小学生のある女の子は
当時話題になった吉本ばななのキッチンを読んでからというもの、他のばなな作品を読みあさり続けました。
他の著者のものは数行で飽きたり意味不明でついていけなくなっても
吉本ばななの文章だけは自然と頭に入ってきたから最後まで読むことができた。
である、と言い切る文章の書き方をそのまま自分の作文に真似したし、
直感を信じて突き進むことや言葉にしなくても通じ合うことを美徳とするようになった。
そしてその女の子は
父親に連れて行ってもらった、
下町に一軒だけある
CDレンタルショップ「ノア」で
リンドバーグの「恋をしようよ!イエーイエー」を借りようとしたら
父親が横から
「こっちにしとけよ」と
ドリカムの「晴れたらいいね」を差し出した。
女の子は自分が借りたかった曲のタイトルが、小学生の女の子どもを持つ父親にとっては不安を与えるようなものだったんだと初めて気付いて
言いようのない恥ずかしさでたまらなくなった。
それでも、家に帰って聞いた初めてのドリカムには
一瞬で取り付かれた。
何度も何度もエンドレス。他のCDを自分で借りてはテープに落とし、
完コピをし、
(頭の中には、あらゆる単語から、その言葉が入っているドリカム曲がヒットするさくいん機能が出来上がっていた)
当時珍しく日本人アーティストがネイティブ並に英語を話すことに衝撃を受け英語に興味を持ち始め、
毎週日曜日のFM番組「中村正人のサンデーネットワーク」は毎週欠かさず録音した。
そして自分はまるで吉田美和になったように錯覚を起こし
自分のことを「あっし」と呼び
眉毛を同じ形にしたくて失敗して酷い顔になり
音楽番組で見た自由奔放な雰囲気の仕草や喋り方を真似した。
何を勘違いしたのか、脈絡なく突然恋の告白をしては相手を驚かせた(戸惑わせた)。
思春期を迎える頃、その子の脳みそは吉本ばななと吉田美和で出来ていた。
その後江國香織も加わって、気分や思いつきを大事にすることを美徳とする癖を身につけた。
自分がまるで江國香織になったような錯覚を起こした。
夜中の散歩や
一人旅や
朝早くパンを買いに行きたいと思ったり
夜、野外でサイダーを飲んで、飛沫をあごに受けながら「水、という感じがする」と思ったり、してみたい、と
始終考えている大人になった。