メープルシロップ 

2007年02月22日(木) 8時15分
キノコの森に、なんだか寂しい印象の木だ、ということで人気のないカエデの木が10本くらいあった。
カエデは美味しいキノコを宿らせるわけでもないし、見た目は本当に年中「冬」っぽいし、誰も好きではなかった。

ある日クマが森の動物をカエデの周りに集めた。

「諸君! 僕はついにこのカエデの利用方法を見つけ出した」
「おお〜」
「おお〜」
「遊具でも作るのかい?」
「バカな、僕は料理好きのクマさんだぞ」

森の動物たちは少しだけ落胆した。
クマが料理を始めると、いかんせん長くなりがちなのだ。
確かにおいしい。
しかし、一日中待たされるあの時間だけは料理の美味しさと秤にかけてもつりあわないと感じるものだった。

「カエデで何をつくるつもり? ケーキ?」
「できればすぐできるものがいいな」

森の動物たちは騒ぎ始めた。
クマは待っていたとばかりにニヤついて言った。

「今日は、みんなにすこしだけ手を貸してもらいたいんだ。料理は出来上がったものを後日モグラくんに届けてもらうから」

森はまた静まりかえった。

「何をすればいいの?」
「おっ、うさぎちゃん、ありがとう。まずは、キツツキくんにカエデに穴をあけてもらう。それからみんなでその穴にこの蛇口みたいな道具と、バケツを取り付けて欲しいんだ。ひとつやってみるね」

キツツキは穴をあけ、クマは蛇口みたいなのを取り付けて、バケツを引っ掛けた。

「これでおしまいだ。簡単だろ。これをしてもらえれば、みんなはすごく美味しいおもいができる。キノコもさらに美味しくなる。木の実なんか最高に美味しくなる」
「ほんとに? 最高だよ」
「ああ、信じられないよ。こんな簡単なことをするだけで、そんなに美味しいおもいができるなんて」
「まだ話を聞いただけなのに、化かされたような気分さ。クマさん、もしかしてタヌキじゃないだろうね?」
「はっはっは、さすがはガゼルくんだ。いかしたジョークだね。まさに抱腹絶倒」
「それにしたってこんなに悲しいカエデの木がそんなに素晴らしい何かになるなんて信じられないよ」

みんなクマの仕事を手伝った。
キツツキはみんなから誉められる形での穴あけははじめてだったので嬉しくなった。
みんなは「何か」に期待していたが、それが何であるかは追及しなかった。
知らずにいたほうが、幸せなこともあるのだ。

「みんなありがとう。これで準備は完璧だよ」
「いいんだよ、クマさん。なんたって君のおかげで僕たちは美味しいおもいができるらしいからね」
「そうよ、クマさん。楽しみにしているからね」

それから1週間くらいかけて、カエデからたくさんの樹液が取れた。
クマはワクワクしながらそれを優しく煮込んだ。
キノコの森にそれまでなかったいい香りがし始めた。
ためしにキノコにかけてみたが、絶品で、木の実にかけてみると絶品どころの騒ぎではなかった。
クマは嬉しかった。

それからクマはモグラを呼び、試食してもらった。
モグラは「気が狂いそうだ」と、それを誉めた。

クマはそれをたくさんのビンに詰めて、モグラにたくした。

「よろしくね、モグラくん。みんな喜んでくれるかな」
「それは僕が保証するよ」

そうしてキノコの森に、メープルシロップが広まった。
みんな気が狂いそうになった。
カエデも気が狂いそうなくらい喜んだ。



=どくきのこ=

きのこ地球学校 その2 

2007年02月21日(水) 1時20分
学校が終わった。
決められた時間がないから、議論の終わるか、太陽が沈んだら学校は終わる。
たぬきは案外勉強好きで、毎日のように学校に顔を出した。
もちろん、比喩表現としてではなく。

