大使リシア

September 22 [Tue], 2015, 15:35
5月12日。
 まだ塩があちらこちらで買い占められている頃である。
 リシア・ファールハイトとパスコー・ラッシュの2人はラクハムの町に到着していた。
 期日が決められているわけではないので若干スローペースである。
 よい馬なら、プレソスからならシャルル町まで行くこともできるのだから。終極痩
「リシアさん、今日はここで泊まりますか?」
 パスコー・ラッシュがリシアにそう尋ねた。彼はラッシュ男爵家3男で20歳。体格は普通だ。金髪で青い瞳だから美男といえそうなのだが、下がった目尻が全てをぶち壊していた。
 が、逆に言えば親しみやすいとも言えるその顔は、意外と女性騎士や女性兵士、侍女たちに受け入れられ、人気があったのである。
 しかし彼がより親しくしたいと思う女性は1人だけ。何を隠そう、目の前のリシア・ファールハイトだけなのである。
「そうですね。聞いたところによりますと、ワルター伯爵が今現在こちらに滞在中らしいです。御挨拶していきましょう」
「え……」
 パスコー・ラッシュは出立前に、ワルター伯爵が何かをやらかして、領地の一部を租借地とされたと聞いていた。
 だから、そこへ大使として向かうリシアが、伯爵にどんな感情を持って迎えられるか、心配になったのである。
 守ってやりたくても、自分は男爵家、しかも3男。伯爵に太刀打ちできるわけもない。
「あまり、僕としてはお薦めできませんが」
 パスコーの方が年上であるが、役目上はリシアの方が上。ましてや想いを寄せる女性であるから、パスコーはどこまでも低姿勢であった。
 だが当のリシアはそんな事には頓着していないようで、ラクハムにある伯爵の別荘に馬を向けていた。
「大丈夫ですよ、同じクライン王国に仕える貴族じゃないですか」
「……」
 心配性なパスコーに対し、リシアはそう言い切るのであった。

「よく来られた、ファールハイト殿、ラッシュ殿」
 が、パスコーの予想に反して、ワルター伯爵は上機嫌で2人を迎えたのである。少なくとも表面上は。
「お久しぶりでございます、伯爵。この度、ジン殿の租借地カイナ村へ、クライン王国大使として向かう事になりました」
 カイナ村の名前が出た時に、伯爵の口の端がわずかに歪んだが、リシアもパスコーもそれには気づかなかった。
「それは大役を仰せつかったもの。別荘故大したもてなしはできぬが、本日はここに泊まっていかれよ」
 笑顔でそう言うワルター伯爵。リシアは素直にその好意を受け入れることにしたのである。
「馬は厩に、荷物は執事に預けるがよい」
 そう言われたので、手荷物を除いて、公用の荷物は全て預かってもらう。公文書などは封がされているから、弄られればすぐに分かるし、まさか伯爵が、という思いもあった。
 馬は3頭、リシア、パスコーの騎乗用と、荷物運搬用である。これは厩へ預け、まぐさと水をたっぷり与えて貰う事になった。
「あ、この子にはこの餌とお水をお願いします」
 最後に、連絡用の伝書鳩2羽を頼んだ。2羽のうち1羽は、到着してカイナ村が平穏無事かどうかの調査結果を報告するためのもの。そして、もう1羽は緊急連絡用であった。
 軍用の伝書鳩2羽を持たされていると言うことは、この役目が重要という事である。
「はい、お任せください」
 執事は自分も鳩の世話はしたことがある、と言って快く引き受けてくれた。リシアもそれで安心したのである。

 部屋はリシアとパスコーそれぞれ別々の個室。
 自分の部屋に入ったリシアは、この役目をもう一度思い返してみた。

『クライン王国としては、優秀どころではない、超優秀な魔法工作士マギクラフトマン、ジンを繋ぎ止めておきたい。
 そして、時々でよいから、国の利益になるような道具・魔導具を供給してもらいたい。
 そのためには、機嫌を損ねないようにしなければならない。
 故にカイナ村における大使としてのリシアの役割は、ジンの機嫌を取ること、これに尽きる』

