シークレットデイズ 

2004年11月23日(火) 14時40分
当たり前のような風景でも
不安で、どうしようもない時がある。
僕はそんなとき
ただ、君の側にいられたらいいのに、と
そう、思った。




□■□シークレットデイズ




家に帰ると、ゴウ君が仰向けに寝転んで
ただじっと天上を見つめていた。
「ゴウ君・・・?」
ゴウ君は少し間を置いた後、
淋しそうに、ポツリと呟いた。
「・・・俺は、可哀想なんかじゃないのに」
彼は口元を引きつらせて
必死に笑おうとしていた。



―――――皆、心配してるんだよ?
―――――・・・心配?
―――――・・・健君の事があってから、ゴウ君いつも一人だから
―――――・・・・・・
―――――ゴウ君、可哀想って・・・皆言ってるよ



なんで、どうして。
一人でいることは許されないことなのか。
人間は死んだって一人じゃないといえるのか。
どうして、生きている自分が可哀想なんだ。
死んだ人間の方が幸せなのか。
何で、何で分かるんだそんなこと。



ゴウ君の怒声に驚いた友人達が
彼を押さえ、『落ち着け』と言ったことだとか、
理由が理由なだけに何も言えない教師達は
彼を遠巻きに見つめ、
そんな周囲に失望して早退してきたことだとか、
ゴウ君はポツリポツリと、呟くように話してくれた。
「そう」
「・・・うん」
ゴウ君が一人だということに
僕は少し納得してしまったけれど、
今のゴウ君に、そんな酷なことは言えなくて
僕は小さな声で、自信なさげに言った。
「剛君は一人やないのにな。・・・俺が、いるのに」
ゴウ君は僕にちらりと視線を向けて
目を細めて、少し微笑んだ。
「そうだな」



振り返ると、そこにあるのは後悔ばかりなのに
何故か僕はひどく幸せだった。
それでも満たされないのは
君がいつまでも、後ろを向いたままだからだろう。

宿命、あるいは光源 

2004年10月30日(土) 18時25分
僕は確かに此処にいるのに
君はいつだって、ひとりぼっちだった。




□■□宿命、あるいは光源




ゴウ君が笑うようになった。
消えてしまいそうな小さな声で
オカダ、オカダ、と僕を呼ぶ。
だから、僕は応える。
押し潰すようなしっかりした声で
ゴウ君、ゴウ君、と言って
優しく笑う。



「オカダ、」
その声に手を止めると、
ボロボロの靴紐はあっという間に項垂れた。
「どこ行くんだよ」
俯いているせいで聞き辛かったけれど
その言葉は、簡単に予想できる。
僕の背中に、決まって問いかけられる言葉。
「買い物。早く帰ってくるから」
「別に、遅くていい」
早く帰ってこい、とは言わないゴウ君だけど
本当に僕が帰ってこなかったら、
本当に一人になってしまったら、
彼はどうするんだろう。
部屋が暗くなっても、電気もつけないで
空腹にも、疲労にも気付かずに
パタリと消えて、そのまま。
僕は急ぎ足で外に出て、空を仰ぎ見た。
神様、神様。
本当にいるのなら、彼に、僕の存在を教えてやってくれ。
ゴウ君が気付いてくれるまで、
僕と彼の距離は消えない。
僕が存在していると言うことは
不透明な矛盾だらけの現実で、
ぼんやりとした架空の世界を彷徨う彼は、気付かない。
そこに、僕はいないのだ。
確かにいるのに、そこにはいない。
たった一メートルの間に生きていた存在が
僕と彼を、唯一繋ぐ糸だった。



僕は走ってゴウ君の元に戻った。
肩で呼吸をする僕を見て、彼は困ったような顔をした。
「ただいま」
「・・・・・・オカダ、」
「ん?」
「買い物は?」
「うん・・・行くよ」
「・・・うん」
繋ぐ言葉が見つからず、僕は俯いた。
心地よい沈黙の中、
冷たい汗が満足そうに首筋を流れ
ほどけた靴紐がちぎれ、悲鳴を上げていた。
「・・・ゴウ君、靴貸して」



