空蝉の恋 

January 24 [Tue], 2006, 23:36
雨がしとしとふる。
庭の草木が水をはね、土はずっと待っていたかのように水をすう。
反対に私の目はすでに干上がっていた。
もうどれくらい部屋にこもってるんだろう。
外を遮断したつもりでも、障子の戸なんてうすっぺらだ。
誰かの声や足音を遠くに感じながら涙をこぼしていた。
ひとりになりきれない中途半端な空間は、
ただの孤独でさみしい世界でしかない。


(もうそろそろ夕飯の支度をしないと・・・)

廊下を通りすがった隊士たちの「腹減ったな」という会話が、
私をいっきに外の世界への未練の塊にさせた。
涙はもう外に出したと言うのに
ずっしりと重くなった身体を叱咤して起き上がる。
身体を引きずるように化粧台まで移動して、そこで見たのはみっともない自分の顔だった。
目はずいぶんはれていて、
しっかりと鏡のその形相を確認することはできなかったが、
顔とまぶたのはれぼったさは自分の感覚でわかる。

直視しなくてよかった。

ずるずると鼻をすすって、そういえばてぃっしゅきらしてたっけ、買い物いってなかったし、
着物も着崩れちゃったな、髪もボサボサだし、

いろんなことを思い出した。

無題 

January 13 [Fri], 2006, 21:53
されど散る花、
されど萌ゆる花、
こんなにも愛おしく、儚い姿に涙する。


真白い雪の下を掘ると、そこには名も知らない草がはえていた。
雑草と名づけられるであろうそれは、
たしかに乱雑にはえていた。
しかしひっぱってみるとどうだ。
しっかりと地中に根をはり、ちょっとやそっとじゃ抜けない。
自分でもよくわからないうちに意地が芽生え、
なんとかぬいて見せようとふんばったら、
手が滑って、そのまま後ろに転がってしまった。

その草の何倍も大きい私が、だ。

ああ、なんて。

私はずいぶんと愚かしいことをしてしまった。
この草は雑草ではない。
きっと私が名前を知らないだけなのだ。

たくましい命の姿に胸揺さぶられた私は、
また春にあなたと再会する日を心待ちに、

今は白い帰路につく。


冷たい頬によせる。 

December 03 [Sat], 2005, 23:43
「また振ったんだ・・・ご苦労様。」

「うるせー。なんかとげとげしいよな、その科白。」

呼び出され、告白されるコトをわざわざ報告する俺も俺。

コイツに期待しても無駄だってことを二年も前に学んでいる。

「なんだろうね。最近は輪をかけて頻繁になったよね。」

そういって窓の向こうに視線をやる。

その横顔がきれいだ・・・なんて口にすることができたら

とっくに俺たちのこの曖昧な関係に終止符が打てたかもしれない。

「部活引退したから・・・かな。」

「そういうことにしとけよ・・・。」

俺もそうなのかもしれない。

部活を引退してから楓といる時間が多くなった。

状況だけはゆっくり変化をしていくのに

気持ちだけはなかなか前に進まない。

(どうしたものかな・・・)

一度近づくと気恥ずかしくてまた後ずさる。

何度も二人ならんであるく夢を見た。
ふざけて笑いあう日々を長く過ごしてきたから

これが恋だとも知らずに長い間バカをやってきた。

楓はそんな俺にとっくにきがついているはずなのに。

「ホントはもてて鼻たかだかじゃないの?」

「あ!?喧嘩売ってんのかてめぇ」

「冗談。君に喧嘩うるほどばかじゃないよ。」

ひらひらと振るその白い手を握ってあるく日を待ち焦がれた。

涙の帰路1 

October 01 [Sat], 2005, 11:15
もうどれくらい泣いたんだろう。
眼がはれているのが自分でもわかる。



洗濯物を急いで取り込んでいる間も鼻のおくがじんとして、
ギリギリまでこみ上げている涙をこらえるのに必死だった。
なにかの拍子にくずれてしまうんじゃないか、と自分でもドキドキした。