 外務次官から懇々と諭された内容である。
『場合によってはその身を以てジンを繋ぎ止めよ』
 とまでは言われなかったが、それを示唆するような指示は受けた。
「ジン、さん……」
 自分が仁に対して持つ印象では、仁はそういうことを嫌うと思う。というか、小賢しい策略を嫌うと思っている。
 かつての教官、グロリア・オールスタットと話をして、更に確信を深めた。
 彼と付き合うには、純粋な友情、それが一番良い絆だと思える。
 だがそれは自分の直感・推測に過ぎず、確実ではない。
 故にリシアは、クライン王国のためには、自分の直感と上司からの指示、どちらを優先するのが良いのか、決めかねていた。簡約

      

「ファールハイトの小娘が大使だそうだ」
「ほう、それはそれは」
「癪に障るが、それだけで邪魔をする訳にはいかん」
「まあそうですな。ところで、鳩を2羽連れているとか」
「ん? 耳が早いな。その通りだが」
「……面白い実験があるのですが、やってもよろしいか?」
「内容は?」
「……教えられません。上手くいけば、貴殿の溜飲も少しは下がるかと思いますよ」
「ふん、まあいい。別に貴様が勝手にやるのを止めはしない」
「はは、賢明ですな」

 その会話を第5列クインタ、デネブ29は聞いていたが、謎の男が何をやるつもりなのかは分からなかった。
 なので会話の内容をそのまま老君に伝えた。
『確かに、その会話だけでは見当が付きませんね。鳩に関する何かであるというくらいで』
「はい」
『彼女が連れている鳩をすり替えられたり傷付けられたりしないように気を配っていてください』
「わかりました」
『そして、その謎の男は何者でしょう?』
「分かりかねます。フード付きのローブを纏っていて、顔が見えません。声と体格から、辛うじて壮年の男であることが分かるのみです」
『引き続きその男の正体究明も行いなさい』
「はい、わかりました」
『手が足りないようならもう1体第5列クインタを送ります』
「はい、そうしていただければ助かります」
『では……デネブ30の手が空いています、彼女を送りましょう』

      

 翌朝、リシアとパスコーは豪華な朝食を食べ、ラクハムをゆっくりと出発した。
 伯爵も見送りに出、上辺はにこやかに2人を見送ったのである。
 リシアは鞍の後ろに付けた伝書鳩の籠を見やる。
 2羽の鳩は籠の中でおとなしくしていた。特に変わった様子は見られない。
 荷物も、封印が解かれたような形跡もなく、無事である。
「あまり人を疑うのも良くないですね」
「はい……」
「伯爵も、ジンさんを疑って王国から追い出す結果になったことを後悔してらっしゃるようですよ。昨日そう仰ってました」
「伯爵が、ですか?」
 パスコーとしてはその言葉をそのまま信じることはできなかった。生まれた時からの貴族である彼は、良くも悪くも、貴族という人種の闇を理解していたのである。
 そしてその懸念は思わぬ形で的中することになる。
「塩の買い占め、ですか?」
 訪れたシャルル町では、謎の男達に塩が買い占められ、値段が跳ね上がっているということだった。
 料理にはほぼ例外なく塩を使う。よって、食堂などは仕方なく値段を上げるところが多かった。
「伯爵は何もしないのですか?」
 このあたりはワルター伯爵の領地である。その領民が困っているなら何とかするのが領主の役割であろう。まして今は隣のラクハムに滞在しているというのに。
 まさかリシアは、そしてパスコーも、この塩の買い占めをワルター伯爵が主導しているとまでは考えなかったのである。強効痩
「はい、何も」
「……ひどいですね。何かして差し上げられればいいのですが」
「リシアさん、我々にはお役目があります。優先順位を間違えてはいけません」
 あくまでも貴族的な考え方でリシアに忠告するパスコー。が、貴族としては正論である。
「そう、ですね……」
 何もできないことを悔しがるリシア。
「こんなとき、もし、ジンさんだったら……」
 ついつい、仁なら何とかしてくれるのではないか、と根拠もないのにそんな思いも浮かんできてしまう。
 カイナ村で仁に会ったら相談してみよう、そう密かに心に決めるリシアであった。

