こうして、再びここに来て改めて感じたんだ。旅の合間に見た世界の美しさ。なにより…彼女が愛した、この世界の素晴らしさは、ただ消してしまうには惜しくって。残せる可能性があるならそれにかけてみたいと。そう思った。その気持ちを…彼女の意思を、思い出したんだ。」

「彼女の意思…?」
怪訝そうに聞き返したステールッラの呟きにそいつはこくりと頷いた。
「ステーは信じないかもしれないけど、俺、こう見えても結構長生きさんでね。以前この村を訪れた事があるって言うのは、この家の主…シエルが、まだ生きていた頃になるんだ。」
「…確かに…その話が本当なら宿屋で聞いた話も全て繋がるけど、そうなると…いや、やっぱりそれはおかしいよ。大体、その話が本当だとしたら…空華おまえは一体なんなんだ?」
「何…って言われると説明するのは難しいところだけど。とりあえずそこそこ長生き出来て、怪我をしても意識さえ戻ればこうして、回復できる。って言うのは大きな利点だとは思うよ。…ただ、今までずっと隠してきたから、誰かにこうした話をするのは初めてだけどな。」

確かに今までの旅の間、まったく怪我が無かったわけじゃない。特に先日山を歩いている際、木の幹に足を引っ掛けた空華が「挫いたみたいで歩けなーい。」とぶーたれるので仕方無しに背負ってやったのは記憶に新しいが…
「あの時も、本当は歩けたって事か…?」
じと…と呆れた目線をぶつけてやると、明らかにしまった。という顔をして視線をずらした。
…これは、みっちり叱ってやらねば。
そう思いステールッラが口を開きかけると、その不穏な空気を感じ取ったのか慌てたようにちょっと待って!と言いながら手をぱたぱた振る仕草は、普通に、そこらを歩いている人と大差なく、そういう生き物なのだとはにわかに信じられない自分が居た。

「待って!ちょっと待って!確かに騙したのは悪かったと言うか、負った傷を癒したりは出来るけど、やっぱり怪我をした瞬間は痛いし。程度が酷いと本当に死に掛けるから!…と言うか、実際のところ今回結構危なくて…それもあったから、今後の活動に支障が出ないように色々話しておこうかと思ったんだよ!」
もぉ!と最後の方は半ば自棄になったかのように叫んでそっぽを向く。
その顔がやや赤いのは彼にとって、今回の負傷は予想の範囲外だったからだろう。

「はぁ…分かったよ。真面目に聞くから、その色々ってやつを教えてもらえるかな?」
宿屋の女将や本人の言葉を信じるなら、自分よりずっと年配の筈なのに…と気が付かれない程度に軽く肩をすくめ空華へ向き合うと、先程の拗ねた感じは微塵も無く、どこかほっとした様子でどこから話そうか考えているようだった。
少し長くなるから。と言う空華の言葉に、埃をかぶっていた椅子を軽くはたいて2人とも腰をおろす。

「そう言えば豺牙には話さなくていいのか?」
と聞いてみると、「別にいいよ」と苦笑と共に返された。
空華曰く、彼に他人の理由話なんて退屈なだけだろうし、この旅に関して既にやる気満々みたいだから。との事だ。
これは逆にいえば自分が仕方なく彼らに同行しているという事を向こうも分かっているという事なのだが、どうも話の流れからするとこの旅には自分が必要で、今まで隠していたことを話す代わりにもっとやる気を出せ。ということなのだろう。まったく、どうして


「面倒なことに巻き込まれたものだね・・・」

一の導

November 06 [Sat], 2010, 15:51

「スープのおかわりはいかがですか?」

「あぁ、ありがとう。」
カップへ入れられた温かなスープをゆっくりと口に含む。
幸いなことに、あの後すぐ目的の村は見つかり、思いのほかしっかりとした治療を受けることが出来た。
いまだ意識は戻っていないものの命に別状は無いとの事で、取りあえず一安心。といった状態だ。

「お連れの方は災難でしたね。まさかこの付近にオーガが出るだなんて…」
恐ろしい…と軽くふるる、と肩を震わせて話す宿屋の女将に適度に相槌を打ちながら柔らかなパンにかぶりつく。
最近は野営ばかりだったので、こうしてゆっくりと食事が出来るのは久しぶりだ。
「お連れの方といえば、家のおばあちゃんが妙なことを言っていたんですよ。」
「妙なこと?」
「えぇ、おばあちゃんってば、小さい頃あのお連れの方に会った事が有る。だなんて。それで私がまさかぁ。なんて言っちゃったもんだから、近所のバームさん…あ、おばあちゃんの古い友達なんですけどね。その人連れて来るなんて言い出しちゃって。」
「はぁ・・・」
「あ、勿論今は安静にしなくちゃいけないって言ってお引取り願いましたよ。でもなんかねぇ、お連れの方を見た事が有るってお話。家のおばあちゃんやバームさんだけじゃないみたいなんですよ。」
「他人の空似と言うやつではないですか?」
言いながらふと、そう言えば豺牙が空華はこの村に来た事があるようだとさいがが言っていたな・・・と思い出す。

「私もそう思いますよ。だっておばあちゃんの子どもの頃でしょう?もう80年近く前の話になりますよ。お連れの方そんな歳には見えませんし…80年前って言ったら確かシエル様の事でてんやわんやしていた時の事だって聞きますし」
「シエル?シエルって若しかしてあの天文学者のシエル女博士ですか?」
思いがけない所で思いがけない名を聞き思わず声が大きくなる。

ステールッラの学ぶ天文学の教科の中で幾度となく聞いたその名前、今では広く認められている虚無の兆候。それを初めに発見したのもそのシエル女博士だったという。
最も当時はまだそこまで虚無の存在は認められておらず、世間を無意味に騒がせたとして学界を追放されたため表舞台に上がる事は無く、生まれ故郷の村で細々と研究を続けていたと聞いたが…

「まさか、此処がその村だっただなんて。」
感極まってステールッラが椅子から立ち上がると女将は笑顔でこう答えた。
「シエル様は家の村の誇りさぁね。今はもう使われずに廃家になってますけど、家は当時のまま残っていますし、興味があるなら見に行くのも良いかもしれませんね。」
それではお言葉に甘えて、と女将に天文台までの詳しい道筋を聞き、いそいそと宿を出る。
「あ、そういえば…」
ばたんと閉まった扉に向かい女将はぽつりとつぶやいた
「そのシエル様と一緒にいた男…その人の名前も空華って言ってたねぇ」

ナーティオーへ出発 (温泉編)

November 01 [Mon], 2010, 3:08

 山の上では豺牙と青龍姫が待っていた。
 「大丈夫、誰も来なかったよ。」
 豺牙は平和そうに笑って言った。
 「博士も、随分回復したんだよ。」
 「そりゃよかったよ、おれはまともな人間に戻してもらえるって訳・・・。」
 そこまで言ってステールッラが黙った。
 後ろからでも顔が赤いのが空華にも判った。何を思い出しているんだろう?その場にいた全員がそれぞれ違う事を考えたが、ステールッラは一人昨晩の妻との情事を思い出したのであり、当然なんの事か判った者は居なかった。
 
 馬を手入れし、放牧してやってからやっとステールッラが家に戻って来たので、空華の説明はそれからになった。
 豺牙は当然反対しなかったし、一刻も早く,という事で博士は早速ステールッラを元に戻す事になった。
 「あんたらとかかわり合いになってから、あんまり良い事が無いよ。」
 別室に入る前、ステールッラはそう言い捨てた。

