国際刑事裁判所の対象犯罪
2009年05月04日(月) 1時09分
1 四つの対象犯罪
国際社会全体の関心事たる最も重大な犯罪(ICC規程5条1項)
・集団殺害罪(ジェノサイド罪)
・人道に対する罪 → 犯罪中の犯罪(コアクライム)
・戦争犯罪
・侵略の罪
◇管轄権行使の前提問題
戦争犯罪については、容疑者国籍国と犯罪地国が共に管轄権を受諾していることを、ICCの管轄権行使の前提とするかについて対立があったため、規定124条の「暫定規定」で、規程当事国となってから7年間は、自国民によって実施されたか又は自国領域で発生した戦争犯罪についてのICCの管轄権を受け入れない旨を宣言できることとなった。
2 戦争犯罪規定の構成
◇8条の構成
1項「敷居条項」
2項「戦争犯罪」
(a)ジュネーヴ諸条約の重大な違反行為
(b)国際的武力紛争に適用される法及び慣習の他の重大な侵害
(c)ジュネーヴ諸条約共通三条の重大な侵害
(d)(c)の適用要件
(e)非国際的武力紛争に適用される法及び慣習の他の重大な侵害
(f)(e)の適用要件
なお、規程第8条に規定されている「戦争犯罪」は、戦争法(jus in bello)に属するもので、国際法(jus ad bellum)とは性質を異にしている。
3 規程8条1項 「敷居条項」
8条1項は、「特に」の文言を設けることで、組織的又は大規模に実施された場合に限らず、単発的行為も、規定の対象となることを明らかにした。
4 規程8条2項(a) 「ジュネーヴ諸条約の重大な違反行為」
ジュネーヴ諸条約で規定する、重大な違反行為は、慣習法上、処罰対象とされていることから、同条約を引用した本項(a)も、当然に処罰対象となる。
5 規程8条2項(b) 「国際的武力紛争に適用される規則の他の重大な侵害」
◇「国際的な武力紛争」
8条2項は、「国際的な武力紛争」という文言から、非国際的武力紛争にも適用させるべきであるとして争いがあったが、国際的と非国際的武力紛争を区別しないという目的で、国際的武力紛争にのみ適用されることとなった。
◇「国際法の確立した枠組み」
8条2項(b)は、既存の戦争法関連条約を基礎としつつも、必ずしもそれら全てを引用しているわけではない。既存条約には明記があるが、規程には明記されていない事項に関しては、「国際法の確立した枠組み」から導きうるとしている。
◇8条2項(b)の列挙事項
8条2項(b)では、26項目を列挙事項としてあげており、それぞれ、Ⓐ目標区別原則、
Ⓑ戦争犠牲者保護、Ⓒ特別の保護対象、Ⓓ戦闘(外敵)方法、Ⓔ戦闘手段に再分類されている。
Ⓐ目標区別原則(8条2項(b)@ACD)
既存条約と本項の規定振りの相違が処罰対象の範囲の相違として現れる可能性のあるもの
@第一追加議定書を基礎としているが、議定書85条3項の「実際の損害発生」の要件がICC規程には明記されていないことから、ICC規程では、実際に損害が発生していなくとも、処罰可能となると解される。
⇔実際の損害発生要件については、「国際法の確立した枠組み」から解釈すれば足りるという見解。
C第一追加議定書を基礎としているが、ICC規程に見られる「全体としての」の文言が議定書51条5項(b)に明記が無いことから、既存条約よりも処罰対象の範囲が狭くなったと考えられる。
Dハーグ陸戦規則を基礎としているが、無防守都市への一切の攻撃が禁止されているわけではないとの理由から、規則25条の文言に、「軍事目標ではない」という文言が加えられた。このことから、無防守都市内軍事目的破壊の合法性が確認されたともいえる。
Ⓑ戦争犠牲者保護(8条2項(b)EGIMN○21○22○23○26)
G占領国文民の被占領地への移送は、ジュネーヴ第四条約上は重大な違反行為を構成せず、第一追加議定書で初めて重大な違反行為とされたが、第一追加議定書のこの規定は慣習法化されていない旨の反論が、イスラエルや米からなされた。
○22強制妊娠の定義に関して争いがあったことから、規程は、不法な拘禁や人口組成変更の意図の要件を加味することにより、他の行為との相違を明確にしている。
Ⓒ特別の保護対象(8条2項(b)BCH○24)
B国連要員等に対する罪は、独立の犯罪として取り上げられてはいないが、国連要員等が戦争芳情の保護対象となる場合に、これらへの攻撃を戦争犯罪として本号に規定している。
C特別保護施設等の中に、軍学校が規程の対象となる場合に生じる問題から、教育施設を含めるかが問題となったため、「軍事目的で無い場合」との文言が加えられた。
Ⓓ戦闘(外敵)方法(8条2項(b)FJKLO○25)
F標章等の不正使用に関して、中立国標章も含めるべきであるとの日本の意見と、中立国標章の欺瞞目的の使用を許容する海戦法規への影響を懸念するアメリカ、オランダの反対意見により、採用されずに至った。
