ショート・ピース(三) 

2007年05月24日(木) 0時00分
ドアをノックする音で我に返った時Iは、自分が寝ていたことに気付いた。トイレを出るとKの姿はレジ脇にもテーブルにもなかった。若い店員に聞いてみると、Kは二人分の会計をして出ていったとの事だった。テーブルに戻ると焼酎は既になく、かわりに泡のなくなったジョッキのビールが置かれていた。席につき一口飲んでからKに電話をかけてみたが通話中だった。
 最終電車には乗ったものの寝過ごして、気が付いたのはT駅の駅員に肩を担がれながらタクシーに乗せられた時だった。Iは朦朧とした意識のなかで運転手にここが何処であるかを訪ねた。訪ねながら、駅員が酔客をタクシーまで運ぶという事は今日はもう終電は終わったのだな、それに気付くという事は 酔ってるけど案外冴えてるな などと終電そのものに乗ってここまできた事をすっかり忘れて自分の洞察力に感心していた。運転手がそれに答え、行き先を聞きながら発車させた瞬間、Iは停まるように慌てて言った。持ち物が気になったのだ。
 

 ショート・ピース(二) 

2007年05月23日(水) 0時00分
飲みきってしまったあと、もう一杯頼もうと若い店員を呼んだが、他の客にビールを運んでいた、店に一人しかいないアルバイトのその店員がなかなかこないので、振り返りレジ脇のKの方に目をやってみた。彼は携帯電話を耳にあててはいたが喋っている様子はなく、座りこんでレジ台にもたれかかり横にある観葉植物の鉢をさすりながら、大儀そうに頷いているだけだった。IがKの焼酎を三口程飲んだところで店員がやってきたので、同じ焼酎を二杯注文した。Kのものを飲みきって、Iがトイレに立った時、レジ脇のKが観葉植物から千切った一枚の葉を指先でつまんでクルクルと回しながら喋っているのが見えた。Iは用を足し終えないうちに、焼酎を追加した事をやや後悔し始め、黒ずんでだらしなくぶら下がっている湿ったタオルで、洗った手を拭いた直後、再び便器の前に行きタンクに両手を乗せ、嘔吐した。壁には、ビールジョッキを手にした、水着で微笑む女性のポスターが貼ってある。顔を上げたIはその小麦色の肌をした女性と一瞬目が合ったが、頭を下げもう一度嘔吐した。顔を洗ったがテーブルに戻る気力を無くしたIは、ドアを背にして暫くしゃがみ込んでいた。

 ショート・ピース(一) 

2007年05月22日(火) 0時00分
 
 
 八月、早朝。夏においては一日のうち最も過ごしやすい時間帯である早朝に、Iは私鉄電車の終着駅T駅の外に佇んでいた。初めて訪れる終着駅というものは、寂廖感や疎外感と共に、不思議と安堵のようなものをも感じさせる。Iは昨夜そんな事を、T駅の外、シャッターの降りたいくつかの商店に面したタクシー乗り場にひとつだけ設置されたベンチに横になりながら考えた。
 前日Iは、日雇いの派遣アルバイトを終え、日給を受けとるやいなや友人Kと行き着けの居酒屋へ繰り出していた。いつものようにKのアパートに泊まるつもりで当然のごとく泥酔するまで飲んだ。
入店してから三時間ほどたった頃、Kの携帯電話が鳴り、彼は店の入り口付近にあるレジのそばへ行ってながいこと話し込んでいた。店の一番奥のテーブル席、壁を背にIの向かいに座っていたKが着信を受け、その場を立った時にアルバイトの若い店員が冷酒と焼酎を運んできていた。Iは油っぽいほこりが薄くのった窓枠をぼんやりと眺め、Kの電話の相手を詮索しつつ冷酒を一口づつ飲んだ。
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