 「でもさ。ナーティオーっておれ初めて行くけど、あんな所に原因が有るのかなあ?それにアンドールだってふんじばっちゃわないとだろ?」
 「俺たちがあんだけ荒らしたんだもの、もう白い家には居ないよ。だったら靄の調査を先にした方が良いだろ?」 
 「そりゃあそうかもしんないけどさあー。」
 「ああ。アンドール・・・。」
 よろっとステールッラが別室から出て来た。
 「殺してやれないのが悔しいね。」

 ナーティオーへ出発する時が来た。
 もしナーティオーが靄の発生点なら、いや、空華は知っているのだ。
 過去に何度も行った事が有る。
 でもそれは、今は言わない方が良い。
 彼は黙って、許嫁との別れを惜しむ豺牙や、着替えているステールッラを見ていた。
 ステールッラは黙々と青いジャケットとその下の民族衣装を脱いで、兵士時代の戦闘服に着替え、帯にヒマラヤの絵が彫られた、戦闘用のククリを刺した。それから青い上着を羽織ってしまったので、一瞬しか兵士姿では居なかったのだけど、博士は一人それをみて恐怖していた。
 彼の戦闘服は、かつて自分が人体実験を施した山岳兵と同じだったからだ。
 一瞬にして記憶がよみがえって来た。
 自分はアンドールの書斎でこんな会話を交わしたのである。
 『ヒマラヤの虎と言う男が居るのだ。やつは恐ろしく手強い。山岳兵たちのリーダー的存在なのだがな、何度殺そうと思っても、くそ!今度こそ、殺してやったと思ったのだがな、今朝やつの頭を殴ってやったんだ。周りに居た仲間達に阻まれて回収できなかった。
 なあ、博士、やつの被体を持って来れれば最上の実験材料が手に入ったというのに。』
 『どういう男なのですか、その、虎は。』
 『大柄の、ああ、とても大きな男だ。ヒマラヤの山が彫られたククリを帯に挿している。』
 博士は何度もステールッラの頭のあたりとククリを見た。
 アンドールは、頭を殴ってやったと言っていた。
 彼を手術した時に気がついたのだが、彼の頭には傷が有った。
 彼が、ヒマラヤの虎だとしたら?!いや、彼は虎だ、間違いない。
 穏やかで大人しそうだったから判らなかったが。博士は心底、彼を敵に回さないで良かったと思った。そして、黙っておこうとも。



 
 








 ナーティオーへ向う道は、その多くが山道だった。
 地図を広げたステールッラが、下界の人間には判らないショートカットルートを見いだしたらしく、平地を延々歩いて行くはずが、恐ろしくアップダウンのきついルートになった。
 酸素も薄く、足下は所々危険で、山だからといってあまり気分のいい物でもなかった。
 けれども悪い事ばかりでもなかった。
 途中空華は石の中にわき出している、天然の温泉を見つけたのだった。
 さっきから一種独特の臭いがしていたのだが、天然温泉を見るのは初めてである。
 「すげえ!天然温泉じゃんっ」
 空華は興奮したが、二人の反応は面白くなかった。
 「山だもん、別に珍しくない。」
 ステールッラはそう言ってその場から動こうともしない。お風呂嫌いな豺牙に至っては渋い顔だ。
 空華はしゃがんで、ちょっとぬるめのお湯に手を入れた。
 「ねえ、入って行こうよ。」
 彼は喜々として豺牙とステールッラを振り返った。とたん、豺牙の機関銃トークが炸裂した。
 「やだい、やだい、やだいっ!!濡れるのの何が楽しいんだいっ!!俺は入らない、ゼーッたいはいらないかんね!!いこうよ、スー、早く行こうよ。」
 空華はにやりとした。
 「入れよ,豺牙、それで洗って行けよ、犬臭いぞ、お前。」
 「俺は犬じゃなーーーーーい!!」
 「じゃあ入るんだね?」
 「・・・・。」
 してやられたと気がついたが、空華が構わず豺牙の鎧を脱がし始めたので諦めたらしかった。自分で帯を解き始める。
 それを見てステールッラも荷物をほどいた。中から青地に赤や黄色の糸で幾何学模様が折り込まれた奇麗な布を引っ張り出す。
 いち早く服を脱いだ空華は豺牙を引っ張って温泉に飛び込んだ。まだぶうぶう行っている豺牙にお湯をかけまくりながらステールッラを見ると、彼は二人にお尻をむけ、やや内股になりながらこそこそと服を脱いでいた。
 ヒマラヤのとらと呼ばれ、体格と健康に恵まれた若い男が、自分の裸を恥ずかしがっている様はちょっと滑稽だった。
 やがて腰にさっきの奇麗な布を巻いたステールッラが入って来て、三人仲良く入浴となった。
 お風呂というのは、普段は隠れて見えない物が見えるので、ちょっと興味深い瞬間だったりする。
 服を脱いだ時は思わず抱きつきたくなった豺牙のふかふかの毛皮が、今では濡れてぺったりして、獣の毛が濡れた時の独特の臭いがしていた。
 豺牙は筋肉質でたくましかったけれど、やはりまだ少年の体で、毛が濡れて体の線が出てみると頭ばかりが大きく見えた。
 ステールッラの体にもいろいろと特徴が有ったので、空華は豺牙をからかって自分の方を見ていないのを良い事に、ステールッラをこっそり観察した。
 ユーゴも太めでがっちりしていたが、彼よりずっと体格がいい。ユーゴの柔らかくぽってりした筋肉に対し、ステールッラの体は縄の様に頑丈に引き締まっていた。左腕には銀の輪がはまっているが、これがまた窮屈そうだ。彼が狼になる時のスイッチに使われた物だが、よく引き抜けたなあ,と空華が思ってしまう位、肉に食い込む様にはまり込んでいた。
 そして胸には両翼を大きく広げた何かの生き物が刺青されている。どうやら竜らしい。信仰の欠片をもっているような人だから、たぶん彼の守り神か何かなのだろう。実際、空華には判らなかったが、ステールッラには何か境界が見えるらしく、行く道々、しょっちゅう胸の前で手を合わせ、じっと頭を垂れてお祈りしていた。
 彼は今回の旅を渋々、と言った感じでついて来ているけれど、彼をその気にさせるのはたぶん豺牙よりずっと簡単だ。
 豺牙はひねくれているが,ステールッラはとても素直にこの世界を、この世界の神を愛している。だから世界が危機的状況だという事をはっきりと判らせれば、今以上、いや、充分すぎる程に力になってくれるはずだった。
 だけどそうしない。少なくとも今は。二人に、かくしごとがある、今は。
 「やめろようっ。」
 豺牙がステールッラの手を払った。ステールッラはさっきから豺牙をごしごし爪を立ててあらっているのだった。
 「いいじゃん、風呂に入ったときぐらい洗ったってさ。蚤がいたら嫌じゃん。」
 「蚤なんて居ないっ!!」
 「んなのわかんないよ。それにさ、折角奇麗な白い毛皮なんだもん、こう、洗って奇麗にしてさ。」
 「洗って奇麗にして、剥いで襟巻きにする?」
 空華の言葉にぷっとステールッラが吹き出した。豺牙の毛がぶわっと逆立つ。
 「お望みならやってあげようか。」
 ステールッラがふざけて直ぐ側においてあったククリを取ろうとしたので、豺牙は飛び上がって空華の後ろに隠れた。
 「あっはっはっははっ!」
 ステールッラと空華が笑った。
 温泉は体だけではなく、心もほぐすようだった。
 空華はステールッラに話しかけた。
 「ステーさん、その、胸に彫られてるの何?」
 「ん?ああ、これ?」
 ステールッラは頭を下げて刺青を見た。
 「これね、おれの守り神。土着の神様じゃないんだけどね、おれが生まれたとき、立ち寄ったお坊さんが決めてくれたんだよ。
 おれが18のとき、割礼と一緒に彫ったんだよね。」
 「カツ・・レイ?」
 「空華はやってないの?男が成人する時に、包皮を剥ぐんだよ。古来はこれによって抽象的な意味で1度死んで、子供や女社会から脱却する、という意味が有ったらしいんだよね、あとは性器からの出血が、女が大人になる時の初潮になぞらえているとも言うけどね、くわしいことは知らない。今は衛生的な意味合いで続けられているらしい。
 まあ、いろんな意味でね、利点は多いと思うよ・・・。」
 ステールッラはそこで説明を止めた。
 二人ともあまり興味無さそうにしていたし、その利点、というものが判る年頃でも無さそうに思えたからだ。
 「ああー、姫元気かなあー。」
 突然豺牙が言い出した。
 「姫も一緒に入ってたらなあ。」
 k「お前らってホント仲いいよなあー。そんなに仲いいなら連れて来ちゃえば良かったじゃねえか。」
 s「男ばっかりの中に女の子が一人じゃ可哀想だよ。」
 「だって俺たち生まれた時からの許嫁だもん。彼女を大事にしないといけないってずっと言われて来たんだもんね。スーだって奥さんいんでしょ、この間有って来たんでしょ、元気だった?」
 「ん?んー。」
 生返事をしてステールッラは横を向いた。頬が上気している。
 「おれといっしょだと元気なんだよ。」
 s「空華には好きな娘とか居ないわけ?」
 「え。」
 いきなり言われて空華は戸惑った。
 なんと答えていいのか。適当に居ないとか言ったらまたからかわれそうだし、いや、それ以前に惨めだ。方やラブラブの思い姫が居て、方や結婚までしちゃってるし。
 空華はあわてて話題を変えた。
 「居る、居るけど、恥ずかしいから言わないっ!それよりっ、豺牙は生まれた時からの許嫁だから聞いたってしょうがないけど、ステーさんはどういう馴れ初めだったんだよ。」
 今度はステールッラが慌てた。顔が真っ赤になる。
 「いやっ、それはっ、ほらっ、子供が聞く話じゃないから。」
 「その手には乗らないぞ。大体それじゃ納得できないだろ。」
 「いや、だって、ほら、あのさ、こどもがきいてもわかんないからっ。」
 「そうやっていつも子供扱いされて、気分悪いぞ、なあ、豺牙。」
 空華の猛攻にステールッラは半ば観念した様に言った。
 「話してやっても良いけどね。たぶん、恥ずかしいと思うよ。」
 「何が恥ずかしいの?」 
 豺牙はきょとんとしている。
 ステールッラは豺牙の頭をつかんでぐりぐりやった。
 「それが判らないうちは、子供だって事だよ。」
 それから空華に向き直った。
 「おれが戦争に行ってた時の話さ。おれが負傷して、海まで落ち延びたんだよ。そこでおれを助けて、飯を食わせてくれたのが女房だったんだよ。それで、知合ったその晩におれたちは男女の関係になったってわけ。」
 「ステーさんの・・・えっち・・・」
 「だから聞くなってのに。」
 突然豺牙が体をふるって水をはねとばしたので会話はそこで中断された。
 それで空華の興味はステールッラをそれて豺牙に行った。豺牙にお湯をかけまくる。
 「もう、やめろようっ」
 豺牙がまた体を震わせる。
 「良く飛ぶなあ。」
 空華は笑ってまたお湯をかけ、豺牙はまた体を震わせる。
 「うーん。」 
 ステールッラが顔を拭った。
 「おまえの毛がすごい飛んで来る。」
 
