« 新しい“サービス検索”プラットフォームへの取り組み(4) | Main | ビルの“向こう”に巨大な天海春香――KDDIのARが画像認識でさらに進化 »
従来の市民運動は「他者に対して過剰に攻撃的」――消費と生産をつなぐ社会的企業のパイオニア / 2010年07月15日(木)
 東京都港区に本拠を置く「大地を守る会」会長の藤田和芳さんは、消費者の側から食の安全や農薬被害への問題意識を持って70年代に消費者運動を立ち上げた、かつての「活動家」の1人だ。当時は『沈黙の春』や『複合汚染』という本の出版によって農薬や化学肥料の多用による環境汚染と生態系の破壊が大きな社会問題になっていた時代だった。

 藤田さんたちは学生時代から消費者運動の活動家として農地に通い、農家の人たちに「農薬禁止」を訴えた。しかし、ただ反対しているだけでは何も始まらないということにふと、気付いたという。

 そのころ農家を回って聞いた話はショッキングだった。米国ではすでに禁止されていた農薬を使い続けて意識障害を発病した農家の人の話、自家消費の野菜には絶対に農薬は使わない、という彼らの告白。気付いたのは「知らないから何でもできてしまう」という真実だった。

 出荷する野菜をどこの誰が食べるか知らないから、農薬を使うことに抵抗がない。逆に、食べる人の顔を知っていることが「抑止力」になるのだ。だから、消費者の側から“抗議”するのではなく、消費者と生産者をつなげることが変化を起こす一番の早道なのだ、と。

 その気付きから「大地を守る会」の活動が始まり、確信となって今も藤田さんたちを支えている。

 農薬や化学肥料を使わない野菜のおいしさを生活者に伝え、生活者が多少価格が高くてもそれを選んで買ってくれて、はじめてそれが本当の“消費者運動”になる。そのことに気が付いた藤田さんたちは当時、まだごく少数だった有機無農薬農法を実践する農家を見つけ出し、一軒一軒口説いて「仲間」にしていった。そして彼らの農業を支えるためにこんどは共同購入という形でその農作物を買ってくれる会員を集めていった。

●「社会的企業」を目指して

 「大地を守る会」は、そうした生産と消費を結合する活動を通じて第一次産業を守り、食の安心・安全を推進することを目的とするNGOだ。だが同時に「株式会社大地を守る会」という、年間約160億の売上げ規模を持つ革新的食品流通企業としてのもう1つの顔を持っている。

そのビジネスモデルを藤田さんは「社会的企業」と名付けている。利潤が最終目的ではないが、生産者を支援し、社会に情報発信して理念への賛同者を増やすためには、必要な投資ができるだけの収益を上げて経済的に自立しなくてはならない。

 「昔、33年前にこの運動を始めたときに思ったんです。本当にこの理念が正しいということを、ちゃんとした経営が成立するという事実で証明してやろうってね。それまでは社会運動といえば、“告発・糾弾”的な闘いかたが主流でした。でもそれじゃ世の中がついてこない。だから自分で世の中の新しい仕組みをモデル化しないといかん、と。それでNGOと同時に会社組織も作ったんです」

●お互いの不信感を払しょくすることが出発点

 藤田さんの思いの根底は「自然と共生する社会」、もっと平たく言えば「人間以外の自然や生物を犠牲にして人間の効率論を追求した結果、人間も困ったことになってしまうような矛盾を解消する社会」である。創業時も今も、そのスタンスは変わっていない。

 事業を続ける中でより明確になってきたことは「生産、流通、消費のどこか一部分だけ変えても全体はなかなか変わらない、三者の意識を一斉のーせ! で一度に変えないと、変化は起こらない。無農薬の大根1本つくることすらその三者を仕組み化しない限りできない」ということだった。

 今、藤田さんたちは加工用も含めて2500軒ほど(生鮮野菜の委託先は約1300軒)の生産者と提携し、作付けをしたものは全量買取ることを原則としている。それは実はこの業界では画期的な仕組みだ。

 日本の農協は全量委託仕入れが原則である。野菜などの生鮮品は気候変動で作柄や品質に幅があり一定しない。ここが工業生産品と一番違う部分だ。

 生産者はその中でなるべく変動幅を少なくしようとして促成力の高い合成肥料を使用したり、病気防除の農薬を撒いたり、単一作物を大規模に作付けすることで生産効率を上げようとする。そうした“努力”の副作用が実は土壌が本来持つ力(土中の微生物の数とバランス)を殺いでしまい、結果として突然大発生する病虫害に対してまた農薬を多用する、という悪循環が発生しやすい。

 そうした悪循環に悩みつつ安定供給・生産効率を命題とした慣行農法を続けている農業生産者に対し「大地を守る会」は全量買取り保障をすることで、可能な限り無農薬の自然共生型農法を続けてもらおうとしてきた。しかし、その説得は簡単ではなかった。

