A vision of the summer.Uの続きです。
時間が経ちすぎてて忘れている方も多いかと思われますので
今回はあらすじを書いてみました。
〜あらすじ〜
守られてばっかりは嫌だ。
一方的に木乃香から言われ刹那は何も言えずに受け止めた。
しかしそれには本当の理由があった。そうとも知らずに落ち込む
刹那。それは木乃香も同じであった。
そんな中、刹那はエヴァの別荘の出入り口であるゲートで
何者かの声を聞く。その声に導かれるようにして…彼女は消えた。
気が付くとそこはいつも通る川原だった。そこで出会ったのは
木乃香だった。それも、幼い頃の彼女。刹那は信じられない
ながらも過去の木乃香と徐々に心を通わせていく。
一方、現実の木乃香はというと事態に気付き、案の定すぐに自分を
責めた。そんな木乃香を支える白き翼の仲間たち。
刹那が消えた原因には過去の木乃香、そして過去の刹那自身の
力が働いていることが判明し、木乃香も徐々にいつもの自分を
取り戻しつつあった。そして木乃香は一人ゲートに向かった。
刹那が消えた場所、そこに藍色のあじさいが降って来た。
こんな感じかしら…時間経ちすぎて本当にすみませんでした。
では、続きからどうぞ。
あの空に天使がいるって信じてた。
〜A vision of the summer.V〜
小さな手に引かれてやってきたのはあの公園だった。
誰もいない小さな公園。
今と何ら変わりのないその公園に足を踏み入れる。
突然お嬢様は駆け出し、一目散にブランコへと向かった。
私は特に走りもせずにゆっくりとその小さな背中を追いかけた。
いつか、大きくなったお嬢様が案内してくれた場所。
まさか過去のその場所に来ることになろうとはその時は思っても
みなかっだろう。
お嬢様が話してくれたことをひとつひとつ思い返してみる。
どんな思いでここにいたのか、少し悲しげな横顔が目に焼き付いて
離れなかった。今も鮮明に瞼の裏に思い描く。
私がいない間お嬢様の頼どころであったここに心から感謝したい。
そう思った。
向こうで小さな彼女がブランコに乗っている。
必死に足をぶらぶらとさせるもまだ要領を得ていないらしい。
ブランコは虚しく揺れた。
木乃香は少し悔しそうなそれで刹那を見上げて叫んだ。
「おねえちゃん、おしてー!」
自分でも不本意なのだという思いが顔にありありと表れていて
少しおかしかった。
気付かれないよう笑みをこぼし、刹那は小走りで彼女の背後に回った。
小さな背中をそっと押してやると同時にそれに合わせて彼女の足が
ピンと伸びた。そして後ろの方へ帰ってくると足を折る。
その一連の動作が完璧なのにひとりでブランコに乗れないのは恐らく
その力のせいであろう。
触れただけで壊れてしまうのではないかと思わせる程の細く華奢な手足。
屋敷の外へ出歩く機会にあまり恵まれなかった彼女の素肌は真白だった。
今の彼女よりも白く細い手足に再び目をやる。
「いつもこの公園で遊んでいるんですか?」
うん、と何事もなかったかのように頷いた。
本当に聞きたかったことを彼女は感づいているのかもしれない。
確か学園にはここにはないたくさんの遊具があったはずだ。
いつも目にしている光景には子どもたちが溢れていて、そしてさらには
嬉々とした声に笑顔がたくさん花咲いていた。
過去のそこには彼女の姿はない。
遊具の数も学園に比べてかなり少なく子どもすら見当たらないこの公園を
彼女がわざわざ選んだわけ。つまり、そういうことなのだ。
私が黙り込んでいると彼女は首を後ろに傾けてこちらを見上げた。
彼女は不思議そうな表情を浮かべていた。
「おねえちゃん、もっとつよくおして」
「え…あ、はい」
小さな背中に再び力を込めた。
そこに背負った大きな孤独を少しでも和らげたかった。
思ってていたよりも力を込めてしまっていたらしい。
キャハハハという黄色い歓声が2人だけの公園に響き渡った。
お風呂上がりに感じるような、湿った少し気持ち悪い空気を切って
小さな足を振り上げる。
肩より長いほんの少し茶を帯びた髪が風になびいてキラキラと輝いた。
光もないのに艶めいていてとても綺麗だった。
そして、そこには好奇心旺盛で怖いもの知らずのあの時の女の子がいた。
自然と笑みがこぼれ、天を振り仰いだ。
今にも雨が降りそうな予感は拭えない空色だった。
視線を素早く彼女の背中を押すタイミングに合わせて下ろす。