まだ、あの人の大きな手にはたかれた感触が頭にのこっている。
ただそれだけでも涙を心の奥からよぶのだ。

そうして、
小さな雨がポツリポツリと顔をぬらした。
見上げた先にあったのは、不運にもあのひとの真白いワイシャツだった。


(だめだ)


必死で涙をくいとめていた心がボキリとおれて、
とたんに熱い涙があふれだしてきた。



鼻をぐしゅぐしゅいわせながら急いで片付けて、
自分の部屋にかけむ。
その道のりで誰にも会わなかったのを幸いと思えるほど
もう泣き顔は完成されていた。
部屋には今朝方しまう暇がなかった布団がそのままひかれていて、
それがまた自分の情けなさを物語り、よけいにあのひとの呆れ顔を思い出させた。







くちぶえにうそをのせて。 

September 23 [Fri], 2005, 21:16
早足で去ったあと。
何も期待はしてなかったけれど、やっぱりあの人は追ってこなかった。
私だって何も泣くことはなかった。
小雨が降り始めたから、急いで中庭にほしてあった洗濯物をとりこもうと思った。
そうしたら自分でワックス掃除したばかりの廊下でこけてしまった。
そこにちょうどアノ人がやってきて、
何をしてるのだときかれたから「洗濯物を急いでとりこもうと思って」と返した。

立ち上がるときに右足ににぶい痛みを感じたけれど、
そんなことをいえば、この人の前では単なるいいわけにしかならないんだろう。

そしたら、「あぶねーことしてんな!」って頭をはたかれた。
力はこもっていない。
頭の上をかすめたくらいで、
ああ、でも私のカラの頭はちょっといい音がしていたんだ。

その瞬間、
何にも痛いことはないのに、
涙がでてきてしまった。


最初から期待なんてしてなかったよ。
「がんばれ」とか「無理をするなよ」とか「えらいな」とか、
待っていても与えられないと知っているから。
期待をすることでよけいに心を痛めるのだから。
もうそんなふわふわした気持ちは残っていなかったはずなのに。
カラの頭の中にはすこしばかりの期待がのこっていて、
頭をはたかれた瞬間にカランカランとゆれて。


いたいのはどこだろう。でもみつけたくない。


どんなに手放したくても、すぐに戻ってきてしまう。
どうしてあんな人を好きになっちゃったんだろう。

ゆるゆると。 

September 23 [Fri], 2005, 15:09
頭のネジが一本はずれちまったんじゃねえのか!??


ああ、なんてひどい言葉なんだろう。
私だって望んでヘマしてるわけじゃない。
できればもっとうまく物事を処理できるようになりたいし、
そして。

ネジなんかはずしまいと思って、ゆっくり慎重にやってみれば、

トロいんだよ!お前、アブラさしたほうがいいんじゃねえの?

ひどい。
半分は正論だけど、もう半分はひどい。
私だってもっとスピーディーにお仕事をこなしたいし、
そして。


わからない。
なんでだろう。
そりゃあ、私は全然だめだ。
ドジでのろまで、仕事だってろくにできない。
でも「やらない」んじゃなくてどうしても「できない」んだ。
かなしい。かなしいなあ。


「なんであんな言い方するんですか?彼女がかわいそうですよ!」

部下にそんな風にもの申された。
なんでだよ。
だいたいお前らだってわかってんだろ?そう思ってんだろ?
でもあいつかわいさに何もいわない。
甘やかしてどうする?あいつのためになるか?
言葉は・・・・多少きついかもしれないが、
それを悔しく思ってやっきになれば、・・・・そう思ってのことだ。

「だからあなたは鬼だっていわれてるんじゃねえですか?」

「感情表現がわかりづらいんです。裏をよみにくい。」



知ってるさ。本当はなんにでも一生懸命になれるって、ヤツのいいところ。
しってるけど、ほめようと頭にかざした手はいつのまにか、
やわらかい髪をかすめてはたいてしまっていた。

きびしくしてる。わけでなくて、そうなってしまう。

ほんとうは「がんばったな」そういって頭をなでてやるつもりだった。


「ごめんなさい。ごめんなさい。」


床にポタリポタリと涙をおとして、
それでも俺に涙をみせまいと、うつむいたままでくるりと方向をかえた。
すこし早足でその場をはなれていく、あいつをひきとめようと伸ばした
その右手はたったいまあいつの頭をはたいたばかりの右手で。


