取り敢えず、だ(白石誕・蔵謙蔵)

April 14 [Wed], 2010, 20:07

取り敢えず、と言ったところで結局何が出来るかと言えば実は何もできなかったりする。
けれど何か進みたかった、進めたかった、だからこその言葉であったのだ。
…結局何にもならず、謙也は一人溜息を吐いた。

「…………どないしよ」

それと言うのも明日は謙也にとっての親友…兼、恋人の誕生日。
祝うにしても、何をしたら良いのか、考えすぎるほどに考えてしまう結果、答えが出ないのだった。
昨年はまだ、二人は単なる親友だった。
その年の夏に、二人は偶然と言うか必然と言うか、流れと言うか…とにかく自然に恋人として付き合うことになった。
恋人になってからは当然、幾つかのイベントをこなしている。
正直男同士でそう言ったイベントはどうかと考えていた謙也も、恋人の白石があれやこれや、全てを先回って用意したりサプライズとして用意してくれていたりしていた結果、それらのイベントを結局のところ楽しんでいたのだった。
約一か月前には、自分の誕生日も祝って貰っている。
やっぱり家族と過ごす方が優先で(ここが子供の難しいところで)、部活の終わった後に仲のいいチームメイトにお祝いして貰ったその後の少しの時間だったけれど、二人きりで、大切な時間を過ごしたのだ。
そこまでして貰っていて、謙也が白石の誕生日を祝わないなどと言う選択肢は既にない。
けれど、悩んでしまう理由と言うのが当然存在する。
白石が何を望んでいるのか、それを謙也が誕生日の前日…つまりは今まで、ここ一カ月近く悩んでいると言うのに、未だ分からないことだ。
謙也が白石にして貰ったことを、それと同じ、それどころか望めるならそれ以上の事を返して、喜んで貰いたい。
与えて貰ってばかりの自分に危機感を覚えた、と言うのが正しいか。
とにかく、今謙也はとどのつまり、今まで並べ立てては見たが一言で言えば、困っている。

『何でも喜んでくれると思う』

などと友人に言われたけれど、それは確かにそうなのだろうけれど、謙也としてはそれに満足してはいけないと思っているのだった。
白石が自分にしてくれたことに、精一杯応えて返したい。
それが今気負ってしまっていて、答えの出ない原因になっているのに謙也は気付かない。

既に夜も遅くなっていて、いつもならばもう寝ている時間。
ベッドに横になって、枕を抱きしめて悩んでいれば眠気など襲ってこない。
時計を見れば、あと十分も経たずにその日が来てしまう。
答えの出ないまま迎えてしまうのかと、自分の情けなさに謙也は深い溜息を吐いた。


―――と、同時に、静まっていた部屋に軽快な着信音が鳴り響く。
謙也はそれにぎょっとして慌てて体を起こし、机の上に置いていた携帯を手に取った。
着信音は特別に設定してあるもので、それから、確認しなくても分かる表示には恋人の名前。
焦って震える指で、待たせてはいけないとそればかりが先走って、とにかく急いで通話ボタンを押した。

「も…もしもし…?」
『…あ、起きとった…?』
「あ、せや…その、寝れなくて…」

謙也は理由を口にしない。
流石に眠っていない理由が白石の所為だと、そう思われてしまっては不味いとの判断だったが、白石の反応は芳しくない。

『…アカンで、睡眠は大事なんやから。なんて、こんな時間に電話した俺が言うセリフやないけど』
「ああ、いや、全然構わへんで!…その、けど、何か連絡事項でもあるん?」

健康を第一とする、規則正しい生活を送る白石がこんな時間まで起きているのが謙也には意外だった。
だからそう問うたのだが、白石は困ったように笑うだけ。
それから違うのだと、小さな声で口にするのだった。

『あのな』
「…ん?」
『……多分やけど、謙也、起きてると思ってたんや。本当は』
「え」
『最近寝不足やったやろ?いつもより、少しやけどな、元気なかったやん』
「そ、そんなことは」
『嘘吐かんでええよ。…自惚れかもやけど、俺の所為やないかな、って』

白石の言葉は自信がなさそうに見えて、しかし言葉に力がこもっている。
それが間違っていないことを確信しているのだ。
何を言っても違うと一蹴される、そんな雰囲気に謙也は唾を飲み込む。

「そ、その」
『あ、謝ろうとしたやろ。アカンで』

その通り謝罪の言葉を口にしようとした謙也だが、それを先回りして阻止されては口を噤むしかない。

『謙也には、それより先に言うて貰いたいことがあるんや』
「言って貰いたいこと…?」
『時計、見てや』

白石のその言葉に謙也は時計を見る。
…短針が12を指していて、長針も、12からほんの少し、進んでいた。
既に今は前日ではなく、当日になっている。
となれば、白石の望む言葉は、そして今このような電話をしてきた理由は一つしかない。
それに導かれるように、謙也は携帯を持つ手に力を込めた。