契約成立
「僕たちがこの村の住人に、ですか」
「そう、君たちが良かったら、だが。もちろん、国に帰りたいなら援助する。今すぐ決めろとも言わない」
 仁がそう言うと、バロウは少しだけ考えてから返事を返した。
「そう……ですね。この村はすごくいいところです。一昨日、勉強会をちょっと見学させていただきました。まだ僕らの知っている範囲内でしたけど、これからもっといろいろな事も教えていただける予定だと、エルザさまから伺ってもいます」
 仁は頷く。
「ああ、そうさ。少しずつだけど、教育関係も充実させて行こうと思っている」
「こんな村、初めてです! あたし、この村大好きです!」
 そう元気に答えたのはベーレだ。 
「この村に住んでいいというなら、あたし、住みたいです」
 そう答えたベーレに、バロウは、
「ベーレ、いいんだな?」
 と尋ねる。
「うん、バロウ。あなたと違って、あたしはもう家族はいないから、マギルーツに帰っても仕方ないもの」
 どうやら、ショウロ皇国に実家があるのはバロウだけで、ベーレは天涯孤独のようだ。
 そういう事情聴取はエルザとミーネに任せるだけ任せていて、報告を聞くのは忘れていた仁。連れてきた本人として反省すべき点だ。
「ジン様、僕とベーレをこの村に置いていただけますか。国には……急いで帰る理由も無いんです。あの時は……もうほんとうにギリギリで、死ぬなら国の土を踏んでから、と思っていたんです」
 バロウは仁の方を向き、背筋を伸ばしてそう言った。
「わかった。ギーベックさんにも話しておく。仕事は、そうだな、お城の管理というのはどうだろう」
 普段は掃除など、客があった場合は応対、接待。ゆくゆくは管理業務の一端を任せたい、と仁が言うと、
「そ、そんな大役をですか?」
 と、少々腰が引けるバロウ。一方ベーレは、
「はい! 頑張ります!」
 と前向きな返事。内容を理解してないだけかも知れないが。
「よし、それじゃあ、給金は月に銀貨10枚、食事はこちら持ち、必要な服は支給する。住居はとりあえず城の中、でどうだ? 休みは最初は週に1日だが、いずれまた考えると言うことで」
 普通、住む込みの見習い執事や侍女の給金は無いに等しい。月に銀貨10枚というのは破格の条件である。休みの日があるというのも聞いた事がない。少なくとも、彼等が働いていたセルロア王国では。
「は、はい、よろしくお願い致します!」
 ベーレに肘で突かれて、ようやくバロウもそう返事をしたのである。
「よし、決まりだ。細かいことはまた明日話そう。俺はちょっとこれから用事があるから」
 そう言った仁は立ち去りかけてから足を止めて振り向き、
「本当に、ショウロ皇国に一度帰りたければ考えるからな」
 そう言って城方面へ向かったのである。
「おにーちゃん、いってらっしゃーい!」
 家から出てきたハンナは、そう言って仁を見送ったのである。漢方ダイエット薬

      

 仁が馬車内の転移門ワープゲートから出ると、一行はもうすぐクラムの町に着くところ。時刻は正午を30分ほど回ったところだ。
 時差約2時間20分と見て逆算した仁、到着時刻の読みはぴったりであった。
「おお、どんぴしゃ」
 思わずそんな声が漏れてしまう。
 馬車はクラムの町郊外にある駐馬車場に止まった。
「おーい、ジン、いるか?」
 ラインハルトである。『いるか』と聞いてくるあたり、分かっていると言うべきなのか、慣れてしまったと言うべきなのか。
「いるぞ」
 律儀に答える仁も大概であるが。
「ここの名物はちょっと変わってるんだ」
「それは楽しみだ」
 仁はそう答えながら馬車から降りる、礼子は影のように仁に従っている。
「ラインハルト、ジン殿、行こう」
 マテウスが先導していく。部下に予約をさせておいたそうだ。