たぬきはウサギに声をかけた。

「ウサギちゃん、今日はお疲れ。君の民主主義経済国家に対する見識は立派だったし、僕もいくつかの共感が得られたけれど、法治国家というのはそれによる必然的な形であって、無形物が頂点に君臨することと、元首によるそれとは区別して考えるべきなのではないかな」
「あら、たぬきさん。わたしとしては、民主ということばは大好きなの。だから、法はもっとアイテムとして存在すべきであって、民という全体が全体のために行動することでひとりひとりが独立的に動けるのではないか、役に立てるのではないかと思うの」
「確かに、そうなることが理想だね」
「わたしはただ、名前が理想とあってないんじゃないかと感じただけなの」
「そうだったのか」
「そうだったの」
「ところでウサギちゃん、一緒に帰らないかい?」
「ごめんなさい、今日は先約があるの」
「そいつは残念だ」

たぬきはリスに声をかけた。
「リスくん、今日はお疲れ。君の、帝国主義は、それ自体はロマンとしてさえ成立しておらず、多くの人間の動機付けとして一時代とはいえ人間社会で機能したという事実は、我々が人間について深く学ぼうとする限り避けることのできない人間の不自然な感情をあまりにも明確に打ち出した好例である、という考え方には感服したよ。君のふくよかな知識とその優しさあっての解釈だね」
「おう、たぬきくん。僕は帝国主義というものが正直理解できないんだよ。というよりも、それを用いようとする人間がね。しかし、それは理解できる何かを持っているんだ。それに目を向けずして人間への深い理解は得られないだろ。僕は専門的にこの帝国主義に注目してみようと思う」
「それはすごい。君ならできるよ」
「僕はどうしても相反するところに光を探してしまうみたいなんだ」
「そうだったのか」
「そうだったみたいだ」
「ところでリスくん、一緒に帰らないかい?」
「ごめんよ、今日は先約があるんだ」
「そいつは残念だ」

たぬきはクマに声をかけた。

「クマさん、今日はお疲れ」
<中略>
「ところで、一緒に帰らないかい?」
「ごめんな、今日はもう先約があるんだよ」
「そう、そうか」

たぬきはワニに声をかけた。

「ワニさん、今日はお疲れ」
<中略>
「ところで、一緒に帰らないかい?」
「すまない、先約があるんだ」
「嘘だろ?」

たぬきはあらゆる動物たちに声を同様にかけたが、皆同じ結果だった。
シカにいたってはシカトしたような気さえしたが、完全に被害妄想だった。
たぬきは寂しい気持ちで帰った。
次の祭りでは派手に暴れてやろうと思った。

それから家でただ悲しんでいるのも悲しいので、リスに影響を受けて、帝国主義について勉強してみることにした。
しかし、そこにはわけのわからない感情や戦争や虐殺ばかり書かれていて、かえって悲しくなった。
みんなの「先約」を気にしながら眠った。

次の日、ちょっとだけ学校に行きにくさを感じながら、開学以来はじめて重い足取りでたぬきは歩いた。
霜が降りて、地面はぬかるんでいた。
学校が見えてきた。
しかし、まだ誰とも出会っていなかった。
大抵ならこのあたりで何匹かと合流し、ともに通学するのがたぬきの常であったのだが、なんならちょっと待ってみたが、誰も来なかった。
たぬきは嫌われてるのかもしれないと感じた。

たぬきが学校に着いた瞬間、大きな爆発音が響いた。
まさか、この森でもついに、戦争が、と一瞬たぬきは身構えたが、飛んできたのはキラキラキレイな紙ふぶきだった。
それからみんながトンガリ帽をかぶっていっせいに出てきた。

「たぬきくん、おたんじょうび、おめでと〜!!」

たぬきは大きな拍手に包まれた。
たぬきには何がなんだかわからなかった。

「たぬきくん、いつまで驚いているんだよ。みんなでサプライズパーティを計画してみたのさ。人間はこういう事をやるらしいんだ。案外たのしいね」
「たぬきくん、おめでとう!」
「おめでとう!」

