SKY SNOW  −第一章−A 

November 16 [Thu], 2006, 0:50

 −その少し前− 

 
とあるマンションの一室。 人気のない室内には微かに何かの焼ける音と、食欲をそそるにおいが充満していた。 音と匂いの元は同じ。キッチンでエプロンを紐できちんと止めず、だらしなく背に垂らした人物の手元。 肩には何かのしっぽのように、無造作に縛られた黒髪がかかっていた。器用に手元で良い音を立てるフライパンを操り、 頃合いをみる。
「ん、こんなもんか」
 一人満足げな笑みを浮かべ、呟く。言うなり食器棚から大きめのお皿を出し、 その上にフライパンをひっくり返す。心地よい重さが移動したのを確認し、フライパンを置く。空いた手に、 横に置いてある湯気立つ黄色い物体を持つ。両手に黄色い物体の乗った皿を持ち、 ウェイトレスのように慣れた手つきでダイニングのテーブルへと置いた。お箸ではなくスプーンを用意し、 お皿の横に据える。「よし」と頷き、リビングも兼ねているダイニングの入り口へと目を向ける。 暫く見つめた後、意を決したように息を吸った。
っ!起きろ!」
ビリ、と部屋に響く大声。だが、部屋に変調を来たす様子はない。 溜め息を吐き、エプロンを外して椅子の背にかけ、ドアの取っ手に手を伸ばす。と、
「呼ばれて飛び出てじゃじゃんがじゃ〜ん♪」
「っ!」
何かが壊れるようなけたたましい音とともに開いたドアから、摩訶不思議なモノが聞こえた。そして、その音に隠れるように何かにぶつかる音も。が、入ってきた人物は聞えなかったのか気にした様子もなくダイニングへと入ろうとする。その足元に蹲っているモノさえ踏みつけて。その気配を察知したのか、蹲っていた人は頭を抑えながら顔をあげた。その目には透明な液体が溜まっていた。
「杏!」
「ん?あれ、圭ちゃん。どしたの?」
「どしたの、じゃないだろ!」
「可哀相に泣いちゃって。誰かにいじめられたの?情けない」
「泣いてないし、いじめたとしたらお前だ、お前っ!」
「なぁんだ。お姉様に可愛がられただけか。よかったネ」
「どこがだ!」
 痛みに顔を歪めて叫んだ足元の人に今気付いたのか、杏と呼ばれた人は片足が直角に曲がったまま宙で固まった。 どうやら、スキップでダイニングへ入ろうとしていたらしい。涙目で抗議する蹲っている人、 圭は青筋を浮かべながらなんとか立ち上がる。だが、怒鳴れた当人である杏はにこやかに冗談か本気かわからな い事を言いのけている。
 肩にかからない程度で綺麗に切り揃えられた茶色い髪を揺らし笑っている杏の表情に嫌味はない。 寧ろ、微笑み一つで大抵の男は騙せるだろう。しかし、杏の傍若無人ぶりを知り過ぎている圭にしてみれば、 嫌味以外のなにものでもなかった。
睨みつける圭に「よかったねー」と神経を逆撫でするような言葉を吐きながら 、嬉しそうに微笑む。その顔立ちは綺麗というよりは可愛い部類に入るだろう。
杏の笑みを見て、口を一文字に結び何もいえないでいる圭。 杏は撫でるのを止め、自分の頬に手をあてると、小首を傾げた。
「で。ソレ、新しい遊び?」
「何でそうなるんだ!?」
「違うの?」
「お前を起こしに行こうとしたんだよ!」
「起きてるのに?」
「起きてるんだったら、呼んだの聞えただろ!?返事くらししろ!」
「あら。起きてたら返事しなきゃダメって言う法律はないわよ」
「そういう問題じゃないっ!」
「じゃあ、どういう問題?」
 不思議そうに問う杏に叫ぶ圭。ぎゃあぎゃあ喚く圭と、 穏やかに意地悪い笑みを浮かべて問い続ける杏。その内抵抗するのは無駄だと悟ったのか、 圭は大きな溜め息を吐くと踵を返して素っ気無く言い放つ。
「飯」
「はぁ〜い♪今日のご飯は何かな〜」
 圭の言葉に気を悪くするでもなく、嬉しそうに微笑み圭の背に飛び掛る。 圭よりも頭一つ分ほど小さな杏はそのまま圭の背にぶら下がったままダイニングへと引き摺られて入る。 テーブルにおいてある皿を見るなり、杏は圭そっちのけで食卓に座りスプーンを握りしめていた。 「オムライスー!」と嬉しげに叫ぶのをぼんやり見ていた圭は、思わず笑う。
 圭と杏は二人兄弟で、本来は圭の方が弟。つまり年下なのだが、どうしても杏の方が幼く見える。 言動や行動のせいかも知れないが、身長と顔立ちも原因であろう。高校生である圭より幼く見えると言うことは、 中学生くらいに見えるということ。ずっと一緒に暮らしてきた圭でも思うのだから、 他人がそう思うのは仕方ない事のかもしれない。そして、生まれた時から一緒の杏にどうしても圭は逆らえない。 と言うより、逆らうつもりがない。言い争うこともあるが、ほとんど杏の冗談に圭が遊ばれているだけなのだ。 それに圭には杏に逆らう理由が見付からなかった。そういう考えがあるからか、圭は物心ついた頃からの記憶を辿っても、 本気で杏と喧嘩した覚えなどなかった。


