・雨の日の鈴懸の木の匂いがすると、昔住んでいた町の、あの道のことを思い出すのです。
・…というように、タルホの云う"永遠癖"っていうのかな、"宇宙的郷愁"の癖みたいなものがわたしは強すぎるから、それがいけないんだと思う。これがあるから、わたしはこんなにもどうしょうもないんだと思う。三浦雅士の『メランコリーの水脈』ともつながるし、タルコフスキーの『ノスタルジア』ともつながる。なんでなのかなぁー。ほんとうに、バカみたいに、わたしの胸を締めつける。いつまでもいつまでも、離れない。
・音楽が、追憶や記憶と共にあるイメージ、プルーストとかね。そういう感覚がとてもよく分かるのだけれど、でも、本当に大切なのは、深沢七郎が書くような音楽なんじゃないか。楢山節とはなにか、といえば、それはいつまでも"現在"である音楽です。ノスタルジアなんてどこにもない、不滅の現在です。ライヴで、生き続けている、生きるもののうたです、ジプシー音楽も、ピグミーの音楽も、奄美黄島民謡も、ホーメイも、ビクトル・ハラも、メレディス・モンクも、みんなそうだと思う。人生と音楽が一体化してしまっている人は、そうなんだとおもう。人生と記憶が一体化している人の音楽とは違う。
・二歳年上の方の演奏を聴きに行く。テル・アヴィヴ生まれの彼。はじめは静かに、それが想いもかけない展開を遂げて、その音の太さ、音色も含めて、圧倒される。
腕が平行になる。腰があがり、前屈するように弾く。声が重なる。そのあいだに何度となく、ここだけは神経質そうに、メガネを右手であげる。あぁ、この人はやることがいっぱいあるのだな、と思う。表現するべき何かをものすごく抱えこんでいるんだな、と思う。
隣の席をあけて、そのもうひとつむこうには大柄の外国人女性が座っていた。休憩時間、彼女はヘブライ語の本を読んでいた。ページを右からめくっていた。
・1日25時間くらい音を聞いていて、頭がパンクしそうじゃ…。音楽なんてもう、ほんとしょうもない。
・弟は一昨日、インドに行った。約3ヶ月、か。うちはみんな、いろんな場所へゆく。
・夢。ホテル。ホテルって、早朝でも真っ昼間でも真夜中でも、どこにいても人の気配がする。不思議な空間だな。いつも、移動する中で留まっている空間。
イヤな夢だった。でも、ウットリするような夢だった。誰かが、出てきた。わたしたちは、なにをやっていたのだろう。思い出せない。でも、感触は覚えてる。肌触りは覚えてる。空中エレベーター。地下のバーと英国人。わたしは、裸で地下を走っていた。
・ちっちゃい子どもだけじゃなくて、ネコやトリにまで不思議がられるような人間です、わたしは。
・「虚構でできた日常のざんがいのカケラを純度100%で結晶化したみたいな」写真。
・未完成の手荒なままの作品って、ドキュメンタリーでありワークインプログレス状態のもので、自分としてはそっちの方が、ちゃんとしたカタチになっているものよりもしっくりくることが多い。それで、そこから完成度を高めて進めるのではなく、未完成のまま進めて、置いておく。わたしは、それがいけないのかもしれない。けど、そうしかできないと思う。たまに、わたしの音楽を"ジャズ"と云ってくれる人がいるけれど、あぁ、そうなんだなぁ、と思う。ジャズって云うのは、まさにドキュメントであり、ワークインプログレス。常に変わり続けるもの。インプロヴィゼーションっていうものも、結局はそういうところなのよね。常に、"現在"の最前線に孤立して立ち続けること。
・死んでも、この地上に留まってるんだなぁ、と思ったりして。魂は天に昇るとか、そういった精神論はもうほんとにどうでもよくて。ただ、この体の細胞は粒子みたいに大気中に飛び散って、溶けていって、その大気の中から世界を見つめつづけるのかなぁ、とか。そういう、眼差し以前の眼差しというもの、あるのかもなぁ、と。まぁ、死後のことなんかどうでもいいんだけどね。死後のことで云々いうなんて、夢の話をするのと同じくらいバカバカしい。
問題は、わたしにとっては、死ぬ時に誰にも迷惑をかけないこと。でも、誰にも迷惑かけずに死ぬなんて、案外…というか、結構難しそうな気もするんだけれど…。でも、人生の中でこれだけは…ということが唯一あるとすれば、死ぬ時の自分の後始末は自分でケリをつけてゆくこと、かな。それが、生きてきた世界への、お世話になった人たちへの、せめてもの感謝の証しです。死ぬための後始末は、感謝と慈しみの気持ちを抜きにしては、できない気がする。
まだ20代だけど、もう、後始末を始めたいくらいです。なんでこんなにも、"晩年"を生きてるような感じがするのかしら。もう、生きてる気がしない。魚の屍体を見てるように、世界が見える。とはいえ、魚の屍体って、鮮やかだよね。そういうふうに、世界も鮮やかなの。
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