今は遠い貴方に捧ぐ祈り 

May 26 [Sat], 2007, 17:51
水はさらりさらりと漂う。漂いながら刻々と姿を変えてゆく。
それはさながら万華鏡のようである。

そこに映るのは闇のみだ。街の喧騒や、鮮やかなネオンをあざ笑いそこに息づくものだけを受け入れる。

水面を見ているうちに、いつしか車の音も蝉の声ももう聞こえなくなっていた。

*

ここで叔父とキャッチボールをしたのはいつのことだったか。

そう僕が受け取り逃してドボンと川に入っていってしまって、ボールはそのまま流れて橋の下の岩の所で止まった。
それを叔父はズボンの裾を膝の上まで捲し上げ、そうしてボールを取りにいってくれたのだ。
しかし底はなかなかに深くすべりやすい。案の定、胸のあまりまでびしょびしょにしてしまった。
その後もふらふらといつ流されてしまうかわからない足取りで、やっとその手がボールを掴んだのを見ると、原因が自分にあるのにも関わらず心底安心した気持ちになった。
叔父は誇らしそうに笑いながら水から上がって、ボールを突き出す。僕は恥ずかしかった。
ボールなんて新しく買えばいいのに、そう言ったぼくに苦笑を向けながら、

まぁいいじゃないか取れたんだから。

叔父は重くなってしまったボールを手渡してボタボタ河川敷沿いの道へ歩いていった。
小さく身震いしたのが見えた。

*

さっ、とバイクが眩しさとともに走っていった。
着ていたスーツは湿っている。随分ここで座っていたようだ。
黒のネクタイを引いて、襟元をくつろげる。生暖かい風が肌を乾かしていった。

万華鏡の川を見つめる。
あの時期まだ川の水は冷たかっただろう。

手を浸すと水が温く絡みつく。
涼やかな音と共に、それは僕の心臓にもじわりと染み渡っていった。

無題 

May 22 [Tue], 2007, 22:54
「なにか歌おうか。結構うまいんだよ」
そういってにっこりと笑い、歌を歌っていた。
真昼の太陽による光がチラチラと揺れて、彼女は笑っている様にも泣いている様にも見えた。何
の曲かは分からなかったが懐かしい、まるで子守唄のような響をしていた。
それは窓から差し込む陽だまりに溶けて、空向こうまで舞い上がっていくようだった。

*

そんなことを考えながら、人の波を避け避け歩く。
常に顔を向けているアウファルトは雨で湿っていた。
時折すれ違う人の肩にぶつかり軽く侘びを入れる。そうして耳を澄ましていた。
街の喧騒の中、今は遠い彼女の歌が聞こえる気がした。
P R
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