SKY SNOW  −第一章−@ 

October 29 [Sun], 2006, 1:01

―― 地上 2×××年 日本 ――

 ここは日本のとある路地。暮れなずむ夕日に照らされ、路地には長細い人影が伸びていた。今は冬真っ盛り。日が暮れるのが早いため、いちいち時刻を腕にはめたアナログ式腕時計で確かめなくてはならなかった。道に影を落とす人物も例外ではないらしく、長く黒い影が腕と思われる黒い部分を、これまた顔を思われる場所へと近づけ離した。くるり、と横を向いた人物と影。その頭の部分から、犬のしっぽのようなものが生えていた。それを軽く弄ると、影の本体は再び重い足取りで一人歩き始めた。
 背は170かそこらへん。歩く度に頭のしっぽが僅かに揺れる。温かそうなコートにジーンズ。かなり着込んでいるにも関わらず、あまり贅肉や筋肉がなさそうな体躯に、長身があいまってひょろりとしたイメージを抱く。胴と同じように伸びた手には何処かのスーパーの袋が引っ掛かってた。
再び腕時計で時間を確かめる。時刻は7時過ぎ。夕食時と言っていいだろう。それを証明するかの如く、路地には色々な匂いが漂っていた。交じり合い、もう何の料理かわからないのも多い。その匂いの中を泳ぐように歩きつづける。知れず、溜め息が漏れた。
「はぁー…」
 流石にこれくらいの時間になると子どもはいないようで、吐き出された息は静かな路地に妙に響いた。虚しさがこみ上げる。誤魔化すかのように、コートの襟辺りをかきあわせ少しの風も入らないよう手で握る。冷えた手に息を吹きかける。一瞬白い吐息が手にあたりじわり、と冷たさを忘れさせてくれる。が、それはすぐに冬の冷たさに飲み込まれる。再び溜め息を深く吐く。そして、手にぶら下がった袋を少し持ち上げて見つめる。否、睨む。袋は入っているものの水滴で中が透けて見えた。中には赤い物体が入っていた。と言っても、トマトではない。それに似て非なるドロドロした液体だ。世間の誰もが知っている、その名をケチャップと言う。
「なんで俺が……はぁ」
 本日、何度目かわからない溜め息を吐く。溜め息を吐くごとに幸せが減る、という噂を聞いたことがある。それが本当なら、この人物の幸せはすでに皆無であろう。そして、なくなった分はため息を吐かせた人物へと吸い取られていくという理不尽なことになっているのだろう。

SKY SNOW −序章− 

October 24 [Tue], 2006, 21:37

 むかしむかし。

互いに愛し合い結ばれた夫婦が居た。
二人は幸せそうに微笑み合い、寄り添い合い、翼を触れ合わせ、平和な日々を送っていた。

 そんな二人にある日、男と女の子どもが生まれた。
それは『ツガイ』と呼ばれる天界ではとても珍しい双子だった。
それも、その子ども達は漆黒の綺麗な髪と炎よりも紅いルビーのような赤い瞳。
周りは奇異と好奇の目で見たが、二人はその子ども達をそれはそれは大切に愛し育てた。

 しかし、その時は刻々と迫っていた。

 子どもが五歳を迎えた頃。天界にある異変が起こった。
天界は空の上にあるため、雨や雷に見舞われる事もなく、いつでも晴れ。
雲畑に植えられた作物もよく育ち、天界は平穏は日々を送っていた。
それがある日突然。
黒い暗雲が天界を覆い、昼間でも夕方のような薄暗さ。
作物は枯れ、天界人達は初めて起こった事態に不安を抱き、神の住まう城へと押し寄せた。
神託を求める天界人へ神は一言、厳かな口調で告げた。

――ツガイを探すがよい。

 天界人達は疑問に思いながらもその御言葉に従うことにした。
だが、ツガイなど探さずとも天界には一組しかいない。
同性の双子は『ツガイ』とは呼ばないからだ。

 大勢の民を代表して神官と数人のウィザード・ディプティとウォッチャーがツガイの家を訪れた。


 そして、見つけた。
庭にいたツガイを。黒髪を揺らして微笑む二人の視線の先に黒い影を。

 そして、気付いた。
天界人に必ずあるはずの双翼が右と左の片翼ずつしかないことを。

 そして、理解した。
黒い影が天界人と相反する『悪魔』の眷属であることを。

 そして、決断した。
それが全ての諸悪の根源なら、そうなる前にツガイの片方を堕とそうと。

 そして、安堵した。
子ども一人いなくなるだけで、天界を守れるのだと。


 それ以来。
ツガイが生まれると、五歳の誕生日を迎える前にどちらかの子どもを地上へと落とす事が天界での暗黙のルールとなった。
それもすべて、天界を守るためなのだ、と。

 そのルールが守られつづける中、再び天界にツガイが生まれてもうすぐ五年………

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