綺麗に彩られた世界で
僕らは何故、ひどく滑稽だ。

ユア ボイス 

2004年10月29日(金) 23時07分
■□■ユア ボイス 〜気分屋日記番外編〜




呟く声がする。

眠い、と言う。

ゴウ君の声が、小さく響く。彼を中心とした、半径一メートルくらい。

つまり僕は、その円の中にギリギリ位置している。

眠い、とまた言う。そんなに眠いのなら、眠ればいいのに。

彼は眠らない。僕の前では眠らない。

僕は彼のベッドでも、クッションでもないからだ。

僕は彼にとって、ただの『オカダ』だから。

だから彼は、眠らない。






ゴウ君の声がした。

起きろ、と言う。ゴウ君の、低めで良く通る、小さな声。

オカダ、起きろ。

僕はいつの間にか倒れていた体を起こす。

眠ってしまったのは、僕の方だった。

斜め下を見ると、ゴウ君の小さな膝があった。

衣服が皺だらけだ。

ゴウ君を見ると、不機嫌そうに言った。

俺は、お前のベッドでも、クッションでもねぇぞ。

分かっている、そんなこと。

僕は、僕の低くて小さな声で、彼に謝った。

彼はまた、彼の声で呟いた。

眠い、と言った。






彼は眠らない。

僕が半径一メートル以内に位置する限り。

それは、

僕が彼のベッドでも、クッションでもないからだ。

僕が立ち去ればいいのだろうが

僕がいないと、彼は死んでしまうから。

だから、僕が『オカダ』である限り

彼は眠らない。

君いわく、センチメンタル 

2004年10月29日(金) 18時44分
僕は信じていた。
自分は一人になったって大丈夫だと
一人だって平気なのだと
そう思っていた。





■□■君いわく、センチメンタル





雪が降った。
ひどく冷え込んだ朝のことだ。
オカダは寝室に入ってくるなり、
少し興奮したように言った。
「雪が降ってきてん」
雪がちらちらと
ゆっくり舞い降りてくるその様を
俺は黙って見ていた。
オカダが俺の様子をうかがっているのにも気付かない振りで
ひっそりと、見つめていた。



健は雪が降るのを楽しみにしていた。
去年雪が降ったとき、
子供のようにはしゃいで
コートも着ないで窓から外に飛び出していった。
だから今年も、
健はコートを着ないで外に飛び出して
笑顔で俺を呼ぶんだと思っていた。
オカダと二人でこんな風に雪を見るなんて
これっぽっちも思っていなかった。



何も言わない俺を心配して
オカダは顔を覗き込んできたり、
声をかけてきたりしたけど
諦めたのだろうか。
突然、外に出た。
窓から、コートを着ないで。
「・・・お、か」
「ゴウ君!!」
俺の言葉を遮って、オカダは叫んだ。
笑顔で。まるで遠くから叫ぶみたいに、大声で。
「・・・俺はええねん」
コイツは何を言っているのだろう。
「健君の代わりになれるなら、それで」
「・・・オカダ?」
「それで、ええ。ずっとゴウ君のこと呼び続けるから」
「・・・・・・」
「だから、俺・・・いや、健君以外も、もっと見て」
オカダが飲み込んでしまった思いを、
俺は察することが出来なかった。
オカダは俺のために
自分を犠牲にするというのだろうか。
俺はオカダが本当に健に見えてしまって
力が抜けたように、その場に座り込んだ。
「、健」
「・・・うん」
オカダが微笑む。
そして。
そして、俺は気付いてしまった。



僕は気付いてしまった。
君がいなくなって、僕は本当に悲しかった。
寂しくて、悲しくて、どうしようもなくて
帰ってきてほしくて、でも君はいなくて
必死に強がることで、彼に気付いてもらいたかった。
泣いてしまうのではなくて
縋り付いてしまうのではなくて
大丈夫だ、と君に言って
ふとした瞬間の
ふとした動作に
気付いてもらいたかった。
そうすることで
彼が君になるのを
僕は本当に、望んでいたのだ。

プリーズ、タッチ・ミー。 

2004年10月28日(木) 18時41分
どうして、
人は一人では生きていけないのだろう。
君がいなくなって、
たった一人で生きていくと決意した僕の隣には
間隔をあけて、今でも彼がいるのだ。




■□■プリーズ、タッチ・ミー。




オカダの調子が悪い。
風邪をひいた、とかではなくて
何だか、釈然としないのだ
と、彼は言う。
俺は一メートル先から、オカダの眉間の皺を見ていた。



「アカンなぁ」
とうとうオカダは、その言葉しか言わなくなった。
同じトーンで、定期的に、
「アカンなぁ」と言う。
何がそんなに「アカン」のか、俺は聞かなかった。
干渉するのは趣味じゃない。
フェアじゃないような気もする。
オカダはそんな俺に痺れを切らしたのか
やっと、
「アカンなぁ」以外のことを言った。
「ゴウ君」
「はい?」
「ちょっと、ええかな」
オカダが近付いてくる。
途端、
肩に、ぽん、と置かれる手。
「・・・なに」
「んー・・・、別に意味はないんやけど」
距離が消えた。
オカダが俺に触れることで
“必然的”に。
何故だかふと、
懐かしい感じがして、信じられないことに俺は
ボロボロと
泣いた。
子供のような、酷い泣き方だった。
そしてそれは
健が死んでから、
俺が初めて流す涙だった。
オカダが困ったような顔をして
慌てて頭を撫でてくるから
それはちっとも
止まりそうになかった。
子供扱いするな、
そう言おうとした声は
嗚咽に変わって
言葉になりそうになかった。



オカダと俺の距離が
再び一メートルになったとき、
俺はそっと
自分の隣を見た。
誰もいない、一メートル。
「アカンなぁ」
下手くそな関西弁で呟いたら
オカダが
ふふ、と優しく笑った。