再びクラッカーが鳴り、大きな拍手に包まれた。
たぬきは依然として唖然としていた。

僕の誕生日、今日じゃないのに。

もちろん、口には出さなかった。



=どくきのこ=


あまりにもキノコが生えた日 

2007年02月18日(日) 15時03分
2,3日じめじめした日が続いたせいで、キノコの森は文字通りキノコだらけになった。
森中の木々にキノコがびっしり生えていた。
さすがの森の動物たちも、その光景を目の当たりにし、生唾を飲んだ。

「これは、グロテスクだなあ」
「うん、直視できないね」
「雨がちょっと降っては晴れてのくり返しだったからなあ」
「そうだね。キノコにしてみれば誠意を見せたのかもしれないね。湿りに対して」
「君はうまいこと言うなあ」
「キノコだけにね」
「君は本当にうまいこと言うなあ」
「うん? それどういう意味?」
「バカ、駄洒落の意図を聞くやつがあるかよ。分からない時は分からないままでいいんだ。駄洒落を解説するってのは大変なリスクを背負うことになるんだよ」
「そうなのかい? 知らなかったよ。ごめんね」
「いいんだよ、気にしなくて。知らなかったならそれは罪でもなんでもない。これから学んでいけばいいんだから。なんなら勉強ついでだ。特別に解説をしてみようか?」
「おい、よせよ。それは誰のためにもならないぜ」
「そう、その通りだ。でも、体感しておいてもらったほうがいいんじゃないかな」
「君がそれでいいなら構わないんだけど」
「僕も教えてほしいな」
「さっきの、キノコだけにというのは、ひとつにはキノコを例に取っているのだからキノコだけにという当たり前の返答として意味をもっているんだけど、もうひとつ、キノコはよく〜ダケっていう名前がつくだろ? そういったキノコ的要素をかけてみたんだ」

本当に誰のためにもならないことはある。
ことの発端は、キノコが大量に生えたこと。
つまり、じめじめした天気だ。
やはり気持ちの良くない天気は、気持ちの良くない展開を生んでしまうものなのであろう。

「このキノコたちはどうしようね」
「森のみんなで食べるには多すぎるね」
「何せグロテスクなほど生えているからね」
「いくつくらいあるだろう」
「億は下らないんじゃないかな」
「だろうね」
「どうしよう」
「なあ、ところでさっき教えてもらった駄洒落だけど、思いついたら言いたくなるものだな」
「まじで思いついてしまったのかよ」
「うん」
「すまない、オレのせいだ」
「君が反省することはないんだ。ただ、まあ、誰が原因かと言えば、そうなるわけだけれども」
「すまない」
「なあなあ、言ってもいいか?」
「いい事を教えてやる。駄洒落は間が開いてから言うべきものではないんだ。それはさっきの解説以上に深く根を張ることになる」
「今のは駄洒落かい?」
「違う、違う、たまたまだ」
「う〜ん、でも言ってみたいよ。下らないことだし、なんならさっきの駄洒落よりも酷いかもしれないけれど、なぜか言いたくて仕方がないんだ。言わせてくれないか」
「そこまで言うなら(がまんしてやるよ)」
「うん、そこまで言うなら(がまんするよ)」
「おお、ありがとう。それでは、言わせて頂くよ。僕の初の駄洒落を」

本当にじめじめした日が2,3日続いた。
そのせいで、森にはグロテスクなほどキノコが生えた。

「キノコってオガクズだよね」



=どくきのこ=

春一番 

2007年02月15日(木) 6時17分
今年も春一番が吹いた。
キノコの森にも大層立派な突風が吹き荒れた。
いくつかの傘の大きなキノコたちが飛ばされて空に消えた。
動物たちは本能的に危険を感じ、穴に入ったり、岩の間に隠れたりした。
鳥たちは木の隙間に隠れて一生懸命に耐えた。