「ほら、ここがそうだ」
 入ったレストランは、店構えは普通だった。が、中に入った途端、なんとなく仁にとって懐かしい匂いがしたのである。
「まあ、豪華には程遠いが、こういう料理もあるということで、味わってみてくれ」
 ラインハルトがそうまで言う料理とはどんなものかと思っていた仁の前に出てきたものとは。
「これは……」
 何と、麦飯と菜っ葉の漬け物であった。その他には、干した魚の塩焼き。どう見てもアジの開きに見える。
 仁は、いただきますもそこそこに、菜っ葉と干物にかぶりついた。
 麦飯はばさばさしているかと思いきや、小麦粉でわずかにとろみが付けられていた。
 菜っ葉はぬか漬けでなく塩漬けだった。塩を振って重石を乗せて作る一夜漬けのようだ。
 アジに似た魚は蓬莱島で獲れるので、こちらはそこまで懐かしくはないが、まさかこんな場所で、という驚きがある。
 あとは箸ならもっと良かったのだが、れんげのような大きめのスプーンとフォークなので、そこだけは違和感がある。
 醤油が無いのが残念だったが、懐かしい味に涙が出そうな仁。たちまちに1皿食べ尽くしてしまった。
 その食べっぷりを見て、ラインハルトが目を見張る。
「驚いたな、そんなに気に入ってもらえたとは。光栄だな」
「ああ、俺の故郷にも似たものがあったから懐かしかった。ありがとう、ラインハルト」
「そうだったのか、それは思っても見なかったが、喜んで貰えて嬉しいよ。寒い時の方が美味いんだけどな」
 後ろにいる礼子は、料理の成分などを分析し、蓬莱島の老君に伝えていた。
(「老君、お父さまは凄く懐かしそうなお顔で食べてらっしゃいます。是非蓬莱島でも作って差し上げられるようにして下さい」)
(『了解です、任せておいて下さい』)
 情報を得た老君は己の中の仁の知識と照らし合わせ、仁の好みになるよう、料理担当ゴーレムメイドのペリドリーダーに伝えていた。
 今度仁が蓬莱島に帰ったら、少なくとも野沢菜もどきと白菜もどきの漬け物を食べる事が出来るだろう。
 何せ、蓬莱島には大きな冷蔵庫があるから、本来冬に漬ける漬け物も1年中作る事が可能なのである。繊之素

 思いがけなく懐かしい味を堪能した仁は、午後はラインハルトを同乗させ、話しながらフォンデを目指す。
「……ということで、あの2人を俺のところで雇うことにした」
 一通りの説明をするとラインハルトは喜んだ。
「そうか! 何だかんだ言って、同郷の者だから気になっていたんだ。それを聞いて僕も安心だ」
 そう言ったラインハルトは、
「一応身分証用意しておいたんだが」
 と言って、胸ポケットから木札を出した。外交官なので、地球で言う大使のように証明書の発行もできるのだそうである。
 それにはショウロ皇国住民であることを証明する旨の記述が書かれており、あとは本人直筆のサインがあれば、と言う状態になっていた。
「まあ、俺のところで働くに当たって、必要になるかも知れないから、有り難く受け取っておくよ」
「うん、それがいいな」
 のんびりと、馬車は街道を進んでいった。

      

 一方、クライン王国、プレソス。ここはワルター伯爵領の外れ。街道をもう少し王都に寄ったガァラは王家直轄領となる。
 本来、領主はその領地を統治しやすい場所に拠点を置くものだが、ワルター伯爵領に関しては違っていた。
 彼は、できるだけ王都である首都アルバンに近い場所を好んだのである。
 そのプレソスに、2人の旅人が到着した。
「今日はここで泊まりですね」
 片方は若い男の騎士である。
「そうなりますね。明日は早立ちしましょう」
 答えたのはこれも若い女性騎士だった。
「ラッシュさん、この街は来たことあります?」
 と問うたのは女性騎士。ラッシュと呼ばれた男の騎士は、
「いえ、恥ずかしながら。ファールハイト殿にお任せしますよ」
 と返答した。
「そんな他人行儀にならなくてもいいですよ。リシアと呼んで下さい」
「そ、そうですか! それでしたら、リシアさんも僕をパスコーとお呼び下さい!」
「ふふ、わかりました、パスコーさん」
 そして2人は、馬を預けると、荷物を持って宿を探しに行ったのである。韓国痩身一号
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