さいしょ 

April 03 [Thu], 2008, 11:13
はじめまして。この時間だと…こんにちは?になるのかな。
ごめんね、この世界の時間にはまだ慣れてなくて。
ボクは漆黒の堕天使。本名はマテリアル・ブラウニーだ。
今はわけあって別の名前を名乗ってるけどね。
今日はとりあえず、ボクがこの世界にきた事情を説明しよう。

ボクは、もともとは天界にいた。
天界っていうのは…そうだな。
下界―君たちの世界だ―の人々の言葉を借りるなら、"天使"たちがいる場所だ。
その中でも王族の第一子として産まれたボクは、産まれつきとても"力"が強かった。
周りの大人たちが褒めずとも、ボクはそのことに気付いていただろう。

ある日、ボクのところに遣いが来た。
今まで見たこともない真っ黒な鴉のような羽根をはばたかせ、ソイツはゆっくりと降り立った…。
「そなたが、マテリアルか」
体に響く、低い声。
「あなたは誰です?」
「わしか?わしは…フ、フフフククククク…はっはははははは!!!」
「何がおかしい!」
「フ、すまない。本当に知らぬのかと思ってな…ククク…無知なものよ…」
「なっ……!」
そいつの言おうとしていることはわからなかったが、1つだけわかったことがある。
それはボクがバカにされているということ。
ボクが攻撃を仕掛けるには十分過ぎる理由だった。
「おのれ…!くらえ!聖天幽雪(ヘブンズゴーストブリザード)!!!!!!」
ボクはその時にマスターしていた最強の技を放った。
しかし………
「フッ…この程度か……?」
「なん…だと…!?」
それは、ヤツが抜いた剣によりあっさりと消し去られてしまったのだ。
「貴様…ッ!」
もう一度、そう思った時、背後に何者かの気配を感じた。
振り向くと、そこには険しい顔をした父様が立っていた。
こんな表情…見たことない。
「父様…」
「何をしている」
「あ、あの、ボク…」
「お前ではない」
「え?」
父様の視線を追うと、それはボクよりさらに向こうを見ている。
つまり、あの…謎の男。
「クククククククククク……久しいのう」
チッ、としたうちが聞こえたと思うと、もうすでに父様はそこにいなかった。
振り向くと同時に、キン、と刀のぶつかる音がする。
「何をしに来た!お前は…お前は…!また俺の大事なものを奪いにきたとでもいうのか!!!今度はそうはさせない!!!!!俺は必ず、この子を守って……ッッッ!!!!!!!!!!」
一瞬、父様がやられたかと思った。
しかしそれは錯覚で、かすり傷を負っただけの父様は謎の男と距離をとった。
ボクの前に刀を突き刺し、まるでボクを守るかのように。
「フフフフフハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!!!!貴様に何が守れる!!!!弱きものが謳う正義など無に等しい!!!お前は守れん!!!また失うのだ!!!!あの時のようにな!!!!!!!!ハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!!!!!」
謎の男はそう言うと、歪んだ空間の中に消えていった。
ホッと一息つくと、父様がガクンと膝をつく。
「父様!?大丈夫ですか、父様!」
あわてて駆け寄ると、父様は強引にボクを抱きしめた。
「わ……」
「………すまない…」
「父…様……?」
何も聞けなかった。
父様の声が、震えていた。
しばらくそのままでいると、父様はボクをはなして立ち上がった。
ポン、と頭に手を載せ、もう一度「すまない」というと、そのまま何所かへ行ってしまった。

「…なんだったんだろう……あいつ…」
父様と知り合いみたいだった。
前にもあったことがある、そんな会話をしていた。
また守れない、と。
他にも何か、何か……
「あっ…あれ……!」
あいつの背中にあった鴉のような羽根、あれは教科書で見たものと同じだ。
確か数年前に、なんだっけ、えぇと…
あぁもう、こんなことならもっと勉強しておくんだった!
ごちゃごちゃの頭の中を必死にかき回す。
どろどろの塊に、片手が触れる。
カチン、と鍵が開く音がする。
「……ッ、あ…、」
そうだ、あれは…

悪魔だ。


---
それから数日が過ぎたが、ボクはあの出来事を忘れてはいなかった。
強くなりたい――その一心で、ボクは必死に稽古に挑んだ。
今のボクの最強の技が通用しなかった。
それは衝撃的な事実としてボクを打ちのめしていた。
いつかまた会うときがあるのなら今度は必ずやっつける。

稽古が終わり、庭で大木を相手に自主稽古をしていたときだった。
空間を響かせ、神王様の声が響いた。
嫌な予感がする。
この世界は大きく5つに分かれていると前に教わった。
その最頂点が神界で、そこを納める長が神王様だ。
ボクの父様、天王の次に高い身分。
その新王様が、なぜ……
不審に思っていると、その声はさらに話し出した。
きっとこれは全天界に響いているのだろう。
そんなことを考えていると、話の大部分を聞き逃していた。
とっさに耳を傾けるとそれはもう終わるところだったらしく、最後の一言だけを聞き取るのがやっとだった。
「……というわけで、天界と魔界は併合することとなった。以上」
な、なんだって…!?
天界と魔界が併合!?そんなことできるはずがない!天界は魔界を納めるのが仕事だ。それをどうして…
カラン、と手にもった剣が落ちる音がした。
「マテリアル」
「父様…」
いつの間にかそばにいた父様の両目は形容しがたい色に輝いており、それが王家に伝わる"邪神"だということは知っていた。
その力で魔界を封じているのだということも。
今の状態は、それの戦闘態勢を意味する。
「マテリアル、今の話をどう思う」
「え、どうって…」
「素直に答えなさい」
「おかしい…と、思います…だって、こんな…」
一瞬、怒られるかと思った。
だがそれは杞憂で、父様の手が頭にのる。
「そうだ。それでいい」
「父様、父様はどうするおつもりですか?」
聞かずともわかっていた。
人一倍正義感の強い父様のことだ。
相手がなんであろうと戦うつもりなんだろう。
しかし父様は答えず、薄く笑った。
「俺一人では…きっと返り討ちにあうだけだろうな」
「ボクも父様と行きます!ボクも戦える!!」
「だめだ」
「どうして…!」
父様は相変わらず笑顔のまま、そっと自分の右眼に手を添えた。
「お前は時を待て。必ずチャンスは訪れる」
「っ……父様…!!!!!」

一瞬の間に、すべてを見た気がした。
自分の右眼に宿った邪神の力。
神王様に立ち向かい、誇らしげに散った父様の姿。
そして、堕ちていく、自分。

そのまま意識は途切れて、ボクは天界を"追放"された。
天界を救うという大命を受けて。



---
ちょっと昔話が長くなったね。
まぁ、こういう経緯を経てボクは今ここにいる。
このあとのお話は…また今度。