「…誕生日、おめでとう……」
『……ん』

謙也が口にした『おめでとう』という言葉は、白石が今まで聞いたどんな声よりも、言葉よりも、優しいものだった。
嬉しくて、じんわりと心が温かくなる感覚に促されて出てきたのは小さく頷く声だけ。
嬉しさと幸せで胸が一杯など、月並みな言葉ではあるがまさに白石はその状態であった。

『おおきに、謙也』
「……アカン、また白石に先越された」

白石の礼に謙也が返した言葉は悔しそうなもので、けれど先ほどまでよりも確実にすっきりとしている。
それに気付いた白石は小さく笑みを零して、そんなことはないと、慰めでも何でもなく謙也の言葉を否定した。

『ちゃうで。…謙也がな、ずーっと悩んでたの、知ってるし。せやから、こうして電話を掛ける勇気が出来たんや。一番に祝って貰いたかったから、謙也が俺の誕生日の事で悩んで眠れないはずやってのを逆手に取らせて貰って…』
「何や、それ」
『謙也が先に俺に祝ってくれる気持ちを見せてくれとったからやで、って。…流石に俺から祝って、なんて言えへんかったし』

謙也がさんざん悩んで、今も悔しがるほどであった白石の誕生日。
先にアクションを起こしたのは白石ではあるが、それをさせたのは間違いなく謙也である。
これはこれで、十分に釣り合いが取れているのでは無いだろうか。

「俺が白石を喜ばせたかったのに…白石が俺を喜ばせてどうすんねん」
『俺はもう実は喜んでたんやで、もう一カ月近く前から』
「え」
『謙也が俺のことで頭を一杯にしとるの見て、ホンマ可愛くて、エクスタシーやってん』
「おま…っ…ああもう、ホンマに敵わへん…!」

声には笑みが乗っているが、その奥に本気の響きが覗いていたために謙也は思わず頬を熱くする。
ずっとばれていたのだと、いまさらながらに羞恥が襲ってきたのだ。が、既に今更の話。
悔しいのと恥ずかしいのと、その中で、謙也は一つだけ、白石を喜ばせる、そして同時に自分が白石にしたいことを思いついた。

「白石…はよ寝ぇや」
『え、もう?もうちょい話しても…』
「アカン。…そん代わり、明日はいつもよりはよ行くから」
『え、いつも結構ギリギリなんに…?』
「白石しか居らん時間に、行くから。…直接、顔見て、二人だけで祝わせてや」
『えっ』
「ほ、ほなおやすみ!」
『え、あ、お、おやすみ…?』

白石の動揺が引き出せたが、結局のところ謙也も照れているのだから、少し謙也の優勢気味の痛み分け。
おやすみとの挨拶が終われば謙也は通話を切って、携帯を枕元に放った。
目覚ましを二つ、いつもより早い時間にかけて電気を消す。
ベッドに横になれば、先ほどまでは全くなかった眠気が一気に襲ってきた。
眠りに攫われるその前に感じていたのは、幸せな気持ちと、朝になれば会えるのだと言う逸る気持ち。
眠って、起きて、会ったら最初におめでとうと言ってやるのだ。

そう考えて、口元に笑みを浮かべて、眠りにつく。
……今度は逆に白石が眠れなくなっていることを、謙也は知る由もない。

取り敢えず、だ。
結局のところは幸せな二人なのだった。


君は皆に愛されて。(1000HIT記念/涼さまへ)

May 19 [Tue], 2009, 23:10
「ケンヤぁ!今日、いつものおっちゃんとこ行きたい!」
「おっちゃん、て…タコ焼きのやろ?金ちゃん、小遣いヤバイんとちゃうか」
「うっ…せやけど、ワイ、食いたい…」
「我慢も必要やで。しかも買い食いなんかしたら怖い怖い毒手が…」
「い、いややー!」

いつもの光景。

「謙也さん、ダブルス…」
「ああ、ええよ?相手は誰や」
「バカップルです」
「きゃ、ケンヤくんと光ちゃんが相手してくれるなんて小春カ・ン・ゲ・キ!」
「浮気かぁ!謙也、オドレ小春を誘惑すな!」
「誰がや!」
「いやーん、アタシをめぐって争わないで〜」
「うっわ、キモいっすわ…」

これも。

「はぁ〜、疲れた…」
「謙也、ドリンク飲んどき。お前走り回って水分足りんやろ」
「あ、おおきにケンジロー。流石頼りになるわぁ」
「これが俺の役目やからな」
「はは、ケンジローのそーゆーとこが凄いんやて!めっちゃ格好ええよ」
「いやいや、無いて。せやけどおおきに、照れるわー」
「ホンマやのにな」

また、これも。


「銀!また光の奴が俺に喧嘩打ってくんねん!」
「ん…今度は何が原因や」
「俺がヘタレやって、後ろからめっちゃ言ってきて…何処がヘタレやっちゅー話や」
「ケンヤ、大丈夫や」
「…ん」
「光はんもな、ケンヤを気に入っとるのに素直や無い。それだけ」
「う…せやろか」
「はは、二人見ちょるとほのぼのすっとねぇ。可愛かぁ」
「お前のほのぼのには負けっ…ああ!頭撫でんな!」
「うんうん、可愛かよー」「ったく…しゃあない、なぁ」