ここからは見えない彼女のこぼれんばかりの笑顔をその小さな背中に
思い映した。
曇り空とは裏腹に心の中はいつの間にか晴れやかなものに変わっていた。
やはり彼女はいつの時代も彼女だと痛感した。
どれだけの孤独を味わっていようと彼女は彼女なのだ。
突然、木乃香はギュッと地面に足を着いてブランコを止めた。
刹那の手は宙をかき、やがて下ろされた。
木乃香はブランコに座ったまま、そして視線も前を見据えたまま無言で
俯いた。どうしたのだろう、と刹那が声を掛けようとする前に彼女は
答えてくれた。
「みんなじょうずなんよ。ウチだけうまくこげへん。てつぼうかて
うまくできへん。なぁおねえちゃん…ウチ、ずっとできへんままやろか」
ぼそぼそと言って不安げな瞳を刹那に投げかけた。
刹那はゆっくりと木乃香のそばにしゃがみ込み、彼女と同じ目線になった。
「大丈夫ですよ。ちゃんと出来るようになります」
誰よりも高く今の木乃香は舞うのだ。
こないだ一緒に訪れたときもどうしてそんなにも高くブランコがこげるのか
とても不思議に思ったくらいだ。
こんな過去があったから、彼女は空を求めるようになったのだろうか。
でも、その空には何があると言うのか。
「おねえちゃん、おねえちゃんはてんしさんみたことある?」
「え」
「ウチはあるで。まっしろできれいで、せなかにつばさがあった」
何を、彼女が話そうとしているのかその時は分からなかった。
でも次の瞬間、これが彼女の空を求める理由なんだと知った。
「ウチ、もっかいてんしさんにあいたいんや」
――ブランコで高く上がれば空に手が届く気がせえへん?
いつか彼女の言った言葉をこの小さな彼女も言った。
屈託のない笑顔を付け足して私を見上げる姿は同じだった。
彼女の肩越しに見つけた色合いは何かに似ていた。
その何かは分からないが、今目の前にいる彼女に関わるものだった
気がする。薄暗い中にその彩りを一層まぶしく輝かせていたのは
――紫陽花だった。
少し今の体勢がきつくなり屈んでいた腰を上げた。
よく見るとそれはこの公園を取り囲むようにして咲き乱れていた。
ぐるっと全てを見渡そうとして、ふと小さな力に引かれて見下ろすと
彼女がにこりと笑って言った。
「あじさいいうんよ。きれいやろ。あ……おねえちゃんとおんなじ」
「同じ…?」
くしゅっとその小さな顔から笑みが溢れた。
どういうことだろう、と首を傾げてみせると「ないしょ」と彼女は
また微笑んだ。
しかしその笑みはさっきまでのそれと違う気がした。
何がだろう。とにかく何かが違っていた。
今の木乃香であったら欺くことができる作り笑い。そんな感じだ。
まだ未完成の繕い方にひどく胸が締め付けられる思いがした。
「あいたいな」
まだあどけない小さな彼女は誰に言うまでもなく、天を仰いだ。
不運にも願いが届きそうな空ではなかった。
私もつられて彼女の視線を追った。
「せっちゃん」
視線を素早く彼女に移すと緋色の瞳にふわっと涙が浮かんでくる
ところだった。
確かに聞こえたその声があの時の記憶の鍵を開けてくれた。
そう……紫陽花は彼女と別れたその日も変わらずに綺麗に咲いていた。
言わば私たちにとっては『別れ』を象徴する花だ。
本来ならばそんな花言葉ではなく、もっと優しくて優しくて、
泣きそうなくらい大切なものなのに。
何で行かなかった、と小さな自分を責めた日もあった。
過去を責めても何にもならないことは知っていたがまたぶり返して
しまったようだ。やり場のない怒りにただ拳をギュッと握り締める。
俯いた木乃香の膝の上にポツポツと染みができていくのが見えた。
せっかく乾いたのに、再び彼女は涙の痕をつくっていった。
静かに泣いているのだ、そう思っていたがそれは違っていた。
ぽつ、ぽつ…空が泣き出した。
あめ、と呟いた声を途中で遮った。
「ごめんなさい」
私はお嬢様の耳元に強く言った。
「ごめんなさい。ごめんなさい…ごめんな、ごめんね……」
守りたい。
今はただ、この子を守りたい。そう思った。
再び抱いた彼女の身体は本当に小さかった。
やっと分かった。自分が呼ばれたわけが。
彼女と、ちゃんとお別れできなかった季節。
ごめんね。ごめんな。もう独りにしませんから。
もう寂しい思いはさせませんから。
だから、許してください。
「へんなおねえちゃん」
その小さな手のひらが刹那の頭を撫でた。
す、と水滴が頬に落ちた。
つづく