空想未来 

2004年10月27日(水) 18時39分
どれだけの時が経てば
僕は無色になれるだろう。




■□■空想未来




「頑張ったんやけどなぁ」
テストの点が悪かった、と
オカダが少し落ち込んでいた。
どう頑張ったかは知らないけど
オカダを慰めてしまいそうになった。
あまりにも軽い、不透明な言葉で。
俺は良い言葉が見つからなくて
目を合わせないようにした。
オカダは何を期待していたんだろう。
一人欠けたこの部屋の、この先に
あるいは、自分の将来に。



未来に繋がるモノなんか
何も、いらない。
繋がった先にあるモノは
全部他人の所有物だから
俺の居場所もきっとない。
精一杯酸素を求めたって
返ってくるのは自らに向ける罵声だけ。
もしも、
死んだのが健ではなくて俺だったなら、
今頃、健とオカダは二人で笑いあっていたのかな、と
残酷なことを考えて、怖くなった。
俺はそんなこと出来ない。
健がいない。
俺は笑えない。
そしたら、きっとオカダだって。



俺は
俺じゃない誰かが幸せになれるのなら
それだけで、よかった。

ひとりの坂道 

2004年10月26日(火) 18時36分
あのころ
僕は、坂道をのぼりきることが出来ずにいた。
自転車なんて、降りて手で押して行けばいいのに
君はそれを許さず、僕を自転車に跨がせたまま、黙って押してくれた。
だから僕は、坂道をのぼりきる辛さを知らない。
君がいたから。




■□■ひとりの坂道




自転車に跨って、後ろにいるオカダを見る。
オカダは有名な進学校に通う優等生で
俺は何でもない公立高校に通う平凡なサッカー部員。
オカダも俺を三秒間見つめた後、
何も言わずに自転車に跨った。
オカダの背中が小さくなると
俺は坂道をのぼり始める。
坂道をくだるオカダと、のぼる俺。
しかし、そこに健はいない。



健は俺と同じ、平凡な水泳部員だった。
大会で賞をとるほどの実力を持った健は
俺の前では犬掻きしかしなかった。



プールサイドでパンを囓った。
冬は立入禁止になっているプールに
入り込むくらい、どうってコトない。
怒られることを覚悟で踏み込んだその場所は
俺と健の秘密基地のようだ。
目の前に水は一滴もないのに、
なんだか、溺れてしまいそうだった。
健はここで犬掻きを俺に見せた。
あの、楽しそうに笑う健は、もういない。



部活を終えて、疲れ切った身体でダラダラと坂道を降りる。
横で
腹が減った、と言う健の声がしない。
だが、オカダの声がした。
後ろにいるはずのないオカダが
急いできたのだろう、汗だくで
自転車を支えながら立っていた。
「ゴウ君」
「・・・オカダ」
「腹減った、なぁ。ゴウ君」
にこりと笑って、汗だくのオカダは先を行く。
だから、
――――同情はいらないって。
俺は十分幸せだから
一緒に坂をくだるのはよしてくれ。
俺がそんなことを思っているなんて
これっぽっちも知らないオカダの背中は
あっという間に見えなくなってしまった。

一メートル先に彼、間にワンライフ。 

2004年10月25日(月) 18時31分
昔々、
僕らは広く深い海を漂っていた。
赤い僕らは自由だったはずなのに
――――君だけ青に溶けてしまうなんて
僕は一生、信じないだろう。




■□■一メートル先に彼、間にワンライフ。




健が死んだ。
何の前触れもなく死んだ。
犬を庇って道路に飛び出したらしい。
アイツは犬好きだから
きっと後悔していないだろう。
健が死んだ。



健とオカダと俺の三人が一緒に暮らし始めたのは
一年前のことだ。
オカダのことを何も知らなかった俺と
俺のことを何も知らなかったオカダは
健を通じて知り合った。
三人で一緒に住もうと言い出したのも
健だった。
でも今は、健がいない。
オカダと俺を繋ぐものは、最早ないに等しかった。



時計の針が動く度
カチカチ、と細かい音がする。
健はこの音が好きだった。
そういえば
今日は健のことばかり考えていたな
なんて思っていると
オカダと目が合った。
オカダは俺を哀れむように笑った。
同情なんていらない。
俺は別に、悲しくなんてないのだから。



『俺、ちょー犬好きなんだよねっ』
うん、知ってる。
『あ、でも、お前ネコみたいだけど、ゴウなら飼ってもいいかな』
冗談じゃない、健に飼われるなんて。
人間の俺にさえ
ウザいくらいにくっついてくるくせに。
…そうだ。
どうして、
あんなに鬱陶しいくらい
傍にいたくせに
突然
あっという間に
消えてしまうのか。



帰ってこい、とは言わない。
しっかりと理解しているのだ。
だから
俺は今日も
一メートル先のオカダと一緒に、夕焼けを見るのだ。
待っているのではなくて、
俺はこんなに幸せだということを、アイツに知らせるために。

気分屋日記 

2004年10月24日(日) 18時28分
大切な人の死から始まる
何でもない二人の物語。

縮まらない二人の距離と
変わりのない日々の景色。

友情でも
同情でもないけれど
二人が共に存在する理由は
きっと何処かに、あったはず。

そんな日々を過ごす
ひとりの気分屋の
生きた記録。

それが
『気分屋日記』。
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