これもこれも。


「おおい、ケンヤぁ!」

「何やねんでっかい声で」
「顧問からのお願いやで〜、プリント印刷と部員に配布するの手伝うて」
「可愛え振りしたって無駄や…っぁあ、拗ねるなやこの駄目大人…!」
「とか、言いながら付き合ってくれるんやろ…よし、優しい謙也クンには1コケシ…」
「やだ、オサムちゃんがケンヤくんにセクハラ!」
「な、肩抱いただけやで…!?」
「オサム先生、キモ…」
「変態が居るど、変態!」
「え、オサムちゃん変態なんかー」
「金太郎はん、それは心の内に納めとき」
「教育に悪いから、金太郎連れてくでー」
「先生が変態…危なかねぇ、気を付けとかんといけんばい」
「いや、ちゃうからな!…ああっ、謙也、笑っとらんで否定してー!」

ワイワイ、ガヤガヤ。謙也の周りにはいつも皆が集まって、囲まれて。
それがいつもの事やから、辛かったりする。
部長と言う肩書きの俺とは違うベクトルで、謙也そのものが、皆に愛されている。
俺には無いものを仰山持っとって、せやから…ひたすらに惹かれる。
じゃれ合うのを見て可愛えとも思う、せやけど理屈やない。
…いっそ告白とかしてしまいたい、けれど謙也の傍にずっと居たい。
答えが怖くて言えないんや。溜息。

「こら、白石!」
「え」
「え、ちゃうやろ…ほら助けろや!あ、こらこら千歳、お前悪気ゼロやから性質悪っ…」

せやけど一つだけ、他の奴らに一歩抜きん出とると言える事がある。
謙也は、どんな時でも…俺に頼ってくれるんや。
他の誰でもあらへん、俺に。

「しゃあないなぁ」

口元が緩む。
今は例えただの親友としての信頼だとしても、俺が一番謙也に近い。
それに優越感。

「誰にも…渡せんなぁ。…奪わせへんで」

今はまだこの関係でいい。
呟くのは、謙也の周りの人間全てへの…宣戦布告。



「ほら皆、謙也困らせたらアカンよ。オサムちゃんは幾らでもええけど」
「ああ、せやねぇ」
「せやな」
「しゃあないなぁ」
「え、何この扱い…」
「ああ、謙也。ちょっと部室の片付け手伝ってくれへん?」
「ええよ、白石の頼みやからな!」
「ええー…謙也までそんな素直な…」
「当たり前やん。…謙也は俺が好きやねんから、なぁ?」
「へっ!?ぁ、あ、う…うん…」
(…まさか、かなりの脈ありなんやろか…顔、赤い…)

成長とは、斯くも(白石誕/金蔵(未満))

April 16 [Thu], 2009, 22:30
やはり、男であるからには一度は女の子にプレゼントを貰いたいものである。
しかし、贅沢な悩みであるものの、数が多すぎても問題がある。
そう思わせる人物がここに居た。

「重…」

通う高校からの帰り道、徒歩圏内。
まだ明るい時間に帰るのは今だに違和感、部活に出られなかったのだから、白石のそれはまた格別である。
そして両の手に提げた紙袋は、中にギッシリと色とりどりな包みが詰まっている。
白石はそれらを投げ捨てたい気持ちに駆られるものの、それらのプレゼントの中には自分の名前が入っているものもあるのだ。
流石にそれは避けたい、変な意味で生真面目な白石はそう考えながら、一先ずずっしり重いその袋を置き手首を回す。
そして一つ息を吐き、再び持ち上げるべく手を掛けた。

「白石ーぃ!」
「え」

どんっ、と、背後から強い衝撃。
少し前ならば日常であったそれは、今では日常から離れていたためについ、ふらついた。
足に踏張りを利かせて体を支え、聞き覚えのあるその声の主を見やる。

「金ちゃん…」
「せやで!」
「部活あったんちゃうの」「やって、謙也に呼ばれてん!白石がピンチやから助けたれ、て」

腰に抱きついたままの金太郎は得意げに笑う。
白石はと言えばまたもやクラスメイトになった腐れ縁の親友の顔を思い浮べ、緩く首を振る。
新しく部長になった財前には悪い事をした、そこまで思いながらもわざわざ来てくれたことが嬉しくて仕方がないのだ。

「財前、怒らんかった?」
「んー、何や良うわからんけどなぁ、貸し一とか言うとったで」
「…ああ」

それを聞いて白石は心の中で合掌する。
そして、ふと思い出したのは包帯を巻いていない左手。
さり気なくそれを隠し、逆の手で金太郎の頭を撫でる。
金太郎は嬉しそうに笑った。