左手はひどく震えていて。



ゆるりゆるりと居心地の悪い空間に侵食されていく。

暁の青春群像 

September 16 [Fri], 2005, 10:54
窓の外には橙と赤のグラデーションに彩られた空があった。
空気もちょっと涼しくなった。
気持ちのいいほどの青い空も、この光景の前ではなかなか思い出せない。
こんな変わり目の風景がすきなのだ。

「おい」

「・・・・うるさいなあ」

右手にあったはずのシャープペンはいつのまにか机の上で無造作に転がっていて、
左手は頬杖のせいで少ししびれていて、
日直の片割れである君は空に目を奪われている私をにらんでいる。

机の上に広げられた日誌にはまだ何も書かれていない。
これが終わらないと私も君も帰れない。

「こんなもん悩んで書くもんじゃねえだろうが」

「・・・・知ってるよ」

「じゃあはやくシャーペン持ち直せよ」

「だって、そら、きれいなんだもん」

「ばか」


半そででは少し肌寒く感じる風が教室にはいりこんで、淡い色のカーテンを静かにゆらした。
なでるように制服をすりぬけて、その感覚に少しうっとりしてみる。
とても静かなのだ、ここは。

黄昏、たれそかれそ、

昔の人の言葉はなんて美しいのだ、と思う。
ただ私は君が遠くにいようと、黄昏時の中でもわかる自信があるのだけれど。



ただただ君を思うと、胸がこげるようにあつくなって
ちょうどあの空のような色になるんだ。きっと。
だからこの景色がすきなんだ。

「ね、一緒にみようよ。そら、きれいだよ。」

私の心の色です、そうつけくわえるタイミングを失った。




BGM メレンゲ「アオバ」


スーパースター 

September 08 [Thu], 2005, 10:06
これは確信だった。
どんなわがままな願いでも、
渋い顔もせずにかなえてくれる。

王子様なんて待っている年頃じゃなかった。
でも、こんなゆるゆるとしたけだるい日常に光をもたらすスーパースター、
私はその存在だけは信じていた。

歌がとてもうまいわけじゃないけれど、
すごいアクションシーンをみせてくれるわけでもないけれど、
演技だって全然うまいわけでもないけれど、
スーパースターなんだ。


ずるずると私は疲れを収めた重苦しい体をひきずって、
あの緑の芝生のきれいな公園へ向かう。


ちょっとしたお弁当もつくってきた。
手際の悪い私はおにぎりをつくるだけでも相当な時間をかける。
気がついたら待ち合わせ時間がおしていた。
だからちゃんと手も洗えず家をとびだした。
今ではご飯をにぎった手が乾燥してなんだかカピカピしている。

髪を振り乱して走った。
せっかくおろした白い靴に泥がはねた。
途中でグロスを忘れたことに気づいた。
ああ、そして電車に1本のりおくれた。

それでもいいのだ。

自分を着飾ってもスーパースターにはお見通しなのだ。
本当は私に余裕がないことを。
だから飾らないままの私を見てもらう。
疲れたとかつらいとか、そんなのは言葉にしなくても伝わる。
言葉にすればするほど疲れることは、いいのだ、省いたって。
そこを省略したことによって、新たな時間が生まれるのだから。

「それでもあなたにあいたかったんだ」

そういう混じりけのない心もいっしょに伝わるのだから。


忙しい日々の中では、どうして大切なことを忘れてしまうんだろう。
どろどろとしたものに飲まれ、
たまの電話でうれしいのに、それを口にすることができない。
「忘れたい」いろいろなことを、遠くの川に投げ捨てたい。
「おれのことも?」・・・・そんなはずはない。
どうしてそんな寂しそうな声で諭されたのか。