 温泉での楽しいひとときを終えて、一行は再び出発した。
 

 
 
  

 

 
 

 
 

きっかけとの再開

October 31 [Sun], 2010, 18:12
暗く静かな森の中で不釣合いな爆音と光が闇夜を照らす。

「空華!そっちにも何体か回ったぞ!」
荒くなった息を吐き出しながらステールッラが指示を送る。
「分かってるって!」
空華と呼ばれた青年が緩めていた手をぎゅっと握ると、キリリと乾いた音と共に周りを囲んでいた敵の数体が切り刻まれ、その血によって今まで見えていなかった銀糸の存在が明らかとなる。
一度引締めた糸を緩め、再び周りへ張り巡らせる空華を横目で見やり、少し突き進みすぎて囲まれかけている豺牙のフォローへ回るべく、ステールッラは再びククリを握りなおした。


― 事の起こりは先日虚無の発生源がある地域を指している。と言う話題が出たことに遡る。
今まで漠然とした点でしかなかった虚無の足取り。皮肉にもこれまで飲まれてきた場所の多さがその足取りを示す事となった。それはステールッラの妻であるアヤノの住む地帯も例外ではない。

それらの指し示す先にあるもの…それは未だ神話の世界が息づく国ナーティオー
そこに虚無に対する有力な手がかりがあるのではないか。という豺牙やステールッラの出したその結論が正しいのか正しくないのか。自分はそれを言うことは出来ないが、これまで幾度と無く踏んだその地を思い出すと自然と気が引き締まる。
・・・まぁ、正直なところ、こんなにもアップダウンの激しい道を選ばれるとは思わなかったが、途中で温泉を見つけたり、頂上から見える景色を眺めたりする事が出来たし、自分も意外と楽しめていたのだと思う。
その道中、こんなオーガの群に出くわすまでは。


確かにこの山を根城とするオーガが近年増えてきたという噂は聞いていた。
人々はそれすらも虚無のせいだと言っているようだが、オーガがこのように徒党を組むというのは彼らを纏めるリーダーたるものが現れたとか、ただそれだけの事で別段虚無の影響ではない。
・・・等と理屈をつけたところで、こいつらが厄介なのと今襲われている事実が変わるわけも無く
早いところこいつらを纏めている頭を見つけ出し叩かない事にはこちらの体力が持たなくなる。

前衛へ出ている二人に簡単な防御魔法を唱え、近づいてきたオーガに糸を巻きつけ切り刻む。糸を通して伝わる感触は正直今でも慣れない。
ふぅ。と軽く息をつく空華の耳に突如癇に障る笑い声が飛び込んできた。
「ヒャーハハハ!苦戦してるみてぇじゃねぇかお三方ぁー」
「シャドウ!?」
「苦戦なんかしてないぞっ!!」
かんはついれずに空華と豺牙が反応し、シャドウを睨み付けると、その突き刺さるような視線を受けシャドウの口角がにやりと笑みを作る。