時間が経ちすぎてて忘れている方も多いかと思われますので
今回はあらすじを書いてみました。
〜あらすじ〜
守られてばっかりは嫌だ。
一方的に木乃香から言われ刹那は何も言えずに受け止めた。
しかしそれには本当の理由があった。そうとも知らずに落ち込む
刹那。それは木乃香も同じであった。
そんな中、刹那はエヴァの別荘の出入り口であるゲートで
何者かの声を聞く。その声に導かれるようにして…彼女は消えた。
気が付くとそこはいつも通る川原だった。そこで出会ったのは
木乃香だった。それも、幼い頃の彼女。刹那は信じられない
ながらも過去の木乃香と徐々に心を通わせていく。
一方、現実の木乃香はというと事態に気付き、案の定すぐに自分を
責めた。そんな木乃香を支える白き翼の仲間たち。
刹那が消えた原因には過去の木乃香、そして過去の刹那自身の
力が働いていることが判明し、木乃香も徐々にいつもの自分を
取り戻しつつあった。そして木乃香は一人ゲートに向かった。
刹那が消えた場所、そこに藍色のあじさいが降って来た。
こんな感じかしら…時間経ちすぎて本当にすみませんでした。
では、続きからどうぞ。
あの空に天使がいるって信じてた。
〜A vision of the summer.V〜
小さな手に引かれてやってきたのはあの公園だった。
誰もいない小さな公園。
今と何ら変わりのないその公園に足を踏み入れる。
突然お嬢様は駆け出し、一目散にブランコへと向かった。
私は特に走りもせずにゆっくりとその小さな背中を追いかけた。
いつか、大きくなったお嬢様が案内してくれた場所。
まさか過去のその場所に来ることになろうとはその時は思っても
みなかっだろう。
お嬢様が話してくれたことをひとつひとつ思い返してみる。
どんな思いでここにいたのか、少し悲しげな横顔が目に焼き付いて
離れなかった。今も鮮明に瞼の裏に思い描く。
私がいない間お嬢様の頼どころであったここに心から感謝したい。
そう思った。
向こうで小さな彼女がブランコに乗っている。
必死に足をぶらぶらとさせるもまだ要領を得ていないらしい。
ブランコは虚しく揺れた。
木乃香は少し悔しそうなそれで刹那を見上げて叫んだ。
「おねえちゃん、おしてー!」
自分でも不本意なのだという思いが顔にありありと表れていて
少しおかしかった。
気付かれないよう笑みをこぼし、刹那は小走りで彼女の背後に回った。
小さな背中をそっと押してやると同時にそれに合わせて彼女の足が
ピンと伸びた。そして後ろの方へ帰ってくると足を折る。
その一連の動作が完璧なのにひとりでブランコに乗れないのは恐らく
その力のせいであろう。
触れただけで壊れてしまうのではないかと思わせる程の細く華奢な手足。
屋敷の外へ出歩く機会にあまり恵まれなかった彼女の素肌は真白だった。
今の彼女よりも白く細い手足に再び目をやる。
「いつもこの公園で遊んでいるんですか?」
うん、と何事もなかったかのように頷いた。
本当に聞きたかったことを彼女は感づいているのかもしれない。
確か学園にはここにはないたくさんの遊具があったはずだ。
いつも目にしている光景には子どもたちが溢れていて、そしてさらには
嬉々とした声に笑顔がたくさん花咲いていた。
過去のそこには彼女の姿はない。
遊具の数も学園に比べてかなり少なく子どもすら見当たらないこの公園を
彼女がわざわざ選んだわけ。つまり、そういうことなのだ。
私が黙り込んでいると彼女は首を後ろに傾けてこちらを見上げた。
彼女は不思議そうな表情を浮かべていた。
「おねえちゃん、もっとつよくおして」
「え…あ、はい」
小さな背中に再び力を込めた。
そこに背負った大きな孤独を少しでも和らげたかった。
思ってていたよりも力を込めてしまっていたらしい。
キャハハハという黄色い歓声が2人だけの公園に響き渡った。
お風呂上がりに感じるような、湿った少し気持ち悪い空気を切って
小さな足を振り上げる。
肩より長いほんの少し茶を帯びた髪が風になびいてキラキラと輝いた。
光もないのに艶めいていてとても綺麗だった。
そして、そこには好奇心旺盛で怖いもの知らずのあの時の女の子がいた。
自然と笑みがこぼれ、天を振り仰いだ。
今にも雨が降りそうな予感は拭えない空色だった。
視線を素早く彼女の背中を押すタイミングに合わせて下ろす。
ここからは見えない彼女のこぼれんばかりの笑顔をその小さな背中に
思い映した。