この風がおさまったら、森には春がやってくる。
動物たちは知っていた。
だから動物たちはどちらかと言うとワクワクしながら、風が止むのを待っていた。

「寒いね。すごい風だ」
「キノコがいっぱい飛ばされちゃうね」
「さむいよ〜」
「でも、もうすぐ春ってことだね」
「春はいいよ。春は素晴らしいよ」

動物たちはワクワクでいっぱいだった。
冬の終わりと、春の始まり。
合図は春一番。

そのころ、人間の世界で、春一番のニュースとUFOのニュースが流れていた。

「本当だ、風に乗るようにして丸い物体が飛んできたんだ」



=どくきのこ=

有名エコノミストによる演説 その2 

2007年02月13日(火) 23時50分
マルクス主義を皆さんはご存知だろうか。
そのキョトンとした顔をみる限り、どうやら無残としか言い様のない結果のようだね。
そういった君たちはマルクス主義の抱える大きな苦痛を味わうこともなく、シュールレアリスムの訴えた超現実主義に耳を傾けることなく死んでいくのだろう。
とはいえ、私も実は何のことだかさっぱりわからないのだけど(笑)。

はっはっは、

今日は本当にうけないなあ。
もしかしてここの皆さんは、ユーモアに関わる脳細胞が本当に死んでしまっているのではないかと思いたくなるほどだよ(笑)。

まあよい、私はこのままのペースで喋りつづけようと思う。

しかし、皆さんは退屈な演説が好みなのだろうか。
例えば、私のような超有名エコノミストによる演説を、ただ何のジョークもなく聞いてきて、退屈をいないのだろうか。
私はどうしても有り余る優しさを持ち合わせているためそれについて気にせずにはいられないよ。
しかし、皆さんの反応を見る限りにおいて、どうやらジョークは必要ないらしい。
むしろ、早く本題に入れ、といったところだろうか。

しかし、それを決めるのは私だ。
皆さんではない。
私としてはこの森の経済的発展を願っている。
この森が世界の森に先駆け、経済的独立を達成し、まだ見ぬユートピアを作り出す、そんな瞬間を楽しみにしているのだ。
私はそのために努力を惜しまないだろう。
そのためにもジョークで皆さんの心をつかみ、皆さんにより確実に私の提案を理解してもらおうと思い、私はあるいは捨て身の覚悟でこの場に臨んでいる。
しかし、私も仏ではない。
皆さんのあまりにもジョークに対し、不寛容なその姿勢を前にして、もう一握のジョークも口にしないだろう。
仮に私が今、この世の中の全ての富を一挙に集めることのできるほどの鉄板ギャグを思いついたとしても、私はそれをみなに披露することはしないだろう。
私は人を楽しませるのが大好きだ。
人の笑顔を見るだけで幸せになれる。
しかし、皆さんのあまりに酷い対応を目の当たりにして、私としても身の置き所を改める必要がある。
私はただ純粋にエコノミストとしての発言をしようと思う。
それは皆さんの望む形なのであろう。
私にとってそれが望むべきことでなくとも、そして皆さんにとって長期的に有意義な経済学を提供できなくなったとしても、それは皆さんが望んだことだとして、私は話を進めていく。

皆さんは一つ学んだ。
これで「逆ギレ」というものを辞書で引かなくても良くなった(笑)。

まさか、これさえ受けないとはね。


(つづく)


=どくきのこ=

キノコゼリー 

2007年02月12日(月) 15時54分
キノコの森にプルプルとした木が生っている。
みんな「ゼラチンの木」と呼んでいる。
森の動物たちがどういったいきさつでそう呼ぶようになったかにはちょっとしたエピソードがある。

ゼラチンの木を発見したのは一匹のナメクジだ。
行動範囲の狭いナメクジは、夏の熱い日に、本能的にその木にたどり着いた。
ナメクジはその驚きをみんなに伝えるために、大声で地下に呼びかけ、モグラとコンタクトを取ることに成功した。
モグラはゼラチンの木を見て驚いた。

