書名 『本所しぐれ町物語』
著者 藤沢周平 出版社 新潮社(新潮文庫) 出版年 2009年(52刷)
精神的にかなり追い込まれた時期、通勤の帰り道に読んだこの珠玉の連作集にずいぶん癒されたような気がする。そして元気、というか生きることのいとおしさを教えてもらった。本所すみれ町界隈に住む庶民の哀歓を綴ったものなのだが、なぜこんな短い文章のなかにこれだけの情感を交錯させることができるのだろうかとまさに溜息ものの文章にうならされながら、ここで描かれている庶民たちの生き方に時には自分の人生を重ね合わせながら、気持ちが入っていく。一度となく若い男のあとを追って家を出て行った妻を結局は迎え入れようとする男、夫が魔がさし、近所の後家さんと同衾しているのを目撃してしまった妻、浮気を重ねる若旦那、さらには借金ばかりつくって死んだ親父の借金を自分の身体を売って完済した少女など、決して恵まれていないながらも懸命に生きる庶民たちの姿が生き生きと描きだされる。中年の域にさしかかり、妻との暮らしに倦み、昔心を交わした女性と再会するも、話がかみあわず、そのまま別れる中年の男が、やはり妻と一緒にこれからも一緒に生きていくしかないと悟るところを藤沢はこう書く。「ほかならない、それがおれの人生なのだ。そう思うとやりきれない気がしたが、どこかに気ごころの知れたほっとした思いがあるのも否めなかった」
諦めるということが、ひとつの生きる智恵だということをほのめかすこんなところに、人間を思う優しさがある。
著者 藤沢周平 出版社 新潮社(新潮文庫) 出版年 2009年(52刷)
精神的にかなり追い込まれた時期、通勤の帰り道に読んだこの珠玉の連作集にずいぶん癒されたような気がする。そして元気、というか生きることのいとおしさを教えてもらった。本所すみれ町界隈に住む庶民の哀歓を綴ったものなのだが、なぜこんな短い文章のなかにこれだけの情感を交錯させることができるのだろうかとまさに溜息ものの文章にうならされながら、ここで描かれている庶民たちの生き方に時には自分の人生を重ね合わせながら、気持ちが入っていく。一度となく若い男のあとを追って家を出て行った妻を結局は迎え入れようとする男、夫が魔がさし、近所の後家さんと同衾しているのを目撃してしまった妻、浮気を重ねる若旦那、さらには借金ばかりつくって死んだ親父の借金を自分の身体を売って完済した少女など、決して恵まれていないながらも懸命に生きる庶民たちの姿が生き生きと描きだされる。中年の域にさしかかり、妻との暮らしに倦み、昔心を交わした女性と再会するも、話がかみあわず、そのまま別れる中年の男が、やはり妻と一緒にこれからも一緒に生きていくしかないと悟るところを藤沢はこう書く。「ほかならない、それがおれの人生なのだ。そう思うとやりきれない気がしたが、どこかに気ごころの知れたほっとした思いがあるのも否めなかった」
諦めるということが、ひとつの生きる智恵だということをほのめかすこんなところに、人間を思う優しさがある。
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