曇り空とは裏腹に心の中はいつの間にか晴れやかなものに変わっていた。
やはり彼女はいつの時代も彼女だと痛感した。
どれだけの孤独を味わっていようと彼女は彼女なのだ。
突然、木乃香はギュッと地面に足を着いてブランコを止めた。
刹那の手は宙をかき、やがて下ろされた。
木乃香はブランコに座ったまま、そして視線も前を見据えたまま無言で
俯いた。どうしたのだろう、と刹那が声を掛けようとする前に彼女は
答えてくれた。
「みんなじょうずなんよ。ウチだけうまくこげへん。てつぼうかて
うまくできへん。なぁおねえちゃん…ウチ、ずっとできへんままやろか」
ぼそぼそと言って不安げな瞳を刹那に投げかけた。
刹那はゆっくりと木乃香のそばにしゃがみ込み、彼女と同じ目線になった。
「大丈夫ですよ。ちゃんと出来るようになります」
誰よりも高く今の木乃香は舞うのだ。
こないだ一緒に訪れたときもどうしてそんなにも高くブランコがこげるのか
とても不思議に思ったくらいだ。
こんな過去があったから、彼女は空を求めるようになったのだろうか。
でも、その空には何があると言うのか。
「おねえちゃん、おねえちゃんはてんしさんみたことある?」
「え」
「ウチはあるで。まっしろできれいで、せなかにつばさがあった」
何を、彼女が話そうとしているのかその時は分からなかった。
でも次の瞬間、これが彼女の空を求める理由なんだと知った。
「ウチ、もっかいてんしさんにあいたいんや」
――ブランコで高く上がれば空に手が届く気がせえへん?
いつか彼女の言った言葉をこの小さな彼女も言った。
屈託のない笑顔を付け足して私を見上げる姿は同じだった。
彼女の肩越しに見つけた色合いは何かに似ていた。
その何かは分からないが、今目の前にいる彼女に関わるものだった
気がする。薄暗い中にその彩りを一層まぶしく輝かせていたのは
――紫陽花だった。
少し今の体勢がきつくなり屈んでいた腰を上げた。
よく見るとそれはこの公園を取り囲むようにして咲き乱れていた。
ぐるっと全てを見渡そうとして、ふと小さな力に引かれて見下ろすと
彼女がにこりと笑って言った。
「あじさいいうんよ。きれいやろ。あ……おねえちゃんとおんなじ」
「同じ…?」
くしゅっとその小さな顔から笑みが溢れた。
どういうことだろう、と首を傾げてみせると「ないしょ」と彼女は
また微笑んだ。
しかしその笑みはさっきまでのそれと違う気がした。
何がだろう。とにかく何かが違っていた。
今の木乃香であったら欺くことができる作り笑い。そんな感じだ。
まだ未完成の繕い方にひどく胸が締め付けられる思いがした。
「あいたいな」
まだあどけない小さな彼女は誰に言うまでもなく、天を仰いだ。
不運にも願いが届きそうな空ではなかった。
私もつられて彼女の視線を追った。
「せっちゃん」
視線を素早く彼女に移すと緋色の瞳にふわっと涙が浮かんでくる
ところだった。
確かに聞こえたその声があの時の記憶の鍵を開けてくれた。
そう……紫陽花は彼女と別れたその日も変わらずに綺麗に咲いていた。
言わば私たちにとっては『別れ』を象徴する花だ。
本来ならばそんな花言葉ではなく、もっと優しくて優しくて、
泣きそうなくらい大切なものなのに。
何で行かなかった、と小さな自分を責めた日もあった。
過去を責めても何にもならないことは知っていたがまたぶり返して
しまったようだ。やり場のない怒りにただ拳をギュッと握り締める。
俯いた木乃香の膝の上にポツポツと染みができていくのが見えた。
せっかく乾いたのに、再び彼女は涙の痕をつくっていった。
静かに泣いているのだ、そう思っていたがそれは違っていた。
ぽつ、ぽつ…空が泣き出した。
あめ、と呟いた声を途中で遮った。
「ごめんなさい」
私はお嬢様の耳元に強く言った。
「ごめんなさい。ごめんなさい…ごめんな、ごめんね……」
守りたい。
今はただ、この子を守りたい。そう思った。
再び抱いた彼女の身体は本当に小さかった。
やっと分かった。自分が呼ばれたわけが。
彼女と、ちゃんとお別れできなかった季節。
ごめんね。ごめんな。もう独りにしませんから。
もう寂しい思いはさせませんから。
だから、許してください。
「へんなおねえちゃん」
その小さな手のひらが刹那の頭を撫でた。
す、と水滴が頬に落ちた。
つづく
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