「なんてこった、半透明だ」
「そう、半透明なんだ。なんともいえない涼しさがあるよ」
「これは本当に木なのだろうか」
「分からないけどモグラ君、僕の行動範囲はご存知の通り極端に狭いから、モグラ君お得意の地下ランニングで森のみんなに知らせてくれないか? もしかすると僕たちにとってとても大切なものかもしれない」
「確かにナメクジ君の言うとおりだ。ナメクジ君の発見を森のみんなに広めるんだ。そうすることによって、この木が僕たちにとって有用なものであればナメクジ君は英雄になれるし、そうでなかった場合には塩をかけられるかもしれないからね」
「おいおい、きつい冗談だな」
「きつい冗談さ」

ナメクジはなんと言い返していいやら分からなかった。

「おいおい、本当に冗談なんだから、そんな風に黙らないでおくれ。モグラは土の中にいるから頭がおかしいなんて噂があるけど、君はまさか信じていないよね?」
「僕はそういった噂は信じないんだ。自分の目を信じているからね」
「ははは、ナメクジ君もいい冗談言うじゃないか」

ナメクジは冗談など微塵も言っていなかったが、空気が空気だったため、そこはモグラに合わることにした。
噂を信じてもいいような気さえした。

「それじゃ、みんなに知らせてくる。2日もあれば十分だと思うよ」
「またまた、冗談を」

モグラは冗談など微塵も言っていなかったが、空気が空気だったため、そこはナメクジに合わせることにした。
ナメクジもだいぶおかしいのではないか、と疑惑を持ちかけたほどだった。

それから3日後、モグラの頑張りにより、その木の前に森の動物たちが集った。
木を見て、クマは言った。

「これはもしかしたらゼラチンかもしれない。それも飛び切り濃度の高いものだ」
「クマさんなんだい? ゼラチンというのは」
「ゼラチンというのは通常動物の骨や皮に見られるドロりとしたものなんだけど、この森の土は栄養がすごく豊富だから木にも動物的なゼラチンが見られたのかもしれない」
「僕たちの身体の中にあるのかい?」
「みんなの身体にあるよ。でもこれは僕の仮説だから、試してみないと確定はできない」
「試すってどうするんだ?」
「ゼリーを作る」
「ゼリーというのはあのプルプルとした不思議な食べものか?」
「そう、まさにそれを作る材料がゼラチンなんだ」
「さすが料理好きのクマさんだ。なんでもお見通しだね」

それから10分ばかし森にはクマへの賛辞以外何もなかった。

それから森でいちばん甘い種類のキノコを使い、クマはゼリーをつくった。
鳥たちが森のはるか上空の寒いところに息を詰まらせながらゼリーを運んだ。
クマに、ゼリーというのは急激に冷やさなければならないと言われたからだ。

そして1日近くかかってゼリーは完成した。
クマは森のみんなに感謝のことばを述べ、振舞った。
みんなはじめて食べるゼリーに興奮した。

ゼリーを食べた。
森の動物たちは次々に同じセリフを口にした。

「ゼリーというのは、なかなか不思議な食べものなんだね」



=どくきのこ=

きのこ地球学校 その1 

2007年02月11日(日) 2時38分
キノコの森唯一の学校が湖のほとりにできた。
とはいえキノコの森は教育制度を取り入れてまだまだ日が浅く、充実した教育ができているとはいえなかったが、「森から世界を救う」をコンセプトに森のみんなは高い志を胸に集まり、頑張った。

そして第一弾テキスト「にんげん」が完成した。
人間は高度な文明社会を持ち、多くの創造を現実社会に対して行ってきた。
まず、学ぶなら人間だ、という安直ではあるが正しいであろう発想に基づき、約3年の歳月を経て完成した。

