仲代達矢 

2008年04月18日(金) 3時00分
専属契約を結ばず】

 あなたはドン・キホーテですか?


 「私はそう思ってませんが」


 でも…。


 「多少現実離れしたところがある。自分のやりたいことに頑固。自分が描いたイメージにこだわる」


 騎士になりきり、夢と理想を求めて破天荒な旅を重ねる「ドン・キホーテ」の舞台を昨年9月から全国で続けている。全133回の公演は折り返し点を越えた。


 中学時代に敗戦を迎えた。食うにも困る貧しさのなか、3食を1食に減らし、戦後大量に流入した欧米映画を見た。「こういう世界がある。こういう人間がいる」。生き方を映画で学んだ。騎士道物語を読みふけったキホーテのように。


 新劇俳優になった動機はキホーテとは違う。食うためだ。時は映画黄金時代。ほどなくして主役に抜擢(ばってき)された。だが、当時の業界の常識に背を向け、どの映画会社とも専属契約を結ばなかった。自分のイメージと違う台本だと平気で断った。


 「専属になって金をもらうと恩を返さなければいけなくなると思った」。キホーテも劇中、心ならず受けた恩は返さねばと苦悩する。


 結局、「器用じゃないから」と1年を2分割し、前半は映画、後半は舞台と仕事を割り切った。映画の主役話があっても下半期は舞台で通行人を演じた。


【演劇や映画に力を】


 騎士に決闘はつきものだ。若いころは三船敏郎や中村錦之助、三國連太郎らと、しばしばけんかした。いずれも演技論の違いがきっかけ。「若気の過ち」と言いつつも、「理想とか夢とか、若い情熱ってもんはあっていい。脚本家組合のストに賛同してゴールデン・グローブ賞授賞式の出席をとりやめる米国俳優は立派だね。俳優は主張がないと」。ギョロリと目を光らせた。


 キホーテは騎士道精神の衰退を嘆く。同様に、テレビからドラマが減り、バラエティー番組全盛のいま、「役者はどこにいったらいいんだ」と憂う。「でも、テレビってそんなもんですよ。だから、演劇や映画が力を強くしなきゃ。劇場に足を運んでもらって、暗くなり開幕ベルが鳴って、さあ始まるぞ! って。すてきですよね」


 「いい役者を育てたい」と40代で「無名塾」を立ち上げ、役所広司や益岡徹ら多数の俳優を育てた。それから30年。なのに、いまも「自分の演技に自信がない」という。


 「『もう少しうまくやんなきゃ』って、いまも思う。毎日やっても『まだ足りない』とね。自分の狙った理想はなかなかできない。欲求不満のまま死んでいくんじゃないかな」


 キホーテのように?


【役者は夢を食う虫】


 劇の最後、キホーテは夢破れ、死の床に就き、「自分は騎士のふりをしていただけ」と友人らに謝罪する。そして「ウソ八百のデタラメどもは風前のともしびだ」と一気に言って息を引き取る。


 「ウソ、デタラメがはびこる。人間社会はそういうもんだと思う。くだらない世の中をよくしようと夢にかけ、最後に本音を吐く。俳優・仲代達矢はこの言葉を最高に気に入っているよ」


 俳優・仲代達矢自身の最後はどうなのか?


 「役者ってのは頭のてっぺんからつま先まででやる商売だからね。体が言うことを聞かないとどうにもならない。あと数年だよ。いまはフィナーレをどう飾るか、という心境」


 どこまでがドン・キホーテの話で、どこまで仲代達矢の話なのか? 戸惑う記者の顔を見て「まあ、役者なんて夢を食う虫だから」とニヤリ。


 「だって騎士になったつもりのドン・キホーテになったつもりになるんですよ。変な商売です、役者って」
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