映画『リップヴァンウィンクルの花嫁』

May 08 [Sun], 2016, 22:00
2016.5.8
GW最終日、突然予定が流れたので、
渋谷にある「ユーロスペース」にてひとり映画してきました。

ずっと見たくてそわそわしていた、
岩井俊二監督作品
「リップヴァンウィンクルの花嫁」




岩井監督の前作、「花とアリス殺人事件」を見そびれてしまったために、
今回は絶対見ようと思っていました。

3時間の長い映画だったけれど、見てよかった。
誰かと行くのではなく、ひとりで観に行って良かった。

映画を見終わった時に、足元がおぼつかなくて、
壁に手をつきながらふらふらと階段を降りてました。
少し頭の芯がぼんやりしていたのは2度ほど、泣いてしまったからかもしれない。
街を歩きながら、すべての感覚が頭2つ分くらい上にあるような浮遊感の中にいて。
まだあの映画の世界にいたかった。
どうしようもなく残酷で、幸せになれないかもしれなくて、
でもどうしようもなく美しいあの世界に。
岩井俊二監督の映画は、泣かされてしまう。

だからこそ、観てよかった。


さて、以下、鑑賞後の備忘録になります。

前半は、「普通」でいれば人並みに幸せになれるって幻想を見事にぶちこわされる話。
非常勤教師の仕事をしていた主人公の七海は、大人しく内気な性格。
ネットで見つけた彼氏と結婚することになるが、結婚式に呼ぶ親族があまりにも少ないことを悩んでいると
SNSを通して何でも屋の安室という男を知り、恋人に秘密で代理出席を依頼することに。
結納、結婚式を経て、仕事も辞めた七海は人並みに幸せな新婚生活をスタートさせる。
だが、ある日「主人が自分の彼女と浮気をしている」と訴える男が家にやってくる。
実は姑が雇った別れさせ屋による狂言だったが、逆に浮気現場をでっち上げられてしまい、
更には結婚式の代理出席のことや両親が離婚していることを姑から言い詰められ、
離婚を迫られ、帰る家をなくしてしまう。

「わたし、どこにいるの…どこに行けばいいの…」
帰る場所をなくして、そう泣き崩れる七海の姿は、あまりにも痛々しくて、
苦しくて涙がこぼれてしまった。
「みんなと同じ」ようにして、「人並みに」幸せになれるはずだったのに。

どれだけ普通に、むしろ善く生きていようとも、誰もが不幸の罠にかかってしまうことがある。
それが誰かの悪意によって巧妙に仕組まれたものであることもあるし、
こんなの不幸じゃない、大丈夫だって焦って足掻いた取り繕った結果、
余計に事態が悪くなって蟻地獄に吸い込まれていくように悪いことが連鎖してしまうこともある。

違う、私は何もしてない。
私が何をしたの。
なんで、どうして私だけが。

負け惜しみのようなセリフを吐き捨てても、
叫んでも、泣いても、足掻いてみても、状況は全く変わらなくて、
何してももう幸せになれない、ああもう幸せになれないんだって思ってしまう。

「みんなと同じ」っていう普通が、何の武器にもならないことを思い知らされるばかりか、
みんなはできたけど、私にはできなかったって劣等感を抱いてしまう結果にもなってしまう。


後半は、居場所を失った七海が奇妙な出会いをきっかけに、解放されて自由になっていくはなし。
安室の紹介で結婚式の代理出席のアルバイトをした七海は、自由奔放な女優・真白と出会う。
さらに主人がいない屋敷での住み込みメイドの仕事を紹介され、そこで真白と働くようになる。
正反対のふたりはすっかり意気投合し、打ち解け、親交を深めていく。
ある日真白が体調を崩し、マネージャーが迎えに来たことで真白がAV女優をしていること、
そしてこの屋敷が真白の所有物であることを知ることになる。
広い屋敷でなく、2人で過ごせる部屋に引っ越すことを決め部屋を探しに街に出ると、
ウエディングドレスが陳列されている店を見つけ、真白の勢いに押されるがまま、
2人はウエディングドレスの試着や記念撮影をして、最終的にはドレスを買い取り、その恰好のまま広い屋敷へ戻る。
ドレスのままで夜眠る時、真白は七海にキスをしながらこの世界は幸せで溢れていること、
幸せがたくさんあると壊れてしまいそうだと、話す。
そして翌朝、真白は七海の隣で生き物の毒をあおって自殺していた。
真白を失った七海は、小さなアパートの一室を借りて暮らし始める。
奇妙な出会いを経て、表情が柔らかくなった七海は、新たな一歩を踏み出す。

前半と打って変わって現実世界とかけ離れた、はちゃめちゃな物語。
常識が守ってくれない、保障された世界とは違う、自由な世界。
安室の言葉を疑うことなく言われるがまま流されてしまうのはとても危険なことだけど、
全てを失ったことの反動か、奇妙な高揚感に満ちていて。
純朴な性格の七海だから、そのいちいちに感動して、刺激を受けて、解放されていく。
だからこそ踏み出せた一歩、ワンステップ上に自由を手に入れたんだろうなあと思う。
後半の七海は前半と違って、自由で活き活きとしていて、とてもきれいだった。

後半で特に好きなシーンは真白と七海が結婚式場で見えない指輪を交換するシーン。
前半の形式張った結納や結婚式(しかもちょっと寒い余興つき)と違って、
法律で結ばれるわけでも、周りから祝福されるわけでもない、ふたりしか知らない結婚。
奇妙で現実離れしていて、でも美しくて。
見えない指輪は一生失われない指輪だと思った。相手のことを忘れない限り。

そして真白の幸せ論。
この世界は、ほんとは幸せでいっぱいなんだって。
だけど、あまりにも幸せすぎると自分は壊れちゃうから、そんなにはいらないのに。って。
日々の生活で当たり前のように受けている、自分のための誰かの行動。
コンビニで袋詰めしてくれるのだって、小さな幸せだと。
そんなところにまで優しさを感じてしまう、心の感度が敏感な真白はあまりにも優しすぎるなあと思った。
そんな風に考えられたら少しくらい、優しく生きていけるかな。って。

それから、真白のお母さんを訪ねた時に、「人前で裸になる仕事なんて、恥ずかしいよ」って言って
お母さんが裸になって、安室も裸になって、七海は焼酎をあおるシーン。
まったくの赤の他人が3人そろって行われた奇妙な弔いは、
あの映画のなかである意味もっとも記憶に残ったシーンでした。



黒木華の、ただ優しくて受けいれることができて、すぐ「はい」と言ってしまえる、純朴さ。
綾野剛の、うさんくさくて怪しくて、でもきっとこの人はとても優しいのかもしれないと思わせる不思議な魅力。
Coccoの、危うくて今にも壊れそうな、心が敏感すぎてふりきれてしまいそうな、自由奔放さ。
3人のキャストを支えた役者さんも、良かったなあ…特に真白のマネージャーの綱吉さん、すき。
あと真白のお母さん役のりりぃさんも、素晴らしかった。

GWの最終日に、きれいな涙を流して心の洗濯をできる、
美しく衝撃的で、少しだけ危険な映画を見ることができて良かったです。



書きたいことがまとまらず、ブログ書くに時間がかかっちゃった。
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