奇跡の書(鳥と鍵)

June 24 [Sat], 2006, 8:24
「額の裏側とか見なかったのかよ」
 南はリミの部屋の奥まで行くと、睡蓮のリトグラフの絵の横に羽ばたくツバメの壁掛けを外した。
「みなみ」
「考えたら簡単なんだよ。お前の右のツバメがくわえてるのって鍵だよな」

 引き出しを開けるのに必要なのは鍵。鍵を持っているのは千石の右手ツバメ。
「おもいっきりメッセージなんじゃないのか?意図がなかったとしてもツバメに鍵の図式はリミさんの中にあった訳だよ」
 南が外した壁掛の裏には小さなスライド式の蓋らしきものが見えた。
「やっぱり」
 人差し指を引っ掛けて蓋を開けると、錆が黒く滲む真鍮の鍵が出て来た。
 鍵の形はツバメがくわえているものと同じ。
「これ」
「みなみ…」
 広げた掌に細い鍵が乗った。神経がそこにだけ集中して、手の上の鍵がやたら冷たく重く沈む。
 金縛りの様に体が動かない。足の爪先から首の裏までが痺れたようにふわふわしている。
「開けてみろよ」と言う、南の声に総毛立つ。
びりびりした身震いが通り過ぎると体に自由が戻ってくる。
それでも鍵をもつ手は震えている。恐る恐る一番上の同じ色の鍵穴に鍵を差し込んで、右にゆっくり回すと軽い手応えの後にガチと短く掛け金が外れる音がした。
「開いた」

 飾り取っ手をそっと引くと、よく磨かれて飴艶のでた引き出しが滑からにスライドして、中に布張りの緑色の表紙を確認する。
 懐かしいその色に瞳がぐらりと揺らいで涙が溢れる。

「莉未」

 リミの糸が結び付いたあの日。
 リミが隣で笑っていたあの時。
 リミを取り巻いていたこの世界。
 リミがあの心の内に感じていた総てに、

 今、触れられる。

奇跡の書

June 12 [Mon], 2006, 19:33
 リミの机の一番上の引き出しは鍵が掛かったまま本人不在で、永久に開けることの出来ないこの部屋唯一の手付かずの場所だ。
 中に何が仕舞われているのかは詳しくは解らない。 推測するならば、生前リミが書いていた日記帳がこの部屋のどこにも見当たらなかったので、おそらくはそこにあるのだろうと思う。
 引き出しの鍵は一通り探してみたが見つからなかった。仕事場も有り得たので亜久津に頼んでみたが、それらしきものは出てこなかった。ちなみにリミが仕事場に遺したものは全てサロンのスタッフで形見分けしてもらったが、やはりその時も鍵らしき物はなかったと言う。
 本棚の本はあらかた読み尽くしてしまった。
 リミが生きていた間に触れた書物は新しい知識を与えてくれ、知らない世界を垣間見せてくれた。中でも株などは更に南が詳しくレクチャーしてくれたりして、その知識はすでに自分のものとなった。
 それでも、リミの深層を知るには微かであり、また間接的過ぎる。
 あの時、その前、それから。
 出会う前や一緒に過ごしたあの瞬間に、リミが何を思っていたか、何を感じていたかを、
 的確に触れることのできる、
 奇跡の書物。

 その奇跡が目の前に舞い降りて来たとしたら。
 考えただけで身震いがする。

睡蓮の部屋

June 07 [Wed], 2006, 8:10
 極彩の腹と青い羽。
 人差し指でするすると山の中から一枚引き出すと、色こそ肌にのる分違うが、やはりそれは千石の左腕のツバメだ。原画と寸分違い無く肌に写されている。
 その他に目をやると、もう一枚には亜久津の背中にいる龍と、千石が亜久津に彫らせた南十字星があった。
「綺麗な絵でしょ」

 突然空気を震わせた穏やかな声に、心臓が跳ね上がった。
 手にした紙をそのままにベッドに目をやると、先程の寝姿のままで目を開けて千石が笑っていた。
「寝てたんじゃないのか?」
 寝てたみたいだね、と言って起き上がり首を左右に捻りながら大きく伸びて、開いたままの本に栞を挟んで枕元になおした。
「最近さ、気がついたら落ちてることがあるんだけど、やっぱり薬じゃなかったら浅いみたいで、すぐに覚めるんだよね」

「いつからだ?」

「んー、起きたのは南がこの部屋に入って来たときかな?寝落ちするようになったのはここ2週間くらいからー」

 乱れた黒髪をさっと整えたあと、瞼を押さえて「うー」と短く唸り声を上げ、青い色のコンタクトレンズを目から取り出して空の薬のシートと一緒にベッドサイドのごみ箱に捨てる。
 そしてベッドから出るとグラスを掴んで背後までくると、
「リミリ」
 そう呟いて机の上の紙束を手に取って懐かしむように一枚づつ眺めて、そして最後の一枚の頃には頬を涙がつたった。