スーパースターはあの芝生の向こうでまっている。
その道のりで私はまだ実ったばかりの果実だったころを思い出す。
心地よいリフレインに、涙がでそうだった。




くるり「Superstar」「帰り道」「真昼の人魚」


さあ走り出せ。 

August 30 [Tue], 2005, 20:34
ジリジリと夏の日差しがコンクリートの道を焦がしていく。
1メートル先の道はゆらゆら揺れてる。
視界は・・・・・・良好とはいえない。
額の汗で前髪がくっついてて、さっきから目にかかっている。

自宅を出て数分でこんなじょうたいだ。
とおりすがる子供がくちにしているアイスバーに視線をもっていかれる。
そうしてゴクリとのどが鳴る。
なんてことだ!
アイスを手にした子供と私の距離はたいしたことのないものなのに、
別世界を眺めている気分になってきている。
あの、アイテム!!!!


早く目的地に着こう、と思って歩幅を大きくして、進む速度を上げた。
よけい汗がにじんできた。じわりと汗がでているのがわかる。


そこで気づいた。


目的地にはクーラーもない。
扉をあければあいつが暑さでうなだれているか、
涼をもとめて台所で寝そべっているか。
どっちにしろ見れば余計熱くなる光景だ。


それでもなぜこうもせかされるのか。
どうしてこんな炎天下の中、クーラーのある自分の家からクーラーのない鍋のような場所に
えっちらほっちら進んでいくのか!!!!????


答えに気づいて、なぜかくやしくなって、

でもそれでもあいつのまつあの鍋の空間へ急ぐのだ。
アイスをそこのコンビニでかって、
二人で別世界へ旅たつのだ。
それはどんなリゾートよりも魅力的だと自分をいいきかせて、

また、

うねる道を

まっすぐ進んでいくのだ。


アイスという魅惑のアイテムを手にしたら、そのまま走り出してしまおう。
恥ずかしさもそれでかくせるでしょうから。



BGM:スムルース「LIFEイズ人生}
    サンボマスター「世界はそれを愛とよぶんだぜ」


飛び立つための詩。 

August 05 [Fri], 2005, 20:41
いっそうそを吐いてくれたほうのが楽だった。
無言で背中を向けられるくらいなら、
笑って嘘を吐いてくれてたほうのがよかった。

「今」つらくなるのはいやだし、
そのほうが後であなたを悪者にできたし。


「でもそうしたら楓はもう飛べないだろう?」

「飛べる飛べないって、そんな話はしてない!」

だんっとカシスオレンジのコップを机に打ち付けた。
目があついのはアルコールのせいだ。

「ほら、そうやってお酒を飲む理由がほしいんだろ?」

「そんなことない。だってそうしないとやってられない!」

「何を?」

「これからの人生よ。」

「何を・・・」

小娘のくせに、って目がいってる。
ああいやだ。
なにもかもシャクにさわってしまう。
目の前のやさしさにも気づいてるのに、見てないふりしてる。
こんなだからふられちゃったのかなあ。

「いっつも楓は理由がなきゃ動けないだろ?」

「だって損はしたくないもの」

「やってもないのに損するなんてわかるんだ」

また小娘のくせにって目がいってる。
でもしょうがないかなあ。
この人の横顔はくやしいけどずっと大人の男の人だから。
グラスを片手で上手にもって、静かにゆっくりお酒をのどに通すしぐさ。
私にはないものだ。

「じゃあモトカレは楓がいい女になる理由をくれたってことじゃない?」

「飛躍しすぎてるよ。私がいやになったんでしょ?そんだけで十分じゃないですか」

「考えようだって。理由がほしいのなら自分でつくってみろよ」

「え?」

「自分で引き下がれない理由をつくってみろよ。」

静かにことんとおかれたグラスに目をやった。
きらきらと黄金色に輝くウィスキーの、この名前はなんだっけ?

「なくなよ」

ないてない。
ないてない。

「誰かに造ってもらった理由なんて役にたたないし、立てようともしねーだろ、お前は」

ないてなんかない。
ないてなんかない。

「いい女になってみろよ」


なんだっけ、たつとりあとをにごさず、だっけ。
にごってしまった私の心を静かに掃除していってくれたんだ、
あいつが私のそばにいたという過去はそういう理由で結んでおくことにしよう。