指塚

October 29 [Tue], 2013, 22:57

十月とはいえ、夜は冷えますね。

暑さに比べれば寒さは耐えることが出来ますが、それでも今夜は冷え冷えとした空気に帰宅を促されました。

その帰路で、私は変わったものを見掛けたのです。

アスファルトの地面が裂けた丁度その割れ目に、それはありました。多少の段差を感じる程度の目立たないヒビですが、それはびっしりとヒビを埋め尽くしているのです。遠目に見て、何かと思い近寄ってみて、私は危うく叫んでしまうところでした。そこにあったのは無数の親指です。誰のものとも知れぬ無数の親指が地面に埋まっているのです。女性のものと思われる華奢なものから、皮の分厚いものまで、一体全部でいくつあるでしょう。なんて趣味の悪い悪戯だと吐き気を催してふと気付きました。この親指はいつからここにあったのだろう、と。路地とはいえ、こうこうとした街灯がその指を照らすのですから、随分前からあったなら誰かが気付いていてもおかしくないはず。恐る恐るそれの一つを指でつついてみると、見かけ騙しのおもちゃの様に皮膚の感触を感じませんでした。私は若干の恐怖が払拭され、今度は持ち上げてそれをよく観察いたしましたところ、どうやら切り口が細い糸で縫合され、血は丁寧に抜き取られている様です。ここまでくるともう興味が私を動かします。指を取り出しては右手のものと左手のもの、その個数を数えます。するとどうでしょうか、指はほぼ全て右手のものなのです。血色がなく、精巧な作り物じみた無数の親指に私は美しいとさえ感じました。大量の指を道端で掘り返して、ふと気付きました。先程までまごう事なく見えてみたはずのアスファルトの裂け目なのに、とてもそうは見えません。何か、口を開けた大きな生き物の口腔内のように感じました。違和感に駆られ、急いで指を裂け目に詰め込み、あわてて自宅まで行き、ポケットから玄関扉の鍵を取り出すと、何かが落ちる音がしました。拾おうと腰を屈め、そこを見ると、落ちたのは子供の親指でした。私は恐ろしくなり、けれど同時に使命感に襲われて先程の路地に指を返しに行きました。けれど、何故かその場所に穴は見つかりません。発汗を感じつつ、掌に握った子供の指を地面にそっと置きました。すると指からはみるみるうちに羽根が生え、触角が現れました。そして爪が淡い光を放ったところで私はそれが蛍だと認識しました。蛍はふわりと羽根を広げ、闇夜に消えました。

こんな話、恐らく貴方は信じないでしょう。けれど、あの路地には確かに蛍に生まれ変わる親指の詰まった穴があるのです。

しかし私はもう二度とあの路地を歩く気にはなれまけん。あの時そこに見えた大きな生き物の口が、今度こそ私をゴクリと飲み込む気がしてならないからです。
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