「ククク・・・いいねぇ、いいねぇ、その意気だ。てめぇらにはもっと頑張ってもらわねぇとなぁー」
嘲るような笑いと共にシャドウがぱちんと指を鳴らすと今までどこにいたのか、オーガの群れに更なる援軍が駆けつけてきた。
「・・・!まさか」
いやな予感が脳裏を巡る。あまり考えたくない可能性ではあるが・・・
「どうやらこのオーガの群れを纏めて来たのはあいつみたいだね」
前衛に出ていた豺牙を引き連れ戻ってきたステールッラが忌々しげにシャドウをみやる。
「丁度いいじゃん!アイツ倒しちゃえばこいつらもいなくなるんだろう?」
ふんっ!と鼻を鳴らして意気込み走りかける豺牙の襟を掴み、空華が待ったをかけた
「ストップ!俺もあいつは張ったおしたいところだけど、今シャドウがいなくなるとこの量のオーガが一斉に暴走する可能性がある。そうなったら今以上に厄介・・・というか、正直危ない。」
「そうだね、統率の無くなった暴徒は何をするか分からない。やはりここは戦わずに逃げたほうが良かったんじゃないかな」
ステールッラが初めオーガと対峙した時に好戦的な2人組みに押され飲み込んでいた言を出す。だから言ったのに。とでも言いたげなその表情に「ハハ…」と軽く苦笑いを返しつつ、「敵に背を向けるなんて!」と未だ臨戦状態の豺牙をステールッラが落ち着かせるのを横目で見やり「ほら、いくぞ」と軽口を叩いてから先に走り出す。

木に糸を絡め、引いた反動で移動し2人が進みやすいよう、回りに追撃避けの糸を張る。
ちら、とシャドウの方を見やると、楽しげにニヤニヤと笑いながらこちらを見ているだけで、特に何かを仕掛ける気はないようだ。
・・・まぁ、それはそれで思うつぼにはまったようで嫌なのだが・・・そう思いつつ木に絡めた糸を手繰り、枝を蹴ったその瞬間。

ばつん!

何かがはじけ飛ぶような強い音と共に手にあった重みが消え体が空中へと投げ出される。
慌ててバランスを取り、なんとか着地したのはいいもののそこはオーガの群れの中、思いがけず上から振ってきた獲物を奴らが見逃すわけも無く、強烈な一撃が横殴りに空華を吹き飛ばした。
「空華!?」
慌ててステールッラが名前を叫ぶが、地面に叩きつけられたその体はそのまま転がるように崖下へと突き落とされ夜の闇に飲まれてしまい、あっという間に見えなくなる。
「くそっ!」
ステールッラが駆け寄ろうとするもオーガの群れに阻まれなかなか思うように進めず、焦りと嫌な予感ばかりが募ってくる。
目の前をふさぐオーガへ向かい、ククリを横なぎになぎ払ったそのとき、行き成りオーガの群れが道をあけるように2人から離れ撤退しだした。

「…これは一体?」
突然の豹変に戸惑うステールッラの横を豺牙が迷い無く駆け抜けて行ったところで頭上から声がかかる。
「よぉ、戸惑ってるみてぇだなぁ?何のことはねぇ、今回はもう十分楽しめたしなぁ… ここまでにしといてやるから、さっさとお仲間拾ってきなぁ!」
偉そうに腰へ手を当て、頭上から見下ろすにやにや顔はいつもの事だが、どうもどこかに違和感が…そう思い眉根をよせるステールッラの耳に豺牙の呼ぶ声が聞こえてきた。
…違和感は気になるが、今は向こうへむかったほうがよいだろう。

「        」

急かす声に返事を返しながらかけて行く後姿を眺め、残された闇は小さな呟きと共にゆるりと消えた。


「ステールッラ遅っそいぞ!いったい何してたんだよっ」
崖下へ降りてみるとその嗅覚でもって探し出したのか、すでに空華の横にいた豺牙が手招きをしていた。
横に居る筈であろう空華に動く気配が無いのが気になりつつ岩をつたいながらなるべく急いで駆けつける。
「…こりゃぁ…」
近づいたときに感じた鼻につく鉄のにおいからある程度は覚悟していたものの、実際に目の当たりにすると大分ひどい。
落ちたときに付いたのであろう、かすり傷などはともかくとして、恐らくは途中で何か鋭利なものに引っ掛けたのだと思われる腹部の傷は深かったし、至近距離から受けていたオーガの一撃により腕やアバラの骨も損傷しているようだ。
「なぁ、なぁ、空華大丈夫かなぁ?息はしてるけど、出血が凄いよ」
ふんふん、と鼻をならしながらどうしようか?といった表情で眺める豺牙に状態を見ていた顔を上げ頷く。
「そうだね…出来るだけ早くまともな施設に連れて行って治療しないと旅どころじゃなくなるかもしれない。」
手元にあるもので手早く応急処置を行い、なるべく衝撃を与えぬよう、そっと抱え上げる。
「そういえばさ、空華がこの近くに村があるんだって言ってたぞ!前にここ来た事あるって。だから向こうへはオーガを行かせちゃ駄目だってさっ。」
ぴっと豺牙が指し示した方角は森の深い木々が生い茂っており人気の有る気配は無かったが、怪我の状態から見ていつまでも此処でぐずぐずしている訳にはいかない。
「しかたないね、豺牙、おれは空華を運んでいくから先に走ってみてきてよ。」
「わかった!」
たっ!と風を切って走っていく白い背中を見送って、ステールッラもゆっくり山を下り始めた。

