ボードゲームの原価率はどうあるべきか?

May 09 [Sat], 2015, 11:40
先日5/5、東京ビックサイトで開催されたゲームマーケットにて、
ドロッセルマイヤーズ渡辺はトークイベント
『ボードゲームクリエイターのための企画塾』
に登壇させていただきました。

フランスの著名ゲームデザイナー アントワーヌ・ボザ氏の公開インタビューの次ということで緊張もひとしおでしたが、満席を超え、立ち見の方まで来ていただいて、本当にありがたいことでした。



(こうやって写真で見ると座り方が態度悪いですね。すみません…)


さて、その場でお話させていただいた
『ボードゲームの原価率』
の話題について、その後twitterなどでちらほら感想やご意見を目にしまして、なんとなく伝聞に尾ひれがついたり、部分的なトピックや間接情報だけで「原価率」という言葉が独り歩きしてしまいそうな雰囲気を感じたので、ここでまとめて補足しておきたいと思います。


イベントで渡辺がお話したのは

『私たちがボードゲームを制作&販売する場合、
原価率33%ぐらいが理想的かつ健全なバランスだと考えている。
しかし実際にはこの数字は非常にハードルが高いので、
まずは66%ぐらいを基準に作ってみてはどうでしょうか?』


ということでした。

なぜ理想が33%かというと、このぐらいであれば
「よその店舗に卸しても制作者に利益が出る」からです。

そうすると1日限定のイベント販売だけではなく全国を対象に、より一般的なお客さんに向けて販売することができるので、日本で「プロのゲーム作家」が育っていく可能性が生まれます。


では66%が何なのかというと、こっちは
「制作者自らの直販であれば利益が出る」数字ですね。

つまりゲームマーケットのような即売会の存在を前提に成立しているので
(※自前の店舗や直販サイトをもっている場合は別です)
良くも悪くも、あくまで「同人作品」と自己定義していることになります。

しかし、一定の利益があるということは、そこから交通費などの諸経費を捻出できる可能性があるので、同人活動としてはかなり健全ですし、継続性もあります。


つまり前提として、私たちドロッセルマイヤーズは

1.日本から、できるだけ多くの「プロのボードゲーム作家」が出てきてほしい。
2.その為には、できるだけきちんと作家に利益が還元される構造が作られてほしい。
3.プロ志向でない同人作家も、できるだけ健全なコストバランスで活動してほしい。
4.それによって両者が末永く共存共栄してほしい。


と思っているということです。


もちろん、それ以前の大原則として、同人活動というのは(法にさえ触れなければ)どう活動しようと個人の自由ですし、みんながプロの作家を目指す必要も全くありません。

むしろ、損得勘定抜きで本当に作りたいものを作ることが同人活動の醍醐味だったりもします。

なので、ひとつ誤解してほしくないのは、今回のお話は、誰にでもやたらと「プロ志向」を強要しようということではありません。

むしろ、同時に言いたいのは
「せっかくの同人活動なら、もっと気楽に作ってみては?」
ということなのです。


今のゲームマーケットは、数年前から比べても「コンポーネントの見栄え」に要求される水準がやたらと上がってしまっていて、そこも含めた販売努力合戦がゲームマーケットの(コミケ等と比べても独特で)面白いところでもあるんですが、実際はみんな結構しんどいところもあるんじゃないのかな?と思っています…皆さんの実感としてはどうですか?

そういう傾向ができた責任の一端がドロッセルマイヤーズにもあると言う人もいるので
(実際はそんなたいした影響力はないかもしれないのですが)
ますます強調したいのが、みんなが一律に高価なコンポーネントを作る必要はないよ、ということです。

他の手段でちゃんとゲームの魅力が伝えられれば外箱は必要ないかもしれないし、「サイコロは別途用意してください」でもけっこう平気だし、全てのカードが角丸である必要もないです。

必要なのは、自分たちのゲームに過不足ないコンポーネントは何か?ということで、それをきちんと見極めましょう、というのが今回のトークイベントの主旨のひとつでした


原価率33〜66%ぐらいが適正なのでは?という話から「そういう価格設定をしていたら、同人ゲームの価格が上がってしまうかも…」という心配の声も見かけましたが、考え方としてはむしろ逆で、適正価格から逆算した作りにしましょうということです。

また、「原価率を抑えるためには大量生産が必要で、GMの度にそんなリスクは冒せない」という声も見ましたが、いまや年2回(大阪もあわせると3回)という超ハイペースになったゲームマーケットの開催にあわせ新作を作り続けること自体が、専業作家でない限りかなりしんどいことは誰の目にも明らかです。


なので、例えばですが、数年かけてよ〜く熟考しながら作った渾身のゲームを、また数年かけて世の中にきちんと紹介していき、またその間に次のゲームを考える、というサイクルでも別に良いのではないでしょうか。

もちろんハイペースで作りたい人はガンガン作れば良いのですが、1タイトルに継続性がなく「即日完売!」が一番の美徳になっている限り、その活動はあくまで文化祭的な想い出づくりの域を出ないと思います。

「自分たちの作ったゲームを世の中に紹介していく」ということを一番大事に考えるなら、継続的に、安定的に、しつこいぐらいに同じゲームを販売していくのも、自作への愛情のかたちではないでしょうか。