「せや、ちょお待って!」
くるくる表情が変わる。
白石の腰から腕を離し、金太郎は持っていた袋に手を突っ込んだ。
何かを探し始めた金太郎の頭を見下ろして、そして違和感。

(大きゅうなった)

それは間違いなく、確実に。
たった少し会わなくなっただけで感じた変化。
もしかしたら中学にまだ居た時にもあった変化、しかし、気付こうとしなかった己に白石は愕然とした。

「金ちゃん、あのな…」
「あったー!」

問おうとした声は掻き消された。
学年が上がったというのに変わりの無い様に白石はほっと息を吐く。
そして差し出された包み。

「これな、財前とワイからや!ワイな、白石が好きやから祝いたかったん」
「…おおきに…」
「写真立てなんやで」

にこにこと笑う金太郎、差し出されたそれを受け取れば更に嬉しそうな様を見せる。

「そんでな、白石が大変やって言うなら手伝うたる。それ、持てばええ?」
「あ、ああ」
「重いもんとか、ワイ、頭は良う無いから、そんなんやったら手伝いにくるから言うてな!」

白石には重かったその紙袋を軽々と持ち上げる。
先に立って少し歩いてから、金太郎は振り返った。

「白石、行こ!」

眩しいくらいのその姿を目を細めて見つめ、白石は金太郎の横に立つ。
そうしてまた、その頭にそっと手を置いた。

「金ちゃん、でっかなったなぁ」
「ワイ、もっとデカなって白石、抜いたんねん」
「…そっか」

変わらないもの(白石誕/謙蔵謙)

April 15 [Wed], 2009, 22:56
「高校でも、相変わらずのモテ具合やなー」
「替わってくれてもええで」
「残念、俺の誕生日はまた来年やねん」

白石がどれだけモテていたかは、四天宝寺中出身の者ならば誰でも知っている。
高校に入ってまだ少ししか経っていないにも関わらず、それでも渡されたプレゼントの数は紙袋二つ分。
中学でも先輩だった人にその周り、クラスメイト、また情報を聞き付けた女子…男子からは善意の紙袋。
羨ましいどころの話ではなく、いっそ拍手ものなのだ。
朝からこの昼休みまでずっと、絶えないプレゼント攻撃に白石の頬はいい加減引きつってきていた。

「謙也ぁ」
「ん?」
「…帰りたい」
「アカン。まだ授業あるやろ?」

通っている高校は、学力が高めである中でテニスもそこそこに強い。
四天宝寺中テニス部のレギュラーも、結局何人かは通っているのだからあまり代わり映えも、していない。
しかし、白石と謙也が再び同じクラスになれたのは偶然にしては出来過ぎだった。
それが二人にとって一番良かったのだからその偶然には感謝する他無い。
しかしそれによって、謙也だけに見せる白石の甘えがこうして現れ易くなってしまっているのだが。

「……せやけど、やっぱ」
「手伝ったるから。帰りは蔵専用の、荷物持ちになったる」
「謙也?」
「やから、今日も一緒に帰ろうや」

先に帰ってしまえば、謙也と一緒には帰れない。
小さく唸ってから白石はゆっくりと頷いた。

「分かった、そんならもうちょい気張るわ」
「ん、ほな…そんな偉い、頑張る蔵ノ介くん」

白石の肩を優しく宥めるように叩き、そして耳元に唇を寄せる。

「ついでに俺も持ち帰ってええで?」
「…え?」

声を潜めて紡がれた言葉に、白石は少々間抜けな声を上げた。

「オカンには帰らん、て言うて…蔵の家には泊まりに行きます、て言うときました」
「え?…え、それ…」
「そんで、明日の教科書は用意してあるし着替えもあんねんで」

困惑、戸惑い、理解をするまでに掛かる時間は数分。
謙也が楽しそうに笑い、そして顔を離した。
微かに目元が赤いように見えるのは、隠してはいるが本当は、照れているからに違いない。
それを見た白石は嬉しそうに、そして無理をしていない綺麗な笑みを浮かべた。

「今日一番のプレゼントやな。ほな大事に持ち帰らせて」
「ええで、今日一日は蔵が主役や…もっかい言うとこか、誕生日おめでとうさん」
「はは、おおきにな、謙也!」

−電話−メール(白石誕/光蔵)

April 14 [Tue], 2009, 23:00
『メールも電話も、俺からはしませんから』

そう言われた春休み最後の日から、ほぼ二週間。
その言葉通り、携帯は財前専用の着信音を奏でない。
今日は…めでたいのかそうでも無いのかわからへんけど、とにかく俺の誕生日。
平日やし会えなくてもしゃあないけど、この日くらいはあの言葉に目を瞑って連絡をくれるんやないか、なんて。
…結局放課後の今、帰宅途中まで何も無くて、ちょお…いや、かなり、その。
皆に祝われたけど、そんでも一番声を聞きたい奴には。
せやけど俺から連絡するとか、アカン。
プライドやとか、今連絡したら祝って欲しいって言っとるようなもんやし、無理。
…他の日なら未だしも、今日は。
ああ、何でこないに年下の恋人に振り回されとるんやろか。


