薬物犯罪とコントロールド・デリバリー
2009年04月29日(水) 1時53分
Tコントロールド・デリバリー(controlled delivery)とは
コントロールド・デリバリー(以下、CD)とは、取締機関が規制薬物等の禁制品を発見しても、その場で直ちに検挙することなく、十分な監視の下にその運搬を継続させ、関連被疑者に到達させてその者らを一網打尽に検挙する捜査手法のことをいう。
※監視つき移転、監視つき受渡し、泳がせ捜査
U根拠規定
CDはそのものを認めた規定は存在しないが、おとり捜査と異なり、捜査機関から何らの働きかけをするものではないことから、犯人に特段の不利益を及ぼし、人権を侵害するとはいえないため、任意捜査であるといえる。したがって、原則として適法に認められる。
ライブ・CD:禁制品を押収せずに流通させる方法
→麻薬取締法3・4条
クリーン・CD:禁制品をそのまま運搬させると一般社会に拡散する可能性があることから、取締当局が令状によって物を差し押さえた後、代替物を運搬させる
→根拠条文は無いが、規制薬物を上陸させることは、出入国管理及び難民認定法、関税法等の関係から問題があることから、特例として認められる。
【論点】
@クリーン・CDの場合、合法な物の運搬等が犯罪を構成するのか。
この点、麻薬物やけん銃等については、罪を犯す意思をもって規制薬物やけん銃として交付を受けた場合は物品を輸入等することで犯罪が成立するため、代替物の運搬等であっても犯罪が成立する。
※麻薬取締法8条1項、銃砲刀剣類所持等取締法31条の17
ACDによって被疑者を逮捕する場合、関税法違反の未遂になるのではないか。
この点、情を知らない通関業者や配達業者を道具として使い、大麻を密輸した事案(最決平9.10.30)では、配達業者が、捜査機関から事情を知らされ、捜査協力を要請されてその監視の下に置かれたからといって、運送業者により引き取り行為等が被告人からの依頼に基づく運送契約上の義務の履行としての性格を失うものということはできす、被告人らは、その意図したとおり、第三者の行為を自己の犯罪実現のための道具として利用したというに妨げないとして、「禁制品輸入罪は既遂に達した」と判事している。
V実務における薬物犯罪の捜査
我が国で乱用されている薬物のほとんどが海外から流入していることから、捜査機関は、これを水際で阻止するため、税関、海上保安庁等の関係機関との連携を強化するとともに、外国の取締り当局等との情報交換を密接に実施している。
また、薬物犯罪組織の壊滅を図るため、コントロールド・デリバリー等の効果的な手法を積極的に活用した捜査を推進するだけでなく、薬物犯罪収益の剥奪による資金面からの打撃を与えるため、麻薬特例法による薬物犯罪収益の隠匿、収受及び仮装(マネー・ローンダリング)の事件化、薬物犯罪収益の没収・追徴の徹底等の対策を強力に推進している。
さらには、「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」(以下「特例法」)が、平成3年に制定された。
これにより、麻薬新条約で求められる規制のうち麻薬等原料の規制については、麻薬及び向精神薬取締法の改正により対応がなされ、一方、コントロールド・デリバリーの導入、不法収益の没収・安全・マネーローンダリングの処罰等については、これまでの薬物四法とは観点を異にしていることから特例法が新たに制定された。
我が国においては、これまで、出入国管理及び難民認定法により麻薬等の薬物所持者の上陸はいっさい認められず、また関税法や関税定率法により麻薬等薬物は禁制品とされ通関は不可能であり、当局が内容物を知りつつ薬物の搬出、搬入を認めることはできなかった。
そこで、特例法第3条に出入国管理及び難民認定法上の上陸手続きの特例を、同法第4条に税関手続きの特例を設定し、薬物犯罪捜査のため薬物所持者の入国が必要がある旨の検察官からの通報若しくは司法警察職員からの要請、又は薬物犯罪捜査のため薬物の通関が必要である旨の検察官若しくは司法警察職員からの要請があり、且つ、当該薬物の散逸防止のための監視体制が十分確保されていると認められる場合に限り、薬物所持者の入国や薬物の通関を可能とした。
また、麻薬新条約により、新たに犯罪として処罰するよう義務づけられたものとしては、 以下の4つがある。
@薬物犯罪を組織・運営する行為
→特例法第8条:薬物の不法輸入、輸出、譲渡等を業としたことを構成要件として重く処罰する。
A不法収益に関する隠匿偽装行為すなわちいわゆるマネーローンダリング行為
→特例法第9条:不法収益等の取得若しくは処分について、事実を仮装し、又は不法収益を隠匿したことを構成要件とする処罰規定。
B不法収益の取得
→特例法第10条:情を知って不法収益を収受したことを構成要件とする処罰規定。
ただし、法令上の義務の履行として提供したものを収受したもの(例:公租公課の支払い、罰則金の支払い、扶養義務の履行等)又は売買契約等債権者において相当の財産上の利益を提供する契約の際、契約時において債務の履行が不法収益等によって行われることの情を知らないでした当該契約に係る債務の履行として提供されたものを収受した者を除くこととし、取引の安定性の確保も考慮されている。
C薬物犯罪の実行等を公然に唆す行為
→特例法第12条:不特定、又は多数の人が知ることができる状況において、薬物犯罪を実行すること、あるいは、規定薬物使用の決意を生じさせるような、又は、すでに生じている決意を助長させるような刺激を与える行為を処罰の対象としている。
X薬物犯罪の国際協力
麻薬新条約は、薬物犯罪の不法収益をすべて没収し又はその相当価格を追徴する制度を設けたうえ、これらの没収や追徴を確保するために財産を凍結する制度を設けることを義務づけ、さらに外国における没収、追徴の裁判の執行や財産の保全についての国際共助を義務づけている。
このため、特例法において、第14条から第18条までに没収、追徴の対象について規定し、薬物犯罪による不法収益は原則として必要的没収又は追徴することとするとともに、没収対象を有体物に限らず、あらゆる財産に拡大している。
特例法第20条から第23条までは、没収の手続き等について規定しており、また、特例法第24条から第55条までにおいて、財産の凍結のための没収保全及び追徴保全という新たな制度を設けその手続き等について規定している。没収保全は、裁判所又は裁判官の発する追徴保全命令により没収対象財産の移動、処分を禁止するものであり、追徴保全は、裁判所又は裁判官の発する追徴保全命令により被告人等の一般財産の処分を禁止するものである。
さらに、没収や追徴の裁判の執行や保全の国際共助については、特例法第56条以下において、外国からの共助の要請があった場合に、わが国でこれを実施するための手続き規定を設けている。
なお、薬物の輸入、輸出、製造、譲渡、譲受、所持等の違反行為についても、薬物四法で「刑法第2条の例による」とし、個々の罰則の構成要件について、「みだりに〜した者は〜の懲役に処する」というように改め、国外犯も処罰できることとなった。
Y参考資料
【参考文献】
田口 守一 「刑事訴訟法 第4版補正版」 (弘文堂,2006年)
寺崎 嘉博 「刑事訴訟法 補訂版」 (成文堂,2007年)
池田 修ほか 「刑事訴訟法講義 第2版」 (東京大学出版会,2007年)
高島学司 「薬物犯罪の比較考察」(有斐閣,1983)
【参考URL】
警察白書 http://www.npa.go.jp/hakusyo/h11/h11index.html
日刊スポーツ http://www.nikkansports.com/general/f-gn-tp0-20070813-241220.html
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