企業活動の柱の一つとして注目を集めているCSR(企業の社会的責任)。単に利益を上げるだけではなく、社会や地域に幅広く貢献することがその企業の社会的価値と存在理由を確かなものにする、との考えは人々に浸透しつつある。では、具体的にどんな活動を企業は行っているのだろうか。新学期を迎えたこの時期、教育に関するCSRに取り組む三つの企業活動を紹介する。水を中心とした環境の大切さを訴えるサントリー、経済・金融知識の普及を図る野村ホールディングス(HD)、子ども用携帯電話の売り上げの一部を教育基金に寄付するKDDIとそれぞれの得意分野で知恵を絞っている。
◆サントリー
◇環境教育「水育」 森を探検、「共生」訴え
ウイスキーやビール、天然水など水の恵みを受けた製品を販売するサントリー。おいしくて安全な水の確保は企業としての生命線でもある。2005年から「水と生きる」という企業メッセージを掲げ、水や自然環境と共生するために、子どもたちに水の大切さを伝える次世代環境教育「水育」に力を入れてきた。
環境教育の柱は二つある。
ひとつは高学年対象の「出張授業」だ。2006年から始め、これまでに首都圏と京阪神、さらにサントリーの水工場のある山梨、熊本、鳥取各県の小学校計302校の約2万2000人が授業を受けた。
授業は2時限。水の惑星と言われる地球でも実際に使える水はわずか0・01〜0・02%しかないことや私たちの暮らしと水のかかわりについて説明し、水を守ることの意味などを教えてきた。同社が養成してきた約20人の講師が交代で授業を受け持つ。
今年は4年生が「生活と水」、5・6年生は「森林と水」、さらにそれを発展させて地球温暖化問題を考える「環境問題と水」の3テーマを用意している。
もう一つの柱が3〜6年生対象の自然体験教室「森と水の学校」だ。04年の阿蘇(熊本県)で始まり、白州(山梨県)、奥大山(鳥取県)と増えてきた。この6年間、春から秋の時期に日帰りと1泊の2コースを計約250回開き、9700人を超える子どもと保護者が参加した。
3カ所ともに深い森や清流がある。森を探検して動物や昆虫を探したり、川の生き物を観察したり、夏場は川遊びをたっぷりしたりと盛りだくさん。地元で活動する森や自然などの専門インストラクターらが案内役を務める。最後はサントリー水工場を見学し、自然の恵みによって天然水がはぐくまれることを学ぶ。
「森と水の学校」に参加した子どもたちからは「水と森がつながっていることを初めて知った」「森では葉っぱで遊び方を教えてもらったり、キノコを見つけたりいろいろ探検した」などの声が寄せられた。
「出張授業」「森と水の学校」とも無料で行っている。次世代環境教育「水育」推進グループの川井恵美子課長は「水の大切さを次の世代につないでいく責任がサントリーにはある。水育を広く伝えるために今後は夏休みのイベントでワークショップをもっと開いたり、ウェブ上のコーナーを拡充していきたい」と話している。
◆KDDI
◇子ども向け携帯開発 「守る」ツール強化 売り上げの一部を「ゆめ基金」に寄付
◇通話・メール制限/警備会社に通報/居場所を確認
小学校に通う子どもに携帯電話を持たせるかどうかで悩んでいる親は多い。通学上の事故や防犯には役立つものの、ネット接続で知らないうちに高額の料金を請求されたり、犯罪などに巻き込まれる恐れもあるからだ。
大阪府の橋下徹知事は2008年に公立小中学校への携帯電話持ちこみ禁止の方針を打ち出した。「携帯の使いすぎで学習時間が減る」「ネット上の誹謗(ひぼう)・中傷は犯罪への入り口」などを理由に挙げ、「脱・携帯依存」を掲げた。
こうした親の不安や行政の懸念を解消しようとKDDIは小学校低学年向けの携帯電話「マモリーノ」を開発、3月から発売した。