そして湖の周りを少しだけ整備して、「きのこ地球学校」を設立した。
そして最も学問に高い興味と献身的態度をみせたカバが学校長を務めることになった。

「え〜、キノコの森の志の高い諸君。私がカバ校長です。諸君等とともにこの学校を通じて、多くの貢献を実現していきたいと考えています。まだまだテキストも初版で、至らない点も多くあるかと思います。しかし、森のみんなで力を合わせ、学んでいく中で、何か貢献できるものが見つかるはずです」

みんなから盛大な拍手が起きた。
カバ校長は大統領のような気分になったが、慢心は何においても最終的に失敗する最大の原因だ、と強く心に言い聞かせ、表情を何とか崩すことなくその場を乗り切った。

きのこ地球学校では基本的に授業というものはない。テキストをみんなで読みあい、みんなで意見を出し合い、足らなければ新たにテキストをみんなで作る。
特別時間も決まっていない。
そういう意味では24時間解放している。
何か有意義なことを求めて、森から動物たちが集まり、議論を重ねるのだ。

「人間ってのはすごいな」
「ああ、大勢でそろって同じ動きをすることに何か感動があるらしい」
「信じられないな。一体何を考えているんだろう」
「この動きには何か意味があるのかな?」
「人間は高度な生き物だ。もちろんあるに違いない。それにもし意味のない動きが大勢で合わせられるとしたらそれこそ私たち動物の想像力ではとても人間には太刀打ちできない」
「それもそうだな」
「そうだね」
「いや、ちょっと待ってくれ。人間ってのはすごいんだろ? なんでもその場にいない人間同士が会話ができるって書いてあるぞ」
「それは本当か」
「いくらなんでもありえないよ。それじゃ神様じゃないか」
「そうなんだ。人間は神様みたいにすごいんだ。そしたら、意味のない動きをあわせられたって不思議はないだろう?」

地球学校が静まりかえった。

「確かにそのとおりだ。あり得ない話ではないぞ」
「やだ、人間ってちょっとこわくない?」
「だとしたら、一体何の意味があるんだ」
「これは一体なんなんだ」

すると話を聞いていたリスがこう言った。

「それって踊りなんじゃないの?」
「踊り?」
「うん、僕たちリスはするよ」
「そういえば踊りを踊る動物もいるな」
「でしょ。僕たちは楽しいと踊るよ!」
「なんだ、踊りか~」
「リス君あたまいい〜」

そして議論はさらに進む。

「いや、違うよ。踊りはこんなに苦しそうにしないし、なぜ小さな家を担いでいるんだ?」
「そうだね。確かにおかしいよ」
「リス君の説、悪くないと思うんだけどなあ」

「う〜ん」

そして議論はさらに進む。



=どくきのこ=

メトロセクシャル 

2007年02月10日(土) 19時33分
メトロセクシャルがキノコの森にやってきた。
ここはメトロセクシャルのくるところじゃないぜ、とカラスが言った。
嫌味な光沢のネクタイがメトロセクシャルの都会派ぶりを見せ付けていた。