とりつかれた申し子

October 25 [Mon], 2010, 23:23
 「靄の事はこの地図に描かれています。」
 レークスは大きな地図を広げた。卵形のナーティオー全図に、靄の発生源が×印で描かれている。
 それを見て豺牙も空華も息をのんだ。
 ナーティオーの中心部に向って,靄が集まっているのだった。
 「この真ん中にはなにがあるの?」
 「双頭の獅子っていう、伝説の化け物が封印されてるって言う神殿が有るんだ。その名のとおり二つの頭を持ったライオンで、神代の時代に産まれた恐るべき魔物なんだそうだよ。
 双頭の獅子・闇と呼ばれててさ、夜の闇とは違う、真の闇そのものなのだって。
 彼は地獄の亡者を呼び寄せる力を持ち、太陽を、月を、食べてしまうから、世界は闇に包まれるんだって。
 1700年に一度目覚めて、その度に世界は滅びかけたって伝説では言ってるけど、そんなの只の作り話だとおもうよ。申し子、さっきのあのドラゴンね、彼は双頭の獅子と戦ったって言ってるけど、おれにはホラにしか聞こえないや。
 ねえ?そう思うでしょう?」
 レークスが二人を振り返ったが、空華は曖昧に笑っただけだった。
 「だがよ、その靄が双頭の獅子と関係してたら,どうする、てめえら。」
 いきなり戸口の方から声がして皆一斉にそっちを見た。
 星の申し子が立っていた。
 レークスはそのとき、ふと違和感を感じた。どこかおかしい。申し子はこんな口の聞き方はしない。
 空華もすぐに判った。シャドウのやつ、またなにか始めやがった。
 星の申し子は腕を組み、三人を見下す様に歩き回った。
 「そろいもそろってバカばかりだぜ。双頭の獅子が本当に伝説かどうかって少しでも疑ってみた事有ったのか?
 まあ、てめえらの首の上の物はただの飾り見てえだし、一生考えたってわかんねえよな、ヒャーハハハ!」
 レークスは眉間に皺を寄せた。
 「申、いったいどうしたんだよ。なんか悪い物でも食べたのか?ああ、そうだ、子供のときに変なキノコを食べた事が有って、村中走り回った事が有ったっけ・・・。」 
 空華は一瞬あっけにとられたがすぐに身構えた。
 「シャドウ、てめえ、また何をやろうってんだ!」
 「シャドウ?空華さん何を?!」
 「あのね、これは申し子じゃないの。変なもんが申し子に取り付いてんだよね。」 
 「変なもんて・・・あ、ああ!シャドウがいっちまう、どこいきやがるんだ、待て!」
 空華が叫んだ通り、シャドウは三人のすったもんだを尻目に家を出て行こうとしていた。
 申し子は肩越しに振り返った。
 「黄泉に行くさ。オレのやることをやったらこいつの体は必要ないからな、地獄にでも捨てて来る。」
 ばさっ、ばさっと竜が羽ばたいた。
 「だめだ、そんな、申し子!」
 レークスは星の申し子の足にしがみついた。竜は舞い上がり、レークスの腕からするりと離れた。
 「申し子!」
 レークスは叫んだ。
 「申し子!!そんな、取り付かれた奴なんて弾き飛ばしちまえーー!!おまえなら出来るはずだよ、申し子ーーーーー!!」
 だがその言葉は竜には届かないようだった。振り返る事もなくどんどん小さくなってゆく。
 レークスは地面に座り込んだ。
 「どうしよう、このままじゃ申し子が死んじゃうよ。」
 「黄泉に行くっていってたよね。」
 「黄泉なら,俺行けるよ?」
 出し抜けに豺牙が言ったので、空華もレークスもあぜんとして豺牙を見た。
 冗談かと思ったのだ。
 だが豺牙は真顔でいった。
 「俺の一族は霊の化身でもあんの。
 まだこの世界が出来る前に天地創造神と、ネムス神しかいなかった頃、天地創造しンもネムス神も魂だったんだ。
 だから俺の一族には魂になって黄泉に行く力が備わってんの。
 おっかけようよ。申し子あんたの友達なんだろ。」
 「あ、え・・・でも・・・」
 「大丈夫だよ、あんたの魂を体から放す事だって出来るんだから。」
 空華は目をひんむいて豺牙を見た。
 こいつが血統的にすごい奴だという事は知っていたが。こんな能力が有ったのか。
 レークスは長く考えていなかった。即座に頷いた。
 「よし,判った。行こう。でももう一人連れて行ってもいいかな。申し子とは兄妹みたいに育って来た人がいるんだ。」
 「うん、いいよ。待ってる。」
 レークスは隣に住んでいるレーギーナを呼んだ。
 彼女はこの村唯一の医師だ。両親を戦争でなくしてからは一人で住んでいる。
 事情を聞いた彼女は当然だがあっけにとられ、暫く言葉を失っていた。
 だが彼女も長く考えようとはしなかった。時間が無い事が彼女にも判っていたからだ。
 「だけどその前に、」
 とレーギーナは医者らしい慎重さでいった。
 「申し子の家に行きましょう。どうして彼があっさり取り付かれてしまったのか,その原因がもしかしたら判るかもしれないから。」


 申し子の家は特に変わらなかった。
 何も無いや、とレークスはがっかりしかけたが、そのとき裸足の足で何かを踏んづけた。いきなり強い魔力を感じて尻餅をつく。
 そこに有ったは、申し子の玉だった。
 「竜玉が体から離れてるんだ。」 
 「竜玉ってなあに?」
 「ナーティオーの竜の魔力を封じたいわば力の結晶だよ。これがドラゴンの体からはなれるってことは普通あり得ないんだ。何か申し子に匹敵する位の力ではじき出されたんだと思う。」
 レークスの額に汗が浮かんだ。
 申し子に匹敵する位の力を持った奴が、この世界に居ただろうか?少なくともドラゴンはナーティオー最強の生き物だったはず。
 申し子がたまに話す伝説の双頭の獅子は、申し子を死ぬ寸前まで追いやったと言うが・・・。
 「とにかく、竜玉を持って行こう。これを渡してあげれば、申し子に力が戻るから、取り付いている奴をはじき出せると思う。」
 レークスは帯から腕を取り出した。
 それは確かに腕だった。褐色の肌がミイラ化して骨に張り付いている。肘から指一本分の所で切り落とされた腕。それが青い玉を握りしめているのだった。
 レークスが玉を掴むと、その腕の指が開いた。レークスは腕に話しかけた。
 「グラキエース、申し子の竜玉をもってくれ。おまえなら拾えるだろう。」
 すると腕が動いた。申し子の玉を拾い上げた。
 レークスは驚いて見ている空華と豺牙を振り返ると照れくさそうに笑った。
 「こいつはね、グラキエース。星の申し子の兄貴なんだ。いや、だったというべきかな。もう彼は居ないんだから。
 少なくともここにあるのは彼の魂だけなんだよね。彼の魂が宿ってる。
 ナーティオーのドラゴンは、自分の魂を命無い物に移し替える事が出来るんだ。グラキエースの話は、また、後でね、今は時間が無い。」
 レークスは立ち上がると豺牙に向き直った。
 深呼吸する。
 「魂だけになるなんて一生一度の経験だからね、怖いし、緊張してる。でも、行こう。申し子が待ってる。」


  

シエルのファンの話。

October 23 [Sat], 2010, 21:26
 
 「うっひょー。演ってるよー。」
 ステールッラは片足だけをお尻の下に敷いて、片膝を立てて研究室の自分の椅子に座っていた。
 彼はよく妙な座り方で椅子に座る。今日も膝を台にして新聞紙を広げていた。
 「シエル説否定派VS支持派。」
 「そんなの一部の話でしょ。マスコミがおもしろがってるだけだわ。」
 マルリーは本棚から学術書を2,3冊取り出した。
 「まあね。虚無が世界を滅ぼすなんてファンタジー小説みたいだよね。」
 ステールッラは新聞を置くと元恋人に向き直った。
 「おれだって信じちゃい無いさ。シエル博士の説は80年前に異端だってさんざん叩かれたらしいからなあ。
 おれたちの教科書にもさわり程度しか乗ってないしね。おれおもうんだけどね、シエル女史が例の説を発見したのって10代のときだろ?知識も無いしね、正確なものかどうかは判んないよね。」
 「でも結構、つじつまは合ってるわよね。」
 マルリーは席に着いた。
 「あなたの本、ちょっと読んだのよ、居ない時にちらっと。彼女おじいさんから受け継いだんでしょう。子供の頃から天文学に囲まれて育ったわけでしょう。私たちなんかよりサラブレッドよね。」
 「サラブレッドは所詮サラブレッドだろ。走る以外の事は出来ない。」
 「酷評する割にはあなたシエル好きなんでしょ。シエルの出した本全部揃ってるじゃない。」
 「ん、まあね。確かに面白いよな。あんな風に大胆にさ、新説を唱える事って葬送出来ないよな。おれだったら多分、学会との兼ね合いを優先するなあ。まあ、おれたちは貧乏大学だしね。望遠鏡一個買うんでもヒイヒイだもんなあ。」
 「そうだよ、だから苦労してる。」
 出し抜けにドアが開いて教授が現れた。
 「スー、おまえが欲しいと言っていた例のアレな、会議で認めてもらって来たよ。感謝して欲しいもんだね。」
 ステールッラは手を叩いた。
 「よっ!鳶先生やりぃ!肩車しちゃいますよ。」
 「やめてくれ、ドアくぐるんでも腰を屈めてるおまえにそんな事されたら天井に頭擦ってしまう。それよりスー、次講義だろう、早く行け。」
 「まだ5分有るじゃん。ああ、でももういきます。オシッコしてくし。」
 ステールッラは机の上の本をまとめると、教授を後ろから抱きしめた。
 「教授ありがとう!あとで酒奢ります。」
 
