身近な人の死をいかに受け入れるか:重松清「その日のまえに」 

2006年08月08日(火) 17時30分
デスノートの主人公、夜神月=キラは、おそらくあらゆるコミックと小説を通してみても大量殺人のチャンピオンだろう。そこに展開される思索は驚くほど深いが、それは「罪と罰」にかかわるもので、「死」は淡々と描かれる。これに対して、重松清「その日のまえに」で描かれるのは身近な人間の死、そしてそれに関わる人たち(時に本人を含む)の「心の揺れ」だ。

私自身は父親の突然死と、母親の余命を宣告されての癌による死を見てきたのだが、直後の悲しみよりも相当後になって、かなり深いダメージを受けていたんだなと感じることになった。月並みだけど、まさに「心のどこかに穴が開いた」としか言いようのない状態だなと思ったのだ。

重松はこういう話を書かせると本当に上手い。私のように肉親の死などを体験した人は自らの体験に重ね合わせ、そうでない人はもし愛する人を失うことになったらと想像力をかきたてられ、そして多くの人は自らの死が周りに及ぼす影響に思いをはせることになるだろう。

最近はいたましい事件、事故が多く報道されているが、命の大切さ、重さといった言葉が使われれば使われるほどむなしい思いがする。多くの人がこの本を読むことで少しは何かが変わるかもしれない、そんな風に思えた。

デスノートが行き着いたところ 

2006年07月04日(火) 16時35分
デスノートの最終巻をさっそく読んだ。結末を割るわけにはいかないので、これから読む人が見ても差し支えないと思える範囲で、感じたことを書いてみようと思う。

顔を知っている人間の名前を書けば、その人を殺せるというデスノートを手にした主人公、夜神月(やがみらいと)は、これを使って悪人のいない世界を造り、自らは新世界の神になろうという妄想を抱き、その明晰な頭脳をフル回転させ、デスノートによる殺人を繰り返すことで「キラ」として人々の崇拝を集めるようになる。

凶悪な事件の詳細とその犯人像がマスコミによって繰り返し報道されることが、当たり前のようになったのはいつの頃からだろう?マスコミは犯人への憎悪をあおり、それに追随するかのように死刑判決が数多く出され、以前はなかなかなされなかった死刑執行も確実に増えている。

しかし凶悪犯罪(報道?)は減る気配を見せない。少なくとも現行の刑法下での死刑は、凶悪犯罪を抑止する効果を持たないと言っても過言ではないだろう。地下鉄サリン事件以降、日本の社会全体が苛立ちを強めているように感じるのは私だけだろうか?

デスノートの原作者がやろうとしたことの一つは、死刑執行の極端な拡大と迅速化が社会にどんな影響を及ぼすかという思考実験だったように思う。映画も公開され、それなりにヒットもしているようだが、バトル・ロワイアルのときのような論争を呼ぶまでに至っていない。それとも「キラ」的思想はデスノートの物語世界の中のように世論の大方が支持するところになっているのだろうか…

復活かな? 

2006年07月04日(火) 16時28分
しばらくほったらかしでしたが、久しぶりに書いてみようと思います。

本屋大賞2006 6位〜8位 

2006年04月24日(月) 17時33分
本屋大賞2006の8位〜11位です(書名のリンク先はAmazon.co.jp、★のリンク先はこのブログのページ)。

第6位 ナラタージュ 島本 理生 (著)

第7位 告白 町田 康 (著) ★ ★ ★ ★ ★

第8位 ベルカ、吠えないのか? 古川 日出男 (著) ★ ★ ★ ★

本屋大賞2006 9位〜11位 

2006年04月24日(月) 17時20分
本屋大賞2006の9位〜11位です(書名のリンク先はAmazon.co.jp、★のリンク先はこのブログのページ)。

第9位 県庁の星 桂 望実 (著)

第10位 さくら 西 加奈子 (著)

第11位 魔王 伊坂 幸太郎 (著) ★ ★ ★ ★ ☆

ベルカ、吠えないのか? 古川日出男 (著) 

2006年04月13日(木) 16時30分
ベルカ、吠えないのか? 古川日出男 (著) 文藝春秋 (2005/04/22)

本屋大賞2006で8位になったが、本屋の店員さんが推薦しているたくさんの本の中でも、最も異色の一冊といっていいだろう。なにしろ1943年に日本軍が撤収した無人島キスカ島に残された4頭の軍用犬たちから連なる犬の子孫たちの壮大な物語なのだ。