(1)通話とメールができるのはあらかじめ設定した4カ所の相手だけ(2)防犯ブザーを鳴らすだけで自動的にセコムに通報、親が要請すればセコムの緊急対処員が駆けつける(3)子どもの居場所が確認できる−−などが特徴。インターネットにつながらず、子どもにとって必要な機能だけに絞りこんだ携帯だ。防犯ライトもあり、ランドセルにつけたままハンズフリーでも通話できる。携帯電話で初めて、日本PTA全国協議会の推薦商品にも認定された。
「マモリーノ」を子どものお守りツールとしている同社は売り上げの一部を大阪府の「大阪教育ゆめ基金」に寄付することも決めた。売り上げ1台当たり500円ずつ寄付するという。
子どもたちの「学び」と「はぐくみ」を支えるという基金の理念が、「マモリーノ」の開発目的と同じため、基金の活動を支援することで社会貢献したいという考えからだ。基金は、子どもたちの学力向上や学校が家庭、地域と連携して行う取り組みなどに使われる。
4月上旬、府庁内で橋下知事にKDDIの甘田純一コンシューマ関西支社長から寄付協定の目録が贈られた。
「マモリーノ」の機能の説明を受けた橋下知事は、「子どもの居場所が分かるし、(緊急対処員が)駆けつけてもくれる。ものすごく便利ではないか。防犯グッズとしてもいいですね」「地域のコミュニティーが薄くなってしまった。こういう新しいツールで補っていくしかない」などと語った。
KDDIは「知事の携帯に対する思いを製品化したものだ。基金を通じて子どもたちの教育にさらに役立てていただければ」と話している。
◆野村HD
◇経済の教材を作製 お金ってなんだろう/値段って/円高・円安? 基本の10項目、わかりやすく
◇出張授業「まなぼう教室」も好評
経済と金融の仕組みは社会に出る前の学生には分かりにくい。正しい知識を持つために小学校高学年として知っておくべき経済の基本的考え方をまとめた教材を作ったのが野村ホールディングスだ。
2008年に「街のけいざい教室」を作製、これまでに全国2000校の小学校に約20万部を寄贈した。「教師用指導の手引」と「活用事例集」の2冊もセットになっている。
04年に同社が全国の小中学校教員に経済・金融教育についてアンケートしたところ、適切な教材がないとの悩みが多いことが分かった。このため06年に中学校向けの社会科公民の副教材「街のTシャツ屋さん」を作り、2年後に小学校用の「街のけいざい教室」につなげた。監修は滋賀大学の佐和隆光学長があたり、小学校で実際に教えている先生らが執筆した。
「お金ってなんだろう」「値段ってなんだろう」「円高・円安ってなんだろう」など10項目にわたり、イラストを多用して経済と金融の「基本中の基本」を分かりやすく説明した。担任制の小学校では専門外の先生が社会科を教えることもあるため、教師用の手引で指導のポイントや板書の内容、関連データ・グラフなども例示。先生にとっても重宝な教材となった。
さらに同社は小学校5、6年生向けの出張授業「まなぼう教室」にも力を入れている。首都圏だけでなく、北海道旭川市や鹿児島市、高松市などでも開かれ、本店や支店の幹部社員らが講師として出向いている。
08年8月にスタートしてこれまで約30回、1600人の子どもたちに為替の仕組みや円高・円安が貿易に与える影響などを教えてきた。為替の変動が理解できるようになるゲームも行った。「ニュースで言っている意味が分かった」「家に帰ってお母さんに話してあげたい」など、子どもたちの反応もいいという。
「まなぼう教室」を続ける意義について同社は「社会の仕組みや為替に関心を持ってもらうことが大事だ。知識や経験を重ねることで、ある日突然分かる瞬間が来る。将来、貿易の仕事に就いたり、海外旅行するときに自分でしっかりと判断できる人になってほしい」(横須賀剛順コーポレート・シティズンシップ推進室課長代理)と語っている。