 「ぐえっほ。あいつのハグは骨粉砕だな。」
 「誰のハグが?」
 入れ替わる様に紫苑が戻って来て聞いた。
 「マルリー、サンドイッチ買って来たよ。このコロッケサンドでいいんでしょ。」
 「うん、それ。ありがとう。」
 「スーだよ。あの馬鹿力と、広すぎる胸でぎゅーっとやられると息が止まる。」
 「ああ、なんかご機嫌でしたね。さっき廊下ですれ違ったけど。」
 「教授がね、スーのほしがってた望遠鏡を買う予算をゲットして来たのよ。」
 「ああ、それでか。」
 
 教室で自分の説、caecus stellaを話しながら、ステールッラはふと思いついた。
 そう言えば生徒達はシエル博士の事をどう思ってるのかな。
 
 講義を終えて出席票を貰う前に、ステールッラは皆にちょっと聞いてみた。
 シエル博士に付いてどう思っているか。
 しかし残念ながら期待した様な答えはあまり聞かれなかった。生徒達はシエルにそれほどの感心を示さなかった。新聞のはじっこを騒がせている、遠いどこかの話なぐらいにしか思っていないようだった。
 ちょっと寂しいや。
 ステールッラは思った。
 マルリーにはああいったが、ステールッラはシエルの事を少し慕っていた。
 彼女の説はとても信じられる物ではないがーピラミッドを宇宙から操作して作ったという説と同じ様に。
 でも彼女の人柄は好きだった。大胆な行動力には惹かれる所が有る。彼女が生きていたら、会って話してみたかったし、星の話で盛り上がりたかった。彼女は自分の説、光を放て無い星、caecus stellaを聞いたらなんて言うだろう。
 出席票をまとめて研究室に戻る。そう言えばマルリーは、おれのいない時におれのシエルの本を読んだと言っていたな。どこまで読んだんだろう。
 ステールッラは戻ると、お昼を食べているマルリーに聞いてみた。
 「ねえマルリー。シエル博士の説ってさ、80年経った今でも研究する価値があると思う?」
 「突飛すぎるわね。」
 彼女の答えはそれだけだった。
 まあね。
 ステールッラは腹の中で呟いた。
 でも、なんかつまんないや。結局興味もってるのはおれだけかい。
 もうすぐ長期休みだ。
 休みの間は教授は研究室を閉鎖するし、シエル博士ゆかりの場所でも訪ねてみようかなあ。
 ああ、でもそんな時間があればとっくにやっている。あーあ。なんか今日はつまんないや。
 ステールッラは弁当を広げると本棚からシエルの本を一冊とって読みはじめた。

竜の魂

October 23 [Sat], 2010, 20:17
双頭の獅子が生まれでる前、闇と光は太陽神ソル・イナと、月の女神テューレスタ・イナの手によって、均衡が保たれていた。
 双頭の獅子・闇が太陽神と月の女神を殺した時、世界は闇に包まれた。
 魔女王ファイザは、双頭の獅子を封印し、太陽神と月の女神の娘と息子を次代の太陽と月にした。

だが、二人には両親程の能力は備わっていなかった。

ナーティオーの神なるドラゴン、二頭の白い竜と黒い竜。
ファイザは彼らを光と闇の均衡を保つ人柱にしたと言われる。

二頭の竜が死ぬと、そのこどもが後を継いだ。
こどもは一人だったが、一人でありながら光と闇と、双方を兼ね備えていた。
それが混沌の竜の起りと言われる。

混沌の竜は、何代も世代を交代しながら、ナーティオーの光と闇の均衡を保ち続けて来た。
だが、有る年から、混沌の竜は生まれなくなった。
原因は定かではない。
前年に生まれた、混沌の竜の最後の一人。
彼が死ねば、世界は滅びる事になる。


 家に帰った星の申し子は、バスケットに積み上げたタマネギを取った。
 西部の竜は恐ろしい姿に反して狩りをしない。
 常食とするのは死肉である。
 だが申し子は、あまり肉を好まなかった。彼はどちらかと言えば菜食で、自分の家の裏に小さな畑を作り、そこで野菜を育てていた。
 彼は生のタマネギにかぶりついた。生で食える様に、辛くない品種を選んで育てている。申し子はタマネギを噛みながら部屋の隅の暗がりを睨んだ。
 「そこに居るのは判ってんだよ、出てきやがれ、きさま闇の生き物だな?」
 「さすが、ドラゴン・・・」
 闇がゆっくりと人型を取って、シャドウが現れた。胸から上だけしか、人型になっていない。この状態なら、常人には手が出せない。
 シャドウはそう思ってあぐらをかいていたが、出し抜けに突き出された手が首を掴んだ時には文字通り飛び上がった。
 「何の用だ、人の家に無遠慮に入って来て。」
 凄い力で喉を締め上げられる。シャドウはもがいた。
 「てめえ・・・なんで俺に触れられるんだ。」
 星の申し子の、茶色い目がぐっとシャドウを睨んだ。
 「そんな小細工が、俺に通用すると思うなよ。用が有るなら正面から来る事だな。」
 「油断した・・。」
 申し子は手に力を込めたが、シャドウは呟いてふっと消えてしまった。
 申し子は肩をすくめると、食事を再開した。


 ナーティオーの神なるドラゴンは、魂と肉体を分離させると言う特殊な能力がある。
 魂だけになって、黄泉の世界に行く事も出来るとされていた。
 シャドウはにやりとした。
 やつに取り付けば、黄泉に行ける。
 シャドウには黄泉でやる事が有った。
 アンデッドを召還するのだ。それを何に使うかは、まあ、これから判る事だぜ。
 シャドウはにやりとした。

 だが。

 どうやって取り付くかが問題だった。
 星の申し子はかなり手強い相手だ。
 自分の分身達がばらばらになっている今、真正面から立ち向かっても勝ち目は無い。
 ならば裏から行くしかないだろう。
 シャドウは何度目かの笑いをもらした。
 それならば本領だ。

 

 ナーティオーのドラゴンは、自らの力を封印する事で、人型をとる。変幻自在で、人間になる事も、エルフになる事も可能だが、それには魔力を使うらしい。魔力を使うのは疲れるので、ナーティオーのドラゴンたちが、スタンダード以外の姿になっているのはまず見掛けない。
 ドラゴンが力を封印した物は竜玉と呼ばれる、手のひらに乗る位の玉の形をとる。それは神出鬼没で、竜たちの意のままに現れたり消えたりする。
 それを常人が触れる事は出来ない。封印されているとはいえ、ナーティオー最強の種族の力の結晶なので、ドラゴンにしか抑える事が出来ないのである。
 シャドウはその話をアンドールにしてやった。
 コレクターのアンドールなら、絶対欲しくなると読んでの事だ。
 案の定、アンドールは目の色を変えた。
 後は、星の申し子の家に変わりになる物を置いておいて、アンドールにとらせれば良い。
 星の申し子がアンドールに気をとられている隙に、彼に取り付く計画だったが、それには申し子から本物の竜玉を引き離す必要が有った。
 彼が竜玉を持った状態では、力が強過ぎてはじき出されてしまう。
 まあ、それはうまくやろう。
 シャドウはアンドールを星の申し子の家に連れて行った。