ミナミ/マサミ/キヨスミ

May 21 [Sun], 2006, 7:53

「またブドウなのか?去年と同じじゃないか」

「違うみたいだぞ、ほらヨーグルトインだって書いてある」

「まー、南はヨーグルト入ったって味の違いはわかんないだろうけどねー」

「南、味オンチなのか?」

キヨスミ/ミナミ/マサミ

May 06 [Sat], 2006, 18:56

「じゃーん!今年はベリーだって!」

「これは流石に南でもわかるだろ」

「馬鹿にしてんだろ!苺にブルーベリーにカシスに木苺じゃないか」

「き、きいちご…!さすがです地味部長!」

「はぁ?!」

「お洒落じゃないぞ、南。木苺はラズベリーっていうんだよ」


わーい、ルックの新作が出ましたよー。去年今頃に葡萄4種が出ててさすがに私も赤と白の区別しかできませんでしたが、今回はバッチリですね。
それにしてもルックのアラモードってお得で好きよ☆今まででヒットだったのはナッツと和風です。

睡蓮の部屋

April 27 [Thu], 2006, 8:05
「せんごくいるかー?」

 仕事明けに帰り道沿いのスーパーで良い海老を手に入れたから一緒に晩飯でもどうだと言う口実を手に入れて、千石の家を訪れてみたらいつもと違う玄関が出迎えてくれた。
 たたきの先、リビングまでの廊下に一つだけある、今まで一度も開いたことのなかった扉が少し空いていた。
「千石、いないのか?おーい」
 何度呼んでも返事が返らない。遠くまで響く呼び声は狭い廊下に反響してあの日の記憶を呼び起こす。
 嫌な予感が背中をすっと撫で上げて、肌がざわざわと立ち上がる。靴を脱ぐのももどかしく、なにもかも取り敢えず上がり込むとまずはリビングの扉を開けた。
「千石!」
 と叫んだ声は一度きり四方の壁にぶつかって、わん、と鳴り掻き消える。
 リビングの照明が着いていない。闇でも進める知り尽くしたリビングを突っ切ってバスルームと寝室を覗くが無人だった。
「千石ー?」
 そして確信と緊張を持ってリビングを後にし、初めて踏み入れる部屋のドアノブを掴んでそっと引いた。

 ほの赤い電球の光が暖かく燈る部屋はボルドーの古めかしい西洋家具とアジアの雑貨がうまく配置された落ち着いた部屋で、千石はその真ん中の白いシーツのベッドで静かに眠っていた。
 ベッドサイドにはやはり薬のシートとグラスがあり、枕の脇には小説が臥せられている。
 起こさないように出ていこうと思ったが、初めて見た部屋に好奇心が掻き立てられた。
 おそらくここはリミの部屋だろう。机の上には殴り書きやら彩色されたタトゥーのデザインが散らばっている。
 唯一窓のない部屋のまるで窓がわりに額に入ったモネのスイレンのリトグラフがあって、その隣に木彫りの小さな鳥が二羽飛んでいる。
 千石の眠るベッドの向いに机と同じ色の6段の本棚があり、本棚には無節操な色の背表紙が並んでいる。今は4段目の終わり際に空洞があり、たぶんそれが千石が読みかけている小説の在った場所なんだろう。
 本棚の裏側にはドレッサーと洋服箪笥。脇には観葉植物があり、みずみずしい葉を長く延ばしている。
 ちょうどその反対側に紙が散らばった机がある。埃がないことを見ると千石が定期的に掃除をしていることが伺える。住人がいなくなって久しい部屋は今でも当時のそのままを保っているのだろう。
 詰み重なった紙の山の一枚に見覚えのある色を見つけて、机の側に寄った。
 

愛は続く慈しみの心

April 27 [Thu], 2006, 7:58
 身体を重ねあうことと愛することは別のモノ。リミは裸の胸に手をあててそう言った。
 汗だくになって戯れた後の疲れた頭には内容半分だったけれど、リミはセックスとは対話と同じ作用を持つものだ、それなら知り合った人とは全くもって問題なく出来ると言うような持論を話しだす。

「無茶苦茶言ってるなー。それならリミさんは今まで知り合いになった人なら誰とでもできるわけ?」
「お互いに知り合えればね」
「というと?」
 行為の後の気怠さを微塵も纏わずリミは早々にベッドから抜け出してに服を着ると、冷蔵庫のミネラルウォーターをベッドに持ってきて喉を潤す。
「解りあうよりはもう少し浅い感じで」
「解んないなー」
 微妙なニュアンスを汲み取るも、リミの持論に納得出来ずに頭を抱えると、リミはそれを見てライトな笑い声をあげた。
「ほら、それだ。私のことを解らなくてもいいの。私もキヨスミくんのことはよく解らないもん。それでも私たちは知り合えているでしょう」
「そうだけどさー」
「だから私はキミと話すし、できる」
「特別な感情はなくても平気?」
「特別な感情?それなら相手に対する好奇心と慈しみの心よ」
「慈しみ…?それって好きだとか愛してるから生まれるんじゃないの?」
「私は違う、愛するから慈しみが生まれるんじゃないの。慈しむ心を持続できることを愛するというのよ。
さあ、そうしたらセックスするのに必要なのは果たして愛かしら?」