人間の戦争にまきこまれて数奇な運命を生き抜く犬たち(の血統?)を主人公に何十年というスパンの物語を描ききる力業はたいしたもので、決して自分が生きることができない(できなかった)時間を疑似体験するという小説の面白さを堪能させてくれる一冊だ。この著者にしか書き得なかった物語だと思う。

★ ★ ★ ★

本屋大賞2006はリリー・フランキーの「東京タワー」 

2006年04月06日(木) 11時16分
本屋大賞2006本の雑誌増刊・予約販売受付中)がリリー・フランキーの「東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~」に決まりました。すでにベストセラーになっているこの本を本屋大賞に選ぶのはちょっと賞の趣旨からずれているようにも思いますが、既存の小説家が書いたものではないことから(あるいはベストセラーになったせいで)読むのをためらっていた人に読んでもらうという意味を持たせたということでしょうか?

そして今朝、NHKでこの受賞がニュースとして流れていたのに驚きました。私は図書館で借りて読みましたが、読みやすく面白い小説ではあるものの、書店員がベストセラーをさらに後押しする形で選ぶのはどうかなあと思います。まあ話題づくりには成功したということでしょうが、個人的には、伊坂幸太郎の直木賞落選作「死神の精度」を彼の代表作とは言えないことを承知の上で選んで欲しかった…

未確認家族 戸梶圭太 (著) 

2006年03月28日(火) 16時10分
未確認家族 戸梶圭太 (著) 新潮文庫 (2004/12)

町田康の「告白」が明治初期に実際に起きた殺人事件をモチーフにした小説だったのに対し、戸梶圭太のこの小説はいかにも現代的なフィクションだ。しかしダメ人間を絵で描いたような主人公たちが、どんどん崩れ落ちていく様子を独特のビートが効いた文体で描き出していくところは共通している。

タイトル「未確認家族」が何を意味しているのか正直分からなかった。相当にハチャメチャな家族が二組(片方は擬似家族?)登場するが、もう少し著者の他の作品を読んでみないと彼が考える「家族」の意味が見えてこないのかもしれない。

暴力シーンは一見グロそうだが、わりとすんなり読めてしまったのはなぜだろう?刑務所の出所者についてきた保護監察官がなぜか家族のように暮らし始め、犯罪に加担しだすなどという無理な設定もあるが、ほとんど抵抗を感じなかった。とにかくヘンな世界を造りだせる人である。

★ ★ ★ ★

告白 町田康 (著) 

2006年03月16日(木) 14時32分
告白 町田康 (著) 中央公論新社(2005/03/25)

人はなぜ人を殺すのか―実際に起きた大量殺人事件<河内十人斬り>(河内音頭のスタンダードナンバーでもある)をモチーフに、町田康がこのテーマに挑んだ話題作。

この前に紹介した水滸伝では、戦における人の死は「志」のための犠牲として昇華されてしまっているが、凶悪な殺人者である熊太郎の内面を町田康が独特の饒舌文体で描くとき、同じ殺人という行為がまるで異なる様相になってしまう。

自分の弱さを十分に自覚しながら、どんどん崩れていってしまう熊太郎を描く著者の筆致はすさまじいまでで、読んでいて思い出したのは池田小学校で子どもたちを殺し、自ら望むようにして死刑にされた宅間のことだった。まさしく理解不能だった彼の心のうちも天才・町田康の手にかかればリアルな人間として経ち現れるのかもしれない、そんなことも考えてしまった。

★ ★ ★ ★ ★

水滸伝 (5) (6) (7) 北方謙三 (著) 

2006年03月11日(土) 16時38分


水滸伝 (5)玄武の章
水滸伝 (6)風塵の章
水滸伝 (7)烈火の章
北方謙三 (著)

集英社 ;(5) 2001/9 (6) 2002/1 (7) 2002/5

かつては権力の内側にいた鈴木宗男が暴露した役人たちの腐敗はもちろん今に始まったことではない。この水滸伝は宋の腐敗ぶりに耐えられなくなった男たちが梁山泊に結集して巨大な権力に立ち向かおうとする物語だ。

いよいよ官軍対梁山泊の戦いが本格的に始まり、犠牲者も出始める。正義のための戦いは現在のアメリカの旗印でもあるが一方でイスラム過激派も同じように考えている。北方の確かな語りで男たちの熱さは伝わってきて、読み進むのは楽しいのだが、水滸伝が中国で書かれたころから人間はさほど変わっていないことに暗然たる気持ちにもなる。何か事件が起こるたびに「人の命は地球よりも重い」などというコメントが出てくるからなおさらだ…

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