 星の申し子が、ちょっとした用事で出かけていたのを知っていたのだ。
 アンドールが家捜ししている間に、自らの力で作り出した偽の竜玉をタマネギの籠に仕込む。水晶の周りに星の申し子の体の模様に似せた、炎を燃した黒い柄を入れた物だ。
 そしてシャドウはわざと驚いたような声を上げた。
 「おいおい!アンドール、ちょっとこっち来てみろよ!」
 「有ったんですかい!?」
 家に居た黒猫と喧嘩をしていたアンドールが飛んで来た。
 シャドウは玉を指し示した。
 「ほら、こいつだぜ。」
 アンドールはわなわなと震え、それから竜玉を鷲掴みにした。
 「こ・・・これが・・・」 
 アンドールは満足そうな黒い笑みを浮かべた。
 「シャドウさん、一緒に来てくれませんかね?こんな珍しい物を手に入れると自慢したくなった。」
 シャドウはにやりとした。
 耳元に寄ってそっとささやく。
 「おう、いっそ本人に自慢してやれよ。」


 

 申し子はあきれかえった。
 用事を済ませて家に戻って来たのだが、家の前に会った事も無い男が居て、変な玉を振りかざし、竜玉を手に入れたとわめいているのだった。無視して進もうとしたが男はしつこく絡んで来た。
 顔を近づけ、顎をしゃくって、おまえの竜玉を手に入れたと挑発して来るから、流石に星の申し子もうんざりした。
 「なんなんだ、きさまは。竜玉がそんな物であるものか。」
 申し子はドアの前にいる男を押しのけ、ドアを開けた。ペットの黒猫のレディーがさっと外に出る。
 「ふん、負け惜しみを言っているな、これは私が手に入れたんだ、返せと言われても返さないからな。力づくで取れる物なら捕ってみろ、私に勝てると思うのか。」
 シャドウの絶対的な力を信じていたアンドールはクックと笑った。
 この男はいったい何を言っているのか。星の申し子は訳が判らず、アンドールを見た。どうかしているのか、こいつは。こんな奴に絡まれるとは、運の悪い日だ。
 星の申し子はふいっと手を振った。その手の上に、玉が乗っていた。
 それは透明色の丸い、彼の手のひらに乗る位の大きさの玉だったが、中で真っ黒い炎が絶えず燃えているのだった。
 太陽の光を受けて、絶えず色を変えながら、絶えず形を変えながら、ゆらゆらと黒い炎がゆらめいている。
 アンドールは目を丸くして自分の手の中の玉と、申し子の玉を見比べた。
 改めて見るまでもなく、どちらが本物かは一目瞭然だった。
 その瞬間,だまされたと知ったアンドールの顔が見にくく歪んだ。
 地面に偽の竜玉を叩き付ける。
 「き・・・貴様・・・」
 アンドールは星の申し子を睨みつけたが、目の前の竜男はますます訳が判らない顔をするばかり。
 そのとき、シャドウがさっと星の申し子の背後に現れた。
 思いっきり体当たりする。
 一瞬だったが、竜玉が彼の手を離れた。
 ごとりと竜玉が落ちる。
 星の申し子はすぐに竜玉を拾い上げたが、その時にはすでに星の申し子ではなかった。
 申し子、いや、シャドウはアンドールを見た。
 「良くやった、俺はシャドウだ、アンドール、貴様は隠れていろ。」
 アンドールはびっくりしてシャドウを見た。
 シャドウの特殊能力については判っているつもりだったが・・・・。
 「そ・・・それよりシャドウさん・・・本物の竜玉は・・?」
 シャドウはちらりと手の中の竜玉を見た。
 「これはてめえには扱えねえ代物だ。オレ様だって、こいつの体を通してじゃないと触れられねえ。
 命が惜しかったら寄り付かない事だな。代わりにもっと良い物をやる。」
 小心者のアンドールはごくりと喉を鳴らしたが、良いものという言葉には興味を示した。
 「なんです、それは。」
 「ドラゴンの魂だよ。ナーティオーの竜は魂を移し替える事が出来る。その魂をコピーしてやるよ。どう使うかは貴様の自由だかな。」
 シャドウは戸棚に歩いて行って空き瓶を見つけ出した。
 竜玉を空き瓶と並べてテーブルに置く。
 一瞬、稲光の様にビカッと閃光が走り、電光石火、シャドウはビンに蓋をした。
 空き瓶の中には、青白く光る玉状に長く尾を引いた物が入っていた。
 「ほら、これを持って、てめえはもう下がれよ。世にも珍しいドラゴンの魂だぜ。」
 アンドールは小躍りした。魂が手に入ったとなれば、もう竜玉なんてどうでも良い。
 それに魂だって?!アンドールは有る事を思いついてほくそ笑んだ。
 そうと決まれば早く帰りたかったから、アンドールはシャドウに別れを告げて帰ってしまった。それはシャドウにとっては願ってもない事だった。これからやる事にアンドールがくっ付いていたら邪魔で仕方ない。
 「さあ、これから面白くなるぜ。」
 シャドウは申し子の声で言い、空華や豺牙の顔を思い浮かべてほくそ笑んだ。

ナーティオーへ

October 23 [Sat], 2010, 20:10
 ナーティオー。
 世界で一番最初に出来たと言われるその地には、まるで神話の世界がゆがめられる事なく息づいているようだった。

天地創造神が、世界を創ったとき、ナーティオーの神ネムスは、自分の国が欲しいと頼んだ。
天地創造神は、見返りに妻を求めた。天地創造神は、世界を創る事は出来ても、命を作り出す事は出来なかったからだ。
 神は言った。
世界を創っても、そこに命がなくては始まらない。
 けれども自分は,一人で命を生み出す事は出来ない。
 魂の神、ネムスは、混沌の中に有る多くの魂から、彼に妻を創ってやり、かわりに天地創造神は最初の地、ナーティオーを創った。
 それから、次々に世界を創ったが、まだそこには水がなかった。
 天地創造神の妻、多くの魂からなる君が、最初の子供を産んだ時、流れ出した羊水が最初の河になった。

 「ああーー!」
 ナーティオー西部の緑豊かな、なだらかな谷、エルフ谷で、若き族長レークスは思いっきりのびをした。
 今日も良い朝だ。東西南北に大きく広がった卵形の地形のナーティオーは、四季が有り、自然にも恵まれ,豊かで美しい。
 起伏と変化に富んだ国土は南からは鉄が、西からは風力が、東からは海洋資源が、その他沢山の豊かな資源に恵まれている。
 そしてそれぞれ東西南北には神と呼ばれる竜が居るのだった。
 少し前まで戦争が続いたが、今は平和だ。ただ、一つだけ気になる事が有った。
 灰色い靄がナーティオー各地で発生していて、それに飲まれた人が何人も居ると言う話なのだった。
 それがなんなのか、全く判らない。
 もしかしたら、双頭の獅子になにか関係があるんだろうか?
 レークスは考えたが、まさかねえ、と笑った。
双頭の獅子は、神代の時代に産まれた恐るべき魔物で、闇と呼ばれている。
 夜の闇とは違う、真の闇そのものなのだそうだ。
 彼は地獄の亡者を呼び寄せる力を持ち、太陽を、月を、食べてしまうのだと言う。
 そしてそれは、1700年に一度目覚めるのだと言われていた。
 だけど話に聞いただけだ。
 1700年なんて途方もない数字、ピンと来ない。
 ただ彼の友人、星の申し子はその事を知っているらしい。何年生きているんだか自分では忘れてしまったんだそうだ。あまり詳しい事は忘れてしまったのか、語りたくないだけなのか,教えてくれない。
 姿も性格も、とてもそんなオジイさんには見えないのだが。
 ふと視線を移したレークスは、むこうからあるいてくる二人の少年を見つけた。
 彼らはレークスに用があるらしく、こっちを見て頭を下げている。
 レークスは居住まいをなかばただし、二人の客人を迎えた。

