ハート・ロッカー』

June 10 [Fri], 2016, 12:59
恐怖は人間が脳内で作れる唯一の麻薬である. 戦争はその麻薬中毒患者を大量に生み出す場である. 爆弾処理班を主人公にした、無機質ながらも類稀なる緊張感が観客を身震いさせるこの映画は、昨今のアカデミー前哨戦総ナメなのも納得の、まさに稀代の名作. これはもはや素晴らしいという評価を超越した凄い映画です. 爆弾処理の遠隔ロボのカメラに映る、その遠隔ロボの影. ドキュメンタリー風なカメラワーク. 宇宙服よりも重装備な防爆スーツ. そして束の間のセリフ劇という安堵の次に突如訪れるとんでもない緊張感. それらを介して働いた想像をはるかに超えるような、まさに観客の誰もを一瞬で黙らせる大爆発. まずこのOPに爆弾処理という任務以上に、戦争の現実に言葉にできない恐怖を覚えてしまいます. そもそも一般的に爆発などの外部要因で増幅すると思われている恐怖というメカニズムですが、その実は人間が一定の状況から「爆発が起こるかも知れない」などと想像力を膨らませ、そしてその想像力が生み出したものに勝手に怯えているだけなんですよね. 我々の生活でも何にもない暗闇に対して恐怖心を抱くのも「何かいるかも知れない」という想像力が生み出したものに勝手に怯えているだけ. つまり人は常に自分で恐怖を増幅させているのだと思うのです. ではそんな恐怖に戦場にいる兵士たちはどのように対処しているのかといえば、デビット・モースのように英雄と握手することで自分を鼓舞したり、レイフ・ファインズのように賞金稼ぎに没頭したりなど様々. そしてブラボー中隊の3人のように恐怖という麻薬に身を委ねることもまた一つの対処法なんですが、でもそれが最も恐ろしい対処法でもあると思うんですよね. というのも恐怖という麻薬は時にヤケクソになってしまうなどの高揚感という副作用をもたらせます. レイフ・ファインズが撃たれた後のくだりで、それまでジェームズのやり方に不満を抱いていた安全対策主義のサンボーンが命中させた銃弾やビビりのエルドリッジが休息のために取ったはずのジュースがある種のスイッチ代わりとなり、その結果闘争心むき出しになったり、自らの判断で敵を射殺できるようになったのも全てこの副作用のおかげ. でもそんな高揚感など所詮一時のもので、親しい軍医が目の前で爆死したり、時限爆弾の処理に極限まで挑んだりして自らの死を想像し易い状況に陥ると、エルドリッジのように怒りを爆発させたり、サンボーンのように泣きながら子供が欲しいと言い出したりと、とにかく人は誰しも二度と麻薬に手を出すまいとその場から逃げたくなるはず. スニーカー 人気 ナイキ スニーカー ところがジェームズだけは本当に恐ろしい、高揚感の先にある中毒という二度と元には戻れない世界に一人でいるため、というよりは全てを経験した上で中毒という世界に辿り着いているため、あの砂漠でも冷静にサンボーンにジュースを飲ませたり、背中越しにエルドリッジに判断を任せたり、防爆スーツを脱いで爆弾処理作業に当たったり、既に子供をもうけていたりなどができる一方で、ガンガンにロックミュージックを掛けたり、変な収集癖があったり、人間爆弾の体内から素手で爆弾を取り出したりなどの弊害も起きているんですよね. 彼がベッカム少年に対して爆弾処理という仕事が決して格好いいことでないと言えずに一瞬だけ間を置いたのも、恐らく彼自身が中毒症状に陥っていることを自覚していたからでしょう. でも彼にとってイラクの現状を知らずにアホみたいにシリアルが棚に並んでいる平和なアメリカ本国こそが無機質に感じる世界. 爆弾と恐怖しかないイラクこそが求めている世界. ラストで38日で任務が終わる部隊から365日で任務が終わる部隊に移動したのも恐怖という麻薬中毒から抜け出せない中毒患者の「現実」そのもの. まさに「戦争は中毒である」「恐怖は麻薬」なんですよね. duucarmaabi とにかく久しぶりに出会えた凄い言い切れる映画. 特に観客を一瞬にして黙らせる、防爆スーツを着ていても吹き飛ばされるほどの2度の大爆発が及ぼす衝撃と映画全体に漂ういつ襲い掛かってくるか分からない緊張感は、二度と味わえないほどのものでしたよ. 深夜らじお@の映画館 はこの映画に魂が震えました.