僕らの熱い日々 

February 13 [Mon], 2006, 23:17
僕らはお互い目で合図を送りドラムのわかが カウントを取った。わかは スティックを叩きながら、 「ワン、ツー、スリー、 フォー」 と大きな声でカウントを取ると福山と僕があの「長い夜」の イントロに入っていった。 レコードではブラス・セクションが 入ってくるパートを福山がギターで弾いた。ブラスの迫力に 及ぶ事は難しいが福山は一生懸命それに近づけようと練習 したのであった。 A−マイナーから下りてくる循環コードを刻む サイド・ギターの僕の手は汗で次第に濡れてきた。  イントロから今野のボーカルへと入っていった。  今野はヘア・ピースの髪を振り乱しながら、かなり 力を入れて歌っている。サビの部分はさすがに苦しそうだ。 それでもマイクを握り締め、顔を真っ赤にして必死になって 歌っている。 そんな今野を見て僕とみのちゃんが顔を見合わせて 笑った。間奏では福山がファズをかなりかけた音でテリー・カスの フレーズを再現した。 わかはリズムを狂わせないようにと一生懸命に 頑張っている。額には大粒の汗が光っていた。みのちゃんは、確実に ベースの音を刻みながら彼の存在そのものの様に、ここでも 「縁の下の力持ち」的な役割を地道にこなしていた。僕は自分でも ギターを弾きながら、みんなが一生懸命に演奏しているのを聞いていて、 熱いものがこみあげてきた。 こんなに一生懸命に演奏できる自分たちが とても素敵に思えたし、こんなにいい奴らと演奏できる事が嬉しかった。 演奏の上手い、下手はもうどうでもよい事であった。

僕らの熱い日々 

January 15 [Sun], 2006, 0:54
僕らは小走りで幕が下りている舞台の上に上がった。幕の向こうの 聴衆のざわめきが妙にはっきりと聞こえる。しかし、不思議な事に さきほどまでの緊張感がいざ舞台に上がって幕の向こうのざわめきを 聞いているうちに、やわらいできた。それぞれが各自のチューニングを 済ませると今野が舞台の袖にいた進行係の2年生の男子に合図を送った。 その後すぐに同じく進行係のアナウンスの女子の声で、 「次は3年生男子 サリドマイズの皆さんの演奏で“長い夜”と “アー・ユー・レディー”です。」 とのアナウンスが流れると同時に目の前の幕が上がっていった。 幕の向こうの生徒たちの顔が下の方から見えてくるのと同時に大きな 拍手、それに野次にも似た応援の言葉が次から次へと聞こえてきた。 「今野君すてき!」 「福山君、カッコいい!」 「ゴットン、足が短いぞ!」 予想以上の盛り上がりに僕たちの緊張感も、かなり和らいでいた。 今野のヘア・ピースを被った異様な格好も生徒たちの笑いを誘うのには 十分な演出であった。 

僕らの熱い日々 

October 23 [Sun], 2005, 22:57
途中で少しリズムがもたついたが、まあまあの演奏であった。僕は正直言って あそこまで孝夫が出来るとは孝夫に失礼であるが思わなかった。  なにしろ最初は、Fのコードも押さえられなかったのだ。三田にしても 同じでギターを始めてから、ほんの数ヶ月しか経っていない。 三田と僕と家が近いのでよく家に遊びに来ては僕のギターを 弾いていた。池部にしても、井上にしても僕らがバンドを組んで 演奏しているのに影響されて楽器を始めたのであった。そんな事を 感心しているうちに彼ら「ハンド・ボーズ」の演奏が終わった。 彼らは全員満足そうな顔をして舞台の袖へと下りてきた。 「おい、どうだった? わしらの演奏?」 と三田が大きな声を出して聞いた。 「お前ら結構やるじゃん、俺はてっきり、途中でメロメロになって 投げ出してしまうのじゃないかと思っていたよ。」 とわかが大きな目をさらに大きくして言った。 「最初の三田の音には聞いている方もさすがにあせったけれど、 まとまってたぜ。」 と福山が三田からギターを受け取りながら言った。 「いかん、おい、俺たち行かなきゃ。」 みのちゃんが大きな声を出した。

僕らの熱い日々 

October 10 [Mon], 2005, 8:32
僕らの出番の二バンド前に舞台裏へ回って準備をした。 僕らのすぐ前が丁度「ハンド・ボーズ」の出番であったので、 既に三田、井上、池部それに孝夫の面々が顔を揃えていた。 彼らの顔には明らかに 緊張感が漂っていた。リード・ギターの孝夫が、 「おい、やっぱり指が動かないよ」 と言えば、今度は三田が、 「孝夫、パイプラインのサビの所の最初のコードは何だったっけ?」 てな具合にとてもこれから本番を迎えるバンドとは思えなかった。 彼らにしてみれば、こうやって文化祭に参加する事に意義があって 途中で間違えることに対してはあまり気にしていない様であった。 それは、それでなかなか“立派なポリシー”を持って 彼らは参加していたのだ。それでも、やはり出番前には 緊張するというのは面白い。 僕らは「ハンド・ボーズ」の演奏を舞台の袖から見た。 孝夫が慎重な面持ちで「パイプライン」のイントロを弾き始めた。 途中でサイドギターのストロークが入る部分でボリュームが 大きすぎたので、三田が照れ臭そうにベロを出して笑った。 その音があまりにも大きかったので客席からも笑いが聞こえた。 そんなイントロ部分での失敗でみんなの 緊張感が解けたのか、彼らはパイプラインを結構リラックスして演奏した。