「ただいま」

ドアを開けた、そしていつも通りに帰ってきた。
せやけど自分でも疲れ切った声やと思う、それに反応してぱたぱたと響く足音。

「お帰りなさい、手紙が来てたわよ」
「手紙?」

わざわざ俺に手紙なんて、心当たりはない。

「ほら、あの子よ…テニス部の後輩の、可愛え子。財前くん」
「え」

思わず聞き返しながら、差し出された手紙を受け取る。
確かに筆跡は財前のもので、胸が速い鼓動を刻み始める。

「夕食は奮発しとるからね、いつもの時間に降りてきて」

そんな言葉にああ、なんて頷いて急いで部屋に向かう。
破って取出したいのを抑えてカッターで丁寧に封を開けた。
二週間ぶりのあいつの気配に胸の奥がツンとなる、逸る気持ちを抑えて、便箋を取り出した。

「…はは、アホやな」

ただ一言、『生まれてきてくれてありがとうございます』、そんだけ。
どんだけクサイんや、どんだけロマンチストやねん。
しかも良く見たら便箋は二枚重ね。
一枚捲る。

『手紙は送らん、なんて言うてませんから』

……全く、もう、どうしようもないくらい…

「アホやな」

そんなら俺は、もう一つの手段を使ってやろう。
…夕食をどう早めに切り上げるか、それがかなりの問題やけれども。

START(謙也誕)

March 17 [Tue], 2009, 20:02
携帯の電源は、0時になる前に切っておいた。

まあ俺は自分で言うのもあれやけど友達も多いし親友かて居るし。
せやけど、それよりも優先すべき存在の恋人、ちゅう奴も居る。
誕生日は平日、卒業式の終わった俺ならまだ泊まりとか大丈夫やねんけど…恋人はまだ義務教育に捕われとるし。
普段は図太い神経で容赦無い割に、家族を大事にしとる俺を気遣ったらしく。
…卒業祝いも兼ねてオカンが張り切っとったから有難いっちゃ有り難かったんやけど。
まあとにかく互いに自宅で。

…メールなんかちょうどに送られたって、多分友達なんかからのと紛れて、間違うて開けてまうかも知れへんから嫌やった。
電話越しの言葉、聞きたくなかったり、する。
どうせなら、明日会う約束しとるんやから、あいつの肉声で聞きたい。
しかも、親は…しゃあないとして、それ以外では誰よりも早い祝いの言葉を。

……うわ、女々し。

ベッドでごろごろしとる間にいつの間にか0時を過ぎとった。
正直もう眠い、転がるのを止めて枕に顔を埋める。
眠気に従って目蓋を伏せるその前に、最後に何も光らない携帯を見る。
きっと何通も来とるメールを見ないのは心苦しいんやけど…そのまま目蓋を伏せた。

『コン』

……ん?

『コンッ』

何か固いものが当たる音。
窓に。
無視しようとしてもその気になる音は断続的に聞こえてくる。
眠気も相まって増す苛立ち、物臭な恋人がまさか来るはずも無いのだから不意の来客は無視したい。
それでも止まない音にいい加減苛立ってしゃあなくなった、から。

「ああもう、誰やっちゅうねん!」

元から我慢強くない俺は、一人声を荒げて体を起こしてその勢いのまま窓を開けた。

「ぶっ…」

ら、鼻先に当たる固いもの。
思わず変な声が出たやん、アホ。
眠いのも影響してか目が潤んだ、格好悪っ!

「いきなり開けるからですよ」
「真夜中に来るなんて不躾なことすれからやろ…って、え!?」
「大声は近所迷惑やと思います」
「は、あ、ちょ…待ってろ!」

もっともな指摘に噛み付きもせずに慌てて窓を閉める。
放っていたジャージを羽織って、焦る気持ちと裏腹に何処か冷静な俺は階段を静かに下りてドアを開ける。真っ先に目が行くのは、夜の闇に溶けそうな髪の色の。

「光…」
「スピードスターの癖に、遅いっすわー」
「やって、何で」
「…せっかくこの俺が電話掛けたのに、電源切ってるアホに文句言おうと思いまして」

三月は未だ肌寒い、寒いのが苦手な光が、鼻先赤くしてまで来てくれた。
告げられた言葉はきっと照れ隠しで、じわじわと湧き上がる嬉しさ。
勝手に浮かぶ笑み。

「謙也さん、キモい」
「キモくてもええわ、今日は。おおきにな、光!」

嬉しくて嬉しくて、思わず光に抱きついた。
…や、抱き締めた?
とにかく、闇に隠れとるのもあるから素直に。

「……誕生日、おめでとうございます」

そしたら、光も。
…何よりも嬉しい誕生日プレゼント、本当に幸せを、貰った。


「…寒いんですけど」
「あ、せやな…えっと…どうせ明日両親とも早いんやけど」
「お邪魔します。…ところで、何で携帯…」
「あ、それはなー…」

声は落として肩を並べて、家の中へ。
眠くてきっと二人してあっという間に寝てまうけど、一日の最初から一緒に過ごせるんやから勿体なくも無い。
…大好きな、恋人と。


HAPPY BIRTHDAY!

