起源にして頂点

January 05 [Wed], 2011, 22:53


タイトルを見て、一世を風靡した某狩猟ゲームを想像した方、申し訳ない。


今回それは全く関係ないと、まずは謝罪させて頂こう。


では何故このようなタイトルになったのか。


それを明かすには少々時間を遡らねばなるまい。


発端は先日のアルバイトでのことだった━━



◇ ◇ ◇



「なぁ、これ何?」


眼鏡を掛けた細身の青年━━名を丸川という━━がソレを指差し、同僚の佐藤に問う。


「さぁ? 俺が来た時からあったけど知らんな」


佐藤も首を傾げる。


丸川が指差した先には、一見すればチョコボールのような茶色い球体がコロコロと十数個、皿に容れて台の上に置かれてあった。


まぁ、まずチョコボールで間違いないのだろうが、問題はこれが誰の物で、何故こんな所に置いてあるのかということだ。


佐藤が出勤して来たのが17時前。


それより後に来た丸川の物でないことは間違いない。


そして佐藤も知らないと言う。


となれば、必然的に候補は絞られる。


第一候補に挙げられるのは━━


「あ、それ儂が持って来た」


あろうことか第一候補であった店長が早々に答えを言ってしまった。


どうにもこの職場、ミステリーなどのシリアスな空気にはならないようだ。


「あ、そうなんですか。これって食べてもいいんですか?」


空気を読んだ佐藤は店長に追従して言った。


「ええよー」


店長もそれを受けてにこやかに了承する。


「あ、どうもありがとうございまーす」


佐藤はチョコボールを1つ摘まみながら店長に礼を言う。


そのまま口に運ぼうと━━


「それ皆に不評でなー。中にレーズンが入っとんよー」


「はい丸、あーん」


店長からの追加の情報により、チョコボールを摘まんだ佐藤の手は滑らかに丸川の口へと、向かう先をシフトして行った。


「いやいや、お前失礼過ぎるだろ」


丸川が呆れながらもそれを口にする。


二度三度と咀嚼。


「……普通に美味いけど?」


「いや俺、レーズンはダメなんよ」


佐藤は心なしか青くなりながら言い訳をする。


店長、苦笑いである。


「別に全然食える」


丸川は次々とチョコボールを食べていく。


「俺、レーズンだけはダメだ」


食べてない佐藤は顔色を青から白へと更に薄くさせながら首を振った。


「前に食った時はな、あまりの不味さに思わず嗚咽走った≠よ」


「……は?」


丸川は目を丸くして理解出来ない物を見るような目を佐藤に向ける。


「なぁ、佐藤……」


嗚咽の意味は理解出来る。


咽び泣くことを示した言葉だ。


同様に、走るもわかる。


どちらも片方だけで成り立つものだ。


しかしその2つの奇跡のコラボにより、意味不明な言語に昇華(成り下がり?)してしまった。


今ここに、新たな言語が誕生した(『ト○ビアの泉』風に)。


「『嗚咽走る』なんて日本語はない」


丸川は容赦なく佐藤を責め立てる。


佐藤は佐藤で、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしながら、


「え? 嗚咽走るって言わん?」


と丸川に訊ねる。


「言わん」


丸川の返答は速かった。


しかも一言で切り捨てた。


「いや、絶対に言うって」


と、何故か佐藤は殊更己の正当性を主張。


「言わん丸がおかしい」


あまつさえ丸川を非難。


「そんな意味不明な言語を使うのは佐藤だけだ」


しかし丸川も負けずに押し返す。


「絶対に言う」


「ありえんな」


お互いに一歩も譲らない。


ここまでくると、最早双方意地である。


正しいかどうかなど、既に両者の頭にはない。


あるのはただ1つ。


相手を否定することに全力を注ぐだけ。


そして、佐藤と丸川は5年以上このように不毛な関係であった。


そしておそらく、この先もずっとこのままだろう。


どちらの性根もねじ曲がっているが故にである。





        ━おしまい━







━次回予告━



それは冬の夕方、陽も落ちかけていた頃。


音もなく。


━━彼≠ヘ現れた。


本来ならばありえる筈のない事象。


その場に居た者は例外なく目を見開き、顔色を驚愕に染める。


いち早く我を取り戻した青年は、声を震わせながら彼≠見て、言う━━


「なんで……なんでお前がっ、ここに、ここに居るんだ! 答えろ! 答えろぉぉぉおお、■■■■!!」


青年の悲痛とも言える叫びに、彼≠ヘ口端を吊り上げ、笑う、嗤う。


━次回━


『逢魔ヶ刻に嗤う者』


そして彼≠ヘ━━





※内容は多分に脚色されている恐れがあります。


過度な期待は為さらぬよう、くれぐれもお含みおきください。



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