僕らの熱い日々 

October 02 [Sun], 2005, 18:51
最初は1年生の女子のフォーク・グループで「PPM」(ピーター
ポール・アンド・マリー)の名曲「パフ」を演奏した。女の娘にしては
ギターのスリー・フィンガー奏法が上手でコーラスもまあまあで、なかなか
良かった。段々と出番が近づくにつれて、胸がどきどきしてきて緊張感が
高まってきた。僕らの3−4番前に2年生のバンドで同じくロックを
演奏する奴らがいた。彼らの演奏は今まで聞いた事がなかったので、
僕らは興味津々の面持ちで演奏を聞いた。なんと、彼らはLED・
ZEPPELINの確か2枚目のアルバムに入っていたと思うが「モビー・
ディック」ともう1曲は何であったか忘れたが2曲を演奏した。
聞いているうちに、僕らの中に「あせり」が出てきてお互い顔を
見合わせた。実に彼らの演奏は上手かったのである。特に「モビー・
ディック」などは、レコードと同じ様な、あのジミー・ページの
ギターの音を出していたのである。彼らの演奏を食い入る様に見ていた
福山の顔にも明らかに、あせりの色が出ていた。僕らのバンドと
彼らのバンドとの大きな違いは、バンドが持つ言わば「雰囲気」みたいな
ものであった。彼らの持つ雰囲気は、ロックを演奏するにふさわしい
一種独特の雰囲気があった。どこかに「反体制」の色が感じられ、どこかに
「不良性」の色が感じられた。一口に言えば、悔しいが、カッコ良かった
のである。彼らの演奏が終わると福山が、
「たいしたことないじゃん。」
と言ったが、僕はそれが彼のあせりを隠す為のせりふである事は知っていた。

僕らの熱い日々 

August 29 [Mon], 2005, 23:45
僕らは音楽室で演奏曲の2曲を一通り通してやってみた。ドラムは
既に体育館に設置してあったので、わかはスティックで机をたたいての
練習であった。ギターとベースは練習用の小型アンプを使って行った。
ひとつの小さなアンプでギターとベースをつないだので、途中で音が
ひずんで大変聞き辛いサウンドとなった。
「まあ、こんなもんじゃないか?」
とわかが言ってみんな納得した様な顔をしていた。
僕たちが2−3回練習した後、三田や井上たちの「ハンド・ボーズ」の
面々がやってきた。彼らも同じ様な形でざっと2−3回練習を行い
最後には三田が、
「もう、どうにでもなれだ。俺、ひょっとして舞台に上がったら、コードを
全部忘れてしまうかもしれんが、もしそうなったら許してくれ。」
とおどけた調子で言った。そうこうしている内に、文化祭開始の時間と
なったので、僕らはぞろぞろと体育館へと向かった。

体育館には既にほとんどの生徒達が集まっており、前の方から順番に
腰をおろして座っていた。やがて開幕のスピーチがあり、最初に生徒会長からの
簡単な挨拶があった。まあ、どこの学校でも同じなのだが、この手の
挨拶はほとんどの生徒が聞いていない。その内、あちこちから野次が
飛ぶようになる。「引っ込め! 早く始めろ!」
そんな野次にもめげずに5分ほどスピーチを続けて生徒会長は舞台を
下りた。

僕らの熱い日々 

July 09 [Sat], 2005, 15:57
音楽室にはもう福山とみのちゃんが来ていた。ふたりとも既に
普段着に着替えてギターを持って一番前の机の上に座って「長い夜」の
アドリブの箇所を練習していた。福山はいわゆる「ベルボトム」のジーンズに
花柄のシャツの上にベストを着込んでいた。みのちゃんは、やはり
ベルボトムのジーンズに薄手のセーターといった服装であった。
「おー、ゴットン遅いじゃん、わかも今野もまだ来ないし、わしら二人で
あせっとるところだ。」
「わるい、わるい、4時間目が終わってから、ハンドの顧問の吉田に
捕まっちまってさあ、そいで昼飯食べるのが遅れちまって。あっ、そうそう
井上たちが後からやらしてくれと言ってたよ。」
「おい、あいつら大丈夫か? 孝夫なんか全然指が動かんと言ってたよ。」
とみのちゃんが言った。そんな話をしていると、わかと今野がやってきた。
「おっ、諸君やっとるね。いよいよ、わしらのデビューの時がきたのう。」
と相変わらず、ふざけた調子で今野が言った。
「おい、今野、いい物をみんなに見せてやれよ。」
とわかが今野に言った。 すると今野は手に隠し持っていた物を
みんなの前に出して見せた。それは、金髪の女物のかつら、いやいや
ヘア・ピースであった。
「今野、それどうするの? お前、女装でもするのか?」
と福山が聞いた。
「違うよ、わしら今日はロックを演るんだろう? だったら雰囲気だけでも
出さなくちゃと思ってこれを持ってきたんじゃないか。」
と言って今野はそれをすっぽりと被ってみせた。今野が結構真剣なので、
みんな笑いをこらえていた。