 歌声のようなリミの言葉は、怠惰な身体に催眠のように滑り込み、心の隅に落ちて潤う。

 愛は、続く慈しみの心。

 この時考えていたことと言えば、リミが今散々語っていた本題じゃなくて、この人の愛を得た男が唯一ではなくなる方法だった。

ずっと昔に書きかけたハピバ水谷のさわり

March 19 [Sun], 2006, 8:16
「玉ねぎ入りのミックスベジタブルとベーコンと缶詰のアサリがあればいいよ。普通の野菜だと高いからねー。ほうれん草248円とかホントにないなー。って、水谷聞いてる?」

「え?ああ、ゴメン」

 聞いてませんでした。だってなんだかとっても落ち着かないんですよ。

 今年の初練習の後、近くのスーパーに寄って買い物をしているんだけど、慣れた風にカゴの中にじゃがいもの袋を入れる栄口の横で何をしていいか解らずただキョロキョロと挙動不振なオレ。
 カートのキャスターの振動が、なのか、カートを押して野菜売り場を回るのが初めてだからか、なのか、手がとってもくすぐったい。いや、手だけじゃない、尻と脚の境目とか、とにかく体中がむずむずして落ち着かない。

だって栄口と買い物だよ。しかも2人で!
舞い上がりたいけど、スーパーじゃ無理。高校生、男二人、しかも半分だけユニフォームだし。
相当目立っちゃうもんね。

というわけで慣れない買い物の緊張と押し殺したテンションが身体のなかであっちこっちしているから、どうにも落ち着かなくて。

「パンにする?ご飯にする?」
「え、あ、こ、コメがいいかな?」

せっかく二人きりなのに上の空。

「しかし誕生日に一人とか不憫だねーキミも」
「仕方ないじゃん、俺だって温泉行きたかったよ。毎年楽しみにしてんのにさぁ!刺身!カニ!ニク!」
毎年三が日は働いて四日から連休を取る父親に合わせて家族で温泉が慣わしな水谷家。今年は半ば主役の長男が野球部の練習のため不参加となってしまった。
『オレが行かないのに、皆は行くの?』
『文貴一人のために皆が楽しみ取やめるの?』
『オレ誕生日なのに!』
『文貴も高校生なんだから3日くらい一人で乗り切ってみなさいよ』
母と姉にそう押し切られ見事留守番となってしまった。
本当は練習を休むことも考えたりしたのだが、ただでさえカツカツの西浦野球部、欠員が1人でもでると練習メニューに差し障るし、しかも最近着々と力をつけ始めている西広にレフトを奪われてしまう恐れもあった。

「一緒に行ってもよかったんじゃないの?モモカンならなんだかんだ言って許してくれそうな気もするけどなぁ…」
「いや、そうかな?とも思ったんだけど、やっぱ、練習3日休むとカンが鈍るというか。体が鈍るというか」

しかも、会えなくなるじゃない。君に。

ミズサカ、中途半端。

November 05 [Sat], 2005, 22:40
 
ダッシュした後の心臓ってたまに胸からはみ出してるんじゃないかと思うほどドキドキしてて気持ち悪い。
 調わない息を世話しなく吐き出して、こめかみから土に落ちて染みる汗を見送る。渇いた砂に茶色の水玉がぼつりぼつり。おまけにだらし無く開いた口からよだれが垂れそうになって慌てて拭う。

「水谷!あと2本!準備して」
 ぐったりした背中に容赦ない声。先にメニューをこなした栄口が秒毎に手を打ち鳴らす。
「5!4!3!2!1!」
「元気だ、ねぇ…」

 小さい細い身体のどこにパワーとスタミナが詰まっているのか教えてほしい。
 先にダッシュ20本終わった組の田島と笑いながら手を叩いている。
「みはしー!ラストー!2!1!」

 横目で見る余裕もないけど、気になるものは気になる。
 栄口ってスゴイなぁ…。

 野球うまいのは勿論だけど、ガタイそんなにデカくないのにハードなトレーニングのあともグロッキーなところとかあんまり見ない。
 いつも笑ってるし、回りの面倒もよくみてるし。
 さらに練習遅くまであるのに朝早く起きて、ご飯当番の日は支度して、それで早朝練に間に合ってる。しかもたまに1番乗りだったりしてる。家から学校まで40分もかかるのに!

「みずたにー!ラストー!…2!1!」
 ぱぁんと乾いた掌が鳴って、最後は渾身の踏み込みでスタートした。

 栄口って、すごい。
 本当に、すごい。

 ゴールラインでへたりこんだ目の前に、水のコップとクエン酸を差して、おつかれ。と、また笑った。

 これはオレが栄口を好きになる、ほんの直前の話。

何が言いたいの?今宮さん?書きなぐりなだけですやん。中身なし(笑)

つきまとう、香。

August 09 [Tue], 2005, 20:20
閉じ込めて、籠から出さないでと祈るのに、解き放たれた迷える鳥。

どこにも行けずに思い出すのは、つきまとうブルーの香り。
P R
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