 「じゃあ、お二人は例の靄を調査しに来たんですね?」
 レークスの家に通された豺牙と空華は出されたお茶を飲みながらうなずいた。
 レークスはそれなりに大きなログハウスのような家に歳のはなれた妹と弟と、下男と暮らしているのだった。
 しかし、ここは本当に風変わりな場所だな、と空華は思う。エルフたちが住んでいる村なのだが、村に有る池にはなんだか知らないが、絵本に出てきそうな、まん丸いくじらが入っていた。もちろん実際のくじらよりはずっと小さいけれど、可也巨大だ。
 それが正確には池に入っているわけではなく、池のうえに浮かんでいたのだから。
 それを知った時には、もう驚いて驚いて。腰を抜かす所だった。
 さっきお茶を出してくれた人だって大柄な男だったが、人間ではない。
 全身を白い滑らかな毛に覆われた、逞しい人の体に、馬の頭を付けているのだ。その目は黄色く、瞳は猫の様に細い縦筋で、額の真ん中には下向きに傾斜した、螺旋状の黄色い角がはえ、背中には深緑色の大きなコウモリ翼、ユニコーンを思わせる獅子尾がついていた。
 ほとんど裸の彼は、わずかな布で局部を隠していた。
 エール、エールケーニヒスナハトとか、さっき言っていた。この家の下男なのだそうで、夜の馬という種族なんだそうだ。
 「私の双子の妹であり、妻であるイナと、息子のウェーニーしか一族は残っていません。」
 エールは少し悲しそうに言った。戦争のが続いたと言うから、そういった種族も居るのだろう。
 「靄はここいらでも深刻な問題になっています。どこで発生しているか書き留めた物があるから差し上げましょう。」
 レークスはそういって地図を出そうとした。
 その時、ドアを開け放ってエルフのおばあさんが飛び込んで来た。
 「たいへんじゃあ、レークスさん!家さ、つぶすようなデッケエかわずが出たでよおー!!
 それも一匹じゃあねえんだ、二匹なんじゃあっ!」
 「そうらしい、レークス、おめえはかたっぽをやっつけてこい。」
 低い、重い声がして、おばあさんの後ろから誰かが現れた。一瞬黒い影が入って来たのかと思った。
 さっきからいろいろ風変わりな存在を見て来たけれど、どの人もその“彼”ほど異形ではなかった。
 長い真っ黒い髪に、真っ黒い肌。頭に二本生えている角は壷の形に曲がっていて、白と黒の美しいマーブル模様だった。
 黒いので顔がよくわからないが、おでこの辺りがまるで抜いた様に白いのだった。
 横でくゆっているのは、しっぽだと思う。長くて細い。
 そして、背中にはとてつもなく大きな黒い翼が生えていた。
 何より驚いたのは、彼が一糸まとわぬ姿だった事だ。ユーゴが付けていた様な、ペニスケース一つ付けていない。割礼された、やや小降りの性器があらわになっている。
 「ああ、申し子。紹介します、俺の友人の星の申し子。申、この人達は豺牙に、空華。」
 星の申し子と呼ばれた彼は、軽く会釈するとレークスを急かした。
 「紹介は後で良い。良いから早くしろ。」
 「あ、俺たちも行きます!」
 空華はあわてて立ち上がった。べちゃべちゃと舌でお茶を飲んでいた豺牙もあわてて立ち上がる。
 日のもとでみると、星の申し子の全貌を眺める事が出来た。
 さっきは影で判らなかったが、太陽の下でみると星の申し子の体は黒ではなかった。 
 それはつややかな美しいコバルトグリーンで、がっしりと逞しい全身にまるで黒い炎のようなマーブル模様が入っているのだった。
 いや、黒い炎そのものなのだろうか?それは彼が動く度に、ゆらゆらと形を変えているのだった。
 なにより驚いたのはその翼だ。それはまるで星空の様にも、燃える漆黒の炎の様にも見え、瞬きする度に形を変えているようだった。
 体格自体は、がっしりと幅広く、下腹はせりだし、背筋はそり気味で、お尻が大きく、胴が長くガニマタで、あまり均整が取れている様には思えなかったが、どこかこの世ならぬ雰囲気をまとった、不思議な人だ。
 なんの種族なのだろう。
 顔だけ見るとオーガの様にも見える。口を開くと大きな牙が見えるし、白目の多い細い目は正直言って少し怖かった。
 だけど、大きな翼があるし、悪魔族の一種だろうか・・?

星の申し子は白目の多い目で、ギロリと二人を睨んだ。
「おめえらは、冒険者だな?ならレークス、こいつらと行ってこい、俺は一人で十分だ、それよりおめえらの方が心配だよ、無理するぐらいなら帰ってこい。」
 申し子は勝手に話を進めて、さっさと飛んで行ってしまった。
 レークスは二人を振り返って苦笑した。
 「ぶっきらぼうで悪いね。ちょっとぴりぴりしてるんだ、戦争の直後だからさ。ほんとは人好きな、良いヤツだよ。」
 三人は教えられた場所へ向かった。
 村からさほど遠くない所に奴が居た。
 だが、それはカエルじゃなくて蛇だ。
 家をつぶす程、と言う程ではない。蛇としては大きいが、対した敵には思えなかった。
 レークスが魔法を使うまでもなく、空華の糸と、豺牙の剣で蛇は倒された。
 「村にもっていって調べてみよう。多分普通の蛇だと思うけど、魔物かもしれないから。」
 レークスは死んだ蛇を回収しながら言った。
 帰り道、申し子と合流した。申し子は、レークスの担いでいる蛇を見てしまったという顔になった。
 「そうか、蛇回収するんだったよな、悪い、食っちまった。」
 レークスは困った様に笑ったが、空華はますます疑問符が増えた。
 いったい、この人、何?
 俺より背が高いし。
 うーん、うーんと思わずじろじろ眺めていると、レークスが聞いて来た。
 「空華、どうしたの。申し子じろじろ見て。彼の額の刺青でも気になるの?」
 「え?いやあ、彼は、何族なのかなあ,って思って。」
 空華はそういいながらまた疑問符を浮かべた。刺青?この全身の模様のどこが刺青でどこが模様なんだ?
 「なんだと思ってたんだよ。」
 申し子がぎろりと空華を睨む。
 空華はにこやかに指を一本たてて答えた。
 「いやあ、最初はオーガかとおもったんだけど、俺としてはデーモンっぽいに一票!」
 ぶちっという音が聞こえたかもしれなかったが、レークスのけたたましい笑い声にかき消された。
 「がうっ!」
 うなり声を上げてまだ笑い顔のレークスを黙らせ、申し子がこっちを睨んでくる。
 「だれがオーガだ、デーモンだ、俺は竜だ!失礼なやつめ、俺もう帰るよっ!」
 星の申し子は、いや、ドラゴンは、どすどす足をならして、頭から湯気を上げて帰って行ってしまった。
 レークスは再び笑いながら言った。
「あはは、ごめんね、彼よく間違われるのがコンプレックスみたいでサ。とにかく、俺のうちにきなよ、靄の事について話すから。」
 
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