転換点(光蔵、お題の続き)

March 11 [Wed], 2009, 13:41

「お前って部長の事、好きやろー」

それはきっと軽い調子で、何の気無しに言われた言葉。
せやけど取り繕う気も無く、俺は笑みすら浮かべてこう答えた。

「まさか、俺はあの人の事が大嫌いなんやで」

…正直引かれたみたいやけど、それが事実。


話がある、そう呼び出されたのはあの事があってから数日後…の、朝練の後。
無かったことになるか、されるか、とにかくどうなるかはさておき部長にしては動きが鈍いんとちゃうやろか。
…素直に従う、そんな選択肢はハナからあらへん俺には関係無いんやけど。
そんなわけで呼び出された時間の昼休みは教室には居らへんで、いつもの通り視聴覚室を使う事とした。
…鍵は勿論、そーゆー事、で。
家から持ってきたCDを掛けて、昼飯を食えば後は寝るだけ。
ちなみにその後は知らん。寝過ごして授業サボろうが問題ない。
こんなんあの人が聞いたらきっとぐちぐちと説教なんか……そこまで考えて、我に返った。
何でわざわざあの人の事を考えたんか、そんな自分に腹が立った。
いっそ煮え繰り返りそうな腹に、襲ってきたのは嫌悪感。
閉じていた目を開けて倒していた体を起こす。
…聞こえる足音、それから、鍵の。
俺は渋々CDを止めて、そのまま望まない来客を待つ。

「…あれ、何で居んねん。白石に呼び出されてたんとちゃうか」

見知った金髪頭。あの人のクラスメイトで恐らくは親友とかそんな人。

「忘れてました」
「お前なあ、それやったら焦って白石んとこ行くとかしろや!」
「嫌です。…嫌いな人のとこになんて行きません、ちゅう事で邪魔やろしどっか行きますわぁ」
「はあ!?あ、ちょ、待ちや財前っ!」
「失礼します、謙也先輩」

煩い声はシャットアウト、出掛けに差し込んだCD抜いてから、怒声を無視して部屋を出る。
正直興味は無いし、さっきより、更にイライラが募る。
先輩は悪くない、面倒やし邪魔やし煩かったりもするけど基本的には嫌いやない。
せやけど今、大嫌いなあの人を思い出させられると苛立ちしか湧かん。
…自らも完璧で、周りにも恵まれて、努力や苦しみを周りに見せない。
そんなあの人が苛立って、嫌いで、しゃあない。
…ああもう、何もやる気無くした。

苛立ちのままに足を進める、教室はそう遠くない。
不機嫌を露にしていれば誰も話し掛けてきたりもせえへん。
自分の鞄引っ掴んで、クラスメイトのなんとかさんに早退すると伝えて、悠々と教室、それから校舎を後にする。
…コート横を通る時に、部室を少しだけ、見た。
すぐに嫌になって、視線を外した。

song.7

March 04 [Wed], 2009, 9:43
暫しの時間の経過。
共に言葉を口に出すことができずに、視線を絡めていた。
先に視線を外したのは財前で、そしてそれに謙也は苦笑を浮かべる。

「…取り敢えず、突っ立っとらんで。その…戻ってもええから。な」

逃げ道を用意する、それは逃避であり、それを選んでしまえば戻れない。
選ぶのは簡単、けれどここで選択する行動はこの先の全てを選択する事になる。
それを謙也は軽く口に出した、その道を選ばれたら確実に傷付くであろうそれ。
対して、財前は。

「……ええ、です。…せやないと、しばかれますから」

理由を付けたとしても、それでも、前に進むことを決めた。
それでも気まずいのは変わらない、ボタンを掛け違えたような違和感にぎくしゃくしてしまう。
その言葉を聞いた謙也は再び苦笑した上で背を向け、先程まで座っていた椅子に腰かける。
財前は謙也の座る椅子から離れた、長椅子に。
己が選択を迫った、けれど未だ覚悟は出来ておらず、謙也は先程まで取りかかっていた作業を再開する。
ゆっくりと、必死で雑念を振り払おうと、そう思っているのが表情にも表れるのか眉間に皺を寄せていた。
しかしそれを見る財前は、無言。何度も、声を掛けようとしても結局は躊躇って一言すら出ない。

「…やっぱり、ええよ。ほら、迷惑なんやろ?」

沈黙に耐えきれなくなった謙也は、仕事…とは言っても頭にも入っておらず進まないそれに目を向けたまま、淡々と言葉を口にする。
口にした言葉によって心が痛むのは見ないふり。