 「色も形も悪くて値段が高い。そんな有機野菜をあなたたちは本当に売り切れるのか。売れ残ったら返品してくるんじゃないか」「農薬散布や施肥の基準が厳しすぎる。天候不順でどうしても農薬を使わなければならないときもある。あんたらはパソコンでも何でも使っているのに、俺たちには科学の利用を禁ずるのか」

 農家の側にも不信感があった。それを1人1人、生産者とさしで酒を酌み交わすことで彼らの気持ちをほどいていったという。そんなときに藤田さんたちが着想したのが、生産者と消費者をつなぐ「交流会」だった。

●農家の人も都会の家に宿泊して

 「大地を守る会」が主宰する“交流会”は、都会に住む会員たちが、実際に自分たちが食べている野菜を作っている生産者の許を訪ねて、収穫を手伝ったりしながら交流を深める、というイベントだが、その一方で会員の家を生産者が上京したときの宿泊施設として提供してもらうという“ホームステイ”の仕組みも実践している。

 もちろん、家を提供するほうも泊まるほうもまったくの任意なのでこの交流体験ができる人は一部の会員に限られているが、日ごろ家で食べている野菜を作っている本人が家まで来てくれるという経験は(実家や親戚が農家でない限り)めったにないものだろう。

 農家のほうも、実際に自分たちがつくる農産物が遠く離れた都市の家庭の中でどう食べられているかを目の当たりにすることはとても意味がある。会員家族との対話を通じて、食卓のニーズをその現場で直接フィードバックされる効果があるからだ。また、目の前で「いつもおいしい安全な野菜をありがとう」と会員の家族から感謝されることは、生産者にとってこの活動を続けてきて良かったと、一段と励みになることだろう。

 次に泊まりに来るときには手土産で採れたての南瓜を持ってきたり、今度は会員のほうがその南瓜で作ったケーキを持って農家を尋ねたり、とまるで親戚づきあいのような交流が次々と生まれていく。こんな楽しい出会いもまた「大地を守る会」が意図的に作りこんできた仕掛けである。

 「歯を食いしばって頑張っても続かないでしょ。こっちのほうが楽しいよ、こっちのほうがおいしいよ、というところを見せないと誰もついて来ないよね」と藤田さんは笑う。

●「あんな手のきれいな女性が畑に入るか?」

 会員が生産地を訪れる「交流会」は最近はとても人気で、希望者が多くて抽選になってしまうらしい。藤田さんはこう解説する。

 「20年くらい前はかなり意識の高い、進歩的な女性が中心でしたが、最近では男性の参加も増えて定員70人のところに300人くらい応募があるんです。でも1つの農地に70人もよそ者が来るというのは、田舎では普段あまり見たことがない状況なんですね。我々も仮設トイレを運んで設営したり、近所の居酒屋で懇親会を開いたり、地元に迷惑をかけず逆にお金が落ちる仕組みを考えているんです。

 以前は、会と提携している農家さんはその地域の中ではちょっと孤立して白い目で見られるようなところが正直ありました。どうして農協に出荷しないんだとか、どうして一緒に肥料や農薬を買わないのか、とか。ところがこうして交流会をやると周りの農家はびっくりするわけです。都会からお洒落な女の人が来て、あんなキレイな手で畑を手伝ってるよ、とね。

 初めは『あんなの、すぐ駄目になるよ』と冷ややかに見ているんですが、これが駄目になるどころかなぜか収入もちゃんと安定して入ってるようだし、都会の女性たちに人気者になってるし、じゃあ、うちもやってみようかな? という感じで一軒一軒、周りに提携農家が増えていったんです」

●競争から、共生へ

 最初のころはこうした農薬に頼らない農法も試行錯誤でまさに手探りの状況だった。だが、経験を重ねるうちにいろんな工夫が生まれてきたという。

 「大地を守る会」には有機農業の専門部署があり、担当が各地の生産者を回ることでその実践的なデータを体系的に収集し、それをもとに提携農家と情報交換をしている。こうした活動を組織的に維持できるのが「会」のスケールパワーだろう。

 多くの先鋭的有機農業家は孤立していて閉鎖的であるという話をきいたこともある。藤田さんは、自分たちの運動がそうしたほかの個人や団体の活動のモデルになって、全体としてより大きな運動につながっていけばいいと考えている。

 「自分たちの後から、いろんな取組みがついてきました。最近は生協も随分こっちに近づいてきたと思います」

 そうした企業は競争相手ということになりますよね? と敢えて聞いてみると、藤田さんはこんな話をしてくれた。

 「日本の市民運動の問題は、自分たちが正しくて相手が間違っている、といって他者に対して過剰に攻撃的になる傾向があることです。あるいは自分たちは意識が高いと上から見下して、世間がついてこないのを大衆の意識が低いせいにするようなところもありました。でもそれは、実は競争意識の裏返しなんですね。