(仮に皆が半分のペースで新作を作るようになれば、そのぶん新作を出すタイミングでは倍の注目が集められるかもというメリットもあります。市場全体の制作者数が増えた今だからこそ有効な考え方として。)


そういったことを諸々ふまえたうえで、私たちドロッセルマイヤーズの考え方をお伝えするひとつの指標として、ご提案してみたのが「原価率33〜66%」でした。


まとめると、

同人作家路線:
少部数&多品種を手作り=実験的/ニッチな作品に向く(初心者にもおすすめ)
→原価率66%目標

プロ作家路線:
大部数&少品種を商業印刷=名作を目指すような継続的活動に向く
→原価率33%目標


…というイメージです。
(もちろんこの2パターンの中間がいろいろあるわけです。)


そしてどちらの方向性にせよ、1200円かけて作った商品を1000円で売るような、原価割れ(赤字)販売はNG行為だと思います。

これはちょっとキツい言い方をすればいわゆる「ダンピング」にあたるので、誰かがそれをやりだすと価格の調整弁が成立しなくなり、市場崩壊の原因になります。
大げさに聞こえるかもしれませんが、ボードゲームのような小さな市場では、その影響は本当に大きいはずです。

もし人気サークルが揃って豪華コンポーネントのゲームを1000円でばらまき始めたら、10年後にはゲームマーケットもボードゲーム専門店も無くなっているでしょう。


とはいえ実際のところ、ドロマイの商品でも、原価率33%をはるかに超えてしまっているものはいくつかあります。(すいません!)

しかしそれはあまり褒められたことではないと思いますし、自分たちでも「経営努力が足りないな」と思って反省しながら、いろいろノウハウをためて、次回以降ににつなげています。


まあ先日のお話はあくまでトークイベントであって、業界のシンポジウムや学会ではないので、そんなにシリアスな話題を提供したつもりでもなかったんですが、

プロ意識をもって取り組むにせよ、同人魂で戦っていくにせよ、「原価率」はそれぞれのゲーム作りへの姿勢が問われる、意外と面白い指標なんじゃないでしょうか。

今回のイベントが活発な議論のきっかけになれば嬉しいです!
長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。


追伸1)
この場合の「原価」って具体的には何を指してるの?
というご質問もいただきましたが、あまり厳密なことは考えていません。
しいていえば「製造原価」のイメージなので、印刷屋さんや材料購入に実際に払う金銭、ぐらいの感じです。

話が複雑になってしまうので、今回はとりあえず労働原価は含めていません。
(労働原価を計算しだすと、医者や弁護士が作る同人ゲームのほうが学生のそれより割高…みたいなことにもなりますし。)
もちろん本当のプロであれば時間的コストも含めてバランスをとるところでしょう。

しいていえば即売会イベントの参加料ぐらいは原価に加えてもいいかもしれませんね。
交通費や輸送費は、東京や大阪に遠い方がそれだけ不利になる要因なので、それを含めましょうというのはちょっと酷かなと思っています。


追伸2)
『同人作品は販売ではなく「頒布」するものであって、価格はあくまで原価の頭割りであるべきなのだ。だから利益を出すなんて邪道だ。』
という同人活動原理論もあると思いますが、それに則る場合も、やはり原価率100%では「完売して初めてトントン」なので、結構しんどいコストバランスではないかと思います。

「原価率66%」だと、3割は売れ残ったり、知り合いに配ったりしてもトントンになるということなので、それぐらいが継続性があって無理がないんじゃないでしょうか?
(これもあくまで私たちの感覚値です。)

追伸3)
私たちが市場に求めているのは最終的にはとにかく「多様性」なので、これと異なる考え方で、異なる成功例となるような作家が出てきたら、それは素直に面白く嬉しいだけです。
また逆に、例えばゲームマーケットというイベントそのものについても、それ自体は面白いし意義もあるし大好きな場ですが、日本国内のボードゲーム市場がそれ一色になってしまうのは良くないことだと思っています。

そういうわけで、インディーズボードゲーム専門ショップ ドロッセルマイヤーズ・ラウンドテーブルも絶賛営業中です!新規作家も募集中!(これは宣伝)




※2015/5/10 誤字を直したり一部追記しました。
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ドロッセルマイヤーズ ボードゲームマートなどを運営する、株式会社ドロッセルマイヤー商會です。


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◆メンバー◆

 渡辺範明
株式会社ドロッセルマイヤー商會 代表取締役
ゲームプロデューサー
ゲームデザイナー
ドロッセルマイヤーズ店長

アナログからデジタルまで幅広い「遊び」をプロディースする独立系ゲームプロデューサー。世界の「遊び」紹介のためドロッセルマイヤーズを開業。

元(株)スクウェア・エニックス プロデューサー

代表作:
『巨竜の歯みがき』 『HYKE』 『アダムとイヴ』 『Stamps』 『嘘つき村の人狼』 『嘘つき村の収穫祭』

Twitter: Drosselmeyers_


 真城七子
株式会社ドロッセルマイヤー商會 役員
作家
ドロッセルマイヤーズ マネージャー/世界観コンセプト

遊びとフェティッシュをテーマに西洋史を収集/解釈/編纂する特殊作家。

代表作:
『アントワネットの玩具箱』 『媚薬のレシピ』 『紳士のかつら』 『宮廷マダムの作法』

サイト:http://nanakomashiro.com/
Twitter: nanakomashiro

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