「……っ」

謙也は、財前がそれを聞いて唇を噛み締めているのを…見ていない。

「めっちゃお節介やし、調子乗ってたんやなー、完全には拒絶されてないとか自惚れて。…やから、ごめん。もう、ええから。白石にも言っておくから」

明るく笑って口にしようとするも、その笑いは空虚で乾いたもの。
言葉を口にする度に繕ったそれすらも消えて、謙也は外に目を向けた。
横顔すら、もう保つ自信が無かった。

「何で」
「え?」

口火を切ってしまえば、後はもう弾けるだけ。
謙也が思わず財前を見ると、財前は、俯いて手を握りしめていた。
その一言を口切りに、小さな、苦渋を込めた声を絞り出す。

「なんで、そんな、優しいんですか。怒ったらええやないですか、聞かせるだけでええのに、断って、ずっと…来てくれて、それやのに、傷付けて」
「やって…それは、俺の我儘やったから」
「ウザいとか、迷惑とか思っとったのに、俺から突き離したのに、一人の時間があんなに辛いとか、どうしようもない」
「……財前?」

様子がおかしい、そう考えた謙也は苦しそうな財前に近付く。
手を伸ばす事を躊躇い、躊躇った後、力の入り過ぎで白くなった、握り締めた手に手を重ねた。

「……謙也さん。…作った曲、聴かせても、それでも近くに居てくれるんですか」
「は?」

絞り出された財前の問いに、未だ状況理解を出来ていない謙也は間抜けな声を上げる。
途端に緩む緊張、重苦しい空気。
暫しの沈黙。

「…アホ」
「んなっ」
「知ってましたけど。…アホ、ちゅうかデリカシー無いし。あったら俺のとこなんて来ないと思いますけど」
「悪かったな、性分や!」
「…そんでもアンタが居らんと嫌なんです、何でよりによって男にこんな感情…」
「は?」

己の感情に向けて溜息と共に吐き出した言葉に、再び謙也から帰ってきたのは間の抜けた声。
いい加減財前も頭が痛くなって来て、重なっていた手を握り、顔を上げた。
至近距離にある謙也の顔に一瞬胸が鳴ったのを感じたその直後、硬直した謙也の唇に唇を重ね合わせる。
時間が固まった気がした。
…が、財前は空いている片手を謙也の後頭部に添えて、舌を伸ばし、そして……

「うああああああちょお待て…!」

泣きそうな動揺した声に財前が怯む、その隙に、謙也は目の前の体を突き飛ばした。
長椅子に背もたれがあるために大した衝撃ではなかったものの手の力が緩み、謙也は慌てて財前から離れた。

「…痛い」
「あ、済まん…ってちゃう!何するんやボケ!アホ!」

思わず謝ってしまうも直ぐにノリ突っ込み、しかし謙也の顔は赤い。
バリエーションの無い悪態を顔を真っ赤にしながら紡ぐ謙也に財前は肩を竦めた。

「なあ、謙也さんはまだ俺の作った曲、聴きたいですか?」
「…う?あ?」
「聴きたいんやったら、今日でも家に来て下さいよ」
「はあ…いや、まあ、聴きたい…けど」

あくまで普通に財前が話すものだから、謙也もつられて落ち着きを取り戻す。
深呼吸をして財前と改めて向き直ると、その表情は今まで見たことが無いほど、の。
思わず謙也が照れてしまうほどの柔らかなもので、この数日で目まぐるしく変わる現状に眩暈まで覚えた。

「ただし。来たら今以上の事しますよ」
「え」
「それでもええなら。…来て」

奥に熱さを秘めた言葉で、選択を促す。
真剣であることを覗かせている光が瞳に映っている、視線を絡め、そして。

「ええ、よ」
「……ホンマにええんですか?」
「聴いても傍に居てええんかな、とか思うてた、し」
「…聴かせたとしても、傍に居てくれるのかな、て思うてました」

しゃあないな、と笑い声が零れる。
その後はもう、どうとでも。


END

2「こんなにも好きなのに…」(蔵謙)

February 26 [Thu], 2009, 19:52

何度言っても何度言っても信じてくれへん。
暖簾に腕押し、糠に釘、なんて諺並べたてても結局状況は変わらへん。

「…なあ、謙也ぁ」
「なん?…あ、ここの問4なんやけど俺今日絶対当たんねん、教えて!」
「これ…やと、さっきやったやん。2ページ前の公式引っ張ってきてー…」
「あーそうかそうか、おおきに白石!」

呼ぶ声に応えてくれるものの、謙也は俺を目に映さへん。
今は教科書に取り組んどるから。…は、間違っては無いんやけど、それでも。
妙に敏いところのある謙也は、雰囲気が変わろうとする前にその話をさせないようにしてくる。
能天気やしヘタレやったりするし、総合してええヤツ、やけど…狡い。

「謙也のアホ」
「…は?」

不満を口にして謙也から目を逸らす。
声音に不機嫌さが籠って声が低くなるのはしゃあないやろ、俺、まだ中学生やし。
何度も何度も、…ホンマに何度も何度も伝えようとした。
その内の何回かは、本当に言うたのにそれでも。
目の前でぽかんとしとる謙也が憎らしくなってきた。