 我々が目指しているのは、幸せを有限なものと捉えて奪い合うのではなく、みんなが幸せになれるモデルを考えていくことです。そういう思考の中では、自分たちが切り開いたモデルの上にいろんな企業が参加して結果として我々が目指す社会への変化を加速していくことは、むしろ大歓迎なんです。

 我々の会もまだ食品産業全体の中ではマイナーな存在です。日本の農業全体に占める有機農法の比率もわずか0.1%に過ぎません。日本の農家の中で、わたしたちの提携農家の数も0.1%にも届きません。こうした現状の中で後から来る人たちにモデルを示すのが自分たちの役目だと思っています」

●消費者は生産者のパートナー

 藤田さんたちの「大地を守る会」は「生産者と消費者をつなぎ、顔の見える関係にしてお互いの不信感を払しょく」することで「生産、流通、消費を一度に変えよう」としている。毎月、日本のどこかで開催されている“交流会”が「消費者」と「生産者」の出会いの場だ。

 「大地を守る会」のユニークネスは、日本の第一次産業、ひいては日本の自然を守る、という理念のために会員組織で生産活動を支援するというその経営思想にある。実際に全ての会員がこの理念を理解しているかどうかは別として「会」の提唱する“ものさし”の画期性はここにある。

●「消費のものさし」を換えてみたら……? 

 アルビン・トフラーは今から30年も前に「今後、消費者が主体的に生産に関るようになり、“プロシューマー”というべき存在に進化する」とすでに予言していた。

 “消費者が王様” と奉られる消費資本主義経済の中で、いつのまにか生活者が生産から切り離され「消費だけする者」としての分業化が進んだ。近代的な都市や、機能的なオフィスビルがその分業化の受け皿となった。生活の場自体が全て分業化されていったのだ。

 その行き過ぎが現代社会のストレスを招いている、とわたしたちは考えている。人間には本来、自らの手で何かを創り出したい欲求があるはずだ。今、園芸や農業体験が都市でちょっとしたブームになっているのは、もう一度生産力を取り戻したい、という消費者の潜在願望の現われと言えるのではないだろうか。

 藤田さんたちは「交流会」を通じて生産者と消費者をもう一度つなぎ直す活動を続けている。生産(者)と消費(者)を分業化するのが効率的、という思想がちょっと古いものさしになってきたのは明らかだ。

 昨今の不況のなかで「手作りスイーツ」「お弁当男子」といったトレンドに象徴されるように、節約も兼ねて生活者が今まで他人まかせにしていた作業を自前でする傾向が伺える。もちろん安上がりという側面もあるが、それ以上に、自分でやってみると意外に楽しいことを、自分ではできないと諦め、他人にその楽しみも譲り渡していたという事実に目覚めたというのが真相ではないか。

 最近の消費離れと言われる現象の裏には「消費だけする生活」への飽きや疑問があると推測する。生活者を積極的に生産の現場に巻き込むことが、今、消費をもう一度活性化する決め手になるのではないか。

 例えば、自転車。数十万円、ものによっては100万円近い価格のフルカスタムメイドの自転車が普通に売れている。ここでは買い手は工房のプロと一緒に最高のマイ・バイクを作り上げる“プロシューマー”である。こうした嗜好性の強いマーケットは、不況に強い。ワン&オンリーのものを手に入れる体験はいつの時代でも消費の喜びを満たしてくれる。逆に、大量生産され、いつでも、どこでも、誰でも手に入るものを買う喜びが減衰していると感じる。

 消費者を生産の現場に巻き込むマーケティングは、言い換えれば、量産品や量販店といった20世紀型ビジネスへのアンチテーゼでもある。規模は小さくても、確実に市場価値のあるワン&オンリーのマーケットを意図的に創出していくことが、これからのマーケティング戦略のカギになると考える。

そこには、買い手と売り手のWin-Winの関係が成立する。彼らの間で成立しているのは単にモノと対価を交換し合う、という関係だけではない。彼らはお互いにモノを媒介にしながら、ディープなコミュニケーションの喜びを手に入れているのだ。【博報堂大学 幸せのものさし編集部】

※この連載は『幸せの新しいものさし』を基に再編集したものです

【7月14日20時0分配信 誠 Biz.ID
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100714-00000077-zdn_b-inet

Posted at 10:49/ この記事のURL
この記事のURL
http://yaplog.jp/clrhlgvofkhclt/archive/229
P R
カテゴリアーカイブ
月別アーカイブ
   
Powered by yaplog!