Ⓔ戦闘手段(8条2項(b)PQRS)
核兵器使用を規程の対象とするか。
具体的に兵器を列挙する見解
第一案:限定列挙
(「国際法の確立した枠組み」の中で、過度の傷害又は不必要の苦痛を与える以下の兵器を対象とするとし、毒又は毒を施した兵器、窒息性・毒性ガス、いわゆるダムダム弾、生物兵器及び化学兵器禁止条約で定義される化学兵器の五種を限定列挙)
第二案:例示列挙
(「国際法の確立した枠組み」の中に、第一案の五種の兵器及び国際法により包括的使用禁止対象となる他の兵器の計六種を列挙)
第四案:限定列挙+例示列挙
(第一案列挙の五種の兵器、核兵器、対人地雷、盲目化レーザー平気及び国際法により包括的使用禁止対象となる他の兵器の計九種の限定列挙方式と例示列挙方式を並記)
第三案:兵器の性格を抽象的に述べる規定とする見解
(過度の傷害若しくは不必要の苦痛を与えるか又は本質的に無差別的効果を有する兵器)
第二案は、核兵器使用を対象とすべきとする諸国により支持されたが、語大国を含む多数の国家は、限定列挙を要求したことから、「過度の傷害若しくは不必要な苦痛を与える兵器又は本質的に無差別的効果を有する兵器であって、国際法により包括的使用禁止対象となりかつ改正手続によって規程に付加されるもの」という表現に止め、第一案を採用した(8条2項(b)○20)。
しかし、大量破壊兵器の内核兵器の使用のみが明記されない状況に不満が出されたことから、生物兵器及び化学兵器禁止条約の定義する化学兵器の使用も明記されないこととなった。このため、○20に従い、新たに追加されない限り、対象となる兵器は、毒又は毒を施した兵器、窒息性・毒性ガス及びいわゆるダムダム弾の三種に限定されることとなった。
6 規程8条2項(c)-(f) 「非国際的武力紛争に適用されるジュネーヴ諸条約共通三条の重大な侵害」
◇非国際的武力紛争における行為を規程対象たる戦争犯罪とすべきか。
反対:アラブ諸国、中国等
⇔非国際的武力紛争が多発していることからも、これを除外すれば、規程の意義を失わしめるという見解。
◇非国際的武力紛争を対象とした場合に、いかなる国内的状況で適用されるか、どのような行為を対象とするのか。
(c)がどのような国内的状況で適用されるかを規定する条項、(d)(e)を作成にあたり、どのような行為を列挙するか。
8条2項(e)は、第二追加議定書を基礎として規定されており、この行為は、(b)で列挙されている行為の内、非国際的武力紛争に適用可能なものを選択する形で起草されている。
また、第二追加議定書等の非国際的武力紛争に関する条約規則は、戦争犠牲者保護を中心とし、戦闘方法と戦闘手段の規定を設けることに消極的だった。
これは、非国際的武力紛争が、法的に対等なもの同士の戦闘ではないことを意味するという点に関して言えば、(e)は従来の枠に沿ったものであるといえる。
8条2項(e)が適用される国内的状況
ジュネーヴ諸条約共通三条を引用する、8条2項(c)が適用される国内的状況は、同項(d)で規定されている。
(c)の規定は、@国際的性質を有しない武力紛争について適用するものとし、A暴動、独立の又は散発的な暴力行為その他これらに類する性質の行為等国内における騒乱及び緊張の事態については、適用しない。
@ジュネーヴ諸条約共通三条に由来
A第二追加議定書1条2項に由来
↳「暴動等」…「武力紛争」の範疇に入らないため、対象外である旨が共通三条で合意されている。従って、(d)の想定する国内的状況とは、共通三条と同じである。
8条2項(e)の適用される状況に関する(f)
…政府当局と組織された武装集団との間又はそのような集団相互の間の長期化した武力紛争がある場合において、国の領域内で生ずるそのような武力紛争について規定する。
…第一議定書の第一条の対象とされていない武力紛争で、かつ、締約国の領域内において、責任ある指揮の下に、持続的かつ協同的軍事行動を実行しこの議定書の実施を可能にする程度の支配をその領域の一部に対して行使する反乱軍隊または他の組織的武装集団と、締約国の軍隊との間に生ずるすべての武力紛争に適用する。
第二追加議定書を基礎とした、8条2項(f)第一文は、(d)と同一であるが、第二文は、議定
書と表現方法を異にしており、(f)には、議定書に規定される他の条件が明記されていない。
これにより、第二追加議定書に由来する(e)の敷居条項である(f)が、共通三条に由来する(c)
の敷居条項である(d)よりも、強度の高い武力紛争を想定することが明確にされたといえる。
つまり、第二追加議定書1条で規定する武力紛争は、共通三条で規定する武力紛争よりも
強度の高いものであるといえる。