「…アホ面。知らん」
「何やそれ」

ムッとした声。横目で視線を向けると俺に視線を向けていた。
…怒って、ようやく。

「嫌いや…嫌い」

嫌いに、いっそなれたら。それか、友達以上の感情を持たないままでいられたら。
そうしたら、こんな風に悩むことも何も無かったんや。
こんなにも好きなのに、それを本気にしてくれない謙也なんか、ホンマに…嫌いになれたら。
…そう思うくらい、謙也は狡い。

「あ…そう…」

せやのに、何でそんな寂しそうな顔すんねん。
やっぱり、謙也は、狡い。

「こんなにも、好きなのに。本気で受け入れてくれへん謙也なんか…嫌いや」

せやから、俺も狡くなる。
あんな反応で、期待しない訳がないんやから。

1「大っ嫌いだ!」(光蔵)

February 20 [Fri], 2009, 13:45
部活の終わった後の自主練。後。
時間ももう遅く誰もいないだろう部室。
疲れに溜息を吐き、机に向かった。
一日の最後の部長業務、部誌に取りかかる必要がある。
今日一日…は、いつもと変わらず、騒がしく楽しく、…辛く。
ならば書くことも特に変わりはない。
皆が居れば騒がしすぎるこの部屋は今は自分一人だと、白石はその静けさにまた、溜息を吐く。
何処からも音は聞こえず、一人きり。
…見せられぬものを見せられる、そんな空間であることを白石は知っていた。

「アカン、なぁ」

呟いた言葉も誰に拾われることも無い。
けれど、それと同時に響く扉の開閉音。
既に外は暗いこの時間に訪れる人が居るなどとは考えもしていなかったがために白石は微かに肩を跳ねさせた。
中に踏み込む足音に振り返り、その人物の顔を見る。

「……どうしたん、財前」
「課題のプリント忘れまして」

大事な後輩である財前であったことに微かな安堵を白石は表した。
しかし時間が時間だけに微かに眉を寄せ、肩を竦めて見せる。

「もっと早く取りに来たら良かったやん」
「…この時間でもどうせ部長は居ると思いまして」
「そう言う問題とちゃうやろ、あんまり遅い」
「ねえ」

部長として、年上として、一般論を説くその口はただ一言、感情の見えない冷たい声で止められる。
微かな苛立ちを目に浮かべるも白石は一度目を伏せることでそれを消し、再度財前を見れば続く言葉を促した。

「何でそこまでするんですか」
「何を、や」
「辛いんでしょう?」

何を、なのか分からないはずがない。それほどまでに分かりやすい挑発である。
疲弊しているためか、通常ならば軽くかわせるはずの問いに白石の苛立ちがまた、増す。

「…アホな事言うとらんと、帰れや」

視線を外す。冷静さを保つためであり、また、己の責務をこなす責任感が働いたためだ。
先ほど書こうとしていたことなど全て飛んでしまったが、それでも部誌に目を向ける。
暫しの沈黙、それから、近付く足音。
それでも白石は振り返らなかった。今財前の顔を見てしまえば何が口から溢れ出すか。
それを、恐れているのだった。
白石の肩に手が置かれる。

「…な、に…んっ」

流石に視線を向けざるを得なかった。
その判断は仕方のないことではあるが、白石を襲ったのは彼にとって考えが及ぶはずもない事であり、唯一出来たのは、ただ至近距離のその体を思いきり突き飛ばすことだけであった。
財前は構えていたのか尻餅をつくことも無く、ただどうしようもない体格の差からよろめき、それでも表情は静かなもので…微かに漏れる笑み。

「おまっ…財前…何、すんねん…!」

怒りに目が煌めき、頬には怒りか羞恥か差す赤み。
そんな白石の表情を見て、財前はまたさも楽しそうに笑って見せるのだった。

「キス。…その顔であんだけモテとって初めてとちゃいますやろ?男と、とは初めてかも知れませんけど」
「…血迷った事、しよって」

目はギラギラとしているのに、言葉には冷静さを保とうとする努力。
端々から怒りが漏れてはいるが、それでも。

「……俺が何か仕出かさんうちに、帰れ」
「帰りますよ。…せやけどしゃあないでしょう?アンタのこと、大っ嫌いなんです」

財前は笑みを浮かべたまま、そう言い放つ。
白石にそれは理解できるものでなく、更なる怒りを増幅させるだけ。

「俺もお前なんか大嫌いや!」
「有難うございます。…ほな」

何の躊躇いもなく礼を言ってのける財前は、そのまま踵を返してロッカーへ向かう。
中を開けて悠然と白い紙を取り出して、そうしていつものようにお先に、など言葉を残して…また扉の開閉音、気配が遠ざかる。

「何、やねんっ…アイツ…!」

気配が消えてようやく、混乱と怒りと戸惑いと、どう表現するべきか分からない感情のままに白石は言葉を吐き出した。


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