指 輪

December 10 [Wed], 2008, 1:38
「お、雨上がったか」
俺はすっぽりと被っていたフードを下ろすと、暗くなった空を見上げた。
吐く息も白く、0時を過ぎた駅前は人もポツリポツリといるくらいだった。
少し緩くなったマフラーを巻きなおし、ポケットから煙草を取り出す。
―― 今日はクリスマスイブ。
いつもより豪勢な晩飯に興奮していた美紀の顔をフと思いだして、俺は思わず笑った。
付き合って初めてのクリスマスなのに、明日は生憎仕事が入っていた為、なくなく終電で帰ってきたのだ。
マンションへの帰り道、モクモクと煙草の煙を吐きながら、公園を彩るイルミネーションに目が行った。
「ほー、こんなとこにもあったんだ」
いつもは通らない駅からの道のり。新しい発見にちょっと心が弾む。
キラキラと光る木々の下で、ベンチに座り短くなった煙草を消した。
美紀と付き合ってきた1年弱を思い出しながら、また新しい煙草に火を付ける。
初めて出会った日に交わした言葉、一緒に見た映画のストーリー、
大ゲンカして、車を飛ばして会いに行った夜。
色んな事を思い出しながら、軽く吹いた風に身を縮めた。
「あっ」
不意に組んだ腕をほどいた瞬間、足元でチャリンッと音がしたのだ。
足元に目をやると、誕生日に美紀からもらったネックレスのトップが転がっている。
「うわー何でいきなり。美紀に怒られ・・・」
そう独り言をぼやいた矢先、なんだか嫌な予感がしたのだ。
(もしかして美紀に何か・・・)
俺は急いで携帯を取り出すと、着信履歴の1番始め、”美紀”へと電話をかけた。
プルルルル・・・プルルルル・・・
「もしもしー?」
2度目のコールで、聞きなれた美紀の声がした。
「あ、美紀?もう家着いた?」
「うん。着いたよ?どうしたのよ急に」
いつもと変わらない元気な声に、俺はホッと肩の力を抜いた。
「あ、いや・・・つーかわりぃ。お前にもらったネックレスが壊れた」
「えー!何かに引っかけちゃったんでしょ!もーしょうがないなぁ」
「いやさ、いきなり切れちゃったから、なんか嫌な予感して」
「それで私に電話してきたの?」
「あ、いや、うん。まあ家着いたんならいいや、じゃーな」
「変なの。でも心配してくれたんだ。ありがと」
電話を切った後、俺は大きなため息をついた。
よかった。何もなかった。
俺は勢いよく立ちあがると、マンションへの道を歩く。
一瞬浮かんだ嫌な光景に、身震いしたあの時。
美紀を失うかもしれない恐怖が一気に脳を支配した。
でもよかった。美紀は消えたりしない。
クリスマスプレゼントで美紀に買った指輪と同じ指輪が、俺の薬指で光っている。
いつかこれが結婚指輪になるといいねと、美紀は指輪を眺めながら言ったんだ。
これから何年、何十年と、きっと俺は美紀と一緒にいるんだろう。
そう思ってまた笑った、寒い寒い12月の夜。
P R
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