ネロちゃん、またね
September 26 [Mon], 2011, 15:33
いつものことだけど、動物が死ぬと後悔ばかりが残ります。
あの時ああしてやれば良かった。
自分の無知が招いた死だったんじゃない
の?
なぜこうしなかったんだろう?
もっと出来たことがあったはず。
堂々巡りのそんな思考ばかりの日々が続
き、少しずつ考える時間が短くなってゆ
く。
だけど、今でも、イッチャンの死、フユ
ちゃんの死、モエの死、もっと子供の頃
に飼っていた動物たちの死…、どれを思
い出してもその思考は消えることなく続
いています。
それと同時に、みんなに出会えたことの
幸せ、みんなと過ごした時間の喜び、み
んなへの感謝、そうゆうのも胸に溢れています。
9月24日、午後3時30分。
ウサギのネロが死にました。
7歳半でした。
旦那さんと籍を入れて一緒の部屋で暮ら
し始め、一週間後に私が連れてきました
。
ウサギを飼うつもりなんて全然なかった
のに、いろいろ考えて「やめたほうがい
いよなぁ」って思ったのに、気が付いた
ら運命の出会い、その先にはネロちゃん
とのとてもとても楽しいシーンがたくさ
ん待っていました。
ネロちゃんの様子がおかしいと気付いて
から、やはり振り返れば悔やむことがたくさん。私の決断の正誤も分からない。
病院から帰った後、ネロちゃんに流動食
を食べさせていました。もう飲み下す力
もないようでした。花糸がお腹を空かせ
て泣き出し、私はネロちゃんの部屋で花
におっぱいをあげました。多分、目を離
したら、次に見るのは生きているネロち
ゃんではないだろうと思ったから。
花の授乳を途中で切り上げ「ごめんね、
待っててね」とベッドに置いて、ネロち
ゃんを抱きました。しばらくの間、痙攣
したり落ち着いたりを繰り返し、私の腕
の中で息を引き取りました。最期まで、
生きるためにがんばってくれました。
その日の夜はネロちゃんも一緒に眠りま
した。
日曜日、朝ご飯の後でネロちゃんを埋葬しました。首に赤いリボンを結ぶとすご
く似合っていて可愛い。
秋晴れの良い天気でした。
そのままみんなで庭の掃除をしました。
ネロちゃんの居る庭をきれいにしようっ
て。何かしていないと思考停止で無表情
になってしまう。だからいろいろなセレ
モニーを勝手にやって、そうやって気持
ちの整理を付けようとする。
昨日も今日も、杏ちゃんは時々急にネロ
のことを思い出しては泣いています。
「ネロちゃん死んじゃったんだよ、かわ
いそう」
「ネロちゃん、帰ってこないねー」
「ネロちゃん、ただいまーって帰ってき
たかも」
「やだやだ、ネロちゃんと遊ぶもん」
「ネロちゃんのところに行くー」
「ネロちゃん、お月様に居るんだよ」
「ネロちゃんどこ行ったのかなぁ」
「ネロちゃんは?」
まだ2歳だから、分かっているような分かっていないような。ただ悲しい気持ちは本物で、なんとなく死の意味を感じてはいるようです。
杏は、ネロが死んでしまった日から、「ネロちゃんに貰ったんだよ」と言って囓り木を持っています。その囓り木は飛行機になって、ロケットになって、ヘリコプターにもなって、お月様に行けるんだそう。
ネロちゃんは、たぶん、杏治の初めての友だちでした。
「杏ちゃん、ネロちゃんにニンジンあげてきて。こっちがネロちゃんね、こっちが杏ちゃんの」
夕飯の支度の最中の定番。
2歳の杏治は、こうゆうことを大人になっても覚えていられるのかなぁ?
「ネロちゃんは?」
お空に行ったんだよ。
土に帰るんだよ、そうして木になって花を咲かせるんだよ。
今日、赤ちゃんになって産まれてきたかも。すごい美人の女の子になって杏ちゃんのお嫁さんになるかもね。
見て見て、お月様に居るよ。
……
杏ちゃんの問いへの答えは、本当は自分が言って貰いたい言葉。

「ネロちゃん、おはよう」
「ネロちゃん、いってくるねー、お留守番よろしくー」
「ネロちゃん、ただいまー」
「ネロちゃん、ごはんだよ」
「ネロちゃん、おやすみ」
7年間、ネロちゃんと交わした挨拶。
ネロちゃんはだいたいいつも同じ場所に居たから。
いつも居る者の不在は、なによりその存在感をアピールする。
寂しい。
寂しいから、我慢できなくて、また連れてきてしまう。
私はいつもそうだったけど、それはどうしても我慢しなくちゃ。
今の私に子ウサギの面倒を十分にみてあげられる余裕はない。我慢しなくちゃ。
ネロちゃんが息を引き取ってすぐ、ネロちゃんの部屋を片付けました。
そのままにしておくと、そこにいるべき者を探しに行ってしまうから。連れてきてしまうから。
ネロちゃんの居た場所が只の床になっても、気付くとそこに目がいってしまい、ネロの姿が見えてしまう。
色っぽい寝姿、不機嫌のふくれっ面、耳の手入れをする仕草、口ほどにものを言う大きな目、柔らかい温かい身体。
ネロちゃんは可愛くて頑固で優しかった。
ネロちゃん、あなたみたいな美人のウサギ、そうはいないよ。
ネロちゃん、あなたがいてとても楽しかった、ありがとう。
ネロちゃん、ごめんね。
ネロちゃん、…
ネロちゃん、…
ネロちゃん、またね。
・・・・・・・
『ネロ』
〜愛された小さな犬に
ネロ
もうじき又夏がやつてくる
お前の舌
お前の眼
お前の昼寝姿が
今はつきりと僕の前によみがえる
お前はたつた二回程夏を知つただけだつた
僕はもう十八回の夏を知つている
そして今僕は自分のや又自分のでないいろいろの夏を思い出している
メゾンラフイツトの夏
淀の夏
ウイリアムスバーグ橋の夏
オランの夏
そして僕は考える
人間はいつたいもう何回位の夏を知つているのだろうと
ネロ
もうじき又夏がやつてくる
しかしそれはお前のいた夏ではない
又別の夏
全く別の夏なのだ
新しい夏がやつてくる
そして新しいいろいろのことを僕は知つてゆく
美しいこと みにくいこと 僕を元気づけてくれるようなこと 僕をかなしくするようなこと
そして僕は質問する
いつたい何だろう
いつたい何故だろう
いつたいどうするべきなのだろうと
ネロ
お前は死んだ
誰にも知れないようにひとりで遠くへ行つて
お前の声
お前の感触
お前の気持までもが
今はつきりと僕の前によみがえる
しかしネロ
もうじき又夏がやつてくる
新しい無限に広い夏がやつてくる
そして
僕はやつぱり歩いてゆくだろう
新しい夏をむかえ 秋をむかえ 冬をむかえ
春をむかえ 更に新しい夏を期待して
全ての新しいことを知るために
そして
すべての僕の質問に自ら答えるために
(谷川俊太郎)
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