僕らの熱い日々 

July 03 [Sun], 2005, 11:54
「ゴットン、遅いぞ。」
とハンド・ボール部で別のバンドを組んでいた井上が部室に入るやいなや
声をかけた。 
「三田はまだ来ていないの?」
と僕は聞いた。
「あいつ、さっきまでいたんだけど、またどこかへ出ていったみたいだ。」
三田と井上はあと二人の部員と「ハンド・ボーズ」といったバンド名をつけて
同じく文化祭に出ることになっていた。彼らは、僕らが2年の時に演った
「ベンチャーズ」の曲を演る事になっていた。僕はジーパンとT−シャツに
着替えて上にトレーナーを着て井上に言った。
「俺たちのバンドは音楽室に集合する事になっているけど、お前たちは
どうするの?」
「俺たちは2組の教室に集まる事になっているけど、まだ孝夫と池部が
ここに顔を出していないんだよ。」
孝夫も池部も同じハンド・ボールの3年で孝夫はリード・ギターで
池部はドラムを担当していた。
「俺たちは音楽室で少し練習するつもりだけど、お前たちはどうする?」
と僕は井上に聞いた。
「他の連中はもうぶっつけ本番だと言っているけど、俺はどうしても不安
なんだ。 多分俺たちも後から音楽室へ行くから少し練習させてくれよ。」
と井上はずり落ちた黒ぶちの眼鏡を左手の人差し指で上げながら不安そうに
言った。 本番では彼らは僕らの楽器をそのまま使う事になっていた。従って、
練習も僕らが行う時に同時に行う必要があった。
「いいよ。それなら後から来いよ。俺たち先に行っているから。」
と言い残して僕は部室を出て音楽室へと向かった。学校内を普段着で歩き
回るのは、なんかすごく自由な感じになれて僕はすごく好きだった。

僕らの熱い日々 

June 14 [Tue], 2005, 0:28
僕にとっては女の娘と二人きりで映画に行くなんて事は生まれて初めての
出来事であったのだ。僕と万里ちゃんは地下鉄の千種駅で待ち合わせて
伏見にあった「ミリオン座」へ名作2本立てを見に行った。あの時の
万里ちゃんの上下白っぽい清楚な服装が今でも強く僕の脳裏に残って
いる。僕らは映画が終わっても特に会話が盛り上がるわけでもなく、
何となく過ごし、ただそれだけの事であった。僕はその事を決して
誰にも話しはしなかった。ほんのわずかな時間でも二人だけの時を
過ごせた事を自分の中に大切にしまっておきたかった。なんて書くと
野郎なのに純情な乙女心みたいと馬鹿にされそうだが、本当に僕は
自分で言うのも嫌なくらい純情であったのだ。結局、それ以来万里ちゃん
とは何も無く、僕はひたすらクラブとギターに熱中していた。
勿論、万里ちゃんに対する想いは変わる事はなかった。

そんな万里ちゃんとの「出来事」を思い出しながら僕は着替える為に
体育館の上にある部室へと向かった。

僕らの熱い日々 

May 30 [Mon], 2005, 23:03
「アー・ユー・レディー」を僕らは何度も何度も練習した。
しかし、あのライブの独特な乗りを出す事は至難の技であった。
ドラムのタイトな乗りの良さ、ベースのうなる様なドライブ感、
ボーカルの独特のロック・フィーリング、全てが僕らの能力を
はるかに超えていた。 それでも、なんとか近いフィーリングを
出そうと僕らは必死になった。 その内、レコードの味とは程遠い
のだが、自分たちなりの味を実感として感じられる様になった。
簡単に言えば、自分たちの能力の範囲内でこの曲を自分たちなりに
消化したという事になると思う。
さて、いよいよ文化祭の本番の日を迎えた。それぞれの出演者達が
慌しく校内のあちこちを動き回っていた。午前中は授業があり、
文化祭は午後から始まる事になっていた。僕は4時間目の授業を
終えて教室で弁当を食べてから早足に体育館の上にあるハンド・ボール部
の部室へ向かった。途中、体育館への渡り廊下で当時の憧れの人で
あったハンド・ボール部女子のキャプテンの「万里ちゃん」と
出会った。彼女は僕と目があうと軽く微笑んで反対側の教室の方へ
急ぎ足で歩いて行った。万里ちゃんは髪が長くてスタイルの良い
どちらかと言えば、「和風美人」といった感じの子であった。僕は
一度だけ彼女を映画に誘った事がある。あれは、高校2年の冬だと
思ったが、断られるのを覚悟して僕の方から電話にて彼女を誘った。
予想に反して彼女はすんなりとOKの返事をしてくれた。あの時の
うれしさといったら、とても言葉では語れないほどであった。
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