「おい、カラス」

カラスは驚いた。

「おまえ、メトロセクシャルの癖に動物としゃべれるのか?」
「確かに私はメトロセクシャルだが、ただのメトロセクシャルではない、ということだ」
「ば、バカな」

カラスはその場から逃げて飛び立った。
メトロセクシャルが動物と会話をできるはずはなかった。
カラスはみんなに知らせた。

「大変だ、俺たちとしゃべれるメトロセクシャルが森に来ている」
「何だって。メトロセクシャルがしゃべれる?」
「うそだろ? そんなの今すぐこの森がなくなっちまうのとおなじくらい信じられないぜ」
「そうよね、私だって信じたくないわ。そんな摩訶不思議な話」
「本当なんだ。あのメトロセクシャルは俺に話しかけてきたんだ。俺はただのメトロセクシャルではないって」
「本当なのか? 信じられないよ。そんなに言うなら実際にここにつれてきておくれよ」
「それは無理さ。メトロセクシャルはアイデンティティを極端に信仰しているから俺の言うことなんて聞いてくれないさ」
「それは確かだな」
「でもそれじゃあカラス君を誰も信じることはできないよ」
「よし、それじゃあカラス君の話をもっと詳しく聞いて、本当にメトロセクシャルが森にいたのかどうか検証しようじゃないか」
「それはいいアイデアだ」
「よし、カラス君、君はどういういきさつでメトロセクシャルを見たんだい?」
「俺はいつもと変わらない飛行ルートをいつもと変わらない高度で飛んでいたんだ。空はきれいだったし、特に気になるところは何もなかった。俺はいつも気に入っている木に止まりしばらくそこで休む。すると激しい銀色の光を目にしたんだ。それは明らかにメトロセクシャルのネクタイのものだった。俺は気になっていつもより高い高度でメトロセクシャルに気づかれないよう飛んだ。そしたらメトロセクシャルのほうから<おい、カラス>って声をかけてきたんだ。それも、俺にわかる言葉でね」

森のみんなはカラスが毒キノコを食べておかしな幻想を見ているだけだ、ということを知っていた。
でも、みんな優しいから、カラスの話に丁寧に耳を傾けてあげた。



=どくきのこ=

音楽隊がやってくる 

2007年02月09日(金) 17時45分
音楽隊が不定期でキノコの森にやってくる。

そんなニュースがキノコの森に流れ始めた。
森の動物たちはそれを楽しみにしているし、音楽隊の演奏は優れていると聞くし、謝礼はキノコを数十本でかまわないから、森のみんなで持ち寄って、歓迎しようなどと話ていた。

しかし、ひとつだけ嫌な決まりごとがある。
不定期でやってくるくせに、「おっ、音楽隊だ。もうそんな時季か〜」という台詞を強制されるのだ。
それだけなら大したことはないのかもしれないが、その台詞を言い忘れた者は、音楽隊により激しい罵倒を受けるというまたまた決まりごとがある。
それは嫌なことなので、森の動物たちは演技とは思えないほど自然にその台詞を口にする練習を始めた。

音楽隊がやってくる。

このニュースは口伝でさらにどんどんキノコの森に広まった。
土中にもモグラやミミズたちの頑張りによりそのニュースは広がった。

いくら妙な決まりがあったとしても、音楽隊の訪問は森の動物たちにとって大変なイベントで、あの、噂の、まさかの、激しく楽しい演奏が聴けるのかと思うとうれしくて仕方がなく、動物たちはキノコの話題そっちのけで音楽隊のことばかり口にするようになった。

しかし、残念なことにそのニュースは「音楽隊がやってくる」ということだけを伝えており、果たしていつ来てくれるかは不定期なのでもちろん分からなかった。

みんなそれが早いことを望みながら、口にも顔にも出さず、ただ純粋に音楽隊がやってくるのを楽しみにしていなければならなかった。



=どくきのこ=

キノコの森のブーム 

2007年02月08日(木) 18時04分
キノコの森に変なブームがやってきた。
語尾に「キノ」を付けてしゃべるのだ。
もちろん語源はキノコである。

「今日はなにして遊ぶキノ?」
「オイラは森一番の力持ちキノ」
「最初はグー、あっち向いてホイキノ!」
「父さん、なぜあの時僕にあの事業を引き継がせてくれなかったキノ」
「そいつらは全員俺たちをだまそうとしているキノ」
「分離した細胞は、それぞれ核を形成し、さらに分裂を繰り返し、やがて一つの組織を形成するキノ」
「お前は根っからのキノコ好きキノ」
「オレはキノコ好きの、おんな好きの、牧野!」
「おい、それは食器の!」
「よせよ、牧野!」
「牧野〜〜〜!」

そしてブームというものは往々にして長く続かないものだ。


=どくきのこ=
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